51話 時を刻み、空は観測する2
「くっ…!?」
そして下へ視線を向けると私と入れ替わりのように白狼がおり、右前足を振るって爪による攻撃が飛んできました。
それはかなりの重さの攻撃でしたが、何とか両手の銃を交差させて防ぎますが勢いは止められず、この広場の天井付近まで吹き飛ばされます。
私は吹き飛ばされた状態のまま空中で姿勢を正してそのまま天井に着地し、白狼から離れた地点へと跳んで地面に降ります。
「今のはもしかして、鑑定の説明で書いてあった空間を駆ける、という能力ですかね…」
おそらくは白狼と私の位置が入れ替わり、その状態から攻撃をしてきたのでしょう。
空間を駆ける、と書いてありましたし、おそらくは自身と相手である私の空間を変える能力なのだとは思います。
「ここからが本気みたいですね。なら、警戒をしつつ行動しましょう…!」
そんな一瞬の思考のうちに白狼は先程と同じように肉薄してきますが、それに対して私は自身に〈第一の時〉を撃って動きを加速させた後、地面を蹴って一気に白狼へと接近します。
白狼は最初のように右前足を振り下ろしてきますが、それは簡単に回避できます。そして追撃の左前足の振り下ろしも紙一重で回避して〈第二の時〉を撃ち返します。
「ウォン!」
遅延効果の弾丸を受けて動きが遅くなっている白狼へ攻撃に移ろうとすると、白狼そのように吠え、再び私と白狼の位置が入れ替わったのか視界から急に白狼が消えました。
入れ替わったのは二度目ですが、私は特に慌てずに後ろからくるであろう白狼の攻撃を音、空気の流れ、殺気などで判断して、薙ぎ払われたその右前足の攻撃を地面スレスレまで身体を沈めて回避に成功します。
そして私は一瞬で姿勢を戻し、即座に振り返ってその攻撃の直後で次の行動に移れていない白狼に向けて、残っている左目を狙って両手の銃で連続して弾丸を放ちます。
「ガォウ!」
それらは動きが遅くなっているはずですが何とか身体を逸らされ、僅かに顔を掠めて赤いポリゴンが走るくらいで回避されました。
そして回避後には俊敏な動きでこちらに肉薄してきて、その大きな口を開けて噛みつきをしてきます。
それは白狼の動きが遅くなっているおかげで後方にステップして回避が出来ましたが、お返しに撃った弾丸は続いて振るってきた右前足で全て防がれつつ、攻撃にも転用してきます。
しかしそれを躱そうとする瞬間、再び位置が入れ替わり、私の後方からその前足が振り下ろされてきます。
「っ…!」
それは〈第一の時〉を自身に再び撃ってから、フェイントを混ぜた動きで攻撃を誘導して回避し、さらに反撃の弾丸を弱点部位へ目掛けて放ちます。
ですが、白狼も〈第二の時〉が切れたせいで身体の速さが元に戻り、それらは容易く身体を逸らして回避されました。
「やはり〈第二の時〉がなければ正面からでは当てれませんね…」
そう呟きつつも、私は白狼から視線は逸らしません。ここまでの攻防でわかりましたが、白狼の使う入れ替わりの能力はどうやら足が関係していそうです。
入れ替わる瞬間は、どうやら後ろ足に何らかの力が込められているのが確認出来たのです。
「なら、足を止めれば行けそうですね」
そのためには、足を止める効果のある私のユニークスキルの武技を撃つ必要があるので、それを狙いましょう。
「グォン!」
そして動こうとした瞬間に、再びそんな声と共に私と白狼の位置が入れ替わり、そのまま背後から一気に接近してきます。
私は即座に振り返り、両手の双銃で無数の弾丸を撃ちまくります。
しかし、それらの殆どは回避され、頭や胸などの弱点部位に当たりそうなものだけは両前足で弾いてどんどん近づいてきます。
「ウォンッ!」
そうして白狼が攻撃の間合いに入ったと思ったら、即座に右前足を振るってきたので、当然回避します。
そして追撃として今度は噛みつきをしてきますが、それは紙一重で横に回避し、その次の瞬間に自身へ〈第五の時〉を撃った後に無数の弾丸で頭を狙います。
しかし撃ち込んだ攻撃は再びの入れ替わりで躱されましたが、慣れてきたおかげで攻撃をされる前に即座に白狼へと振り向き弾丸を撃ち返します。
