49話 ゴーレム錬成
「まあそれは良いとして……クリア、【変幻自在】というスキルを使ってみてもらってもいいですか?」
いいよー!という雰囲気でクリアは肩から地面へと降りて、そこでスキルの使用を始めます。
すると、クリアの姿が半透明なまんまるボディからグニョグニョと変わっていき、最終的にこのエリアに生息しているストーンスネークと大きさまで全く同じ姿になりました。色もストーンスネークと同じなので、完璧な変身です。
「シュー」
そしてその姿のまま、私の足元へ擦り寄ってきます。姿は変わっていても、やはり可愛いです!それにステータスを確認してみると、このスキルで変化している最中は元の自身のスキル以外にも、変身した対象のスキルなども使えるようです。
「かなりトリッキーな能力ですが、なかなか強力そうですね…」
クリアは変化した身体を元に戻し、どうだったー?と言いたげな様子でピョコピョコ跳ねています。
「クリアってこんなに凄かったのですね!」
私が褒めると、嬉しそうに跳ねながらこちらへとダイブしてきました。それを私は軽く受け止めて、そのまま肩へと誘導します。
「では、今度こそゴーレム錬成を試しますか!」
「……!」
私のその声にクリアも身を震わせて賛同しています。
「とりあえず、〈錬成陣〉ですね」
まずは錬成陣を使うと、前に職人ギルドで使った時よりも大きなサイズで魔法陣が出来ました。陣が大きくなっているからか、消費MPも少し大きくなっているようです。しかも出した後にもサイズは意外と自由自在に変えれるようですが、それに対してもMPを消費してしまっています。
錬成陣は大きくも出来ますけど、すればするほどMP消費も大きくなるようですね。
「初めは余っているたくさんの石ころで作ってみますか」
そう考えて、私は石ころを錬成陣に置く……前に、合成で大きくします。
錬成陣に置くとしても、石ころでは思ったよりも小さかったので合成で岩に変えます。そして今度こそ、錬成陣の上に岩を乗せていきます。
「重いのでインベントリから出してでないと動かせませんが、これでよしですね」
そうして私の身長の半分近くもある岩を五つ、錬成陣の上に乗せるのが完了しました。
「では、〈ゴーレム錬成〉!」
私がアーツを使うと、錬成陣の上に乗せていた岩たちが光り、その光が集合してから収まると、そこにはクリアの時と同じように、しかし色は白ではなく茶色をした召喚石らしきものが存在していました。
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召喚石・ロックゴーレム ランク F レア度 一般品
耐久度 破壊不可
ロックゴーレムが宿っている召喚石。呼び出すと錬成した対象が出てくる。
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それを鑑定してみると、そのように出ました。
「なるほど、ゴーレム錬成で作ったものはテイムしたクリアと似たように召喚石になるのですね。それなら、作り置きしておけばいつでも呼び出せそうです」
今回は岩で作りましたが、他の素材でもゴーレムに出来るのでしょうか?
