45話 ゴブリンと森
ひと段落した後、私たちは再び森の中を歩いていきます。
「レアモンスターであるゴブリンは見ましたが、普通のゴブリンはどのような感じなのでしょうか…」
「そういえばレアはまだこの森に来たことがなかったな」
そう呟いた私に対して、クオンが説明をしてくれます。
「この世界でのゴブリンは一般的にゲーム内で知られている姿と同じで、緑色の肌に醜い顔をして腰巻きのみを付けた感じのモンスターだ」
なるほど、ゲームでよく見るのとは特に違いはなさそうなのですね。まあ細かいところは狩りをしてれば出てくるでしょうし、その時に見ればいいですね。
「それとさっきのレアゴブリンのドロップアイテムとかは確認したのか?」
「あ、してませんでしたね。まあそれは後で確認することにします」
今は森の中ですしね、と続けて言います。ドロップアイテムを確認している時に襲われでもしたら面倒臭いですしね。そんなことは察知系のスキルも持ってますし、ないとは思いますが。
「それもそうだな」
私のその言葉に、クオンもそこまで気にしているわけではないのかそう会話を締めます。
「っと、クオン、アオイさん、前方からモンスターの気配を感じました。こちらにはまだ気づいていないようなので、少し隠れましょう」
そこからも森の中を歩いていると、常時発動している私の【気配感知】スキルと【魔力察知】スキルに反応があったので、二人へそう伝えます。
「わかった」
「オッケー!」
そして三人で横の木陰などに隠れて気配を殺し、そのモンスターが来るのを待ちます。
そしてこちらの視界へと入ってきたモンスターは、先程クオンが説明してくれた緑色の肌に醜い顔の人型、ゴブリンが三匹くらいで歩いてきていました。
ゴブリンたちはギャアギャア騒ぎながら歩いており、こちらに気づいた様子も見せないで隙だらけです。
確かにクオンの言っていた通り、腰巻きだけをつけて手には木の棍棒を持った身長120cmくらいの姿をしています。それに思ったよりも賢くはないようなので、先程のレアゴブリンとは違って苦戦はまずないでしょう。
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ゴブリン ランク F
森の中に生息しているゴブリン。
戦闘力も知恵もあまりないが、その分数が多い。
状態:正常
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鑑定結果でもそう出てますし、全然余裕そうですね。まあ油断はしませんが。
「ちょうど三匹いますし、それぞれ一匹ずつ倒しますか」
「だな。なら俺は右のやつをもらうな」
「じゃあ私は左の相手をするね」
「わかりました。では、私は真ん中で」
コソコソと隠れつつ小声で話してそう決め、私たちは三匹のゴブリンへと一気に迫ります。
「ギギャ!?」
私は剣や槍などのような近接武器ではないので、戦闘は私の銃声で始まりました。
即座に手元に出した双銃で真ん中にいたゴブリンの胸元を中心に五発の弾丸を連続で放つと、そのゴブリンはやはり弱いからか躱せず、全ての弾丸をその身に受けてポリゴンに変わっていきました。
両脇にいたゴブリン二匹はそれを見てまたもやギャアギャア喚いてこちらに視線を向けてます。…やはり、頭が悪いですね。
「ふっ!」
「はぁ!」
そんなよそ見をしているゴブリンたちは、私の横で一緒に接近していたクオンとアオイさんの放った斬撃と刺突を受けて、派手に血の代わりの赤いポリゴンを散らしながら、こちらも同じくポリゴンとなりました。
「…思ったよりも頭が悪いうえに弱いですね…」
「普通のゴブリンはそうだな。大体は数匹で固まって動いてはいるが、レアの戦ったようなレアモンスターとは比べものにはならないくらいの強さだからな」
まあレアモンスターですし、そこは納得です。あのレアゴブリンは隠蔽系の個体のようでしたし、もしかしたら他にも戦闘系の個体もいたりしそうですね?
