5話 不思議な時計
「とりあえず、適当に歩いてみますか」
そう呟きながら私は色々な露店を巡りつつ、街のお店などを確認しながらも街中をあてもなく歩いていきます。
見たり聞いたりしたところ、この街は最初にログインしてきた広場から十字に大通りが続いていて、その先の東西南北に街の入り口となる門があります。
北は武器や防具などの鍛冶屋や木工店が多数あり、さっき行った西には布や革などの裁縫店が立ち並びます。南には道具屋に薬屋、飲食店が多めにあり、最後に東には、職人ギルドや商業ギルド、冒険者ギルドなどが固まって存在しており、その大通りからそれた小道も多々あったりするようです。
まあ多いというだけで、少ないですが北や西などにも飲食店とかがあったりしますが。さっきハンバーグを食べてきたお店も西にありましたしね。
お店関係はそんな感じで、住人から話を聞いてみると教会やこの街の領主のお屋敷などの重要な建物も、ギルドが固まっている東方面にあるみたいです。
そうして私は大通りを見終わり、小道からも逸れ、ついには路地裏まで来ました。
「ここ、どこでしょう?」
来た、と言っても適当に歩いていて気づいたら居た、ともいいますがね。
路地裏といってもそこまで汚れている訳でもなく、大通りと同じで小さな露店があり、そこまで変わりはなさそうです。
来たついでに商品を見てみると、大通りにはなかったような商品も少しだけ並んでいます。
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眠り花 ランク F レア度 一般品 品質C
眠り効果のある花。花びらの部分に効果がある。
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耐毒の指輪 ランク F レア度 一般品
耐久度 80%
・毒耐性 毒状態に耐性を持つようになる。
装備者に毒耐性を施す銅色の指輪。
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鑑定するとこのような情報がわかりました。表にはなかった、耐性付きのアクセが売っているのです。値段はお高めで4,000Gですが。
まあ毒耐性だけなら別にそこまで欲しいとは思わないので、ここはスルーですね。
そう考えて行こうとすると、ふと目に入った物があります。それは漆黒色の懐中時計です。
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??? ランク ? レア度 ?
LUK+5
耐久度 破壊不可
・???
???
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なんと、鑑定しても情報が全くわからなかったのです。
「これはなんですか?」
「これか?これはただの時計だぞ?」
露店のおじさんはそう言ってますが、絶対に普通の時計ではありませんよね…?
「買うなら1,000Gだぞ」
「うーん…よし、買っちゃいますか」
不思議な時計で気になりますし、高すぎるわけでもないですしね。
私はお金を払い、その時計をあらためて確認します。
「全体的な色は黒ですが、装飾は白色なのですね」
どうやらこの懐中時計はアクセとして装備出来るみたいなので、早速装備しておきます。すると、腰のあたりにチェーンと一緒に懐中時計が装備されました。
見たい物は見終わりましたし、レーナさんに渡さなかった素材を売りに行きますか。
そう思い、私は街の東側にある冒険者ギルドへと足を運びます。
鑑定で見た説明では、牙や爪はアクセサリーとして使えるみたいなのです。
ブラウンベアーの皮はレーナさんに渡しましたが、他にもブラウンベアーの肉と爪も手に入れてたのですよ。それにウルフの素材にフォレストスネークの素材、さらにフォレストディアの素材もありますから、それなら売り物としてもいけそうですしね。
あれこれと考えていると、すぐに冒険者ギルドに着きました。なので私は中へ入り、買取受付へと向かいます
そして私は、使わない素材たちを全部売ることにしました。
・ラビットの肉は四個で400G
・ラビットの皮は三個で300G
・ウルフの肉は十五個で1,800G
・ウルフの牙は十三個で1,950G
・ウルフの皮は十二個で1,320G
・フォレストスネークの肉は七個で1,050G
・フォレストスネークの牙は六個で900G
・フォレストスネークの皮は六個で同じく900G
・フォレストディアの肉は四個で800G
・フォレストディアの角は三個で675G
・フォレストディアの皮は三個で同じく675G
・フォレストボアの肉は四個で900G
・フォレストボアの皮は品質が悪かったので二個で300G
・ブラウンベアーの肉は三個で900G
・ブラウンベアーの爪は二個で600G
これらを全部売って、合計で13,470Gになりました。初期金額を超えた額になりましたね。
私はお金を受け取って買取受付から離れて、掲示板に貼ってある依頼を見てみます。
