62話 精霊とワールドモンスター
「まず精霊についてですが……レアはどこまで知ってますか?」
「私が知っていることはほとんどないですが、知っているのは精霊たちの国があるのと、そこに精霊の王様がいるらしいということはわかっています!あ、それと様々な姿をとっているらしいのも知っていますね!」
「…基本的なことは知ってないのに、それについては知っているのですね」
ソロさんは私の言葉に苦笑をこぼしますが、そんな私に対して精霊についての説明をしてくれます。
「基本的に精霊とは、この世界におけるあらゆる力を司り、世界の循環を助けることをしている存在です」
「循環……つまり、人間の身体における血流と似たような感じですか?」
「その感覚で概ね合ってますね。レアの言う通り、人間で言うところの血の代わりにこの星に流れる星脈というものを管理しています。それのおかげでこの世界では自然が豊かだったり、植物や生命もすぐに育つのですよ」
そんなことを語りつつも、ソロさんは精霊についての説明をさらにしてくれます。
「この通り、精霊は世界の循環を手助けするという性質上この世界にはなくてはならない存在で、それと同時に人類には神の次に信仰の対象にもなっているのです」
なるほど、信仰の対象にもなるのなら、もしかしたら初期の街にもあった教会などに行けば精霊についてはすぐにわかったのですかね?
「そして精霊にはレアも知っての通り国も存在してますが、そこはこの世界とは別である精霊界というところにあるのです」
「こことは違う世界、ですか?」
「ええ。別世界というわけではないですが、こことは違う空間に存在する世界のようで、普通では行くことも出来ないところなのです」
違う空間ということは、前に見たサルファ君の精霊領域と似たような仕組みで、それのさらにスケールが大きくなった感じと覚えておけば良さそうですかね?
「なるほど、大体はわかりました!」
「それとこちらも知っていたみたいですが、精霊はそれぞれ司るものによって姿や形も変わっている個体もいるのですよ」
それは前に会ったサルファ君からも聞いていたので新鮮味はありませんが、情報としてはありがたいですね。
「最後に、普通では目に見えないですが自意識の薄い微精霊というのも世界中に存在し、それらは人類の使う精霊魔法や先程言った世界の循環などに力を使っているのです」
ふむふむ、こちらは特に見えることもないようですし、精霊魔法というのも使うことはなさそうなので特に気にするほどのことではありませんね。
それに世界の循環についても私がやるわけではないので、そこまで意識しておかなくてもよさそうです。
「精霊についてはこの辺りですね」
「説明ありがとうございます!よくわかる内容だったので、簡単に理解が出来ました!」
「それならよかったです。では、次はワールドモンスターについての説明に移りますか」
まあ私もそこまでは詳しくないので知っている情報ではありますが、とソロさんは続けてから説明をしてくれます。
「私が知っているのは三体で、一体目は天災のゾムファレーズ、二体目は世喰のエルドムンド、そして三体目はレアも知っているらしい深森のアビシルヴァですね」
「ワールドモンスターはそれぞれ名前と二つ名みたいなのがあるのですね」
「ええ、それぞれの特徴などが二つで呼ばれているのです」
私に称号を与えたあの大蛇は深森のアビシルヴァというみたいです。名前は初めて知りましたが、深森という名前通りきっと森の奥などにいるのでしょう。まあ出会った時は森の浅層だったので、森の中ではどこでも出てくる可能性もありますが。
「深森のアビシルヴァについてはある程度知っていますが、天災のゾムファレーズと世喰のエルドムンドはどのようなモンスターなのでしょうか?」
「そうですね、私が知っている情報では、天災のゾムファレーズは巨大な竜の姿をしており、世喰のエルドムンドはこちらも大きめなサイズで狼の姿のようです」
大きめの竜と狼ですか。それらのワールドモンスターもあの大蛇と同じランクのようですし、同じように凄まじく強いのでしょうね。
私が出会ったことがあるのは深森のアビシルヴァだけですが、この世界を攻略していげばこれから他のワールドモンスターと出会うこともあるでしょう。
なので次出会った時は勝てるようにもっと強くなっておかないとですね!
