47話 テスト後
「美幸、悠斗。そろそろPVが出る頃だろうから、一度休憩として見てみないか?」
そうして二人で教え合いながらも勉強を進めていると、兄様からその様な言葉をかけられました。
「っと、もうそんな時間ですか?」
ふと時計を見てみると、すでに四時前になっていました。
「じゃあ勉強は一度止めて、休憩としてPVを見ますか」
「そうするか。んー、結構疲れたな…」
凝り固まっている身体を伸ばしつつそう返してくれた悠斗。私もちょっとだけ疲れましたが、悠斗はそれよりも疲れていそうですね。
私はその間にパソコンを持ってきてダイニングテーブルの上に置き、そのままMSOの公式サイトから動画を探します。えっと、動画は……あ、ありましたね!
「兄様、悠斗、ありましたよ。今から再生しますね」
「頼む」
「わかった」
それぞれから返事が戻ってきたので、私はパソコンを操作して公式にサイトのPVを選択します。…今更ですが、パソコンではちょっと見づらそうですね。私が一番小さいので画面の前に座っていて、その後ろから兄様と悠斗が見ているのですが、それだと疲れませんかね…?
「兄様と悠斗はそんな体勢で疲れませんか?」
「ん?俺は特に問題ないぞ」
「俺も大丈夫だ。そのくらいなら気にしていないから、早く見ようぜ」
「そうですか、ならいいのですが…」
悠斗に急かされたので、そのことは措いておき私は動画を再生します。
このPVを見ている感じからすると、動画の内容はバトルフェス時の映像とクラフターフェス時の屋台やお店系を巡るのが主で、最後に表彰式の映像で締めのようです。
その映像の中には私や兄様に悠斗などや、他にも本戦に出ていたフレンドであるカムイさん、アリスさん、ソフィアさんなどの方々も映っていました。
続いてクラフターフェスでのお店を歩いて回るプレイヤーたちの映像が映っており、皆さん笑いながら商品を手に取って見てる映像が流れます。
そして最後の締めの前は私とカムイさんの試合が映り、カムイさんの使った私への止めの武技で画面が切られ、そのまま画面が変わって表彰式という内容でした。そしてそれが終わって画面が空を写したと思ったら、タイトル画面が現れて、プレイヤーを待っている!という字幕の様なものが出て動画は終わりました。
クラフターフェスであったオークションの内容はバトルフェスと比べて目立たないからか、特になくPVは終わりましたね。
まあクラフターフェスの会場の映像は流れていましたし、こんなものですか。
「短かったですが、結構濃い内容でしたね!」
「第二陣を待っているかのようなのも出てたし、やっぱり人気なゲームなんだな」
「それにバトルフェスの方では俺たちも映っていたから、レアは更に目立ちそうだな」
「あー、それはちょっと面倒くさくなりそうですね…」
今日の午前の時にも他のプレイヤーから絡まれましたし、やはり次ログインする時にはなんでもいいから隠すものを買いましょう。これは絶対ですね。
「ではPVも見終わりましたし、勉強の続きといきましょう!」
「そうだな」
そうして私たちはそこからも勉強を続け、六時くらいになったので悠斗は自分の家へと帰っていきました。
悠斗が帰った後は、私は一度勉強道具を片付けてから夜ご飯を作り始めます。
そうした諸々をしていると七時くらいになったので、兄様と一緒にご飯を食べながら会話をしています。
「美幸はこの後、またゲームをするのか?」
「いえ、テストもありますし、テストが終わるまではゲームは控えるつもりです」
作った料理を食べながら、私はそう答えます。明日からの平日はずっとテストですし、その間はゲームはやめてテストに集中するつもりです。
「兄様もゲームは少し控えて、テストに集中した方がいいですよ?」
「そうだな、俺も今週は少しやめておくか…」
私の言葉に兄様はそう呟いています。まあ兄様も勉強が出来ないわけではないうえに頭も普通にいいので、私が言わなくても大丈夫だったと思いますがね。
パクパクと夜ご飯を食べながらも会話を続け、食べ終わったので使った食器は流しに置いて兄様に任せます。私はその間に洗濯やお風呂などのやることを済ませていると、すでに八時くらいになっていたので、いつも通り九時までは勉強をして、時間になったらベッドに横になって就寝です。
そしてテストが始まる次の日の朝。
おはようございます、今日は月曜日です。今日からしばらくはテストなので、張り切っていきましょう!