私は今撃ったそれらは回避されるであろうと読んで、白狼へ時間差を置いてから〈第十一の時〉も放ちます。
「ウォフッ!?」
それは読み通り、他の弾丸の回避に集中していた白狼に当たってその足の動きを縛ります。
〈第五の時〉で効果時間を伸ばした〈第十一の時〉は二倍になって十秒間も足を動かせなく出来ているので、その隙に今度は〈第六の時〉を撃ち込んでさらに効果時間を伸ばし、次に〈第一の時〉を自身に撃ってから動きを加速させてから一気に白狼の頭へ接近します。
「ガアァ!!」
白狼は私を吹き飛ばそうと動けない後方の足はそのままに、動かせる両前足を連続で振り降ろして近づくのを阻止してきます。
「やはり、足が動かなければ空間の入れ替えは出来ないようですねっ!」
その様子を見て、私は予想通りと笑みを浮かべながら攻撃を回避しつつさらに高速で接近し、左手の短銃で左目を狙うかのようなフェイントをいれます。
「ガアアアァ!!」
白狼はそれに警戒をしたのか、振り下ろすのをやめて右前足での薙ぎ払いに切り替えて攻撃をしてきます。その攻撃は、今度は先程のようにしゃがんで回避出来ないよう地面との隙間をなくして放ってきました。
それを一瞬で確認した私は、即座に空中に跳躍してその振るわれている右前足に着地し、足の上を駆けて白狼へとさらに接近します。もちろん、無数の弾丸を白狼の頭目掛けて撃って弾幕を張りながら、です。
「グウォン!!」
白狼はいまだに足が動けないですが、咆哮を上げて無数の弾丸を消滅して何とか防ぎます。しかし、それらに注意が向いておりこちらから一瞬意識が逸れています。
その瞬間に私は、自身に〈第五の時〉を、続いて〈第一の時〉を自身に撃って先程よりも加速し、空中に高く跳びます。急な加速と弾幕による目眩しのせいで白狼は私を見失ったようで、残っている左目ですぐに周りを確認し始めますが、遅いです。
「終わりです!〈第三の時〉!」
その声に私が自身の頭より上へ跳んでいたのに気づいた白狼ですが、回避するには遅く、残っていた左目を撃ち抜かれます。
「ウォオオン!?」
左目を撃ち抜かれた白狼のHPゲージは一気に減少します。そしてそれに怯んでいるうちにその胸元にも弾丸を連続で撃ち込み、さらにHPを削ります。
白狼はそれらを受け、残りの全てを削り切られてポリゴンとなって消えました。
「ふぅ……終わりましたね」
私はスタッと地面に着地した後に一息つき、両手の双銃をインベントリに仕舞います。今確認してみると、残りのMPがもう三割近くになっていました。
「装備で消費MPは減っているとはいえ、なかなか強かったので結構使ってしまいましたね」
ですが、あのボスである白狼を倒したからかここの広場がセーフティーゾーンになったようで、徐々にMPも回復していってます。
そしてこの広場の向こうには、奥へと続いているであろう階段も確認出来ました。
「とりあえず、回復するまでは入り口で見えてた壁画でも見てますか」
そう決めてから、私はこの広場の右から壁画を見ていきます。
この広場に描かれている絵は、最初に来たエリアとは違って右側があのモンスターらしきものが暴れている絵が、左側にはそれに抗っている人類たちが描かれています。
「最初に見た時にも思いましたが、やはり何らかの争いがあったのでしょうか…?」
そういえばソロさんのとこにあった絵本に邪神のことが書かれていましたし、それと似たようなものなのですかね?邪神に属すると言っても過言ではないくらい描かれているモンスターの姿は禍々しいですし…
それにここには描かれていませんが神様らしきものも描いてありましたし、これについてはしっかりと記憶しておきましょうか。
「っと、もう回復していましたね」
そうして壁画を見ながら考え事をしていると、いつのまにかMPも全て回復していました。
「では、そろそろ行きますか」
なので私はその広場を後にして、さらに奥へ続いている階段を降りて、そこから続いている通路を歩いていきます。