「それは置いといて、一度召喚してみますか。ゴーレム召喚!」
そんな掛け声と共に、私の前辺りに魔法陣が出来てそこから三メートルくらいの大きさでずんぐりむっくりな姿の岩人形、ゴーレムが現れました。
「うーん、思ったよりもしっかりとした姿なのですね」
「……!」
クリアは、仲間ー!とでも言うかのようにプルプルと肩で震えて、興奮してるのがわかります。
「ちょっと実験としてこの辺のモンスターと戦わせてみましょう」
私は一度ゴーレムを送還した後、クリアは肩に乗せたまま一度荒地を歩き始めます。
荒地を歩くこと数分で【気配感知】スキルに反応があったのでそちらに向かうと、ストーンオオトカゲがいました。
「よし、あれにしますか」
私は隠れた状態からゴーレムを呼び出します。
「ゴーレム、あれを倒してください」
「……!」
私の言葉に、ゴーレムはのしのしと重そうな動きでストーンオオトカゲへと襲いかかります。クリアも頑張れー!と言うかのようにまたもや肩で震えています。
そういえばステータスは確認しましたが、クリアの戦っているところはまだ見てないですね。クリアについても今度確認しますか。
そんなことを考えながらもゴーレムとストーンオオトカゲの戦闘を見ますが、ゴーレムは少し頭が悪いからか攻撃は一切躱さず、愚直なまでにその岩製の拳で殴りかかっています。
身体が岩だからかそこまでダメージは入っていないようですが、ストーンオオトカゲもなかなかタフで未だに倒せていません。
「それにしても、ゴーレムは単純な動きしかしないので、こういう知能の高くないモンスター相手にしか上手く使えなさそうですね」
まあ壁や囮などには使えるとは思うので、そこまで悪くはないですけど。
そうして観察を続けていると、ゴーレムのパンチがストーンオオトカゲの顔を捉え、その一撃でやっと倒し終わりました。
「倒し終わりましたか。ストーンオオトカゲの攻撃でもHPは半分くらいは残っているので、なかなかの性能ですね」
これなら、この先岩以外の素材で作っても良さそうですね。今回手に入れた鉱石類はアイザさんに売りますが、次手に入れたらそれでも作ってみますか。
「今の時刻は……む、もう九時を超えていましたか」
ゴーレム錬成やそれで作ったゴーレムの試運転もしてましたし、結構経っていたようです。
「街に戻ってログアウトにしましょうか。クリア、行きますよ」
「……!」
クリアは今も肩に乗っているのでわざわざ言う必要も無いとは思いますが、一応言っておきます。
そして私は小走りで職人都市へと向かいます。ここに来るまでに数十分近くかかっていたので、街に着いた時の時刻はすでに九時半になってました。
明日は休みだから問題はないので、そこまで気にする程ではないですけどね。
私はクリアを送還した後、再び西門近くでログアウトを選択し、この世界から一度消えます。
現実世界に戻ってきた私は、頭のヘッドギアをサイドテーブルに置いてからすぐに就寝とします。おやすみなさい。
そして朝、土曜日です。昨日は寝るのが遅かったですが、今の時刻はいつも通りの七時です。
まずはベッドから降り、ストレッチや着替えなどを済ませてからリビングに向かい朝の支度などの諸々も終わらせていると、そのタイミングでちょうど兄様も降りてきました。
「兄様、おはようございます。なんだか眠そうですね」
私の発した言葉の通り、兄様は少し目元がショボショボしており、あくびをしながらリビングに入ってきます。
「美幸か、おはよう。ちょっとユニーククエストが未だに長引いてな。おそらく今日の午後から明日の午前中には終われるとは思うが」
「おー、もう少しなのですね!頑張ってください!」
「ああ。今日の午後一時からは第二陣が来るから、美幸もそれには気をつけておけよ」
そう言って兄様はパンを取り出してオーブンに入れて焼き始めます。
「兄様もですよ。じゃあ私はまたゲームでもしてきますね」
「わかった。俺も後で向かうな」
「はい、では」
私は兄様へ伝えた後に自分の部屋へ戻り、サイドテーブルに置いてあったヘッドギアを手に取り頭に被ります。
「いまは八時くらいですし、お昼くらいまではまたやってましょうか!」
そう呟きながら、私はベッドに横になってMSOの世界にログインをします。
ログインすると、そこは前にログアウトした場所である職人都市の西門付近でした。
「まずは先に料理の職人セットを買いに行って、その後に図書館でソロさんにユニークスキルについて聞きにいきますか」
目的を決めた後に私はクリアを呼び出して肩に乗せ、先に料理に使う職人セットを探しに行きます。ですが、ここは職人都市。すぐに売っているところを見つけたので、早速買って鑑定をしてみます。
