59話 ゴルブレン森林攻略
そうして歩き続けて見つけた荒地のモンスターにアイアンゴーレムとハイウルフゴーレムをぶつけ、確認を済ませた私は一度職人都市に戻った後に第二の街に転移をし、前にも寄ったカフェで一人パンケーキと紅茶を食べたり飲んだりしつつ、先程の結果を確認しつつ時間を潰しています。
ちなみに今の時刻は早いのもあってか、前と同じでここには私とオーナーである男性しかいません。あ、それとテイムモンスターであるクリアもいますね。
お店に入る時にオーナーに聞いてみましたが、クリアくらいの大きさなら別に出したままでもよいそうで、クリア自身は私がクリアも食べると思って注文したもう一つのパンケーキを嬉しそうに食べています。
「アイアンゴーレムの戦闘が終わった後のHPは七割くらい残っていたので、鉄製ならボスにもある程度は使えそうですね。それとハイウルフゴーレムはその元となった狼が素早い性質のおかげで殆ど攻撃は当たってませんでしたし、使う素材によって様々に変わる動物系のゴーレムはなかなか使いやすそうですね」
ですが、ハイウルフゴーレムは鉱石類のゴーレムとは違って防御はかなり低いようなので、相性によっては簡単に倒されてしまいそうです。
それにどちらのゴーレムも、どうしても思考能力が低いからか動きが単調で……ハッキリ言ってしまうと頭が悪いので、そこが使う点での一番の問題です。
「まあそれでも、使用した感じでは前にも思った通り生命体ではないので、気軽に肉壁や囮に使えるのが良さそうですけどね」
今はまだゴーレムを実戦で使ったことがないので、その時にまた確認しつつ使いましょうか。
「っと、そろそろいい時間になりますね」
紅茶を飲みつつ色々と確認をしていると、気づいたらもう少しで時間になるところでした。
なので、私はパンケーキを食べ終えて満足そうにしていたクリアを肩に乗せてからお会計を済ませてきます。
そしてお会計後はお店を出て、今日の集合場所である第二の街の広場へと向かいます。
広場に着いた後は、そのまま噴水の縁に腰掛けて兄様たちが来るのを待ちつつ、クリアを膝の上に乗せてなでなでしています。
あ、もちろん今も焦茶色のクロークは被っているので、そこまで目立ってはいません。それに休みとはいえ早い時間でもあるので、プレイヤーもそこまでたくさんいるわけでもないですしね。
そんな待っている間にも私はクリアを優しく撫で続け、クリアが気持ちよさそうにしてるのを尻目に広場に来るプレイヤーたちを眺めていると、見知った顔の男性二人組を発見しました。
「セントさーん!ジンさーん!」
その男性二人組、セントさんとジンさんに私は膝の上で伸びていたクリアを右手で抱き上げてから噴水の縁から立ち上がり、焦茶色のクロークのフードを上げます。
そして声もあげ、もう片方の左手を振って近づいていきます。
「レアちゃん!もう来てたんだな!」
「すまない、待たせたか?」
「いえ、私も今来たところでしたし、大丈夫ですよ!」
兄様パーティのセントさんにジンさんと会ったのは公式イベント時が最後でしたが、それまでに装備を作ったりしてもらっていたようで、装備などが前よりも少しだけ強そうに見えます。
「お二人とも装備を新しくしたのですか?」
「お、わかる?実はさらに強い鉄の装備を作ってもらったんだー!」
「俺も見た目にはあまり変化はないが、性能はよくなっている」
やはり、私の想像通り強くなっているようですね。セントさんは自信満々そうにしてますが、それだけ嬉しいのでしょう。
そんな会話を三人でしていると、今度は女性組であるマーシャさんとサレナさんがこちらに歩いてきているところでした。
「あ、レアちゃん!」
「レアちゃーん!久しぶりー!」
「マーシャさんもサレナさんもお久しぶりです!」
そうしてすぐにこちらに気付き、寄ってきたお二人ともそんな言葉を交わしてから会話を続けます。
「レアちゃんも新しい装備になっているんだね!」
サレナさんは私の羽織っているクロークの下を見たようで、そのような言葉を発してきました。
「あ、それ俺も思ったぜ!前のワンピースも良かったが、こっちのゴスロリ装備も凄く似合っているよな!」
「セントにしてはよくわかっているじゃない!私もレアちゃんの見た目には凄く似合っていると思うわ!ほら、ジンもちゃんと伝えなさいよ!」
「…俺も良く似合っているとは思うな」
「あ、ありがとうございます…!こうして直に言われると少しだけ恥ずかしいですけど、嬉しくも感じます!」
そして皆さんもそう続けて褒めてきたので、私は少しだけ頬を染めてそう返すと、四人とも微笑ましそうな表情になっています。は、恥ずかしいです…!
