69話 バレットフェスタオンライン
「…よし、夜ご飯の作り置きはこれでよしですね」
そうして夜ご飯であるオムライスも作り終わったので、それは冷蔵庫にしまって工程は完了です。
「今の時刻は……五時くらいですね。では、ご飯までの時間はゲームとしましょうか!」
私は片付けを全て済ませた後は自分の部屋に戻り、今日はMSOではなくバレットフェスタオンラインを起動してゲーム世界にログインします。
起動したゲームヘログインすると、まず視界に移ったのはこのゲーム内で私が所持している個人用の部屋の風景でした。
「…最近はログインをしてませんでしたが、変わってはいないですね」
まあ自分の部屋なので当たり前ですが。ログインもしましたし、まずは街に出て誰でもいいから他のプレイヤーとのPVPでも申し込んでみますか。
私はそう決めた後、メニューを開いてこの部屋から退出を選択して街に移動します。
移動が完了して再び視界が戻ったら、そこはすでに街の中でした。
このゲーム内での街はサイバーパンク風の街並みとなっており、街の至る所でネオンライトやなんらかの機械などが無数に存在していて、さらにはかなりの広さもあり街の所々でプレイヤーらしき人たちがPVPをしていたりもします。
実はこのゲームではMSOであったPVPとは違う、街中を戦闘エリアにも出来るPVPのシステムがあるのです。それは指定範囲内の街中を縦横無尽に駆け巡って銃を撃ち合うことが出来るので、これはこれで結構面白いのですよね。
「…とりあえず、いつものお店に行ってフレンドがいないか探してみましょう」
私はそんなプレイヤーたちを尻目に、街中を歩いて目的地である一軒のお店へと向かいます。
その道中ではたまにプレイヤーともすれ違いますが、MSOとは違ってそこまで目立ってはいないのでそんなに視線は向けられません。
MSO内でもこっちと同じで顔を隠さなくても良いようになって欲しいですけど、それはいつになりますかね…
そこからもテクテクと街中を歩き続けること少し、やっと目的地であるお店の前に着きました。
なので私はそのお店の扉を開けて中に入ると、そこはいつも通りの光景が広がっていました。
「おらっ!」
「くたばれぇ!」
「…相変わらずですね」
いつも通り、私のフレンドたちがお店内でPVPをしている状況です。まあPVPといっても銃を使わないステゴロの殴り合いなので、お店に被害はほとんど出てませんけどね。
「…ん?あ、レア!」
「なに、レアか!?」
「こんにちは、久しぶりですね」
そんな中、お店の中に入ってきた私を目ざとく見つけてきた乱闘中だった二人の女性と男性が、こちらに視線を向けて声をかけてきました。
なので、私もそれに習って挨拶を返します。
「レア、久しぶりだね!最近は来てなかったけど、何かあったの?」
そしてその背中あたりまで伸びた金髪に青目の姿をして身長160cm半ばくらいの女性プレイヤー、ルミナリアがこちらにそう聞いてきたので、隠すことでもないので私はそれに対して素直に答えます。
「最近は新しく出た『Memorial Story Online』というゲームをやっていたので、こちらに来ることがなくなってしまったのですよね」
「Memorial Story Online……確か、巷で大人気のゲームだったか。レアはそれをやっていたのか」
もう一人の黒髪の短髪に黒目で身長170cm後半くらいの男性プレイヤー、クロガネも私の言葉にそう返してきたので、私はそれに頷いて続けます。
「そうなんですよ。大人気になるのもわかるくらい、結構楽しいんですよ!」
「ふーん、そうなんだ。じゃあレアはもうこのゲームにログインしてくることはなさそうな感じなの?」
「そうですね、あちらのゲームをしているのでこちらにログインしてくる頻度はかなり下がりますし、今日はあちらの経験を活かして原点に帰るために来ただけですしね」
私の言葉を聞いてルミナリアは少しだけ考え事をしているようですが、何かあったのでしょうか?
