68話 腕前確認
「では、行きますっ!」
私はインベントリから取り出した双銃を細剣と短剣に変化させ、そう言って地面を蹴って一気にナンテさんに接近します。
ナンテさんにも見せてくれと言われたので、まずは剣の状態で攻めるとしましょう!
「はぁっ!」
「おっと」
私は近づいた姿勢のままに、右手の細剣をナンテさんの心臓狙いで刺突を繰り出しますが、それは即座に収納の指輪から右手に取り出した黒い短剣で逸らされます。
ですがそうなるだろうとわかっていたので、私は特に驚きはせずに突きを放った細剣を手元に引き、その隙を埋めるために今度は左手の逆手に持った短剣でナンテさんの胴体狙い……と見せかけたフェイントを混ぜ、首狙いで短剣を振います。
しかし、それに対してもいつのまにか左手に出していた黒い短剣で防がれ、ナンテさんは動きが止まった私に向けて右手の逆手に持つその黒い短剣を振り下ろしてきます。
「…っ!」
私はその攻撃を横に半歩ズレることによって避けて、続けて振るってきた首狙いである左手の黒い短剣による攻撃にも深く屈むことで回避します。
頭上を通り過ぎていった短剣の攻撃を横目に、私はそのままナンテさんの懐に自ら踏み込んでお返しに右手の細剣を右斜め下から切り上げて攻撃をしますが、それは後方に一歩下がることで回避されます。
「まだですっ!」
私は後ろに下がったナンテさんから離れないようにさらに踏み込み、右手に持っている細剣をそのまま返すことでナンテさんに向けて逆袈裟で振いますが、それは空中に軽く跳ぶことで避けられます。
「ふっ!」
空中に跳んだナンテさんは重力に従って落ちる勢いを乗せて右手の短剣を振り下ろしてきたので、私はそれに合わせて左手の逆手に持った短剣を振います。
その攻撃は落ちる勢いなどもあってかかなり重かったですが、それでもなんとか僅かですが横に逸らすことが出来て紙一重で回避に成功しました。
そんな攻撃をなんとか逸らし、ナンテさんが私のすぐ近くの地面に着地して攻撃に移った姿勢を戻す瞬間の僅かに出来た隙に、私は右手の細剣でその頭狙いで突きを放ちます。
「これならっ!」
「甘いよっ!」
が、それは身体を横にズラされることで再び躱されます。
そして避けたその姿勢から、足をバネのように深く踏み込み、一気に地面を蹴ることで先程よりも加速した状態でこちらに両手の短剣を交差するかのように振るってきます。
「…っ!〈舞い散る華〉!」
その攻撃は先程よりも速くて完全には躱せないと思ったので、咄嗟にザルクのスキルを使って攻撃を透かした後にナンテさんの背後へ周り、そこから右手の細剣をその頭へ振り下ろします。
「そこかっ!」
しかしその攻撃にもナンテさんは即座に反応し、振り返るのと同時に右手に持つ短剣を操って私の細剣による攻撃を横に逸らします。
ナンテさんは私の攻撃を逸らした姿勢の状態からそのまま左手の短剣による攻撃に移ってきたので、私はそれを後ろにズレることで回避して、ナンテさんを殺すかのような勢いでこちらからも両手の細剣と短剣による攻撃を繰り返します。
そこからはスピードではなく、パワーとでもいうかのような対面になりました。
動きの先などを読みつつ振るう、右手に持つ細剣による連続の刺突をナンテさんは左手の短剣で逸らし、続けて振るった左手の短剣による攻撃も身体を逸らすことで回避されます。
そうして次々と先読みをしながらナンテさんへ攻撃を繰り返しますが、それらも巧みな足捌きで全て回避され続けます。
そしてお返しとばかりにナンテさんからも放たれる無数の攻撃には、ゆらゆらとした不規則な動きで回避したり両手の武器で逸らしたりしつつフェイントを混ぜながら反撃もしますが、やはりお互いに軽い傷を負うくらいで有効打には欠けます。
ナンテさんはこれでも本気ではないでしょうが、私はユニークスキルを使ってないのを除くとナンテさんを殺すかのように結構本気で攻撃をしているのですけど、それでも実力差があるせいでどうしても攻めきれません。
「やはり、お前さんはなかなか才能があるねぇ」
そんな攻防を少しだけしていると、ナンテさんは一度後方に跳んでからそう言葉にします。