しかもあの硬派そうなジンさんまでそのように見つめてきているので、やはり年齢よりも幼く見られている気がしますね。
「ま、まあそれはともかく、マーシャさんとサレナさんの装備は前とはそこまで変わっていないのですね!」
「そうなんだよ〜、それでも性能は上がっているから問題はないけどね!」
「私たちは布を強化した感じだから、見た目にはそこまで変化はでないしね」
そういえば、私のゴスロリワンピースも強くはしてますが見た目に変化はなかったですね。金属装備ならまだしも、きっと布系の装備はそこまで変化することはないのでしょうね。
「それと、装備以外にも気になっているところはあるんだけど……その抱いているのはぬいぐるみかしら?」
そんな会話をしていると、私の右手で抱いていたクリアに皆さんの視線が向いたので、私は素直に答えます。
「まだ紹介をしてませんでしたね。この子はクリアと言って、私のテイムしたスライムです!可愛いですよねー!」
そう言って私はクリアをもう片方の左手でさらに撫でつつ続けました。
「ぬいぐるみだと思ってたけど、テイムモンスターだったんだね!」
「レアちゃんみたいな小さくて可愛い子には、そういう小さめの生き物とかは凄く似合うな!」
サレナさんとセントさんからもそう言われたので、私はテイムしてからそこまで経ってませんが、とても可愛いですしもう大好きなんですよ!とクリアを肩に誘導してから満面の笑みで撫でつつ、答えます。
そんな私の言葉に、クリアも嬉しそうに私の撫でている手に擦り寄ってきています。それを見て四人は微笑ましそうな表情で見てきてますが、クリアは可愛いですから仕方ないですね!
そうしてそこからもクリアについて聞かれたのに答えていると、兄様がこちらに向かってきているのが確認出来ました。
「兄様ー!」
「もう皆集まってたのか。待たせてすまない」
「いや、そんなに待ってないから大丈夫だぜ!」
「セントの言う通り、レアちゃんのテイムモンスターについて聞いてたからそこまで待った気はしてないわね」
「テイムモンスター?」
兄様はその言葉に、私の肩にいるクリアに視線が向いたので、私はクリアについても軽く説明をしました。
「ユニーククエストだけではなく、モンスターのテイムもしていたんだな」
そう言葉をこぼす兄様ですが、ユニーククエストよりはインパクトがないからかそこまで驚いてはいないようです。
まあ、今までの私の行動に慣れたのもありそうですけど。…自分で言っていて悲しくなりますが、仕方ないですしね…
「…よし、全員集まったし、そろそろ迷宮都市に向けて攻略とするか」
なんだかしゅんとしている私を不思議そうにしつつも、兄様は私たちを見渡してからそう言葉を発します。
「わかりました」
「……!」
なので私たちとクリアは各々の言葉で返事を返し、皆でパーティを組んだ後はそのまま広場から移動して北の森へと歩いていきます。
「それと、昨日レアが言っていたユニーク装備がそれなんだな」
そして皆で森に向かっている道中で、兄様は私のクロークの下を確認したのかそう言葉をかけてきました。
「そうなんですよ。どうです、似合ってますか?」
「ああ、レアの魅力が出ていてとても似合っているぞ」
「ありがとうございます!」
腕を広げて兄様にも見せてからそう問いかけてみると、そのように返してきました。
ふふ、兄様にも褒められて凄く嬉しいです!この装備は私も気に入っていますし、本当に良いものを獲得出来ましたね!