私はいつも通りの朝の支度などを全て済ませて、兄様と悠斗と一緒に学校へ向かいます。
「悠斗はテストの自信はありますか?」
「美幸と勉強会もしたし、少しは出来るといいんだがな」
あまり自信なさげの様子でそう返してくる悠斗。ゲームを長くしてるといっても、悠斗も頭が悪いわけではないので大丈夫でしょう。
「このテスト期間は、学校が終わったあとに私の家で一緒に勉強会をしますか?」
「美幸がいいなら、お願いしてもいいか?」
「もちろん大丈夫ですよ!一緒に頑張りましょうね!」
「ありがとな」
そんな会話をしながら歩いていると、学校に着きました。私と悠斗は学年が違う兄様とは別れ、自分たちの教室へと移動します。
「あ、月白さん!深剣さん!おはよう!」
教室に入ると、すでに居たらしい宮里さんからそのような言葉をかけられました。
「宮里さん、おはようございます」
「おはよう」
「二人はテストの自信はある?」
私が悠斗に聞いたのと同じような言葉が返ってきたので、私たちは鞄などを置いてから答えます。
「自信はそれなりですね」
「俺はちょっと怪しいが、大丈夫だとは思うな」
「そうなんだ!私もちょっと怪しいけど、二人も頑張ろうね!」
「そうですね」
「ああ」
そうした会話を交わしていると時間になったので、私たちは会話もそこそこに自分の席へと戻っていきます。では、テストを頑張りますか!
「終わったー!」
そうして今週いっぱいの学校のテストも終わり、今は金曜日です。そしてそんな声を漏らしつつ机にグデーっとしている宮里さんに私は苦笑します。
「お疲れ様です、宮里さん、悠斗」
「美幸もお疲れ様」
私と悠斗も宮里さん程ではないですが、結構疲れています。ですが、テストの結果にはうまく出来たと自信が持てていますけど、成績についてはどうなるでしょうか……あ、それと今はテストも終わってすでにお昼です。なので、今日はこのまま下校となります。
「テストも終わりましたし、三人で…いや、四人でどこかで打ち上げでもしませんか?」
言葉途中で兄様が私たちの教室へと入ってくるのが見えたので、一人付け加えてそう発します。
…やはり兄様はかなりのイケメンですし、他の同級生からも注目されていますね。…特に女子に。
「あ、いいね!私は賛成!」
「俺も特に用事はないし、いいぞ」
私の言葉に対してお二人も賛同してくれたので、後は兄様にも聞いてからですね。
「美幸、終わったから迎えにきたぞ」
「ありがとうございます、兄様」
兄様のかけてきた声にそう返し、打ち上げについてのことを兄様にも伝えてみます。
「兄様、この後三人で打ち上げをするのですが、もしよければ兄様もどうですか?」
「なら、俺も行かせてもらってもいいか?」
「もちろんですよ。お二人もいいですか?」
「問題ないぞ」
「私も大丈夫!」
「では、そういうことで、早速行きますか!」
その言葉と共に、私たちは教室を出て歩いていきます。
「あ、打ち上げをするって言いましたが、どこに向かいましょうか?」
「そういえばまだ決めてなかったな」
どこへ行くかを決めてなかったので、私たちは歩きながら決めていきます。
「じゃあ、最近近くに出来たカフェに行かない?」
何も決めずにいた私に対して、宮里さんはそのような意見をくれました。
「カフェが出来てたのですね。ならそこでいいですか?」
「いいぞ」
「カフェか。ちょうどお昼だから軽食も取れるし、良さそうだな」
「では、宮里さん、案内をお願いしてもいいですか?」
「任せて!」
悠斗と兄様も良いようなので、宮里さんの案内でそのカフェへと向かい、そこで軽食を食べながら学校のことやMSOなどのたわいない会話などをして過ごしました。
「んー…意外と疲れてますね〜…」
そうして結構な時間が経っていたので、そのカフェで解散してそれぞれの帰路に就き、私と兄様は揃って家への道を歩いています。
「テストも終わりましたし、またゲームをしていきますか!」
