65話 VSクオン2
「〈スプリットバレット〉!」
「〈第三の時〉!」
私は分身と共に構えた両手の銃からそれぞれ武技を使用し、クオン目掛けて放ちます。
「なんのっ!」
クオンはこちらに迫っていた姿勢のまま深く身体を沈ませて避け、私の放った合計六発の弾丸はその頭上を掠めて背後へと飛んでいきました。
「こちらも!〈オーラスラッシュ〉!」
「〈パワーショット〉!」
沈めた身体を戻したと思ったら、今度はクオンが走りながら斬撃を飛ばす武技を使用してきたので、こちらも分身が武技を使用して飛んできた斬撃を相殺します。
そして本体である私は、続いて〈クイックバレット〉を左手の短銃で、〈パワーショット〉を右手の長銃でクオンに向けて放ちます。
しかし一番先に飛んできた〈クイックバレット〉はその片手剣で弾き、〈パワーショット〉は攻撃の衝撃が強かったのか、その勢いのままに逸らされてダメージにはなりませんでした。
そこからも分身と共にフェイントを混ぜながら弾丸を無数に放ちますが、クオンは手に持つ片手剣で逸らしたり弾いたりしつつ、こちらに前進してきます。
それに分身と撃ち続けている攻撃は正確に捌かれ、肌を掠めるくらいでしっかりとしたダメージにもなっていないのも把握出来てます。
このまま撃ち続けても、あまり当たらなくて効果が薄いですね…
「〈パワースラッシュ〉!」
そして効果時間が切れて分身が消えた瞬間、クオンは地面を蹴って勢いをつけ、その勢いのままに武技を使用して攻撃を繰り出してきました。
それは咄嗟に両手の銃を交差して防御しましたが、勢いも乗っているからか普通に使われるよりも重くて鋭く、そのまま背後に少しだけ押されました。
「まだまだ!〈デルタスラッシュ〉!」
続けてクオンはそんな私に向けて、高速で放つ三連撃の武技を使用して攻撃をしてきました。
私は一撃目を左手の短銃で逸らし、二撃目は姿勢を低くして回避して、最後の三撃目に対しては再び片手剣の間合いよりも内側に踏み込んで攻撃を躱します。
「〈第零・第三の時〉!」
「ちっ…!」
そして私はクオンの懐でその武技を使用して、そのまま後方へと吹き飛ばします。
〈第零・第三の時〉は通常の〈第三の時〉とは違って攻撃力には欠けますが、その分ノックバックを発動する効果を持つので、今のように距離を詰められた時には使える武技なのです。
クオンは私の武技で飛ばされたまま、空中で姿勢を即座に戻して背後の地面へと着地しました。
「…近接戦闘でも、前に見た時よりもかなり強くなっているな」
「まあ色々と特訓をして成長してますからね!そう言うクオンだって、本気で戦ってますがなかなか強くてすぐに倒すのは難しいですよ」
「俺だってあれから特訓をしてるし、このくらいは戦えないとレアの隣には並べないからな」
前にも言ってましたが、クオンはそれほどまでに私の隣に居たいのですね。…こんな私に、そこまで必死になるものなのですかね…?
