57話 新装備
「アイザさんに鉱石を売るのはしましたし、次はどうしましょうか…」
今の時刻は三時十分くらいなので、夜ご飯までにはまだまだ時間はあります。
レーナさんに頼んだゴスロリワンピースについてはまだ連絡が来ていないので、今は特にすぐにしなければいけない用事はありませんし、少しだけ時間が空いてしまいました。
それとレーナさんに売るつもりの綺麗な白布は、ゴスロリワンピースを受け取る時に一緒に渡せばいいのでこれも後回しですし…
「…そうですね、第二の街周辺のモンスター相手に近接武器の状態で狩りでもしますか」
「……!」
武器の形を変える能力は確認の時にしか使ってなかったですし、一度モンスター相手にも試してみましょう。クリアも賛成の気持ちなのか、私の肩でプルプルと震えて伝えてくれます。
ついでに夜ご飯の時にでも、また兄様に特訓をお願いしてみますか。近接武器は慣れていませんしね。
やることを決めた後は、第二の街へ転移をするために初期の街の広場へと移動をします。
その道中でも複数の初心者プレイヤーともすれ違いますが、やはりクロークで特徴的な白髪を隠しているおかげで目立たずに移動出来ています。
「今は焦茶色のクロークを使っているので何とかなってますが、ボロボロになっていて使えない漆黒のクロークもいつか直さないとですね」
そこまで急いでいないので、いずれではありますけど。
そうしてプレイヤーたちとすれ違いながらも歩いていくと広場に着いたので、早速転移をして第二の街へ移動します。
転移が完了して視界が開けると、そこは先程までいた多くの初心者プレイヤーはいないので、プレイヤー数は少なめでした。
「ではクリア、北の草原に行きますね」
「……!」
視界に映っている景色を尻目に、クリアにも行き先を伝えてから第二の街の北門へと歩いていきます。
まあクリアは私の肩の上なのでわざわざ伝える必要はないかもしれませんが、念のためです。
そして北門に向かって歩いていきますが、やはりプレイヤーは第二陣の方に構っているからか殆ど見受けられません。
すれ違うのは私のようなソロプレイヤーらしき人くらいです。
そんなプレイヤーの少ない街中を歩いていると、何やら甘くていい匂いのする屋台を発見しました。どうやらその屋台はチュロスを売っているようで、何ともいい匂いが漂ってきています。
クリアもその匂いにつられているようで、目や口はないですが、そちらに意識が向いているのが何となくわかります。
「…満腹度はそこまで減ってはいませんが、美味しそうですし買っちゃいますか」
私は寄り道として、クリアと一緒にその屋台に向かいます。
「お姉さん、チュロス二つお願いします」
「わかったわ!」
屋台をやっていた女性に注文をして、私とクリアの分をもらってお金を払います。
「もぐもぐ……うん、チュロスもサクサクふわふわしていて甘くて美味しいです!」
「……!」
「クリアも、気に入ったようですね」
私の肩の上にいるクリアにも一つあげていますが、美味しいのか少し嬉しそうにスライムボディに吸収して食べています。
そんな風にチュロスを食べながらも歩いていると、いつのまにか北門付近まで着いてました。
歩いている途中でチュロスは食べ終わっていたので、そのまま街の外に出て少しだけ歩いて行きます。
「確か、北のモンスターは子豚や鶏でしたね」
私は草原を進んでいると、子豚や鶏のモンスターたちが見えてきました。それらは襲ってくるタイプではないので、まず初めに鑑定からしましょう。
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バトルピッグ ランク F
草原などに生息している子豚。
その小さな身体で外敵と戦う。
状態:正常
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バトルコッコ ランク F
草原などに生息している鶏。
発達したその足と翼で外敵を倒す。
状態:正常
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鑑定ではそう出ました。両方のモンスターともそこまで大きいわけではないですが、説明を見るに力は意外とありそうですね。
「では、剣状態で戦ってみますか」
「……!」
頑張って!と表現するようにプルプルと感情を伝えてくるクリアを一度地面に下ろしてから、私はインベントリから双銃を取り出し、武器のスキルを使用して細剣と短剣に変えます。
そして一番近くにいた子豚の背後に近づき、その右手に持つ細剣でそのガラ空きの背中目掛けて刺突を放ちます。
「ピギィ!?」
それは正確に子豚の身体を穿ち、派手に赤いポリゴンが撒き散らされ、子豚はその攻撃を受けてそのままポリゴンとなってしまいました。
「…一撃で倒しちゃいましたね」
弱点部位への攻撃とスキルの成長によるステータスの上昇もあってか、抵抗されるまでもなくポリゴンにしちゃいました。
それに今気づきましたが、どうやら剣の状態でも銃と同じでINT依存の攻撃になるようです。
そうでなければ、STR上昇効果のないこの武器でこんな簡単に倒せるはずがないですしね。
「落とした素材は、豚肉が二個ですか」
ドロップアイテムは肉だけのようなので、特に確認することはないです。この豚肉は今度料理にでも使いましょうか。