今貼ってある依頼は、主に素材の買取リストみたいです。今はプレイヤーがやっているからか少ないですが、依頼は他にも魔獣退治や採取依頼、討伐系の依頼もあるようです。
これを見るに、ログインしてすぐに狩りに行きましたが、この依頼とかを受けてから行ったほうが良かったかもしれませんね。
確認も済みましたし、次のところへ向かいますか。次は、北方面の武器屋に行こうと思っています。
「防具は頼みましたけど、武器は買っていませんからね」
私の武器である銃はまだ初期のなので、攻撃力がかなり低いのですよね。
それと弾丸も錬金の合成で作れると思うので、自分で作るために鉱石も欲しいところですね。露店に火薬と薬莢は売っていたので、鉱石を組み合わせれば好きな弾丸が作れそうです。まあまずは【錬金】の道具を初級から上げて、三個以上の合成が出来るようにしないとですが。
そう考えて歩いていると、いつのまにか北の大通りへと着いていました。思考を戻した私は、そのまま近くにあった武器屋へ入っていきます。
やはり武器屋というだけあり、さまざまな金属製の武器が立ち並んでいます。剣や槍、斧に盾などは当たり前で、珍しいところでは鎌なんて物も置いてあります。さらには格闘用なのか、鉄製のガントレットまで存在しています。
まさしくファンタジー世界の武器屋って感じですね!見ているだけでも楽しいです!
しかし、私の探している銃はここには置いていなさそうです。
「お客さん、なにかお探しで?」
私が武器を探してキョロキョロしていると、そう店員らしき人に声を掛けられました。ついでにちょっと聞いてみますか。
「あの、銃ってありますか?」
「すまんな、ここでは取り扱っていないんだ」
私がそう聞くと、店員さんは申し訳なさそうな顔でそう答えました。そうなんですね……んー、じゃあ初期の街では売ってない感じなのでしょうか…?
そうがっかりしている私へと、店員さんが続けます。
「ここにはないが、もしかしたら異邦人がやっている店にならあるかも知れないぞ」
異邦人とは、この世界でのプレイヤーの呼び方で、異なる世界から魂のみが来てるという設定です。
それにしても、プレイヤーのやっているお店がレーナさん以外にもいたのですね。レーナさんは裁縫でしたけど、そちらは聞いている感じからして鍛冶屋ですかね?
私がそう考えていると、店員さんがふと思い出したのかこう言葉を続けます。
「そういえば、東の大通りからかなりそれた路地裏に特殊な武器を売っているという店があるって聞いたこともあるな」
「特殊な武器ですか?」
「ああ、固有の能力を持ってるだとか、特定の種族にしか使えないだとかな」
まあただの噂話だけどな、と言って店員さんは笑ってますが、それが本当だとしたら凄い情報ですね。
私はその店員さんからその異邦人のお店の場所と名前を聞いて、お礼を言ってお店を出ます。
「それにしても、特殊な武器ですか…」
私はさっきの噂話のことを思い出します。もしあるのなら、一度行ってみたいですね。
まあ、とりあえずは店員さんに教えてもらったお店へと行ってみますか。
そうして歩いていくと、鉄の装備を着けている人たちと何度かすれ違います。目的地は近そうですね。
「確かお店の名前は『アイアンスミス』でしたっけ」
私は聞いていた名前と同じ看板を掛けてあるお店を大通りに見つけました。ここみたいですね…
そしてお店の扉を開いて中へと入ります。中には結構な人がいて、様々な武器や防具を喋りながら見ています。
さっきのお店と同じく鉄製の製品ばかりを見かけますね。まあ当たり前ですが。
私はそんな人たちを横目に、銃を探します。しかし、やはりここでも見つけれません。
「うーん……やっぱり初期の段階ではまだ売ってないようですね…」
「なにか探しているの?」
どうしようか悩んでいると、さっきと同じように、今度は後ろから声を掛けられます。
振り返るとそこには、ショートの赤髪に茶目で身長150cm後半くらいの女性がいました。種族は私と同じ獣人で、多分猫の獣人ですね。
「銃を探しているんですけど、どこにもなくて悩んでいたんです」
その女性に私はそう返します。すると、その言葉に女性は微妙な表情を浮かばせます。
「あー、銃かぁ」
その女性はそう声を漏らしてから語ってくれます。どうやらこのゲームでの銃はあまり強くないうえに弾丸も買えますが弱く、銃本体も初期では作ることも買うことも出来ないので、攻撃力が足りなくて産廃と呼ばれているみたいです。
「さ、産廃ですか…」
「あ、ごめんね!貶すつもりはなかったの!」
そう謝罪を返してきますが、それはいいんです。ただ、私は悩みます。
やっぱり教えてもらったところを探してみるしかないですね。ですが…
「目とか弱点を突けば全然戦えますけど、そんなに言われるほどなんですか?」
「いや、普通はそんな小さなところを狙って撃てないから……もしかして、撃てるの?」
「ええまあ……狩ってきたブラウンベアーの両目も撃ち抜けましたし」
「そんな撃てるんだ……凄いね!」
そう返してきますが、私からしたらそこまで難しくはない感じがしますけどね…?