「まだまだHPは残っているし、レアを倒すまでは倒れないぞ!」
そんな思考をしている私はクオンのその言葉にハッとして、意識を戻します。
「…私のHPもかなり残ってますし、このままクオンに倒せますかね!」
「ふっ、ここからはさらに本気で行くぞっ!」
会話を終わらせた私たちは、試合開始の時と同じように再び動き出します。
私はクオンの動きを何手先も読んで両手の銃を乱射して弾幕を貼り、クオンが近づかないようにかつ攻撃として撃ちまくります。
クオンはその弾幕の嵐の中を、先程まで使っていた片手剣とは違って何やら黒色をしたもう一本の片手剣を代わりとして取り出し、無数の弾丸たちを捌きつつこちらに向かってきます。
あの黒い片手剣は先程までは装備してなかったはずですが、それを出したということは何か狙いがあるのかもしれません。
「…まあそれでも、その目論見ごと撃ち抜きます…!」
私はそんなことを考えつつも、〈第一の時〉を自身に撃って動きを加速させながら、クオンに向けて銃弾を撃ち続けます。
「今が使い時だな…!〈星纏い〉!」
その無数の弾丸の嵐を駆け抜けながら、クオンは何やらスキルを使用します。
すると先程までよりも動きが速くなり、そのスピードで弾幕の中を走り抜けて一気にこちらへと踏み込んできました。
「〈スピードスラッシュ〉!」
さらに武技までも使用して高速の斬撃を放ってきたので、私はそれに対して焦らずに一つのスキルを使用します。
「…〈舞い散る華〉!」
そのスキルを使用した瞬間、私の全身が花びらに変わって身体があった場所をクオンの放った攻撃が通り抜けていきます。
「なっ…!?」
「からの、〈ツインシュート〉!」
そしてクオンの後方に移動して、効果時間の三秒が切れて花びらから戻った瞬間、私はそれによって隙の出来ていたクオン目掛けて武技を使用してその身体を撃ち抜きます。
「ぐっ、まだだ…!」
「いえ、終わりです!〈第十一の時〉!」
続けて放った武技は、直前に武器で撃ち抜かれた影響で硬直していたからか躱されず、クオンにしっかりと命中してその足を五秒間のみ縛り付けます。
「そして、〈第五の時〉、〈第一の時〉!」
さらに連続して自身に武技を撃ち込んで準備を完了させた後、私は地面を蹴って、先程までよりもさらに加速した動きでクオンに肉薄します。
「くっ、〈オーラスラッシュ〉!」
「無駄ですっ!〈舞い散る華〉!」
そんな足を縛られた状態で放ってきたクオンの武技は、再び身体を花びらにすることで回避します。
そのまま加速した状態を保ちつつクオンに接近しますが、その間に縛り付けていた効果が切れてクオンも動き出し、私の身体も花びらから元に戻ります。
「足が動いたなら!〈スタブ〉!」
そして武技を使用した素早い刺突を放ってきましたが、それは接近しつつも横に僅かにズレることで紙一重で回避します。
「止めです、〈第三の時〉!」
私は武技を躱されたことで隙が出来たクオンの胸元に左手の短銃の銃口を突きつけ、そのままこちらからも武技を使用してクオンの胸を撃ち抜きます。
「っ…!」
それでクオンのHPゲージは全て削れ、勝敗が決しました。
『You Win!』
そんなシステムのアナウンスが流れ、試合が終わったのがわかりました。
「…ふぅ、勝てましたか」
「お疲れ様、レア」
「クオンもお疲れ様です」
そうして一息つくと、すぐにクオンも倒れてた姿勢から立ち上がってそう声をかけてきました。
「やっぱりレアには勝てなかったな」
「ですがそれはユニークスキルや装備があったおかげな気がしますし、クオンも同じように獲得出来れば勝てるとは思いますよ?」
「そんなことはないと思うけどな。それに俺も一応ユニーク装備は一つ獲得しているしな」
そう言って先程も使っていた黒い片手剣をインベントリから再び取り出してこちらに見せてくるクオンに、私は少しだけ驚きます。
「何やらレアそうとは思いましたが、クオンもユニーク装備を手に入れてたのですね」
