60話 ボスゴブリン
「お、レアちゃん、戻ってきたんだな」
「セントさんたちもすでにログインしていたのですね」
そうしてゲーム世界に戻ってくると、すでにセントさんとジンさんは戻ってきていたようで、何やら会話をしつつ待っていました。
そんなお二人のもとに近づいて私も含んだ三人で他愛ない会話をしていると、そんな私のログイン後すぐに兄様とマーシャさん、サレナさんもすぐに戻ってきたので、私は送還されていたクリアを再び呼び、肩に乗せてから準備を完了します。
「よし、皆も集まったし続きと行くか」
「わかりました」
そして皆も戻ってきて休憩も終わったので、ここまで来た時と同じように皆である程度固まり、セーフティーエリアの奥へとさらに進んで行きます。
ゴルブレン森林の奥に進んで行ってますが、この森の奥もセーフティーエリアの前とは違いはないようで、たくさんの木々が生い茂ってはいます。そうして森の奥へと進んでいると、すぐに私の【気配感知】スキルと【魔力察知】スキルに反応が出ましたら。
「また感じたな……ゼロ、またモンスターがこちらに向かってきているぞ」
「兄様、多分音からしてゴブリンだとは思うので、隠れていれば不意打ちを出来ると思います。」
「わかった、なら、木々の後ろに隠れるとしよう」
セントさんも感じたようで、そのように兄様に声をかけます。そこに私も音でモンスターを感じたことを兄様に伝えます。
そんな私と兄様の言葉に皆さんは素直に従い、近くの木々の裏に息を潜めて待機します。
そのまま木の裏で待っていると、ギャアギャアと声をあげながら複数のゴブリンたちが現れました。どうやら、隠れているおかげでこちらには気づいていないようです。
それと数は六匹の普通のゴブリンと、それらをまとめているらしい、160cmくらいはありそうな大きめのゴブリンが一体歩いてきています。
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ホブゴブリン ランク F
森の中に生息しているゴブリンたちを率いている上位のゴブリン。
戦闘方法については普通のゴブリンとあまり変わらないが、その分力などは上がっている。
状態:正常
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大きめのゴブリンの鑑定結果はこんな感じでした。説明を見るに、ゴブリンたちのリーダー的存在なのでしょう。それと普通のゴブリンとは違って、少しだけ錆びてはいますが鉄製らしき片手剣も持っています。
「マーシャル、サレナ、先制攻撃を頼んでもいいか?」
「わかったわ」
「任せて!」
兄様の小声にお二人はそう返し、武器である長杖をインベントリから取り出して魔法を撃つ準備をします。
「〈ライトランス〉!」
「〈ウィンドランス〉!」
そしてそんな言葉と共に、光と風で出来た大きめの槍のようなものがゴブリンたちへ飛んでいき、先頭にいた二匹のゴブリンを貫きポリゴンに変えました。
「よし、いくぞ!」
「はい!」
そんな突然の攻撃に動揺しているゴブリンたちの群れに、私たちは自身の武器を取り出してから一気に接近します。
それとその近づいている間に、私は双銃から剣の状態に変えておきました。
「ギガァ!」
後方にいたホブゴブリンは動揺しているゴブリンたちに向けてそう声をあげ、指揮をとって近づいてくる私たちに向けてゴブリンたちに指示を出しています。が、やはり普通のゴブリンは頭が悪いからか、応戦しろ、などの簡単な指示しかわかっていなさそうです。
「〈タウント〉!」
ゴブリンたちが向かってくる前方に出たジンさんがそのような武技を使うと、残っていたゴブリン四匹のターゲットがジンさんに集中し、そのままヘイトを引き付けています。
「はぁ!」
「おらぁ!」
「ふっ!」
「……!」
私たちはジンさんに意識が向いて隙だらけのゴブリンたちに向け、自身の持っている武器を振るってその身体を切り裂いてHPを削っていきます。ついでにクリアにも固有スキルでストーンスネークに変身してもらい、一緒に戦ってもらいます、
「ガァア!」
私たちとクリアが四匹のゴブリンへ攻撃をしていると、先程まで後方にいたホブゴブリンがそのような声をあげ、こちらに向かってきました。