「ここに来たということは、俺たちとPVPをしに来たのか?」
「はい、そうです。よければ一試合いいですか?」
「いいぞ、なら…」
「それならレア、最初のPVPは私とお願いしてもいい?」
クロガネが誰とするかを決めようとすると、それより先にルミナリアがそう声を上げました。
「別に良いですけど、何かあるのですか?」
「んー、詳しいことは終わった後に言うね。それに、あっちの経験をしたって言うレアに今度こそ勝ちたいしね!」
私とルミナリアの成績は大体八対二で私の勝ちが結構多いので、ルミナリアはそれを顧みて私に勝負を仕掛けてきたのでしょう。
ちなみにクロガネとの成績については基本私の全勝なのでルミナリアよりも負けてはいませんが、クロガネはそれでもよく私に勝負を吹っかけてくるので、その都度コテンパンにしています。
「なら、最初はルミナリアとやりますか。ルールはいつもので大丈夫ですか?」
「もちろん!全域フィールドバーサスだね!」
全域フィールドバーサス、それは指定範囲内の街中全てが戦場となり、そこでお互いの武器で撃ち合ってどちらかのHPがゼロになるまで戦うルールのことです。しかもその街中には多種多様なギミックもあるので、ただコソコソと動いて銃を撃つだけでは勝てなかったりもします。
例えば転移をして自分のいる場所を変えたり、置かれている無数の機械でジャミングやサーチ、透明化に罠を張ったりなど、本当に色々なギミックがあるのでそれらも使いこなして初めてこのゲームでの熟練者となるのです。
ちなみにそんな戦場となる街中には当然多数のプレイヤーたちもいますが、もし自分たち以外のプレイヤーたちに弾丸やギミックなどが当たってもそれらはダメージにはならないので、そこまで問題ではありません。まあ衝撃などは来るので、基本は当てないようにするのがこのゲームでのマナーですがね。
それと他にもルールは何個かありますが、今はしないのでそれについてはいいですね。
「では、始めましょうか」
「オッケー!今日こそは勝たせてもらうからね!」
「私だって負けませんよ!」
私とルミナリアはお互いにPVPの承諾をすると、次の瞬間には指定された範囲内に転移が起こります。
「…転移も完了しましたし、早速動くとしますか」
私は自身の武器である少しだけ小さめな黒色のサブマシンガンを取り出してから構え、出来るだけ音などを発生しないように気配を殺しつつ街中を駆けていきます。
このゲーム内では、私は基本今持っているサブマシンガンと腰に差してあるナイフ、そしてスナイパーライフルを主に使っています。
近距離にはナイフで中距離にはサブマシンガン、遠距離にはスナイパーライフルとそれぞれ違うスタイルで私は戦うので、相手からすると対処が難しいとフレンドからは言われています。
それに今は銃だけではなく短剣と細剣の特訓もあちらでしたので、さらに近接戦闘の技術も上がっていることでしょうし、前よりも勝てる確率は高くなってはいると思います。
「お、早速見つけましたね」
そうして気配を殺しながら街中を走っていると、一つの機械を発見しました。
その機械はどうやら使用者の身体能力を強化する効果を出す物のようなので、確認次第すぐに発動させます。
すると機械が青白い光を発して効果が現れました。自分視点からはいまいちわかりづらいですが、きちんと効果が発動しているのでこれでよしです。
そこからも気配を殺しつつ街中を移動していると、またもや置かれて放置されている機械を見つけました。
「こちらは……罠のようですね。ルミナリアには効かないとは思いますが、一応発動はしておきましょうか」
私は先程と同じようにその機械も発動させておき、効果が出たのを確認次第その場を後にしてまたもや街中を走っていきます。
そしてそこからも街中を走っている最中に横道から突然ルミナリアが飛び出してきて、その手に持つ二丁拳銃から連続して弾丸を撃ってきたので、私はそれを横にステップを踏むことで回避します。
「いきなりですねっ!」
「元ランキング一位が相手なんだし、手加減なんてしてられないからねっ!」