「そうですか?そう言われると嬉しいですが、それでもナンテさんには勝てるビジョンが見えませんよ」
「そこは人生経験の差があるから仕方ないさ。それでも、ここまであたしと戦えているのだから自信は持ってもいいもんだぞ?」
ナンテさんはそう褒めてくれつつ兄様と同じように自信を持っても良いとも言ってますが、それでも私自身にはあまり自信はどうしても持たないのですよね…
こんな私には、自分に自信を持つのは難しそうです。
あんなことがあったんですから、私はこれからもその感情を胸に刻んで生きていかないといけないんですから。
「さて、ではもう少しお前さんの腕前をあたしに見せてくれ」
「…わかりました、では、ここからはユニークスキルも使っていきますよ!」
「構わん、こいっ!」
私はまず左手の短剣で自身を軽く切って〈第一の時〉を付与した後、最初のように地面を蹴って先程までよりも加速した動きでナンテさんに肉薄します。
「はぁ!」
そしてその状態で、間合いに入ったナンテさんに向けて右手の細剣で連続して刺突を放ちます。
が、やはりそれでも小刻みな足捌きでギリギリで回避され、反撃として左手の短剣を私の右手首狙いで振るってきたので、それは手を引くことでそれを回避します。
その後に続けて放ってきた首狙いである右手の短剣の攻撃に対しても、逆手に持った左手の短剣で上へと逸らして攻撃を防ぎます。
「ならっ…〈第七の時〉!」
「む、最初の時の分身か…」
なかなか攻めきれない状況だったので私は数歩後ろに下がり、左手の短剣で自身を軽く切って〈第七の時〉を使用します。
ナンテさんには一度見せたことはあるのでそこまでの驚きはないようですが、それでも少しだけ警戒を強めていますね。
「「〈第一の時〉!」」
さらにそこへ再びの加速効果を付与した私と分身は、そのままナンテさんに高速で近づいて合計四本の剣でフェイントを混ぜつつ攻撃を放ちます。
「〈第二の時〉!」
「〈第三の時〉!」
その攻撃の中にナンテさんの動きを読んで分身は遅延効果の刺突を、本体である私は攻撃系の武技の斬撃を放ちますが、それらに対しても即座に反応して、ナンテさんは武器で受けるのではなく軽いステップを踏むかのような動きでまたもやギリギリで回避されてしまいます。
「なかなかやるねぇ!なら、あたしの力ももっと見せてやるよ!〈幻影纏い〉!」
そうしてナンテさんへ分身と攻撃を繰り返していると効果時間が終わったせいで分身が消え、その後にナンテさんがそう言ってスキルを使用したかと思ったら、何やら黒い幻影のようなものを纏ってナンテさんの動きが全くといっていいほどにわからなくなりました。
「じゃあ、いくぞ?」
「…っ!」
その言葉と共に幻影を纏ったナンテさんがこちらに接近してきてその両手の短剣を連続して振るってきますが、やはり動きがわからないせいか完全には回避することが出来ず、短剣が肌を掠めて徐々に傷を負っていってしまっています。
「くっ、〈第七の時〉!」
私は一度後方に跳んでから分身を生み出す武技を自身に使用して再び分身を生み出し、さらに〈第一の時〉も付与してからナンテさんに向かって接近して、飛んでくる攻撃には大きく回避することでなんとか避けて反撃としてフェイントを混ぜつつ両手の剣で攻撃を繰り出します。
「ははっ、良いね!やはりお前さんは天才だねぇ!」
幻影を纏っているのと素早い足捌きのせいで反撃の攻撃はナンテさんへはうまく当てることが出来てませんが、飛んでくるナンテさんの攻撃も幻影のせいで読みづらいですがそこまで大きく被弾はしないで対処を出来ているので、やはり近接戦闘に対しても成長を感じます。
「…よし、剣の腕前も把握出来たし、一度この辺で終わりにしようか」
「わかりました」
そんな中ナンテさんは後方に跳んだかと思うと、そのように言葉を発したので私と分身は一度手と足を止めて一息つきます。
やはりナンテさんは凄く強いので、本気を出してなくても今のままでは全然勝てるビジョンは見えませんね。
それでもある程度は兄様たちとの特訓で鍛えられているので、このままスキルのレベルとステータスを上げていけば少しは勝てる可能性はあります、かね…?
