50話 時を刻み、空は観測する1
私はそれを拾って内容を読み始めます。
「なになに……このクエストは全三階層のダンジョンになっており、それを全て攻略すればクエストクリアとなります。使えるのはユニークスキルと鑑定だけなので、気をつけて攻略していってくださいね。応援してますよ、レアちゃん。それと、これは最後まで読むと燃えます、って、きゃっ!?」
私は思わずそのメモ用紙を投げてしまいましたが、それは書いてあった通り直ぐに火がついて燃え尽きました。
「び、びっくりしました…」
まさか、スパイドラマとかでよくあるようにメモが燃えるとは思いませんでした…
というかレアちゃんって、名前を知られているのですね。まあ加護を受けてますし、期待と注目を受けているのでしょう。きっとこれを残したのは時空神でしょうしね。
「内容はわかりましたし、早速攻略と行きますか…!」
今度こそ私は一つだけある出口の方へ向かい、その先へと歩いていきます。
そこの通路は先程までいた広場のようなところとあまり変わらず、こちらも神殿風の通路となっていました。見て歩いた感じ、この通路は最初の広場と同じで特に暗くもなく結構な広さもあるようなので、もし戦闘になったとしても動きに支障はなさそうです。
「狭いなら狭いで戦いようはありますけどね」
そんな独り言を呟きながら、私はテクテクと歩いていきます。
そして通路を歩くこと数分で、何やら足音がかすかに聞こえてきました。
いつも愛用している【気配感知】スキルと【魔力察知】スキルがないので自分の力だけで索敵をしないといけないですが、私は狼の獣人だから耳が良いうえに他のゲームで培った察知の慣れもあるので、そこまでわからなくはないですね。
それと同じく【気配希釈】スキルと【魔力隠蔽】スキルもないので、隠れるのについては少しだけいつもよりも劣っています。それでも気配の殺し方や音を出さない動きなども察知と同じで別ゲームで慣れているので、こちらもそこまで問題はないですが。
気配を殺しつつ音のする方へ集中して警戒していると、その姿が見えてきました。
それは白色をした兎のようで、後ろ足で二足歩行をしつつ黒色のローブのような物を羽織り、両手には白と黒の短剣を持っています。身長はおよそ40cmくらいだと思うので、人と比べればそこまで大きくはありません。ですが普通の兎よりは大きいので、その分力などはありそうですね。
その兎は気配を殺していた私に気づいたのか、手に持つ二つの短剣を構えてこちらに向かってきます。
「初めはユニークスキルを使わないで戦ってみますか…!」
そう決めてから私はまずインベントリから双銃を両手に取り出し、次にその白兎へ狙いを定めた後に連続で弾丸を撃ちます。
しかしそれらの弾丸は左右にステップを踏む軽快な動きで回避され、一気にこちらへ踏み込んできます。
そしてそのまま私の首を狙って振るってきた黒い短剣は右手の長銃で逸らし、続いて振るわれた白い短剣も身体を僅かに逸らして回避します。
そこからも執拗に首元へ振るわれる短剣の攻撃を不規則な動きで全て躱しながら銃を撃ち返しますが、それらは僅かに傷を与えるくらいでなかなか当たりません。
それに対して白兎は、短剣での攻撃が当たらないことにじれったくなったのか先程よりも全身の力を込めて加速し、同じく私の首へと短剣を振るってきます。それは結構な速さでしたが、特訓などで慣れたおかげでユニークスキルを使わなくてもなんとか右手の長銃で逸らして回避することに成功します。