ジンさんはまだ残っているゴブリンの相手をしていましたが、ホブゴブリンは一番近くにいたジンさんに近づいてその手に持っていた片手剣を振り下ろしてきます。
しかし、その攻撃はジンさんの持っている大盾に阻まれて防御されます。
「…〈第一の時〉!」
そこで私は順手に持ち直した左手の短剣で自身を軽く斬り、ユニークスキルの武技で動きを加速させてからジンさんに意識が向いているホブゴブリンへ地面を蹴って一気に肉薄し、逆手に持ち変えた左手の短剣ですれ違い様に首筋を切り付け、そのままホブゴブリンの後方へと周ります。
「ギガァ!?」
首を切られたことによってホブゴブリンは驚きの声をあげ、こちらを振り向こうとします。
「〈ライトアロー〉!」
「〈エアロボール〉!」
が、その一瞬の隙にマーシャさんとサレナさんの放った魔法がホブゴブリンの背中に命中し、そのHPを削って怯ませます。
私はその隙を見逃さず、今度は右手の細剣をその喉元に差し込み、その攻撃でホブゴブリンのHPゲージが全てなくなり悲鳴をあげてポリゴンとなりました。
「よし、倒し終わりましたね」
「……!」
一緒に戦ってくれていたクリアも、変身を解いてから、凄いねー!というかのように震えて感情を伝えてきます。
「レアも終わったか」
「はい。ホブゴブリンもそこまで強くはないので、特に苦戦はしなかったですね」
まあ群れの主のようなモンスターでしたが、ボスではないのでそれ相応の強さでしたしね。
「それとさっきもチラリと見たが、それが昨日言っていた剣なんだな」
「そうです。なので兄様に特訓をお願いしたのですよ!」
兄様は目ざとく一息ついている私の持っている二本の剣を確認して、そのように声をかけてきました。
「俺が得意としてるのは刀だが、レアの持っている細剣と短剣の技術もある適度把握しているし、特訓は任せておけ」
「はい!ワクワクしながら待っていますね!」
私は兄様の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべ、ルンルンと音が立ちそうなほどにご機嫌な状態で手に持っていた二本の剣をインベントリに仕舞います。
「それに、レアのテイムモンスターの戦闘方法も特殊な感じがするな」
「まあレアモンスターでしたし、それのおかげでしょうね」
「…テイムモンスターまでレアなやつだったんだな」
私の返答に兄様はジトーっとして目で見つめてくるので、私は思わず目を逸らしてしまいます。そ、そんな目で見つめられるとなんだか気まずく感じてしまいます…!
「…まあいいか。とりあえず、この調子でエリアボスまで向かおうか」
「わかりました」
ふぅ、とため息をついた後に兄様はそう発したので、私はクリアを肩に乗せてから皆である程度集まってから再びこのエリアの奥へと進んでいきます。
その道中でも先に察知しても躱せなさそうなゴブリンや狼などは倒しながら進み、採取もしつつ結構な時間歩いていると、何やらエリアボスのいそうな開けた場所の手前まで着きました。
「この先がおそらくエリアボスだろうし、ボス戦の前に軽く確認を済ませるか」
「そうですね」
兄様のその言葉に、私たちは各自確認を済ませます。私の使う武器や防具は壊れないものが多いですし、HPやMPも満タンなうえにポーション類もたくさんあるので特に問題はないですね。
「…皆準備は良さそうだな。よし、いくぞ!」
「はい!」
私たちは各々の返事を返し、皆でエリアボスのいる場所まで進んでいきます。
そしてそんな開けたボスエリアに入ると、エリアの奥からのしのしと二メートル半近くはありそうなほど大きく、鉄製らしいですが豪華な装備もしているゴブリンが現れました。
それと同時に、そのボスゴブリンの背後の森から無数のゴブリンたちも出てきます。
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ゴブリンキング ランク E
森の中に生息しているゴブリンたちを率いているゴブリンの王。
ゴブリンたちを統率して群れを作り、その力で敵を打ち滅ぼす。
状態:正常
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ボスである大きいゴブリンを鑑定してみるとそう出ました。見た目からしてもホブゴブリンなどとは比べ物にならないくらい強そうですし、気を引き締めて戦うとしましょう!