そうこうしていると分身の効果時間も切れ、薄くなるようにして消えました。
「レア、お前さんは銃がメインらしいが、剣での戦闘もなかなか出来るんだね」
そしてナンテさんはそう声をかけてきたので、私はそれに返事を返します。
「私は銃を主に使うので、剣はおそらく暗殺者の時などでしか使わないと思いますし、本職には負けるとは思いますけどね」
「それでもここまで出来るのなら、十分だとは思うぞ?」
まあ剣はサブ武器程度の感覚ですし、ナンテさんも言ってますがこのくらい出来れば十分なのでしょうね。
「さて、お前さんの腕前は把握したし、師匠としてあたしの使う技術を教えてやるよ」
そこからナンテさんは見てな、と言って私に見せるためにゆっくりと足捌きを実演してくれます。
なるほど、私の腕前を見るための戦闘の時にも使っていた僅かな体重移動による足運びの技術のようですね。
「今見せた通り、実践してみな。この木刀で軽く切り掛かるから、それに合わせてね」
「はいっ!」
私はナンテさんの動きを見て学んだ足や筋肉の動かし方を再現しつつ、さらにはゆらゆらとした不規則な動きも活かしてナンテさんからの攻撃を細かい足捌きも駆使し、僅かにズレることで回避し続けることが出来ました。
「うん、やはりお前さんは才能が凄まじいね。もう吸収したのか。しかもそこに自身の技術も混ぜるなんて、流石だね」
「そ、そんなに褒められると恥ずかしくなっちゃいますよ」
「くくっ、戦闘については凄まじかったが、性格は歳相応だな」
「も、もうっ!からかわないでください!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらそう言ってこちらを見てくるナンテさんに、私は頬を染めつつもナンテさんに抗議しますが、ナンテさんはまあ良いじゃないか、可愛いぞ?と返してきました。
そ、そういう話ではないのですよ!それに可愛いなんて言われたら、ますます恥ずかしくなりますよ…!
「…まあそれはいいとして、レア。お前さんは時間は大丈夫なのかい?」
「あ、忘れてました…!」
ナンテさんの言葉を聞いて、私は腰元の懐中時計を手に取って時刻を確認すると、もう九時を越えそうな時間になっていました。
「…そろそろ戻らないとです!」
「そうかい。なら、また時間がある時に一つ依頼を頼みたいが、いいかい?」
「それは早くやらないとダメな感じですか?」
「いや、そこまで早くはなくてもいいが、出来るなら今から一週間の間にはしては欲しいかね」
一週間ですか。ちょっとこちらの様々な技術を学びましたし、一度原点に帰るためにバレットフェスタオンラインに再びログインしようと思ってましたが、一週間なら全然間に合いそうですね。
「一週間の間なら、多分大丈夫だとは思います」
「なら、またこちらに来た時にでも詳しく説明するとしようか」
「わかりました!では、これで今日は戻りますね!」
「ああ、またこちらに来た時は頼むよ」
ナンテさんに別れの挨拶をした私は、メニューを操作してログアウトを選択して一時的にこの世界から消えます。
そうして現実世界に戻ってきた私は、軽くストレッチをしてから部屋の電気を消して就寝とします。おやすみなさいです。
朝になり、目が覚めました。おはようございます、今日は水曜日です。起きたのはどうやらいつも通りである六時半のようですね。今日も学校がありますし、早速行動に移るとしましょう。
私はベッドから降りた後はいつも通りにストレッチを済ませてから制服へも着替え、リビングに向かいます。
私の少し後に降りてきた兄様と一緒に朝の支度などの諸々を済ませていると時間になったので、二人で家を出てから途中で悠斗と合流をして、一緒に学校へ向かいます。
それと今日も結構暑いので、ポニーテールです。夏も本番になってきましたし、しばらくはこの髪型になるでしょうね。
その道中ではMSOの進捗状況についてお互いに言葉を交わしていると学校に着いたので、兄様とは別れて悠斗と一緒に教室へと向かいます。
「そういや、迷宮都市の散策はどうだったんだ?」
教室に着いた後、授業が始まるまでの間に悠斗からそう聞かれたので、私は喋っても問題ないことのみに話題を絞って悠斗に返します。
「特に面白いことはなかったですよ。北東のダンジョンと色々なお店を見てきたくらいですね」
「北東か、確かそこは山タイプだったっけ?」
「ですね。兄様もそう言ってました」
兄様が言うには、北東は一人で攻略するこは難しいそうなので中には行きませんでしたが、少しくらいはダンジョン内を見学しておけばよかったですかね…?