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調理セット ランク F レア度 一般品
調理に使う道具をを納めたセットと簡易の調理キット。使用するとその場に道具類が出現して使える。
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このセットの内容は、まな板に包丁とフライパン、鍋にヘラやお玉など、結構な種類の道具があるようです。まあ簡易的なセットのようなので、本格的な物はありませんが。
それとこの道具たちは自身の持っている道具を仕舞ったりも出来るようなので、それでバージョンアップをするみたいです。そして料理をするための簡易なキッチンもセットであるので、それを使えばどこでも料理を出来そうですね。
それに、この調理セットにはランクがないようなので、殆どはこれで完結するのでしょう。
「料理をするのはまた今度ですけどね」
それでもセットは買いましたし、いつでも作れますね!あ、ついでに調味料なども売っているので買っておきましょう。
私は調理セットの他に、複数の皿や食料の小麦粉や砂糖、塩に香辛料とミルクなどなど、使いそうな物を色々と多めに買っておきました。
結構な出費ですが、これらは結構使うでしょうし問題ありません。それにインベントリに仕舞っておけば腐りもしないので、いつでも使えますしね。
これでクリアに美味しいご飯も作れますね!まあ作るのはまた今度ですけど。
「やることも済みましたし、次はソロさんの図書館に向かいましょう」
「……!」
クリアもピョコピョコ肩あたりで跳ねながら頷いている雰囲気を出しています。
そうして職人都市の広場から第二の街に転移をし、そのままソロさんのいる図書館へ歩き続けます。歩いている最中では、もう少しで来る第二陣へ販売やクランへの勧誘などをするためか、前に来た時よりも人は少なく感じます。
それに、クロークとそのフードを深く被っているおかげで全然目立ってもいません。ちなみに転移はテイムモンスターも一緒に出来るようなので、今も一緒です。
そんなことを考えながらも歩いていると、図書館の前に着きました。なので、扉を開いて中に入っていきます。久々に来ましたが、中は特に変わっておらず無数の本と本棚が見受けられます。
周りを確認しながら先へと向かうと、奥でソロさんが本を読みながら椅子に座っていました。すると何らかのスキルか何かで感じたのか、本に落としていた視線がこちらに向きます。
「レアですか、待ってましたよ」
そしてそのように声をかけられました。待っていたと言ってますが、何か用事があったのですかね…?私は最近は図書館に来てませんでしたし、きっとその間に何か用事が出来たのでしょう。
「どうしましたか?」
私がそう返すと、ソロさんは今読んでいた本を一度テーブルに置いてから、一冊の古びた本を指輪から取り出します。
「実は最近、時空神の力が宿った本を見つけましてね」
「神様の力が宿った本ですか…!?」
神様の力の本って、かなり希少な物ですよね…!?しかも時空神ってことは、私に加護をくれた神様ですよね…
私がソロさんの言葉に驚いていると、ソロさんは頷いた後にその本をこちらに差し出してきます。
「そうです。時空神の力なら、その神の加護を受けているレアにはちょうど良いと思うので買ったのです。こちらは差し上げますよ」
「そんな!大事そうな本なのですよね?なら別に私は大丈夫ですよ…!?」
「いえいえ、神の力を持つのなら、その神については知っておいた方が良いですよ。それに、私には読めなかったですしね」
軽く笑いながらそう言うソロさん。うー、そこまで言われたのなら、受け取ってしまってもよいのですかね…?
「本当に良いのですか…?」
「勿論、構いませんよ。それと、出来れば書いてあった内容を教えてくれるだけでこちらとしてはありがたいのですよ」
私には読めませんでしたからね、と続けて言うソロさん。それなら、私がもらってもいい……のですかね…?
「んー…じゃあ、ありがたくいただきますね!」
そう決めて私はソロさんからその時空神の本を受け取ります。
「では、早速読んでみます!」
「わかりました」
私はその場で本を開いて読んでみます。しかし、この本に書いてある文字は私の【言語学】スキルでもわからない様で、読めませんでした。
「うーん、私にも読めませんね…」
「その神の加護を受けていてもわかりませんでしたか……ということは、私にもわからない未知の言語、ということでしょうか」
ソロさんの言った通り、神の加護は関係なく普通に私たちがわからない言語なだけなのですかね…?