「ワールドモンスターについての情報はこのくらいですね」
「ソロさんも教えてくれてありがとうございます…!わかりやすくて勉強になりました!」
「そう言ってくれると、こちらも嬉しく感じますよ」
私はニコニコと笑みを浮かべながら感謝の気持ちを伝えると、ソロさんも軽く微笑んでそう返してくれました。
「それと今更ですが、レアは少し髪や服などが濡れていますね?」
「ここに来るまでに雨が降っていたので、それのせいですね。タオルなども持って無いので仕方ないですが」
「ふむ……なら、生活魔法を覚えてみてはどうですか?」
ソロさんはそんな私を見てからそう言ってきました。
「生活魔法ですか?」
「ええ、そのスキルは火種や飲み水、汚れが一瞬で落とせる洗浄などのアーツを使えるのでなかなか便利ですし、雨などで汚れた時などにも使えますよ」
「そんな魔法があるのですね…!それはどこで手に入れれるのですか?」
「普通は何かしらの魔法関係のスキルを覚えれば獲得出来ますが、レアは何か持っていますか?」
ソロさんの言葉に、私は一度ステータスを開いて確認をしてみます。
「んー…魔力制御や魔力感知、魔力隠蔽のスキルはありますが……あ、取れるスキルの中に生活魔法がありました!」
「無事ありましたか」
私は早速SPを一消費して【生活魔法】のスキルを獲得します。
そして獲得した【生活魔法】のスキルはレベルがないようで、使えるアーツはこんな感じでした。
〈火種〉
MPさえあればどこでも着火できる。
〈飲水〉
MPさえあればどこでも飲水が出せる。
〈そよ風〉
そよ風が送れる。
〈洗浄〉
汚れが一瞬で落とせる。
〈応急手当〉
HP微回復。
〈瞑想〉
MP回復速度を早める。使用中は移動不可。
ソロさんの説明通り、基本的に痒いところに手が届く便利スキルという感じのようです。
私はその中の一つである〈洗浄〉を使用してみると、少しだけ濡れていた私の身体から余分な水が消え、それと同時に軽い汚れも全てなくなりました。
クリアもそんな私を見て驚いているようで、肩の上でプルプル震えて興奮しています。
「これは便利ですね…!教えていただきありがとうございます!」
「いえいえ、このくらいは別に問題ありませんよ」
ソロさんに感謝を伝えてから、私は言葉を続けます。
「ソロさん、今日は色々と情報を教えていただきありがとうございました!」
「ふふ、そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。また何か聞きたいことがまだあればいつでも聞きにきていいですからね」
「はい!その時はまたよろしくお願いします…!」
私はペコリとお辞儀をした後、では私は行きますね、とソロさんに別れを伝えてから、メニューからログアウトを選択して一度この世界から消えます。
「んー…今の時刻は六時十分くらいですね。なら七時くらいまでは勉強でもしてましょうか」
その前に私は軽くストレッチを済ませた後、諸々の準備をしてから少しの間だけ勉強を始めます。
そうして自分の部屋で黙々と勉強に励んでいると、スマホに設定していたタイマーの音が鳴り、ふと意識が戻ってきました。
「…もう七時ですか」
部屋に置いてある時計に視線を向けると、いつのまにか七時になっていました。
「夜ご飯をすでに作ってあるので問題ないですし、先にリビングに降りておきますか」
私はそう呟きつつ、使っていた道具たちを片付けてから部屋から出てリビングに降ります。
リビングに降りると兄様はまだいないようなので、私は待っている間にスマホでMSOの情報を流し見していきます。
「そういえば神様のことについても調べないとですね」
前に会話をした時空神であるクロノスさんは自身のことを古神と言ってました。
その言葉から察するに古くから存在する神様なのでしょうが、神様についての知識は一切ないせいでよくわかっていないのが現状です。
「精霊のこともそうですが、今度教会にも寄ることにしますか」
教会は初期の街の東方面にあるみたいですし、他の街も聞いたりして探せば見つかるでしょうから、また時間がある時に向かいましょう。
神様関係については、ソロさんに聞いたのと同じように行った時に教会の人に聞いたりして調べるといいですね。
「お、美幸はもう降りてきていたんだな」
「あ、兄様!」
スマホを見つつもそんなことを考えていると、兄様もリビングに来たのかそう声をかけてきました。
「今夜ご飯の準備をしますね」
「ああ、頼む」
私は一度スマホを置いてからキッチンに向かい、冷蔵庫の中に仕舞ってあった夜ご飯を取り出してレンジで温め始めます。
そして温めるのもすぐに終わり、レンジから出してテーブルに置いたら準備は完了です。
「では、いただきましょうか」
「そうだな、いただきます」
そう言って私たちは夜ご飯を食べ始めます。
「美幸、剣の特訓についてなんだが、それは明日の月曜日に学校から帰ってきたらやるか?」
ご飯をパクパクと食べていると兄様からそう言われたので、私は一度口の中のものを飲み込んでから答えます。
「…そうですね、それでお願いしてもいいですか?」
「いいぞ、任せとけ」
「ありがとうございます、兄様!」
兄様は明日に私との特訓をしてくれるようなので、ありがたいですね。これで兄様の技術も学んでもっと強くなりましょう!