「そういえば、北の森のエリアボスは何かは知っているのか?」
褒められてご機嫌になっている私を兄様たちは見つつ、セントさんがそのように言葉を発しているのが私にも聞こえてきました。
「確か、ボスであるボスゴブリンとその群れである複数のゴブリンが相手だったはずだな」
セントさんの言葉にジンさんが答えています。確か北の森はゴブリンが多く出ますし、ボスも同じゴブリン系なのですね。
「普通のゴブリンはそんなに強くもなかったですが、エリアボスでもあるボスゴブリンならもっと強くなっているのでしょうかね?」
「まあエリアボスだし、強いんじゃないか?それに群れも率いているようだから、油断は禁物だがな」
「それもそうですね」
兄様の言う通り、弱いとしても油断はダメですね。弱いものは弱いなりの知恵もありますし、それで足元を掬われてしまいます。
まさにウサギと亀、ですね!もちろん、私がウサギでゴブリンが亀です。まあ亀というほどゴブリンは成長力も強さもないですが。
そうした会話をしつつも歩き続け、気がついたら北の森付近まで着いていました。
「じゃあ、出会うモンスターは極力避けてエリアボスへ向かおうか」
「はい」
兄様の言った通り、エリアボスがあるであろう奥まではセントさんと私で索敵をして、出来る限りモンスターを回避してドンドン奥へと進んでいきます。あ、それと前に来た時には採取をしていませんでしたし、ある程度は生えている植物などを回収しながら行くとしましょう!
私は近くに見つけた上薬草などの植物を採取しながら、セントさんの少し後ろあたりを保って付いていきます。
そんな私の肩にはクリアが、そしてすぐそばには兄様がいて、真ん中あたりにはマーシャさん、サレナさんが歩いており、最後尾を警戒しつつ歩いているのはタンクでもあるジンさんです。
不意打ちはこのエリアならまずされないでしょうが、後衛である二人を守れるようにとのようです。
歩きながら採取をしていますが特に新しいものはないようで、上薬草に上魔草、初期の森にもあったアプリの実やベリーの実に、レア枠としては眠り花とシルサの実が数量だけ取れました。
シルサの実は見た目はまんま梨の姿をしており、意外と美味しそうに感じます。それと鑑定してみると、どうやら眠り状態を回復する効果を持っているようなので、食べる以外にもポーションなどにも使えそうですね。クリアも食べたそうにしてますし、何個は手に入れたので今度あげることにしましょう。
私は歩いている中で兄様たちからは離れないように気をつけながら採取をしていると、何やらモンスターの気配と魔力がこちらに向かってきているのを感じました。
「ゼロ、こっちにモンスターがくるぞ」
セントさんも私と同じでモンスターに気づいたのか、兄様たちに向けてそのように声を上げます。
「了解。皆、警戒を」
兄様の言葉を聞き、後方にいたジンさんが前へと出てきてその両手に鉄製らしい片手剣と大盾を取り出して構えます。
ジンさん以外の皆も武器を取り出してから数秒後、前方からハイウルフの群れが襲いかかってきました。数は七匹と結構な数がいるようなので、私は近接戦闘も試してみようと思い双銃を剣形態に変化させ、こちらに接近してくる狼に向けてカウンター狙いで構えます。ついでに肩にいたクリアにもしっかりと掴まっていてくださいね、と言ってすぐに戦闘が開始します。
「ガゥ!」
「ガァ!」
私の方に来たのは二匹のようなので、最初に飛びかかってきた狼を銃の時と同じように紙一重で回避し、そのまま逆手に持った左手の短剣をその胴体に滑らせるようにして切り付けます。その攻撃ではHPを全て削り切ることは出来ませんでしたが、それでもまあまあのダメージは入っています。
そしてその狼のすぐ後方から私の足元に噛みつこうとしてきたもう一匹に対しても、横に一歩だけズレて回避して右手の細剣でガラ空きになっているその首元へ突き刺します。