「一応剣の確認は出来ましたけど、雑魚敵じゃ特訓にはならないですね……まあそれはいいですし、次は鶏も倒しちゃいますか」
「……!」
そう呟いて、今度は鶏に狙いを定めます。あ、それとクリアにも倒した鶏や子豚を与えもしましょう。
そんな思考をしつつも近くにいた鶏の背後に再び近づき、今度はその首目掛けて左手の逆手に持った短剣を振います。
「コッ!?」
先程の子豚への刺突と同じようにその攻撃は躱されず、正確に首を切り裂いて赤いポリゴンが飛び散ります。
その攻撃によって鶏は赤いポリゴンを撒き散らしつつ、子豚と同じようにポリゴンとなって消えました。
「こっちも一撃ですか。やはり特訓にはならないですが、素材は肉系なので意外と嬉しいですね」
鶏のドロップアイテムは肉と羽根、そして卵だったので、初期の街の北にいた鶏と落とす素材は変わっていないみたいです。
こちらも同じく羽以外の食材はよく使うでしょうから、結構いい物です。
「特訓にはなりませんが、もう少しだけ狩っておきますか」
そうしてそこからも草原にいる鶏や子豚たちを狩っていきます。その最中ではクリアにも戦闘を任せてみたり、同じくクリアに倒した子豚と鶏を与えたりもしました。
それのおかげでクリアは子豚と鶏に変身することが出来るようになりました。が、おそらくは戦闘にはあまり向かなそうなので使うことはなさそうですけどね。
「っと、今は何時でしょうか…」
ふと気になって腰にある懐中時計を確認すると、すでに四時半近くになっていました。
狩りに夢中になっていたせいで気づきませんでしたが、結構時間が経っていたみたいです。
「….なら狩りは切り上げて、今度はまた鉱山で鉱石を掘りにと行きますか」
石だけではなく、ゴーレム錬成の鉄バージョンなども作りたいですしね。
「クリア、一度街に戻りましょう」
「……!」
私のすぐ近くにいたクリアにもそう伝え、肩に乗せてからクロークのフードを深く被りそのまま第二の街へと戻っていきます。
「ドロップアイテムのお肉はなかなか集まりましたし、今度はステーキ以外も作ってみたいですね」
そんなことを考えながらも歩き続け、気づいたら北門辺りに着いていました。
「では、早速転移を……っと、何やらメッセージがきましたね」
広場に移動しようとしていると、突如フレンドメッセージが届きました。
送り主はどうやらレーナさんのようで、内容はゴスロリワンピースの強化が済んだからいつでも取りに来て大丈夫、とのことでした。
「なら、先に受け取りに行きますか!」
「……!」
綺麗な白布も売ろうと思ってましたし、時間もあるのでちょうどいいですね!
それにレーナさんのお店は初期の街なので、転移をするためにまずは広場に移動ですね。
私はレーナさんに今から受け取りに行きますね、と返信を返してから、今いる第二の街の広場に移動して転移を行います。
そして一瞬のうちに景色が変わり、第二の街から初期の街に着きました。
「俺たちのクランにーー」
「今なら安くーー」
「一緒にパーティをーー」
すると今来た広場では、プレイヤーたちの呼び声などがあちこちから聞こえてきて、なかなか賑わっているのがわかります。
「…まだ結構な数のプレイヤーがいるのですね」
初期の街には初心者プレイヤーだけではなく、クランへの勧誘やパーティ募集、屋台などで売買などをする第一陣のプレイヤーたちもたくさんいるのが見受けられます。
まだ第二陣が来てからそこまで経ってもいないですし、人が多いのは当たり前だろうとは思いますけどね。
「まあ私には特に関係はないですし、さっさと行きますか」
「……!」
肩にいるクリアを確認しつつ、私は人混みを避けてレーナさんのお店へと歩いて行きます。
広場に集まっているプレイヤーたちの人混みを抜けて大通りを歩いていますが、大通りの方も広場ほどではないですが意外とプレイヤーがいるみたいです。
「第二陣からもユニークスキルを得るプレイヤーが出てきますかね〜…」
第二陣らしきプレイヤーたちをチラリと確認しつつも、私は思考を巡らせます。
第一陣である私たちでユニークスキルを持っているのはおそらく八人ですし、さらに増えればバトルフェスみたいな戦闘系イベントで目立ってくると思うので、その時まで楽しみとして待ってますか!
そんな考えをしつつもクリアを肩に乗せた状態のまま歩いていると、レーナさんのお店の前に着いていました。
「レアちゃん!待ってたわよ〜!」
私が扉を開けて中に入ると、アイザさんの時と同じようにカウンターでレーナさんが待っていました。
「レーナさん、お待たせしてしまいましたか?」
「問題ないわよ〜、ただ私が早かっただけだから〜!というかレアちゃん、何か新しい装備をしているのね〜?」
レーナさんは目ざとく私の羽織っている焦茶色のクロークの下を見たようで、そのように言葉をかけてきました。
「そうなんですよ。ユニーククエストをクリアした時に報酬としてもらえたのです!」
「ということは、ユニーク装備〜?」
「はい!」
「なら、ワンピースはもう使わなそうかしら〜?」
「そんなことはないですよ!確かに本気の時はこれを着るでしょうけど、平時は色々と洋服なども着たいですしね!」
装備の性能だけで着るか着ないかを決めるわけではありませんしね。私は様々な洋服のオシャレも楽しみたいですし、着なくなることはないと思います!