その黒い片手剣は、よく見ると刀身がただ黒いだけではなく、星空のような微かに青っぽいキラキラしたものがついてあり、こうして見るとなかなか綺麗です。
「たまたまクエストが起きて、それの報酬で手に入れることが出来たんだ」
まあ基本の性能は今の武器よりも僅かに低いから、使うのは今みたいな素早い相手だけだがな、とも続けて言葉にするクオン。
「素早い相手ということは、先程も使っていた加速系のスキルですね?」
「ああ、レア相手には特に効果はなかったが、この武器は力を強くして動きを速くすることが出来るスキルがついているからな」
なるほど、確かにそれはスピードタイプの相手になら効き目はありそうですね。
「…よし、試合も終わったことだし、ついでにどこかで何か食べていかないか?」
「満腹度も意外と減っていますし、私は構いませんよ!」
「じゃあ決まりだな。とりあえず、ここから出るか」
「そうですね」
私とクオンはそんな言葉を交わしつつ、メニューを開いて決闘エリアから元のエリアへと戻ります。
そして元のエリアに戻ると、そこは来た時と同じ初期の街の広場でした。
「レアは何が食べたいとかはあるか?」
「んー…特にないですが……あ、ならムニルさんのお店はどうですかか?」
決闘エリアから戻った後にクオンからそう聞かれたので、私は少し考えた後に答えます。
「ムニルの店か、確かにそこなら色々とあるしな。じゃあそこに行こうか」
「はい!」
行き先を決めた私たちは、そのまま歩いてムニルさんのお店へと向かいます。
あ、そうそう、その道中では初期の街の広場に戻ってくる前に焦茶色のクロークはしっかりと装備しているので、特に目立っていませんよ。
そうして初期の街を歩くこと数十分、クオンとゲーム内の会話をしながら歩いているといつのまにかお店の前に着いていました。
なので私たちは早速とお店の中に入り、テーブル席に座ってメニューを見て料理を注文をします。
「さて、俺はこのまま迷宮都市の東の森で狩りに行こうと思っているが、レアはどうなんだ?」
「私ですか?そうですね……夜ご飯の時間まではまだありますし、私は迷宮都市の散策をしてこようと思ってます」
クオンの言葉に私は腰元の懐中時計を確認すると、まだ五時半くらいだったので時間が意外とあるようでした。なので、私はやることを瞬時に決めてからクオンにそう言います。
「俺はまだそこまで街は回っていないから、何か面白そうなものがあったら聞かせてくれ」
「いいですよ、見つけた時は学校でそのことを伝えますね!」
クオンはどうやら迷宮都市の散策はまだそこまでしていないようなので、そう言ってきました。それと私が面白いものを見つけられるとも思っているみたいです。…まあ今までの私を見ればそう思うのも仕方ないですよね。
それはともかく、新しい街の散策は楽しいですし、そこまで隅々まで見て歩く必要もないのでのんびりと巡ることにしましょうか!
「それと迷宮都市のダンジョンについてはもう少し待っててくれ」
「別にそのくらいは大丈夫ですよ。また時間がある時でいいですしね」
クオンはそう言葉を続けてきたので、私はそこまで気にしてはいないので軽く返事を返しました。
皆でダンジョンに行くのは楽しみですが、そんなに早く行かないためダメというわけでもないので。
「お待たせしました!こちら料理になります!」
「お、きたな」
クオンと会話をしていると、そんな声と共に頼んだ料理が運ばれてきました。
クオンはステーキを、私はミートソースのスパゲッティを注文したので、それらがテーブルに並びます。
「じゃあ、食べるか」
「そうですね、いただきます!」
そして会話もそこそこに、私たちは料理を食べ始めます。
んー、やはりムニルさんのお店の料理はとても美味しいですね!スパゲッティに使われているトマトの酸味とひき肉のジューシーさが絶妙で、食べてても全然飽きがこなくてペロリと食べられます。
私も【料理】スキルを獲得しましたし、クリアにも食べさせるためにここまでではなくても、もっと美味しく作れるようにしたいですね!