「とりあえず、売っていないなら私は出ますね」
「あ、うん!引き止めちゃってごめんね!」
「いえいえ、では」
私はそう言ってお店を出ていきます。よし、なら次は噂話が本当か探しにいきましょう!
「うーん、不思議な子だったなぁ」
私は先程出会った女の子のことを考えつつもそう言葉を漏らす。キャラメイクでは出来ないはずのサラサラとした雪のように真っ白な髪に、同じく汚れの知らない透き通るような白い肌。
黄金のようにほのかに輝く金色の瞳とそれを彩る長い睫毛に形の良い鼻梁や艶やかな唇。身長140cmをギリギリ行ってなさそうなくらい小さくて華奢な体に、髪と同じく白色のケモ耳と尻尾。
そして何よりも、あの産廃と呼ばれる銃を扱うことが出来るほどの腕前を持っているらしい彼女。
「またいつか会えるかなぁ?」
確かに不思議な子だったけど、それだけでそんな気になるかな?あの子にはなにか惹きつけられる魅力がある気がするんだよねぇ。
まあ同じゲームをしているし、またいつかはあえるでしょ!
「ソフィア、ここにいたの…ってどうしたのその顔?」
そう言って話しかけてくる私のフレンド。
「どうって?」
「なんだか楽しそうな顔をしてるわよ?」
「そう?いや、そうかも」
そして私は自然な笑みが浮かんでくる。まったく、ただ気になるプレイヤーを見つけただけで笑みを浮かべるなんて、ちょっと変態っぽくなっちゃってるね。
「…まあいいわ。とりあえず鉱石を採掘しにいくんでしょ?ツルハシは買った?」
「あ、やべ、忘れてた!今買ってくる!」
気になるあの子もいいけど、フレンドとの約束は忘れちゃいけないね。
そう思いながら私はさっさとツルハシを買いに行くのでした。
「とりあえず東の大通りには来ましたけど…」
そう言葉を漏らしつつ考えます。ひとまず、路地裏を片っ端から見て回ればいいですかね…?