そこに私はお返しとして左手の短銃を兎の方に動かし、短剣を逸らされてガラ空きなお腹辺りへ狙いを定めて弾丸を撃ち込みます。
その弾丸は至近距離だったせいか躱されず、しっかりと白兎にダメージを与えて後方へ弾き飛ばします。
「これくらいなら、単体であればまだユニークスキルも使わなくても余裕ですね」
この白兎の攻撃は速くて鋭いですが、フェイントなどはしてこないでずっと首狙いなのも相まってそこまで躱せなくはなさそうです。
吹き飛ばされていた白兎は空中で姿勢を正し、地面に着地した後に再びこちらへと前進しようとして視線を上げた瞬間、その額を弾丸が撃ち抜きます。
実は、白兎が着地する少し前の時点で弾丸を撃っておいたのです。それは躱されずに見事に当たり、その白兎はポリゴンに変わっていきました。
「…あ、そういえば鑑定をしてませんでしたね。次に出会ったモンスターからはちゃんと鑑定をしますか」
鑑定をしてませんでしたが、この通路はまだまだ続くようですし、また出てくるでしょう。
「ドロップアイテムはないようですし、このまま進んで行きましょう」
特に確認をすることはないですし、私は再び通路を歩き始めます。
すると今度は、先程よりは一回りくらい小さいですが、同じく両手に短剣を持って二足歩行の白い兎と黒い兎のペアが出てきました。白兎の方は白いローブで黒い短剣を、黒兎は黒いローブで白い短剣を構えてこちらへ肉薄してきます。どうやらすでにこちらには気づかれていたようですね。
➖➖➖➖➖
試練の兎 ランク F
時空神の加護を受けた兎型モンスター。
その力は普通の兎よりも強いので警戒が必要。
状態:正常
➖➖➖➖➖
接近されるまでに鑑定をしてみると、二匹とも同じようでそのように出ました。特に詳しい情報はないですが、試練と言う通りただのモンスターではなかったようですね。
それに今度は二匹同時にです。しかし、私は特に慌てずにまずは無数の弾丸を撃って移動先を制限しつつ、攻撃を開始します。
二匹の兎はそれぞれ、先程の白兎よりかは正確な動きではないですが、それでも簡単そうに弾丸を避けながら前進してきます。
「うーん、やっぱりソロなうえ正面からではなかなか弾丸は当てれないですね…」
兄様やカムイさんの時と同じように、正面からでは全然弾丸を当てれないのが少し目立ちます。まあそれでも近接に持ち込めば当てれるので、そこまで気にすることではないかもしれませんが…
そんなことを考えながらも弾丸を撃ち続けていますが、やはり当たりません。
そうして弾丸の雨を掻い潜り私の直ぐそばまで踏み込んで来たと思ったら、私から見て右から黒兎が、左から白兎が首狙いの一撃を放ってきます。
それは身長が低いからか跳躍しながら狙ってきていたので、自身の身体を深く屈めて回避することに成功します。
二匹の兎は回避した後の私へと追撃に移ろうとしますが、それを私は先読みして両手の銃でその短剣を弾いて怯ませます。そして武器を弾かれて一瞬だけのけぞっている二匹の兎へお返しに両手に持っている銃から弾丸を撃ち、それらは怯んでいる直後で回避を出来なかった二匹の兎の頭を正確に捉え、ポリゴンに変えます。
「今回は二匹でしたが、やはり大丈夫でしたね」
私がそう呟きながら一息ついて姿勢を戻した頃には、二匹の兎はすでに光となって消えていて、ポリゴンも残っていませんでした。
その後にインベントリを確認してみますが、やはり今回の兎もドロップアイテムは落としませんでした。おそらくこのエリアではないのですかね?