「ガゥ!?」
弱点への攻撃でもあったからか、刺された狼はHPを一気に削られてそのような悲鳴を上げて怯みます。
なので差し込んだ細剣を即座に抜き、その怯んでいる狼のお腹辺りへと蹴りも入れてから距離を取ります。
「ガァ!」
その隙を見て最初にダメージを入れた狼が私の後方から胴体狙いでその爪を袈裟斬りのように振るってきたのを見なくても感じたので、そちらも身体をわずかに逸らすことによって避け、攻撃後で隙が出来た狼の首元へと右手に持つ細剣を振り下ろして首を切断します。
その攻撃を受けて狼の頭が落ちてHPが零になり、ポリゴンへと変わっていきます。
「ガルゥ…」
それを見て残っていた狼は唸り声を上げて様子見をしてますが、私は順手に持ちなおした左手の短剣で自身を斬りつけて〈第一の時〉を付与します。
そして私はユニークスキルで加速した動きを活かして地面を蹴って狼へと一気に踏み込み、そのスピードに反応出来ていなかった狼の頭目掛けて右手の細剣で突きを放ち、正確にその頭を穿ちます。
それで狼のHPは全て削れ、こちらも先程の狼と同じくポリゴンとなって消えていきました。
「やはり、このくらいなら剣の状態でも問題はなさそうですね」
「……!……!」
苦戦するとしたら、兄様やカムイさんのようなトップの腕前を持つプレイヤーなどや、ユニーククエストのボスなどでしょうね。
なのでこのくらいの雑魚敵なら銃の経験も活かせますし、剣でも対して困ることはなさそうです。
クリアもそんな私の戦闘を見て、かなり興奮気味に肩元で震えていて凄いという感情を伝えてきます。クリアはしっかりと掴まっていて落ちないように気をつけていたようですが、そんな中でもバトルはしっかりと見ていたようですね。
「レアも倒し終わってたか」
「兄様たちももう終わっていたのですね」
「レアが二匹を倒してくれたから、残りの五匹はこちらも数がいたし余裕だったからな」
一息ついてクリアを軽く撫でていると、兄様からそう声をかけられました。
狼と戦っている時にもチラリと確認はしてましたが、合計数は七匹と多めでしたが私が二匹を、残りの五体をタンクであるジンさんがヘイトを取ってその隙にジンさんを除いた四人でタコ殴りにしていたようでしたし、やはり簡単だったのでしょう。
見た限り、やっぱりタンクがいるのといないのでは戦闘の大変さは変わるようですね。まあタンクであるジンさんは少しだけ大変そうですが、それは自分から望んでしているのでそれは織り込み済みだとは思いますけど。
というか改めて思いますが、前方にいたタンクであるジンさんを放っておいて私狙いが二匹もいたのには少しだけ驚きもあります。…どうせ、私が小さくて狙いやすいとでも思ったのにでしょうね。
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい」
そうしてそこからも生えている植物たちを採取しつつ、襲いかかってくるモンスターたちも順調に蹴散らしながら進んでいると、その途中でセーフティーゾーンに着きました。
セーフティーゾーンは前にクオンとアオイさんと来た時と同じで、少しだけ開けていて綺麗な川が流れているようです。
「セーフティーゾーンに着いたし、時間もちょうどいいから一時間の休憩とするか」
今の時刻はここまでですでに十一時半近くになっているので、結構な時間が経っていたようです。
「だな。よし、なら俺はログアウトしてきてご飯でも食べてくるな!」
「私たちも少しログアウトしてご飯を食べてきますね」
私たちは各々セーフティーエリア内でログアウトを始めます。
私と兄様もこの休憩の間にゲーム世界から一度ログアウトをします。
そして現実世界に戻ってきた私たちはすぐにリビングに降り、私がパパッと作った軽食を食べた後に再びゲーム世界へと戻ってきました。