まあ今の段階でも普通の人よりかは十分作れますし、そこまで意識はしなくても良いかもしれませんけどね。
「…そういえば、聞きたいことがあったんだが」
「んむ?」
モグモグと食べている私に向けて、クオンはそう前振りをしてから何やら話しかけてきました。
「学校で言っていた剣については、どうなったんだ?」
「…ああ、そのことですか」
私は一度口の中のものを飲み込んだ後、口を開いてクオンに言葉を返します。
「クオン相手ではたまたま使ってませんでしたが、それについては兄様との特訓をしたので、本職である兄様やクオン、カムイさんなどが相手でもある程度は出来るようにはなったと思います!」
双銃とは違って剣メインの戦闘スタイルではないので本職に比べれば一般劣る気はしますけど、それでも結構な腕前に成長はしているは思います。
「そうなんだな。まあレアの場合は銃があるし、近づかれた時にしか使わなそうだからそこまで問題はなさそうだしな」
「そうなんですよね、なので鍛えてもあまり出番がなさそうなのが少し残念です」
私の場合は近接戦闘に使うということは、すでに追い込まれている状況でしょうし、使うことがないのが一番ですが。
そんな会話をしつつも食べ進めていると、いつのまにか食べ終わっていました。
「よし、じゃあ今日は迷宮都市に向かってそこで解散とするか」
「わかりました。ならそこまでは一緒に行きましょう!」
会計を済ませてムニルさんのお店を出た私たちは、そんな言葉を交わしてから今いる街の広場に向かい、そこから二人揃って迷宮都市に転移を行い移動しました。
「では、私は迷宮都市の散策に行ってきます!」
「俺の行き先は迷宮都市の先のエリアだし、また会えるのは明日の学校だな」
「ですね。ではまた明日!」
そう言ってクオンが今いる広場から東方向に向かっていくのを見送った後、私は街の行き先を考えます。
「…では、まずは北方面からから散策していきますか!」
そのままルンルンと音が出そうな程に軽快な動きで、私は広場から北の大通りに向けて歩いていきます。
「あ、そういえば最近はクリアをあまり呼んでいませんでしたね。今は特に問題ないですし、呼んでおきますか」
私は一度立ち止まってからクリアを呼び、出てきてから元気そうにピョコピョコと跳ねているクリアを肩に乗せて、軽くて撫でてから再び歩き始めます。
「やはり迷宮都市というだけあってか、人が多いですね」
「……!」
キョロキョロと周囲を観察しながら北の大通りを歩いていると、プレイヤーではなさそうな住人たちも多めに見かけます。
それに初期の街や第二の街とは違って結構乱雑にお店があるようで、鍛冶屋や料理屋、雑貨屋など様々なお店が見て取れます。
肩にいるクリアも楽しそうに辺りを見渡しているようで、プルプルと震えて感情を伝えてきています。
「兄様が言っていた言葉によるとダンジョンがあるのは北東、北西、南西、南東の四箇所でしたね。散策ついでにそこも軽く見ておきますか」
露店やお店などを冷やかしながら見つつ、とりあえずの行き先を決めて北東にあるダンジョンの見学に向かいます。ダンジョンに潜るわけではないですし、見るだけなら特に時間もかからないですしね。
そうして北の大通りから逸れ、北東のダンジョンに続く道を歩き続けます。
そしてその道中では、プレイヤーの団体ともすれ違いました。迷宮都市にはすでに少数のプレイヤーが来ているようなので、ダンジョンに行ってきた帰りなのでしょう。
「やっぱりプレイヤーはこの街ではダンジョンに行く人が多いのですね」
まあそれが特徴の街ですし、当然だとは思いますが。
クロークを深く羽織りつつもすれ違うプレイヤーたちを尻目に歩き続けていると、やっと北東のダンジョンの近くまで近づいてきました。
「他の街とは違って街がかなり広いので、結構時間がかかりましたね」
ダンジョンの近くまで来たというだけなので、もう少し歩かないと目的地は見えてはこなさそうですがね。
そんなことを考えつつもさらに歩き続けること数十分。まだかなと思っていたら、やっとダンジョンの入り口らしきものが見えてきました。