そう思い、私は大通りから逸れて小道や路地裏を散策し始めます。
さっきと同じで露店などがありますが、これはスルーします。
散策を続けて路地裏のさらに裏へと行っていると、徐々に人の気配が消えていきます。そしてそのまま進んでみると、ある一軒のお店を発見しました。
「もしかして、ここのお店がそうなのですかね?」
私はそう思い、扉を開けて中へ入ってみます。
「おや、いらっしゃい」
中に入るや否やそう声を掛けてきたのは、身長180cmはありそうな、背筋もしっかりと伸びて筋肉質で灰色の髪をオールバックにした四十歳くらいのおじ様です。
「あの、ここは何のお店ですか?」
「ここは武具屋ですよ、お嬢さん」
武具屋ですか。なら、噂のお店はここで合ってそうですね。じゃあ早速銃があるか聞いてみましょう。
「ここって銃とかはありますか?」
「銃ですか……ええ、ありますよ」
「本当ですか!」
「では、今取ってきますね」
そう言っておじ様は踵を返して、カウンターの奥へと行きます。
その間、私は店内を見渡します。確認した限りでは見た感じ商品などは特に置いていないようで、綺麗に磨かれた木の材質のテーブルと椅子のみが見受けられます。
「お待たせしました」
私がお店の中を見ていると、おじ様はそう言って二つの箱を持ってきました。そしてそのままカウンターへ箱を置いて蓋を開けます。中には、2丁の灰色をした大きさの違うマスケット銃が入っていました。
「こちらの中身は『無垢の魔銃』といって、2丁で一つの武器となっております」
両方とも、形はマスケット銃の姿をしています。片方は普通のマスケット銃より小さめの全長50cmくらいですが、もう片方はさらに短く全長30cmくらいとなっています。
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無垢の魔銃 ランク C レア度 固有品
INT+10
耐久度 破壊不可
・魔法弾 自身の撃つ弾丸が全てINT依存の魔法弾になる。 MP消費はなし。 銃のリロードがなくなる。
魔法の力が込められた灰色のマスケット銃。使用者の意思で成長する可能性がある。
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無垢の魔銃 ランク C レア度 固有品
INT+10
耐久度 破壊不可
・魔法弾 自身の撃つ弾丸が全てINT依存の魔法弾になる。 MP消費はなし。 銃のリロードがなくなる。
魔法の力が込められた銃身の短い灰色のマスケット銃。使用者の意思で成長する可能性がある。
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鑑定に成功しました。鑑定結果を見てみるとこのような説明が表示されます。まさかのユニーク装備です。これは是非とも買いたいですね…!
「値段はどのくらいになりますか?」
「そうですね……初のお客様ですし、それぞれ一割引きで二つ合わせてざっと18,000Gくらいですかね」
ぎ、ギリギリ買えます…!今の所持金は18,670Gだったので危ないところでした…!
「買います!」
「かしこまりました、ではこちらを」
そう言って私はお金を払い、2丁の魔銃を受け取ります。
改めて説明しますが、ユニーク装備とはその個人のみにしか使えない武具のことをいいます。普通のレア度とは違い、ユニークは別物として考えられていて、一般品と同じくらいの強さもあれば、伝説級並の強さをもつ物もあります。
これは鑑定して見た感じ、一般品より上の良品くらいの強さはありそうです。
ユニーク装備の中では弱めの性能ですが、いまの私からすると結構な強さではあります。
このゲームでのレア度は、不良品、一般品、良品、稀少、遺物、伝説級の順に強くなっていって、人類には作ることが出来ない神器のレア度もあります。まあこれについては普通は手に入る物ではないですし、そこまで気にしなくも良いですけどね。
それとアイテムもそうですが、モンスターにもランクというものがあり、それはF〜Sまでの七段階に分かれており、ランクが高いほど性能などが良くなったり強くなったりするのです。
それにしても、INT依存の効果付きですか……なら【ATK上昇】は攻撃力を上げる効果がありますけど、INT依存だと効果が薄くなるので、SPが増えたら【INT上昇】のスキルも獲得しておきましょうかね。
それと、この銃にはリロードがないらしいので、少し試しておきたいですね。
私がそう考えていると、おじ様が私の方を見て言葉を発します。
「それにしてもお客様、お客様はどうやってここのお店を見つけたのですか?」
「どうやってと言われても、普通に歩いてきたとしか言えませんよ…?」
「ふむ…」
そしておじ様は私のことを上から下までじっくりと見ます。
「私が見たところ、お客様は特殊なスキルなどは持っておりませんよね?」
「はい、特殊なスキルは持ってませんね」
「なら、また会えるかもわかりませんね」
「そうなのですか?」
私がそう聞くと、おじ様は語ってくれます。
「ここは様々な地域の、裏と呼べる空間に存在するするお店なのですよ。なので、今ここで出会えたとしても、また同じ場所で会えることはほぼないのです」
「そうなのですね。ではまた会えることを願っていますね」
「…まあ良いでしょう。それではまた会えるのをお待ちしておりますよ」
おじ様はそう言って微笑を浮かべます。私はそのおじ様へ感謝を伝えてお店を後にします。
お店を出ると辺りが暗くなってきていたので、ふとメニューを開いて今の時間を確認すると、なんともう七時近くになっていました。私は慌ててログアウトを押して、この世界から現実世界へと戻ります。