ルミナリアはそこからも無数に弾丸を乱射してきますが、私は強化された身体能力を活かして四方にある壁を飛び回ってそれらを全て回避します。
「ほんと、出鱈目な強さだねっ!」
「ルミナリアだってランキング三位なんですし、出鱈目ですよ!」
私は飛び回っている状態から手元に取り出したサブマシンガンを構え、ルミナリアに向けて連続して弾丸を撃ち返します。
ルミナリアはそれを左右にステップを踏みつつ、その場に止まらないようにしながら移動し続けて回避しています。
「というか、何その動き方っ!前よりも凄い動きじゃん!」
「ふふん、機械で身体能力が強化されている状態なら、あちらと同じような動きも出来ますからね!」
そんな軽口を叩きながらも私とルミナリアは銃を撃ち合っていますが、やはりお互いにトップに立つ実力はあるせいか、軽い傷を微かに負うくらいで致命的な傷は負ってません。
「やっぱり正面からはダメだねっ…!なら…!」
「む…」
ルミナリアはそう言葉を呟きつつ、左手の拳銃の代わりに一つのアイテムを手元に取り出し……それをこちらに向かって全力で投げてきました。
私は特に慌てずにそのアイテム、おそらくは手榴弾のような物ですね。それをサブマシンガンで撃ち抜きます。
すると、私が思ってた爆発とは違い、何やら白い霧のようなものがその手榴弾から大量に噴出しました。
「これは……発煙弾ですか」
「そうだよ!レアには悪いけど、これでそっちは無闇に撃てなくなったでしょ!これで倒させてもらうよっ!」
その霧の中からルミナリアの声が聞こえますが、どうやら高速で私の周囲を移動しているようで四方八方から声が聞こえてきます。
ルミナリアからも見えなくなっているはずですが、おそらく機械によるサーチでこちらの位置を把握しているのでしょう。
私はサーチを使っていないせいで分かりづらいですが、それでも耳に届く微かな足音などである程度の把握は出来ています。まあMSOの時とは違ってケモ耳などはないので、音だけでは完全な特定は出来てませんけどね。
私はそんな霧の中、音のする方へと手に持つサブマシンガンを向けて連続して弾丸を撃ちますが、やはりルミナリアには当てれていないようで、お返しとばかりに連続で弾丸が飛んできます。
当然私はそれを身体を横にズレることで回避しますが、微かに音がすると言っても移動し続けているせいでどうしても場所の特定が出来ないので、上手く弾丸を当てれていません。
「…なら、やはりこちらから向かいますか…!」
私は瞬時にそう決め、音のする方へとサブマシンガンで弾丸を撃ちながら向かいます。
すると、またもや反撃として霧の中から無数に弾丸が飛んできますが、それはMSOでも活かしていたゆらゆらとした動きで紙一重で避け、そのままそちらに地面を蹴って一気に接近します。
「ちっ…!」
そうして弾丸を躱しながらどんどんと近づいていると、霧が薄くなってきたようでほんのりとルミナリアの姿が見えました。
ルミナリアのそんな舌打ちと共にまたもや連続して弾丸が飛んできますが、再び壁に向かって跳んで避けます。
さらにそこから先程のように壁と壁を飛び交うようにすることでそれらを回避し、ルミナリアの位置をハッキリと特定したので、そのまま飛び交いながら無数の弾丸を撃ち返します。
ですが、まだ少しだけ距離があるのと左右にステップをして回避をされたせいで特に当たりはせず、地面に着弾して微かに傷をつけるだけで終わりました。
「これでもダメなのねっ!」
「そっちこそ、前よりも技術が上がってますねっ!」
「レアがいなくなってからもずっとやってたからねっ!」
そのまま壁を走ったり跳んだりして飛んでくる弾丸は全て回避しつつこちらも撃ち返しますが、ルミナリアもかなりの実力があるせいで私の不規則な立体軌道でも致命的な攻撃だけは当たっていません。
それでも少しずつダメージは蓄積していっているので、徐々にHPは減っていってます。
そんな攻防をしているといつのまにか霧も晴れてきたようで、お互いの姿がしっかりと確認出来るようになりました。
「やっぱり、レアは強いね…!」