「ジンはボスゴブリンを頼む。それと周りのゴブリンたちはその間に他の皆で蹴散らしていこう」
「了解した」
「任せてください!」
「じゃあ、いくぞ!」
そんな声と同時にボスゴブリンと無数のゴブリンたちがこちらに襲いかかってきたので、ボスゴブリンにはジンさんが、周りのゴブリン相手は私と兄様、セントさんにマーシャさんとサレナさんが相手をします。
それと数が結構いますし、ついでにクリアにも戦ってもらいましょうか。
「クリアもお願いします。そうですね、今は狼の姿で周りから倒しましょう」
「……!」
クリアはわかった!というように震えてから私の肩から地面に飛び降りてそのままハイウルフの姿になり、ゴブリンたちへと向かっていきました。
いま変身したハイウルフの姿は、ここまでの道中で倒した狼を与えておいたので使えるようになったのです。ボスエリアまでの道中での戦闘を見るに、変身後の狼の姿はなかなか使いやすそうなので、これからも使うことが多くなりそうです。
そうして私はインベントリから双銃を取り出して剣の状態に変えたあと、クリアと一緒になってこちらに接近してきているゴブリンの群れへと向かっていきます。
「ギギャ!」
一番先頭にいたゴブリンはそう声をあげつつ、近づいた私目掛けてその手に持つ棍棒を振り下ろしてきました。が、そんなものに当たる私ではありません。
その攻撃はわずかに横にズレることによって紙一重で回避し、躱されて隙だらけのゴブリンの首筋を逆手に持った左手の短剣で深く切り裂きます。弱点への攻撃と武器の性能が良いおかげで、その一撃でそのゴブリンはポリゴンとなって消えていきます。
「ギャァ!」
「ギャギャッ!」
私の近くにいる無数のゴブリンたちは今しがた倒されたゴブリンを忘れたのか、出鱈目に攻撃を繰り返してきますが、それを私はゆらゆらと不規則な動きで翻弄しつつ、お返しとして逆手に持った左手の短剣と右手の細剣をそれぞれ振るってゴブリンたちをどんどん切り裂いてポリゴンへ変えていきます。
「ガァ!」
そんな私のすぐそばでは、狼状態のクリアもゴブリンたちから飛んでくる攻撃を回避しつつ、その爪や牙でダメージを与えていっています。
一撃で倒すほどの力はないようですが、その攻撃で怯んだりしているので、その隙に私が止めの攻撃を当てているのでなかなかいいペースで倒せていますね!
「これで、終わりです!」
そうしてクリアと二人でゴブリンを倒していき、最後の一匹の首を右手の細剣で斬り飛ばし、私の方にいたゴブリンたちは全て倒し終わりました。
「あちらもすでにゴブリンは倒し終わってボスゴブリンの相手をしていますね。なら、私もそちらに向かうとしましょう!」
「ガゥ!」
クリアはそのままボスゴブリンへと走っていき、私はそのすぐ後ろで【気配希釈】スキルと【魔力隠蔽】スキルを活かして可能な限り息を殺し、クリアと行先を別れてボスゴブリンの背後辺りに近づいていきます。
「ゴガァ!」
「ふっ!」
そこではジンさんが順調にボスゴブリンの攻撃を大盾で防ぎ、マーシャさんが防御をして減ったジンさんのHPを回復し、その隙には兄様とセントさん、サレナさんが徐々にダメージを与えているのが確認出来ています。
私はそれを尻目に、気配と魔力を隠蔽しつつボスゴブリンの背後に迫ります。
「ガァ!」
そしてそんな攻防をしているところにクリアが走っていき、その走ってきた勢いのままに横からボスゴブリンの片足に噛みつき、それを受けてボスゴブリンが一瞬だけ怯みます。今が好機ですね!
それを見て私は即座に順手に持ち変えた左手の短剣で自身を軽く切り付けて〈第零・第十一の時〉を使用し、潜んでいた背後から飛び出して急加速した動きで一気に空中に跳び、ボスゴブリンの首元付近をすれ違う瞬間にその首筋へ右手の細剣を振います。
「ガァア!?」
それは瞬き一瞬の時間もかからず、ボスゴブリンがそれに気づいた時にはすでに首を深く切り裂かれているところでした。
切り裂いた後にはすでに私は兄様たちの方に着地しており、ボスゴブリンは私へ視線を向けて殺意を剥き出しにしています。それと同時に、クリアも私の方へといつの間にか戻ってきていました。
「レアか、突然跳んできたから驚いたぞ」
「レアちゃん、前よりも早くなっていたね!」
「新しいユニークスキルを使ったので、それのおかげですね」
兄様とセントさんからもそう話しかけられたので、私は簡単に返事を返します。
それと攻撃する前までの残りHPは八割でしたが、今の私の攻撃で一気に減り、HPゲージは六割の少し下くらいになっています。
「ゴガアアアァ!!」
HPが六割を下回ったからか、そのような雄叫びをあげてボスゴブリンは何やら赤いオーラのようなものを纏い始めました。