「他のダンジョンには行ったのか?」
「いいえ、その後は色々と街を散策していたくらいで他のダンジョンには行ってませんね」
他は確か、森タイプと洞窟タイプ、そして遺跡タイプでしたっけ。そっちはまだ行ってないので、悠斗とダンジョンに行くまでに軽く見ておくのも良さそうですね。流石にそのまま中の攻略とはいきませんが。
そんな会話をしているといつのまにか時間になったようで、チャイムが鳴り響いたので悠斗は自分の席へと戻って行きました。
さて、午前中の授業に意識を向けて頑張るとしましょうか。
「美幸、一緒にお昼食べようぜ」
「月白さんと深剣さん、私もご一緒してもいいかな?」
「いいですよ」
午前の授業も終わったタイミングで悠斗と宮里さんからそう言葉をかけられたので、私は二人に承諾の返事を返して鞄からお弁当を取り出し、食べ始めます。
「美幸は今日もMSOにログインするのか?」
お弁当を食べ始めたタイミングで悠斗からそう聞かれたので、特に隠すことでもないので素直に言葉を返します。
「今日は一度原点に帰るために、バレットフェスタオンラインに再びログインしようかと思ってました」
「原点に帰るためか。確かにここまでに色々な経験をしてきただろうし、おさらいとしては美幸には良さそうだな」
「バレットフェスタオンライン?」
「ああ、それはですね…」
宮里さんは聞きなれないゲームのタイトルだからか不思議そうにしていたので、そのゲームの情報を簡単に説明しました。
「へー、月白さんって他のゲームもしてたんだね!」
「美幸は俺と同じでかなりのゲーマーだからな」
宮里さんはどうやら普段はそこまでゲームはしないようで、今回のMSOは話題沸騰中のゲームだったから気になって買ったらしくゲームの経験は浅いそうです。
「あ、それとゲームの話からは逸れるんだけど……今回のテストの結果は二人はどうだった?」
「俺はまあまあってとこかな」
「私も特に目立った失敗はなく、良い点数は取れたとは思いますね。そういう宮里さんはどうだったんですか?」
「私もそこまで悪い結果ではなかったよ!」
そんな宮里さんの発した言葉の通り、今日は午前中のうちに先週のテストの結果が返ってきたのです。私と悠斗は勉強会をした結果もあってか良い点数は取れました。
宮里さんも悪くはなかったみたいで、軽く笑みを浮かべながらそう返してきました。
「全員テストの結果は悪くないようだし、よかったね!」
「本当だな。ゲームだけではなく勉強もした甲斐があったぜ」
「悠斗もゲームだけではなく、たまには勉強をするようにしましょうね?」
「わ、わかってるさ」
そんな会話をしているとお昼の時間ももう少しで終わるようなので、食べ終わっていたお弁当の空箱を片付けてから、悠斗と宮里さんは自分の席へと戻っていきました。
よし、午後もこのまま頑張りましょうか!
そうして午後の授業も何事もなく終わり、帰る時間になりました。
いつものように悠斗と一緒に教室を出て、途中で兄様とも合流してから自分たちの家へと向かいます。
「美幸は今日はどうするんだ?」
その道中で悠斗とは別れ、二人きりになったタイミングで兄様からふとそのように聞かれたので、悠斗に言ったのと同じようにバレットフェスタオンラインに再びログインしようかと思ってます、と答えます。
「そうか、じゃあ時間が空いた時にはまた俺たちのパーティと一緒に狩りにでも行かないか?」
「少しだけ予定が入っているので遅くなりそうですが、それでもいいなら行きたいです!」
「いいぞ、ならまた空いた日が出来たら教えてくれ」
「わかりました!」
そんな会話をしていると家の前に着いたので、中に入ってからそのまま部屋に行く兄様を尻目に、私は先に夜ご飯の支度を済ませます。