今歩いている二階層の通路は先程までの通路と見た目は殆ど一緒ですが、少しだけ広くなっていて、大きめのモンスターでも動けそうな感じです。まあ流石にあの白狼ほどは入れませんが。
そこからも通路を歩いていると、何やらかすかな足音が聞こえてきました。
私は警戒をしつつそちらへと意識を向けておきます。すると、森にもいたのと同じくらいの大きさの灰色の狼が三体で現れました。今度の狼はそこまで大きくはないですし三体なので、問題はなさそうです。
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試練の狼 ランク F
時空神の加護を受けた狼型モンスター。
その力は普通の狼よりも強いので警戒が必要。
状態:正常
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鑑定結果は兎の時と殆ど同じで、特に確認することはありませんね。
三匹の狼は私が発見したのと同時にこちらを認識し、そのまま三匹で固まって向かってきます。
「ガゥ!」
一番先頭にいた狼はそんな声を上げつつ私の足元へ噛みつこうとしてきました。
私はそれをゆらゆらと動いて回避し、続いてその後ろからも即座に飛んできたもう一匹の狼の噛みつきも慌てずに回避します。
そして最後の一匹は地面を蹴って跳び、私の首元狙いだったので、それには右手の長銃を下から振るい、強引に口を閉じさせるのと同時に怯ませます。
「キャウン!?」
その怯んでいる狼の頭を一度蹴ってからその反動を生かして後方へと跳び、そのまま怯んでいない二匹の狼に向けて両手の銃を乱射します。
それらは回避出来なかったようで、しっかりと二匹の狼の頭、胴体、足と命中し、それでHPを削り切られてポリゴンに変わっていきました。
「ガァ!」
残っていた最後の一匹は破れかぶれにでもなったのか、そんな雄叫びを上げて一気に迫ってきますが、もちろん当たるはずがありません。
その噛みつきは横にズレることで紙一重で回避して、そのガラ空きの頭へ左手の短銃で弾丸を撃ち込み、それでHPがなくなって前の二匹と同じくポリゴンとなりました。
「…やはりボスであった白狼は強かったですが、普通の狼にはもう特に苦戦などはしませんね」
このくらいなら基本傷も負わずに倒せますね。特殊なモンスターですがユニークスキルを使わなくても余裕ですし、このままガンガン攻略していきましょう!
そうしてそこからもドンドン通路を進んでいきます。その道中では、先程の狼や一階層でも出ていた白や黒の兎などが出現してきましたが、問題なく倒して進んでいきます。
その中でも特に苦戦したのは、白色をした他の狼よりも一回り大きい狼とその群れでした。
白狼たちは合計で五匹もおり、白狼が指揮官のように指示らしき咆哮を上げて他の狼たちを動かしていたのです。
それでも時間がかかっただけで特に傷は負わずに倒せはしましたけどね。
「む、また広場ですね」
そのまま鎧袖一触の如く出てくるモンスターたちを倒しながら歩いていると、再び大きめの広場の前に着きました。
「結構歩いてきましたし、白狼と同じでボスエリアでしょうね!」
私は意気込んで、その広場に入っていきます。すると、白狼の時と同じで再び水晶が現れ、白い光を発します。
そしてそれはまたもやグニョグニョと変形していき、今度は大きな狼ではなく私よりも小さい全長一メートルくらいの黒兎が現れました。
その黒兎は、通路を歩いていた時に出会った兎たちと同じように白と黒の短剣を腰に差しており、その身体を覆い隠すかのように黒色の服と、それよりも深い黒色をしたクロークを纏ってこちらに視線を向けてきています。
「今度は兎ですか。それに白狼とは違って小さいですし、見た目からも今までの兎と同じく暗殺者タイプでしょうね」
ということは速さが売りの個体でしょう。私も速さには自信がありますし、スピード対決のようになりそうです。
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クロック・ハイラビット ランク E