「それならよかったわ〜!じゃあ、改めて強化した装備を渡すわね〜」
「わかりました」
そう言ってレーナさんが取引メニューに載せてくれた装備と交換するように代金を払い、売買が完了しました。
「今渡したゴスロリワンピースは前に付いていた効果を伸ばしたから、隠密系の強めの防具になったわ〜!」
そのユニーク装備についている効果はわからないけど、このワンピースなら使わなくはなさそうだと思うわ〜、と続けて説明をしてくれるレーナさん。
「では、確認させてもらいますね!」
「いいわよ〜!」
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漆黒のゴスロリワンピース ランク D レア度 良品
DEF+27
MND+22
耐久度 100%
・暗闇の膜 暗いところにいると隠蔽系スキルの効果を上げる。
・隠れる影 察知系の能力をある程度無効化する。
様々な素材をを使って作られた漆黒のゴスロリワンピース。素材が持っていた隠蔽効果などを持っている。
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漆黒のゴスロリソックス ランク D レア度 良品
DEF+20
MND+15
耐久度 100%
・暗闇の魔 暗いところにいると自身の装備全ての耐久度を回復する。
・暗転の繭 暗いところにいると自身の気配を察知しづらくする。
様々な素材をを使って作られた漆黒のゴスロリ風ニーハイソックス。装備の耐久を回復する効果などを持っている。
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漆黒のゴスロリブーツ ランク D レア度 良品
DEF+15
MND+10
AGI+8
耐久度 100%
・静かなるもの 歩く時の音が小さくなる。
・静寂の闇 自身の気配と魔力が感知しづらくなる。
様々な素材をを使って作られた漆黒の編み上げブーツ。素材が持っていた小音効果などを持っている。
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性能がかなり上がっており、さらに特殊な効果をそれぞれ一つずつ増えています。レーナさんの説明通り、どうやら隠密系を強化するかのような能力のようですね。それと見た目は、前と同じで漆黒色をしたオフショルダーのワンピースから変わってもいないみたいです。
あ、それと脚装備には装備がなかったので、ゴスロリソックスだけはユニーク装備と同時に装備しておきましょう。
「なかなか強力ですし、これはいいですね!今着ているゴスロリと違って隠密系なので、こちらもぜひ使わせてもらいますね!」
「そう言ってくれると嬉しいわ〜!」
私が興奮してそう伝えると、レーナさんもその様子にホッとしたのか笑みを浮かべてそのように返してきました。
「それと、さっきから気になっていたのだけど……その肩の上にいるのはぬいぐるみかしら〜?」
「あ、まだ言ってませんでしたね。これは私のテイムモンスターであるクリアと言って、見た目通りスライムです!」
クリアをジャジャーンとでもいうかのように天に掲げ、レーナさんにお披露目をします。クリア自身もそのスライムボディで胸を逸らすかのような形に変形しながら、レーナさんにアピールをしています。
「テイムモンスターなのね〜!それにとても可愛くていいわね〜!」
「ですよね!クリアは凄く可愛いのですよ!」
私は掲げていたクリアを肩の上に戻してから、続いて綺麗な白布について聞いてみます。
「それと話題は変わるのですが、レーナさんに売りたいものがあるのです!」
「あら、何かしら〜?」
「これなんですけど……売れますかね?」
そう言ってインベントリから一つの綺麗な白布を取り出し、レーナさんに見せてみます。
「これは、どこで手に入れたの〜!?」
「お、落ち着いてください…!?」
レーナさんはそれを一目見た瞬間、一気に興奮して私に詰め寄ってきました。私は一度レーナさんを落ち着かせてから、話し始めます。
「これは、私の【錬金術】スキルでゴブリンの腰布から作った素材なのです」
「あれが、こんな綺麗で強力な布になるのね〜…?」
「まあ〈分解〉というアーツなので、あれとはまた別の素材のようになってますけどね。それで、どうですか…?」
レーナさんはその白布を手に取ってじっくりと確認してから、口を開きます。
「そうね〜…これはなかなか強くて使えそうだから、ぜひ買い取らせてもらいたいわね〜!」
「そうですか!それならたくさんあるので、全て買い取ってもらってもいいですか?」
「勿論よ〜!」
そうして再び取引メニューを開き、私はそこに大量の綺麗な白布を、レーナさんはその代金のこれまた多めのGを載せ、そのまま取引が成立となりました。
「結構高く買い取ってくれたのですね!」
「初めて見る素材でもあるし、これなら十分費用は取り戻せそうだからね〜!」
なら、お互いにwin-winな感じなのですね!私は使わない素材を売れてお金に変えれましたし、なかなか良かったです!こんな素材を手に入れた時は、また売りに来るとしましょう!