どうやら、前に戦ったユニーククエストのボスと同じように発狂状態に入ったようですね。
「雑魚はもういないようだし、このままボスゴブリンも倒すぞ!」
「はい!」
ボスゴブリンは赤いオーラを纏いつつこちらに向かってきているので、タンクであるジンさんが一番前に出て、そこに振り下ろされた片手剣の攻撃を大盾で防いでいます。
「ゴガアァ!」
そのまま連続して振るってきた片手剣をジンさんは逸らしたり防いだり、はたまた弾いたりもしていますが、赤いオーラは攻撃力を上げる効果があるのか先程よりもHPが減っていってます。
「〈ハイヒール〉!」
「〈ウィンドランス〉!」
そんな暴れているボスゴブリンに向けてサレナさんは魔法を撃って攻撃をしており、マーシャさんについては攻撃を防いでHPが減っていっているジンさんの回復をしているのをチラリと確認出来ました。
それを横目に、私たち近接武器のメンバーとクリアはボスゴブリンに接近していき、攻撃を加えていきます。
「ゴガァ!」
「ふっ!」
ボスゴブリンは、そんな私たちを守るかのように動くジンさんをなかなか倒せないのに苛立ったのか、ジンさんに向けて両手で持った片手剣を大ぶりで振り下ろします。
そんな片手剣による攻撃は大ぶりだったおかげでジンさんはなんとか大盾で逸らすことができ、それによってボスゴブリンは片手剣がそのまま地面に激突して僅かに体勢を崩します。
「いまだ!〈秘剣・燕撃ち〉!」
「うおぉ!〈スタブ〉!」
「はぁ!」
「ガゥ!」
そんな隙の出来たボスゴブリンに向け、私たちはボスゴブリンの横辺りからそれぞれの攻撃を放ってボスゴブリンのHPを削ります。
「ガァ!」
それを見てボスゴブリンはジンさんに攻撃するのを中断して私たち目掛けて片手剣を振り回しますが、そんな攻撃に当たるほど私たちは弱くはありません。
「魔法撃つわ!避けて!」
そんなマーシャさんの言葉を聞いた私たちは、ボスゴブリンの攻撃を避けるのと同時に後方に跳び、その瞬間に再びマーシャさんとサレナさんによる魔法攻撃が今度はその頭へと命中し、さらにHPを削り取ります。そして一瞬だけ双銃に変化させた私は、そこに追撃として弾丸も撃ってダメージを与えておきました。
「ガアアァ!!」
それらの攻撃によってボスゴブリンのHPゲージが二割近くまで削れると、そのタイミングで再びの咆哮を上げて今度は赤黒いオーラを纏い始めました。
「どうやら、これが最後みたいだな」
「ですね、このまま最後も頑張りましょう…!」
私たちはそのような言葉を交わしつつ、そのボスゴブリンの挙動を見逃さないようにしっかりと視界に入れておきます。
「ゴガアァ!!」
赤黒いオーラを纏ったボスゴブリンはそのような雄叫びを上げ、地面を蹴って一気に肉薄してきてその手に持つ片手剣を振るってきます。
このボスゴブリンは先程よりもかなりパワーアップをしているようですが、狂戦士みたいな状態なおかげで動きは単調になってます。しかし力やスピードなどが先程までよりも上がっているようで、ボスゴブリンが手に持つ武器を連続して振るってきているのもあってか最前線に立って攻撃を受けているジンさんはその大盾で防ぐことで精一杯のようです。
しかも大盾で防いでもジンさんのHPがガリガリと削られているようなので、マーシャさんが連続して回復魔法をジンさんに放っています。
それにボスゴブリンの攻撃が激しく、なかなか近寄ることが出来ません。
「ジンさんのHPがどんどん減ってしまっていますし、早めに倒さないとヤバそうですね…!」
「だな、ならあと少しだしこのまま横から行くぞ!」
「オッケー、任せろ!」
「ガゥ!」
そう言って兄様とセントさんはそれぞれ右と左に回り込むように別れ、ボスゴブリンに踏み込んで攻撃をしにいきます。そしてそんな兄様を追いかけるようにクリアもボスゴブリンへ向かっていきます。
「…私は双銃でジンさんのサポートに回りますか」
私は兄様とセントさんとクリアに攻撃は任せ、再び剣の状態にしていた両手の武器を銃に戻してからそのまま狙いを定め、今まさに片手剣を振り下ろす瞬間だったボスゴブリンの右腕に向けて右手の左で連続して弾丸を放ちます。
「ゴガァ!?」
それらは正確にその右腕を撃ち抜き、ボスゴブリンを怯ませます。
「ナイスだ、レア!〈秘剣・霞突き〉!」
「俺も!〈パワースラッシュ〉!」
「ガァ!」
そして怯んで隙が出来たその瞬間、兄様とセントさんはそれぞれ武技を使用してボスゴブリンに攻撃を当て、クリアも一緒にその爪でボスゴブリンを切り裂いて残っていたボスゴブリンのHPゲージを全て削り取ります。
「ゴ、ゴガァ…」
ボスゴブリンはそのような声を漏らしつつ、背後に倒れてポリゴンとなりました。