「苦戦は一切しないですし、このまま狩っていきますか!」
「だな」
「そうだね、張り切って行こう!」
そうして私たちはゴブリンたちやたまに襲ってくる蛇や狼などの獣系のモンスターも狩っていきます。
そんな狩りをしている中、大体は普通のゴブリンでしたが、稀にレアモンスターほどではないですが強そうなゴブリンとも出会いました。
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ゴブリンファイター ランク F
森の中に生息しているゴブリンの中で近接戦闘の技術を覚えたゴブリン。
戦闘方法は剣や槍、格闘などその個体によって違うが、そこまでの強さはまだ持っていない。
状態:正常
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鑑定ではそのように出ました。このゴブリンは少し多めのゴブリンの群れと出会った時に一匹だけいたのですが、他よりも高い身長150cmくらいで体格もよく、錆びてはいますが鉄製である片手剣を持っていて戦闘力も他のゴブリンよりは強かったです。
周りにいた多数のゴブリンは私が即座に倒し、そのゴブリン相手はクオンとアオイさんに任せてみました。
レアモンスターの時は私のみが戦闘をして倒したからか素材は全て私だけにドロップしてしまったので、他よりもレアそうなこのゴブリンはその代わりとして渡すのです。
他よりも強いとはいえ、クオンとアオイさんも意外と強いのでそこまで苦戦はせずに戦ってました。私も軽くですが援護をして、最後にはクオンの振るった片手剣で首を飛ばされてポリゴンになりました。
ドロップアイテムは少しですが私にもきたので、そこは想定外でしたが良かったです。
「…?クオン、アオイさん、少しいいですか?」
「ん?わかった」
「またなにかを聞いたのかな?」
そして狩りをしつつ森の中を歩いていると、ふと何かの音が聞こえたのでお二人に伝えてから私は耳を澄ませます。
すると、微かに水の音が聞こえてきました。音からするに、おそらくは川でしょうか?
「川の音のようなものが聞こえてきたので、そちらに行ってみませんか?」
「川か、俺はいいぞ」
「私も大丈夫!」
「では、案内しますね」
了承を得たので、再び私の先導でその音のする方へと向かいます。
そして歩くこと数分で、その場所に着きました。
「ここは、もしかしてセーフティーゾーンですかね?」
「それであってそうだな」
「この森の中にあったんだね!」
そこは、森の中なのに開けておりそばに綺麗な川が流れている場所でした。このセーフティーゾーンはなかなか居心地の良い雰囲気を醸し出しており、綺麗な川から出るマイナスイオンがあってか心が安らぐ感じがします。
ちなみにセーフティーゾーンとは、そのエリアのモンスターが入ることの出来ない安全なエリアで、さらにHPとMPの自動回復も起こる場所のことなのです。
「いいタイミングだし、ここでこれまでの狩りでのドロップアイテムの確認でもするか」
「そうですね」
「確かに今が良さそうだね!」
クオンのその言葉に、私たちは自身のインベントリを開いてここまでの狩りでのドロップアイテムを確認します。
私がこの森で手に入れた素材は、今までも狩ったことのある狼や蛇などとほとんど同じ素材で、普通のゴブリンからは腰布と、少しだけですが極小の魔石も手に入れてました。腰布は正直いらないですが、魔石は初めて見ましたね!