それに近接に混ぜてではないと弾丸を当てれないのは、少し改善しておいたほうが良さそうです。これは今後鍛えていくことにしましょうか。
「まあそれはいいですね。この調子で先に進みましょう」
そこからも私は、時折襲いかかってくる白や黒の兎たちを倒しながら通路を歩いていきます。
襲いかかってくる兎たちは基本二匹のペアで、時折三匹や四匹でまとまっている者もいました。
それらの兎たちも、ユニークスキルは使わなくても特に苦戦はせずに倒せて進めています。
「ここは一階層でしょうし、まだ手強い相手は出ないのですかね?」
そう呟くくらい、そこまで難しくはありません。むしろ手こずったのは、最初に倒したあの大きめの白兎くらいです。
それ以降は最初の白兎よりも弱くて数を揃えた感じだったので、ユニークスキルを使う程でもありませんでしたし。
「この先にいけば更に強いモンスターが出そうですし、そこではどうなるか…」
今は苦戦はしなくても深く潜っていけばいくほどモンスターは強くなるでしょうから、今使えるのはユニークスキルだけですししっかりと把握しておかないとですね。
「…ん、ここは、広場……ですかね?」
そのまま調子良く兎を倒しつつ神殿のような見た目の通路を進み続けていると、何やら円状に広がっている空間の前に着きました。
そこは私が口にした通り、通路よりもはるかに広く作られている広場の見た目をしており、入り口からかすかに見える壁には最初にこのエリアに来たときと同じように何らかの絵が描かれているのがわかります。そこの広場も通路と同じで暗くはないので見ることは出来ますが、やはり遠いからかあまりよく見えませんね…
「もしかして、一階層のボス……でしょうか?」
結構歩いて来ましたし、きっとそうでしょう。書いてある絵はその後に確認することにしましょう。
私は気を引き締めてからインベントリにしまってあった双銃を両手に取り出し、その広場へと入っていきます。
私が広場に足を入れて直ぐに、突然広場の中央に水晶が現れました。音に気配、姿すら一切感じとれなかったので、私は一気に警戒を強めます。
そしてその水晶は白色の光を発したと思ったら、白く光ったまま突如グニョグニョと変形していき、瞬く間に白色をした一軒家くらいはありそうなくらいとても大きい狼の姿に変化しました。
その狼は、生半可な武器の攻撃なら容易く弾き返せそうな真っ白な体毛に、街にある城壁なども容易に切り裂けるであろう大きな爪に牙、四肢には自身の大きな身体を持ち上げ、高速移動を可能とする力強さを感じ取れます。
そしてその白狼はその黒い瞳をこちらに向けてきて、殺意を滾らせてもいます。
➖➖➖➖➖
クロック・ハイウルフ ランク E
時空神の加護を受けた巨大白狼型モンスター。
その力は空間を駆け、狙った獲物を逃さない。
状態:正常
➖➖➖➖➖
この白狼についての鑑定にはそう出ました。説明を見る限り、空間を駆けるという謎の能力を持つようなので、少し意識しておきますか。
それに前に戦ったレッサーリッチと同じくランクがEのようで、それだけの強さがあるのがわかります。
狼と戦ったことは何度もありますが、ここまでデカいのは初めてですね…
近い種類ならエリアボスが似ていますが、あちらとは違ってこちらは仲間を連れず、しかしてその爪や牙、尻尾などはエリアボスとは比較にならないほどの強さを持ち、この空間が重くなったかのような威圧も感じとれます。
「これは、かなり強そうですね…」
ですが、やっと歯応えのありそうなモンスターが出てきました。ここまでは準備運動にしかなりませんでしたし、これはなかなか楽しめそうです…!
ここまでの威圧感は、おそらくあの大蛇くらいでしょうか。まあ大蛇よりかは覇気は感じませんが、それでも私よりは強いのは間違いなさそうです。
「では、開始といたしますかっ!」
「ウォン!」
そして私はまずその白狼に向けて両手の銃で弾丸を撃ちますが、それらは白狼の咆哮で全て消し去られました。
「やはり普通の攻撃では相殺されますか!」
普通の弾丸なら今のように消滅まではされないでしょうが、私の武器による魔法弾では消し去られたので、これは魔法弾のデメリットですね。
今までは特に感じませんでしたが、強敵になるとこのような現象も起こせるようです。
私はそのまま広場内を駆けつつ無数の弾丸を放ちますが、体格の割に俊敏な動きでそれらは全て回避されます。
そして回避しながらこちらへと肉薄してきて、その右手の鋭い爪を振り下ろしてきます。
それは紙一重で回避してその一瞬の間に右前足へ連続で弾丸を撃ち込みますが、そこまでのダメージは入っていないようで見えているHPゲージは特に減っていません。
その次の一瞬には、続いて左前足の爪を横薙ぎに振るって来たので、そちらは後方に跳んで回避します。
「攻撃し続けてれば徐々に減らせはするでしょうが、時間はかかりそうですし、ここは一気に倒すために弱点狙いですね…!」
あの白狼は生物系だと思いますし、前に戦った大蛇とは違って目や頭、お腹などに当てれば前足よりはダメージも通るでしょう。
…というか今更ではありますが、ワールドモンスターであったあの大蛇は生物系ではなかったのだろうとは思います。まあ実力差がありすぎて弱点に当てても弾かれた、という可能性も無きにしも非ずですが。
「っと、危ないですね!」
そんな一瞬の思考の間にも白狼は近接攻撃の範囲に踏み込んできて、連続で右前足の切り裂き、左前足の切り裂きと次々に攻撃が飛んできます。
それらもフェイントを混ぜた動きで翻弄して回避し、無数の弾丸を頭、首、胸にと弱点であろう部位に向けて撃ち返しますが、それらは殆ど効かないと判断されてもう片方の前足でガードされます。先程のように回避はされませんが、それはこちらを舐めているからでしょう。
「なら、ここは使い所ですね」
普通に戦うのではなかなかダメージを与えられませんし、ユニークスキルを使用しましょうか。
「まずは、〈第二の時〉!」
私は初めにその武技を白狼に撃ち、それは身体狙いだったからか効かないと思ったようで躱されず、そのまま身体に命中して白狼の動きを一気に遅くします。
「ウォフッ!?」
急に遅くなった自身の動きに驚いたのか、一瞬だけ動きが硬直します。もちろん、それを見逃すはずがありませんよね!