そうしてそこからもMSOについての会話を続けていると、いつのまにか食べ終わっていたのでいつも通り食器洗いなどは兄様に任せて私は自分のすることをパパッとしてきます。
諸々の支度を済ませてパジャマに着替えた私は、自分の部屋に戻ってから再びゲーム世界にログインし、寝る時間まではゴルブレン森林で狩りと採取をしました。
そして時間になったらすぐに迷宮都市に戻ってからログアウトをして、軽くストレッチをしてから就寝とします。おやすみなさいです。
鳥の鳴き声で目が覚めました。おはようございます、今日は月曜日です。今日からはまた学校なので早速行動といきましょう。
私はベッドから降りてストレッチをした後、いつも通り朝の支度などの諸々を済ませてから時間になり次第、家を出て兄様と悠斗と一緒に学校へ向かいます。
それと今日からは先週よりも暑くなるので、長い髪の毛をポニーテールにしています。
「美幸は今日はポニーテールなんだな」
「夏も本番になって暑くなってきましたからね。これなら涼しいので」
「ポニーテールも似合っているぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
そんな会話をしつつも歩き続けていると学校に着いたので、私たちは兄様と別れて自分の教室へ向かいます。
その後は普段と同じように午前中の勉強も順調に終わり、今はお昼の時間です。
「美幸は今日もMSOをやるのか?」
私は自分の机でお昼のお弁当を食べていると、そのように悠斗から問いかけられたので、それに対して私は口のものを飲み込んでから答えます。
「…はい、今日は兄様との特訓をするつもりなのです」
「また特訓か?」
「実は、ユニーククエストのおかげで私の武器である双銃を剣に変えられるようになったので、それの特訓なのですよ」
そんな私の言葉に悠斗は、目をまん丸くして驚いています。まあ、そうですよね。普通はこんなポンポン出来るものではないはずですし。
「…まあ美幸だしな……それはそうとして、剣の特訓なら確かに玲二さんなら適任だろうし、良さそうだな。俺も特訓をお願いしてたしな」
「兄様は凄く強いですしね」
自分で言うのもなんですが、私自身も十分強いとは思いますが、私の場合は銃を使うFPSを主にしていたのでこういう剣や槍などが出てくるゲームはあまりしてこなかったので、得意ではないのですよね。
それに対して兄様は、私の逆のようにFPS系を一切しないで刀剣類のみが出てくるゲームを主にしていたので、近接戦闘においては私や悠斗よりもかなり上なのです。
ですから、こういう場合ではとても勉強になるので、とても助かっています。
「じゃあまた予定が空いた日が出来たら、前にも言っていた試合を俺ともしないか?」
「いいですよ。今週の予定は今日以外は特にないですし、明日の火曜日はどうですか?」
「俺は大丈夫だ。なら、その日にしようか」
「わかりました」
悠斗とのPVPはまだしたことがなかったですし、どうなるでしょうか……悠斗も普通に強いので、勝てるといいですね。
そんな会話をしているとお昼の時間が終わるチャイムが鳴ったので、悠斗はそれじゃ、と言って自分の席へと戻っていきました。よし、午後の勉強も張り切っていきましょう!
そして時間も過ぎ、今の時刻は四時と少しです。
「美幸、帰ろうぜ」
「そうですね」
悠斗からの言葉に私は返事を返し、そのまま教室を出て校舎前で待っていた兄様とも合流してから帰路に着きます。
「じゃあ、また明日な」
「はい、また明日会いましょうね」
そう言葉を交わして道を別れた後は兄様と二人で家へと向かい、そこからも歩くこと数分で着きました。
「私は先に夜ご飯の用意をするので、合流は第二の街の広場でもいいですか?」
「大丈夫だ。じゃあ俺は先にログインして待っているな」
「はい」
そう言って兄様は部屋に向かっていったので、私は夜ご飯の用意を先に済ませます。
「そうですね……今日はハンバーグにでもしますか」
冷蔵庫の中を見て作るものを決めた後は、使うものを取り出してからテキパキと調理を始めます。
そして時間をかけて料理が完成したので、粗熱を取ってから冷蔵庫に仕舞って料理は終わりました。
「今は……すでに五時ですか。なら、私もそろそろ行くとしますか」
私は使ったものを洗って拭いて片付けも終わらせたら、自分の部屋に向かいベッド横に置いてあったヘッドギアを頭につけて、早速ゲーム世界へログインします。