二つとも鑑定してみると、腰布は一応布アイテムの一つらしく【錬金術】スキルの分解などをすれば綺麗な布に変えれるようです。そういえば分解のアーツは使ったことがなかっですし、今度試してみますか。
そして魔石については、手に入れられる中では一番小さくて品質もランクも最低ですが、鑑定での説明を見るに、魔力を持つので何らかの生産スキルで使えるようです。
この魔石というのは、ゴブリン以外にも魔力を多く持っているモンスターから取れるらしい素材らしいので、もっと強いモンスターからドロップすれば、それで武器や防具などのアイテム類をゴブリンの魔石よりも強く出来そうですね。
次にゴブリンファイターの素材ですが、こちらは通常ゴブリンと全く同じで上記の二つをドロップしてました。
最後は、お待ちかねのレアゴブリンの素材です!ドロップアイテムは三個あり、それらは目、黒布、短剣が手に入りました。ちょっと目とかはグロい感じがしますが、とりあえずこちらも鑑定をしてみます。
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アサシンゴブリンの目 ランク F レア度 一般品 品質 C
アサシンゴブリンから取れる魔力の籠った眼球。その眼球には闇属性の力があり、暗いところでもよく見える。
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アサシンゴブリンの黒布 ランク F レア度 一般品 品質 C
アサシンゴブリンが着ていた黒服に使われている布。強めの隠蔽効果を持ち、察知系の能力もある程度無効化出来る。
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アサシンダガー ランク C レア度 良品
ATK+15
AGI+10
耐久度 100%
・生命吸収 攻撃を与えた対象のHPを奪えるようになる。
アサシンゴブリンが持っていた黒色の短剣。その短剣は軽くて鋭く、切った者の体力を僅かに奪う効果を持つ。
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鑑定してみるとそのような説明でした。目と黒布は防具などの強化に使えそうですし、今度もう一度レーナさんのところにでも持っていって、今の着ているこのゴスロリワンピースの強化を出来るか聞いてみますか!
それと短剣もなかなかの強さがあるみたいです。私にはこの二丁の銃があるので使わない気がしますが、とりあえずはインベントリにでもしまっておきましょう。
よし、これでドロップアイテムの確認は済みましたね。クオンとアオイさんも確認は終わっているみたいで、何やらお二人で話していました。
「確認が終わりました」
「お、レアも終わったか」
「レアさんがもしよかったら、あのレアモンスターの素材について聞いてもいい?」
「いいですよ」
お二人に声をかけるとアオイさんからそんなことを聞かれたので、特に隠すことでもないですし鑑定での情報を伝えます。
「やっぱりレアモンスターの素材だし、結構強力なんだな」
「確かにそうだね!レアモンスターの素材は初めて聞いたけど、その強さなだけはあるんだね!」
「みたいです。前に倒したモンスターの素材とも少し似てますが、それよりも強くは感じます」
クオンの感想に私はそう返しつつ、素材に対して改めて思います。
今までにも何体か出会いはしてますが、やはりレアモンスターはどれも強力な力を持ってるようです。
ステルススネークは迷彩効果を、ブラックホークは飛行能力と隠蔽効果を、倒してはいないですが、食べる力を持つらしいピュアスライム。そして今倒したアサシンゴブリンは隠蔽効果に察知を無効化する力を持ってました。
どの個体の素材もそれぞれの力が残っているおかげで強い装備に出来ますし、これからももっと狩っていきたいですね!
「よし、じゃあ狩りの続きと行くか」
「わかりました」
「また頑張っていくよ!」
そう言葉を交わして、私たちは再びセーフティーゾーン内から出て森の中を歩いて出会ったモンスターたちを狩っていきます。
そこからも狩りを続けてふと懐中時計を確認すると、もう六時半近くになりました。
「クオン、アオイさん、そろそろいい時間ですし街に戻りませんか?」
「そうなのか?」
「はい、もう六時半です」
「おー、結構経ってたんだね!」
私が時間を伝えると、アオイさんはそう声を漏らしてます。まあ狩りに出たのが大体十二時半くらいでしたから、かなりの時間やっていましたしね。
「なら戻るか」
「はい」
「そうだね!」
そうして三人で森の中を歩きつつ、私の【気配感知】スキルと【魔力察知】スキルで出会うモンスターは極力避けながら街に向かいます。
そこから更に数十分近く歩いていると、森から出て第二の街の北の草原まで到着しました。
「よし、ここからはもう警戒をしなくても大丈夫だな」
「結構疲れたね〜」
そう呟いて少しだけ息を吐いているクオンとアオイさん。私?私は特に疲れてはいません。ゲーム慣れもありますが、レアモンスターやワールドモンスターならともかく、このくらいなら全然余裕です。
「レアは、この後はもう落ちるのか?」
「そうですね、テストも近いですしゲームばかりではアレなので」
「確かにテストもあるし、ずっとゲームをしていると成績が悪くなるしね〜」
私の発した言葉にそう同意を示すアオイさん。アオイさんも、この後は勉強をするようで落ちるみたいです。
「なら俺もちゃんとやるか…」
「クオンもしっかりと勉強をしたほうがいいですよ」
「わ、わかってるさ、はは…」
クオンは頭が悪いわけではないですし、ちゃんとやればいい成績は取れるのでしょうにゲームを長くやっているせいかそこまで高い成績ではないのですよね。まあ赤点では全然ないので、いいっちゃいいのですけど…
そんなことを話しながらも歩いていると、第二の街に着きました。
「では、私は落ちますね」
「同じく私も〜」
「俺も今日はもう落ちとくな」
「じゃあ、クオンはまた明日に。アオイさんも、また一緒に狩りにでも行きましょうね」
「うん!またね!」
そう言って、私たち三人は揃ってゲーム世界からログアウトしました。
私はログアウトした後にストレッチなどを済ませ、リビングに向かって夜ご飯を作り始めます。今日はまだ作ってなかったので、ご飯の時間は少し遅くなるかもしれませんね?