「んー……あ、もしかしたら、私のユニークスキルの武技でわかるかも知れません!」
「おや、そうなのですか?」
「はい!初めて使いますが、このスキルならこの状況にピッタリの効果ですし!」
そう、私のユニークスキルの武技の一つの〈第四の時〉では、撃った対象に込められた過去の記憶や体験を知ることが出来るのです。なので、この本に使う場合はそれに宿っているであろう情報がわかるかと思います。
今までは機会がなかったので使ってませんでしたが、今の状況では特に噛み合っていると思います!
「それでは、本はテーブルに置いてそこで使います」
「わかりました」
私は一度肩にいるクリアをテーブルの上に下ろし、インベントリから長銃を右手に取り出して早速武技を使います。
「〈第四の時〉」
そしてその本を撃ち抜くと、私の意識は突然なくなりました。
「んっ…」
なくなっていた意識が戻り、私は目を開きます。どうやらユニークスキルで撃ち抜いた本のおかげか、いつのまにか特殊なエリアに移動していたようです。
「ここは…」
起き上がって周りを見渡してみると、そこはどこかの神殿らしき広場のようで、そこに一つだけポツンとある祭壇のような場所の上で私は横になっていたみたいですね。
「とりあえずステータスと持ち物の確認をしますか」
私は焦らず、まず自身の確認をします。すると、どうやら双銃以外のアイテムは使用出来ないようで、クリアを呼び出すことも不可能になっています。
「インベントリについては良いとして、問題はステータスですね…」
インベントリの確認を終わらせてからステータスも確認してみると、なんとユニークスキル以外のスキルが一時的に使えなくなっているようなのです。
「装備も特に異常はないですし、これがあの本による内容なのでしょうね」
そう呟いて、私は目の前に表示されているシステムメッセージを見つめます。そこには、こう書かれています。
『ユニーククエスト【時を刻み、空は観測する】が発生しました』
どうやらユニーククエストのようで、これをクリアするか諦めるまではここからか出られないようです。ですが、今日は休みなのでゲームをやっていられる時間にはまあまあ余裕がありますし、結構経ったとしてもそこまで問題はないと思うので大丈夫でしょう。
「それにこのクエストを攻略すれば、時空神についても分かりますかね…?」
そんなことを考えながらも、システムメッセージから視線を逸らして周りも確認してみると、この空間内の壁には何やら壁画のようなものが描かれています。
「…多分、あれは人で…あちらが……モンスター、ですかね?」
そこには人型である無数の人物と、それの反対にはモンスターらしき獣とも人ともとれる謎の生物が戦いあっている場面が描かれていました。
そして人型の人物たちの背後には、そんな人たちを祝福するかのように謎の光などを纏っている様々な人や獣みたいな存在も描かれています。
人型の人物たちは、おそらくこの世界での主な種族の絵でしょう。人だけではなく、エルフのような人もいればドワーフのような人もおり、さらに私のような獣人や魔族の人影もあります。
モンスターの方については詳しくはわからないですが、その描かれている人類に対して敵意や殺意を持っていそうなのはわかります。
多分、このモンスターたちはこの人類と敵対している何かなのでしょう。
「ということは、人類の背後にいるのは神様たち、でしょうか…?」
それなら人類を守護しているかのようなこの場面に合いそうですし、きっとそうですね。神様は私にこれを見せるということは、きっとこの世界の過去に何かあったのでしょう。
「この世界を攻略していけば、いずれ分かりますかね…」
見るものはすべて見ましたし、そろそろこのクエストを進めていきますか。おそらく、ここから見える一つの通路から行けば良いのでしょうしね。
そうして祭壇から立ち上がって通路へ向かおうとすると、近くに何やら小さなメモ用紙みたいなのが落ちていました。