時空神の加護を受けた黒兎型モンスター。
その力は時を駆け、素早い動きで命を刈り取る。
状態:正常
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鑑定にはそう出ました。こちらは空間ではなく時を駆けるという能力持ちのようです。おそらくは、私と同じで加速や遅延効果だとは思うので、気をつけて戦いましょう。
それに素早い動きとも書いてあるので、そちらも警戒をしておきますか。
「強敵でしょうけど、白狼と同じく倒させてもらいますよっ!」
私は即座に両手の銃を乱射しますが、それらは素早い動きで全て回避しつつこちらに接近してきます。
黒兎の動きを読みつつも撃っていますが、当たりそうになった弾丸たちは逆手で両手に持つ黒と白の二本の短剣で切り捨てられ、なかなか当てれません。
そして一気に短剣の攻撃範囲に踏み込んできたと思ったら、右手に持った黒色の短剣を私の首元へと振るってきます。
その攻撃は首を逸らして回避し、続けて首元へ振るってきた左手の白い短剣も頭を下げて回避します。
回避後はお返しにその頭、首、胸、足と連続で弾丸を撃ちますが、機敏な動きでステップを踏んで回避されます。
私は攻撃のフェイントを混ぜたり移動先を予測して撃ってみますが、それらも素早い動きで全て回避されるか弾かれるかでダメージを与えることも出来ません。
「なかなか速くて当てれませんね…!」
そう呟くくらいには動きが速く、正面からでは傷を与えることも厳しいです。
「なら、やはりユニークスキルですね!」
白狼と同じでボスなだけありますし、普通に戦っては倒せるかもわからないので即座に使用を決めます。
私は自身に〈第一の時〉を撃ち、加速した動きで不規則な動きで翻弄しながら無数の弾丸を放ちます。
それに対して黒兎は、私と同じように動きを加速させて私に高速で接近してきます。
「思った通り、動きを加速させる能力を持っていましたか!」
予想はしていたので驚きはないですがね。そして黒兎は素早い動きで短剣の間合いに入ってきて、手に持つ短剣を連続して振るってきます。
お互いに加速した動きの中で、私は振るわれた短剣での攻撃を紙一重で回避しながら弾丸を撃ち返します。
私自身は特に傷を負いはしていませんが、黒兎は完璧には躱せていないようで徐々に傷がついてHPが減っていってます。
一階層のボスであった白狼とは違ってHPやDEFが低いのか、攻撃を当てればそれだけすぐに減少しています。
最初に思った通り、速さが高く回避能力に重点を置いたモンスターらしいですし、攻撃は通りやすいのでしょう。
そしてさらなる追撃として〈第七の時〉を撃って分身を出し、本体である私と分身の両方で〈第一の時〉を撃ち込んだ後、分身に黒兎の背後に移動させてから弾丸を撃ちまくります。
黒兎はそれに対抗するかのようにさらに動きを加速させて本体であるこちらへ接近してきます。ですがその背後には私の分身もいるので、そこからの攻撃と前からの攻撃の全ては回避出来ず、徐々に傷を負っています。
そこからも黒兎はフェイントを混ぜた攻撃を本体である私に繰り返してきますが、私も自身に〈第一の時〉を常に付与したまま不規則な動きで読ませないように動いて回避し続け、お返しに弾丸を撃ってダメージを与えていきます。
その攻防をしている間に分身は消えてしまいましたが、十分な活躍でした。
「キュッ!」
そして黒兎はドンドン減っていくHPに焦ったのか、最後の力の如く足に力を込めて先程よりも加速した動きで私に接近し、その両手の短剣で挟むように首を斬ろうとしてきました。
私はそれに焦らず、ギリギリで身体を地面に沈めて回避し、元の姿勢に戻る勢いを活かしてそのガラ空きのお腹へ左手の短銃で一気に突きつけます。
「キュ!?」
突きつけた短銃の勢いだけでもHPが減り、そこからさらに連続して弾丸もお腹に撃ち込んでダメージを与えます。
「キ、キュ…」
それらの攻撃を全て柔らかい部位のお腹に受け、黒兎はそんな声と共にポリゴンに変わりました。