ちなみに、今作っている料理はカレーです。これなら手軽に作れますし、明日の分にも出来ますからね。明日は勉強を主にしようと思っているのでそこまで時間はかけたくないので。
「ふんふーん」
鼻歌を歌いながらも作っていると、なにやら扉を開ける音が聞こえてきました。そちらへ視線を向けると、兄様が入って来たようです。
「美幸はもう落ちてたんだな」
「はい、今作っているので、もう少しだけ待っていてください」
「わかった」
あとはルーを溶かして煮込むだけだったので、すぐに終わりました。簡単に作れますし、やはり市販のルーは手軽でいいですね!
「兄様、出来ましたよ」
「お、早いな」
私はお皿を取り出し、お米とカレーを盛り付けてからテーブルの上に並べます。兄様もすでに来てますし、いただきましょう!
「では、いただきます」
「いただきます」
そう言って私たちは食べ始めます。うんうん、今日のカレーも美味しいです!手軽に作れてこの美味しさ、やはりいいですね!
「美幸は今日何をしてたんだ?」
パクパクと食べ進めていると兄様からそう聞かれました。それに私は一度食べていた手を止めてから答えます。
「今日は同級生と会って一緒にに狩りにいってました」
「同級生か、悠斗ではなく?」
「悠斗もいましたが、他の人ですね」
「二千人だけなのに、よく同級生でいたな?」
私がそう答えると、兄様は少し驚いてそう返してきました。まあそうですよね、私と悠斗も同じく驚きましたもん。
「あ、それとまたレアモンスターを倒しましたね」
ふと思い出してからそう声を上げると、再び兄様は驚いて喉にご飯を詰まらせてました。だ、大丈夫ですか…!?
兄様は置いてあったコップの水で流し込み、なんとかなってました。な、なんだかすみません…
「…またレアモンスターを倒したんだな。今度は狼か?」
「いえ、ゴブリン系でしたね。アサシンゴブリンという名前で、隠蔽効果が強めの個体でした」
「ゴブリンにもいるんだな」
「ゴブリンは種類もいるみたいですし、鑑定の説明を見るにアサシンとは違うレアモンスターがいそうと感じましたね」
稀に生まれる暗殺者の力を持ったゴブリン、と書いてありましたし、他の力を持っているゴブリンも間違いなくいるでしょう。
「それと入手した素材は隠蔽効果と暗視効果を持っていたので、今度またそれで装備を強化してもらおうと思っています」
「美幸はそういう系の素材を多く手に入れるよな」
「たまたまだとは思いますが、そうなんですよね…」
私は何故か隠蔽能力を持つモンスターとよく出会うのですよね。まあレアゴブリンは私が最初に出会ったわけではないですが、結局は倒したのは私だけなので素材も私のみでしたし、そこまで違いはありませんけどね。
そうしてその後も会話を続けているとお互いに食べ終わったので、食器洗いは兄様に任せて私はお風呂や洗濯を済ませてきます。
それらを終わらせるとすでに八時になっていたので、九時までは勉強をして時間になったら片付けをしてからベッドに横になって就寝とします。おやすみなさい。