「俺もしばらくはログインしていなかったし、帰ったら早速やろうかな」
「カフェで悠斗が言っていましたが、このテスト期間の間にすでに、第二の街から行ける新しい街と港町までの攻略がされているらしいですよね」
実は先程のカフェで、悠斗がそのような情報をくれたのです。悠斗もテスト期間はログインしてなかったようですが、情報だけは集めていたみたいです。
「そんなことも言ってたな。じゃあ、次に一緒にやる時に皆で向かうか」
「わかりました!それまではスキルのレベル上げなどをして待ってますね!」
「ああ。俺もユニーククエストがあるし、もしかしたら少し遅くなるかもしれんが…」
「別にそんな急がなくても大丈夫ですよ」
早く行かないとダメではないので、私はそこまで気にしてきませんしね。新しい街には兄様たちと一緒に向かうので、それまでは口にした通り他のやりたいことなども済ませておきましょう。
兄様と会話をしながら歩いていると私たちの家に着いたので、扉を開けて中に入ります。
今の時刻は四時位なので、とりあえず夜ご飯の用意をしておきますか。
「私は先に夜ご飯の支度をしますね」
「わかった。俺は先にゲームでもしてるな」
「はい。ご飯は七時くらいにするので、それくらいには降りてきてくださいね」
その言葉に了承をしながら、兄様は階段を登って自分の部屋へと向かいます。
私も夜ご飯を作ったら、久々のログインといきますか!
「ここは……初期の街の広場ですか」
そうして夜ご飯も作り置きをしておいて、久々のログインです。
最後にログインしたのは一週間前である日曜日の午前中でしたし、いる場所は変わっていませんでした。
「レーナさんは…ログインしてますね。では、先に防具について聞いてみますか」
私は前に手に入れたレアゴブリンの素材を持っているので、それを使えると良いのですが…
そう考えながらも、私はレーナさんのお店へと足を動かします。…やはり周囲の視線が集まるのを感じますが、いちいち気にしてはあれなので無視します。
「悠斗が言っていましたが、明日の土曜日から第二陣が来るようだからか人が多いですね」
それに第二の街から先の新しい街でクランというのも作れるようで、それに第二陣を入れるためなのでしょう。まあまだ来てないので用意をしているだけでしょうけど。
ちなみにクランというのはプレイヤーたちが作れるギルドのような感じで、同じ目的を持って集まったプレイヤーで作られた組織のようなものです。そのクランによっては戦闘クラン、生産クランなど種類は様々にあるみたいです。
「いつかは、私もクランを作るか入るかしてみたいですね」
今のところは入る気はありませんが、一応の目標の一つですね。
そこからも周囲から向けられる視線を無視しながら歩いていると、レーナさんのお店の前に着きました。
私は早速中に入ると、カウンターにはレーナさんではなく店員さんが立っていました。なので、レーナさんがいるかを聞き、いるのならば呼んでもらえるかを頼むと、少々お待ちくださいと言って奥へと向かっていきました。
レーナさんのお店の中は前と同じく、ドレスやコート、洋服などたくさんの服が置いてあります。こうして見ると、私も今着ているゴスロリワンピース以外にも服が欲しくなりますね〜…
「お待たせ〜、レアちゃん〜」
お店の中を見渡していると、そのような声と共にレーナさんがやってきました。
「今日はどうしたの〜?」
「実は先週にレアモンスターから素材を手に入れていたので、それで強化などを出来ないか聞きに来たのです」
「なるほど、新しくレア素材ね〜、出来るかは素材を見てからかしら〜。それと最近はログインしてなかったみたいだけど、なにかあったの〜?」
「今週の平日に学校の期末テストがあって、それで勉強をずっとしていたのでログインはしてませんでした」
「なるほど、テストね〜」
私の言葉にそう頷いて納得しているレーナさん。まあテストはもう終わったのでこれからはまたゲームにログインしますけどね!