「そういうルミナリアだって、こちらの動きに対応できてますし凄く強いですよ!」
「それでもレアになかなかダメージを与えられていないし、まだまだだけどね!」
そんな言葉を交わしつつお互いに同時のタイミングで手に持つ銃を構え、撃ち合いを始めます。
私たちは飛んでくる弾丸を躱しながら撃ち続けますが、距離も近いのも相まって共に軽い傷を負ってしまいます。
まあそれでも私の方が上手く弾丸を躱せているようで、HPは七割くらいでこちらの方がまだ残っています。その分としてルミナリアのHPの方は徐々に減っていますが、まだ五割近くはあります。
そのタイミングで私は弾丸を躱しつつ一度後方に跳んで距離を取り、そこからまたもや壁を飛び交いながら弾丸を四方八方から乱射します。
「くっ、躱しきれない…!」
私の動きにはある程度慣れてきてはいたみたいでしたが、まだ完全には対応出来ていないうえにここまでの攻防で体力が減っていたようで、先程よりもさらに傷を負ってHPが減少していきます。
「終わりです!」
「…っ!」
そんな中、ルミナリアの動きの先を読んで私が撃った弾丸がその読み通りに動いたその頭を正確に撃ち抜き、残っていたHPが全てなくなって勝敗が決まりました。
そして勝敗が決したそのタイミングで転移が起こり、元いたお店に私たちは戻ってきました。
「お疲れ様、レア。それにルミナリアも」
「クロガネですか、ありがとうございます」
「うー、また負けたぁ!」
クロガネはメニューから私たちのPVPを見ていたようで、帰ってくるなりそう声をかけてきました。
それに対してルミナリアは負けたことに気落ちしているようで、お店にいた店員さんを呼んでやけ食いでもするのか複数の料理を注文しています。
「最近は来てなかったみたいだが、腕前は落ちていないようだな」
「まあこのゲームにログインしてないだけで他のものはしてますしね。それにそこでも鍛えていますから」
私の言葉にクロガネはなるほどな、と納得して頷いています。
「それとレア、PVPをやる前に言っていたことなんだけど…」
「はい、なんですか?」
注文を済ませたルミナリアはそう前置きを言ってから何やら話しかけてきたので、私はクロガネとの会話もそこそこにそちらに意識を向けて聴く姿勢になります。
「実は、私も第二陣としてMemorial Story Onlineをもらっていたんだよね」
「そうなんですか!?」
「…それは俺も初耳だな」
私はその言葉に驚きますが、クロガネもそれは聞いてなかったようで驚愕に目を見開いています。
「まあまだログインすらしてないんだけどね。私はこっちみたいな銃が主なゲームが好きだから、そのまま放置したままだったんだ」
そこからも続けて言うには、どうやら同じくゲーマーなルミナリアの父親がプレゼントとして買ってきてくれたようで、それをどうするか考えていてまだプレイもしてなかったようです。
「それでも、レアがいるなら私もしてみようかなと思ってね。それにあちらのゲームもよくネットとかで見るし少しは気になってはいたからちょうどいいし」
「そうなんですね。なら、ログインしたら私が軽くあちらの世界の紹介をしますよ!」
「お、それはありがたいね!じゃあする時は連絡するから、その時はお願いしてもいい?」
「問題ありませんよ。じゃあまたその時に詳しいことは話しましょうか」
「ルミナリアはレアが来なくなって寂しそうにしてたから、また楽しそうな表情をしていていいな」
私とルミナリアの会話が終わったタイミングを見計らってクロガネがそうニヤニヤしながら声をかけてきたので、私はそれについて聞き返します。
「そうなんですか?」
「ああ、なんせルミナリアはぐほぉ…!?」
「…それ以上言ったら殴るよ?」
「も、もう殴ってんじゃねえか…!」
「ふふ…」
ルミナリアとクロガネの乱闘が始まるのを軽く笑いながら見物していると、先程ルミナリアが注文をした料理たちが運ばれてきたので、二人は乱闘もそこそこにテーブルに戻ってきて、三人でそれらを食べながらさらに会話を続けます。