「〈第一の時〉!からの〈第三の時〉!」
私は即座に自身に武技を撃って動きを加速した後に白狼の頭上へとジャンプして、そのガラ空きの頭に唯一の攻撃手段である〈第三の時〉を放ちます。
「グォォ!?」
今の攻撃した箇所は頭だったおかげでしっかりとダメージが入ったようで、痛みによってあげたそんな叫び声が空間に響きます。そのまま白狼は暴れ始めたので、私は頭を蹴ってから普通の弾丸をもう一度、今度は連続で撃ち込みながら離れます。
それらもしっかりと白狼の頭へ命中し、良いダメージを与えることに成功します。そしてそのタイミングで、白狼についていた遅延と私の動きの加速がなくなりました。
「グゥ…」
白狼は元に戻った自身の動きを即座に確認をし、先程の私の動きに対して少し距離を置いたまま警戒をしています。
「やはり警戒をされてしまっていますね……ですが、そんな暇を与えずに追撃といきましょう…!」
私は再び自身に〈第一の時〉を撃って加速し、白狼の周りを不規則な動きをしつつ、高速で弾丸を撃ちながら移動します。
それに白狼は飛んでくる弾丸は両前足で弾き、私の動きには目で追っていましたが、私が一瞬白狼の視界から消えた瞬間に再び〈第二の時〉を撃って遅くしたのちに、今度は背後からその背中に乗って連続で背中に弾丸を撃ち込みながら頭まで走っていきます。
「グゴォ!!」
白狼は再び頭を撃たれる前にと、身体を暴れさせて私を弾き飛ばそうとします。しかし私は、それをすると読んでいたのでその直前に空中に跳んで回避し、そのまま地面へ落ちるのと同時に〈第三の時〉と無数の弾丸をその頭へと撃ちまくります。
「ガァ!?」
それらは正確にその白狼の頭に命中し、さらには右目を狙った〈第三の時〉もちゃんと狙い通りに当てれたようで、鮮血を表すかのような激しい赤いポリゴンが撒き散らされて白狼のHPゲージを一気に減らします。
「ですが、まだ倒れませんか…」
HPゲージは今までのも相まって大量に減りましたが、残り四割近くを残して減少は止まりました。
「グルゥ…」
白狼はまだ残っている左目で殺気だちながらこちらを見ています。しかし、出会った最初に感じた強い威圧感はすでに薄れており、そこまでの圧は感じません。
「グゥ、グガァ!!」
そう咆哮を上げ、こちらへその両前足で最初の繰り返しのように連続で攻撃をしてきます。
私は切れていた〈第一の時〉をもう一度自身に撃ち込み、再び右に左にと回避をしながら今度は残っている左目に向かって弾丸を連続して放ちます。
「ガアアアァ!!」
自身に向かってくる弾丸を先程よりも脅威と感じているのか、そちらに意識を向けて咆哮を起こして全ての攻撃を無効化しています。
「ですが、そちらばかりに意識を向けていてはダメですよ?」
そう呟きつつも今度はお腹辺りへと潜り込み、そのまま両手の銃で無数の弾丸と〈第三の時〉を撃ち込みます。しかし、次の瞬間…
「なっ…!?」
先程まで私の視界に映っていた白狼のお腹が消えて、逆に私が空中へと飛ばされていました。