あ、それよりも素材を出さないとですね。
私はインベントリからレアゴブリンの素材である目と黒布を取り出してカウンターに並べます。
インベントリに入っている間はわからなかったですが、目と言ってもそこまで眼球のような見た目ではなく、アサシンゴブリンの瞳の色であった黒色をした宝石のような見た目をしているようです。
「あら〜、なかなか良さそうな素材ね〜!」
レーナさんは普段よりも少し興奮気味でそう言葉を発しています。
「どうですかね…?」
「これなら今のレアちゃんの装備とも似ているし、出来ると思うわ〜!」
おー!出来ますか!それはよかったです!では、さっさと装備を外して渡しておきますか。
「では、お願いしてもいいですか?」
そう言って私はゴスロリ装備から初期装備に変え、レーナさんへと渡します。
「任せて〜!出来たら連絡するから、それまでは待っていてね〜!」
「わかりました。では、私は行きますね!」
レーナさんはそれらを受け取ってインベントリにしまい、そう自信満々に返してきます。出来るのが今からもうワクワクですね!
私は別れの挨拶をした後、レーナさんのお店から出て次はアイザさんのところへ向かいます。
鉱石類は集めてから売っていませんでしたし、遅いですが渡しにいくのです。
あ、いま思いつきましたが、鉱石類は変換のアーツを使ったらどうなるのでしょうか?今持っているのは売りに行きますが、次に採掘してきたらゴブリンの布に分解アーツを使ってみるのと同時に試してみましょう!
そんなことを考えながらも歩いていると、アイザさんのお店に着きました。フレンドリストにはログインしていると書いてありますし、呼べば来てくれるでしょうか?
お店の中に入ると、レーナさんの時と同じでカウンターには店員さんが立っていたので、同じようにアイザさんを呼んできてもらいます。
「誰だ?って、なんだレアか」
「お久しぶりです、アイザさん」
お店の中を見て待っていると、そのような言葉を呟きつつこちらに歩いてきたアイザさんに、まずは挨拶をします。
「久しぶりだな、レア。で?なにかレアなものでも持って来たか?」
「もう知っている素材だとは思いますが、鉱石類を売りにきたのです」
「なるほどな。ってことは、クロム鉱石とかか?」
「そうですね」
私がそう答えると、取引メニューを申請してきたので今まで手に入れてきた銅、鉄、クロム、そして宝石の原石をそこに載せます。採掘した中で採れた石ころや土の石などは、特に使い道がないので載せてません。
「一人分にしては結構あるな。それにクロム鉱石が三個もあるな」
「今まで溜め込んでいた素材たちですしね」
「そうだな、これくらいの量なら……ざっと30,000Gくらいだな」
私はその値段に驚きます。せいぜい10,000Gくらいになれば良いと思ってましたが、それの倍以上もしています。
「そんなに高いのですね?」
「クロム鉱石は今のところ荒地でしか取れないうえに意外とレアだからか多くは出ないのに、使い道がたくさんあるから大量に欲しいしな」
なるほど、通りで高いわけです。私が採掘した中でもたった三個しか取れてませんでしたからね。
「そうなのですか……なら、また取ってきますか?」
「お、良いのか?」
「はい、特に用事もないですし、たくさん集めてきますね!」
兄様との予定はまだ未定ですし、ユニークスキルについてもソロさんに聞いてみたいですが、特に急いですることもないですからね。
「なら頼むな」
「任せてください!では、早速採掘に行ってきます!」
「おう、気をつけてな!」
そう言葉を交わしてから、私はお店を出て広場に向かいます。




