44話 森の暗殺者
「挨拶も済んだことだし、狩りにでも行かないか?」
「いいですね、そうしましょう!アオイさんはどこに行きたいとかはありますか?」
「それなら、第二の街の北にある森に行かない?」
北の森ですか。そういえば、私は今まで東の大森林にしか行ったことがなくて、南と北にあるらしい森には一切行ってませんでしたね…
「…私、まだそこには行ったことがなかったですね」
「そうなのか?ならちょうどいいし、この三人で行くか」
「そうだね!じゃあ行こうか!」
「わかりました」
私たちはまず行き先を決めてからフレンド交換を済ませてパーティも組み、今いる街から第二の街へ転移を行って転移が完了後はそのまま三人で固まって北へと向かいます。
「聞いてませんでしたが、アオイさんはどんな武器を使うのですか?」
北の森に向かっている道中で私はそう聞いてみます。北の森までの道の草原でも西や東と同じく子豚や鶏が存在しており、こちらへ襲ってはこないのでゆっくりと歩けます。
…いつか狩ろうと思ってましたが、襲ってくるタイプではなかったからかまだ鑑定も狩りもしてませんでしたね。まあそれはいつかにやりますか。
「私は槍を使っているの!」
そう言って取り出したのは、銀色をした長めの槍です。その槍は私よりも大きい一メートル半近くはあるように見えます。
「槍ですか。やっぱり槍なら離れて攻撃が出来るのですかね?」
「そうだね、距離をとりながら攻撃が出来るから、結構安定した戦いが出来るんだよ!」
槍使いはあまり見たことがありませんでしたが、思ったよりは使いやすそうなのですかね?
そうした会話をしながら歩いていると、北の森の入り口辺りに着きました。
確か図書館で見た本の内容では、獣系だけではなくゴブリンなども出ると書いてありましたね。ゴブリンはまだ出会ったことはないですが、そこまで苦戦はしないでしょう。
「よし、行くか」
「うん!」
「はい」
私たちはここからは気合を入れ直し、北の森へと入っていきます。
北の森は東の大森林とは違い、木々は生い茂ってはいますがそこまで鬱蒼としておらず、木漏れ日も差し込んでなかなか見やすい感じの森林となっています。
こちらは東の大森林よりは広くはないようですが、初期の森と比べればかなりの大きさを誇っている森となっています。
それとこの森はマップを見るに『ゴルブレン森林』という名前のエリアのようです。では、早速狩りと行きましょう!
そうして私たち三人は森の中に入って歩いていると、まず初めに出会ったのは東の森にもいたハイウルフの群れです。数は六匹です。
今は三人パーティですし全員が近接戦闘を出来るので、それぞれ二匹ずつヘイトをとって戦い始めます。
私はまず担当の二匹に向かって取り出した双銃で弾丸を撃ちます。それは普通に躱されましたが、こちらにヘイトを向けさせたのでオッケーです。
その二匹の狼たちはこちらへ縦に並んだ状態で前進し、前にいた狼はそのまま胴体に噛みつこうとしてきたので、私はそれを横に一歩踏んで回避してガラ空きのその頭を蹴り上げて怯ませます。
「キャウン!?」
蹴られた狼は怯んでいますが、その隙にもう一方の狼も同じように、今度は私の足目掛けて噛みつきにきました。
ですが、それも不規則なステップで回避して、こちらにはお返しとして頭へ弾丸をプレゼントします。
弾丸は正確にその頭を貫き、狼をポリゴンに変えます。もう一体の狼もその間に正常に戻ったようで、今度は鋭い爪で切り裂こうとしてきました。
私はそれに慌てず、振るわれた爪の軌道を読んで紙一重で回避して、それに驚いているらしい狼の頭に弾丸をお見舞いします。
「よし、こちらは片付きましたね。クオンとアオイさんはどうでしょうか」
ポリゴンへと変わっていく狼を尻目に、私はお二人の戦っている方へ視線を向けます。するとクオンはそのタイミングで倒し終わったようで、アオイさんもそこまで苦戦はしておらず、こちらももう終わるところでした。
「せぃ!」
そんな掛け声と共に放った槍の刺突は生き残っていた狼のお腹を貫いて、こちらもポリゴンへと変えました。
「ふぅ…」
「アオイさん、お疲れ様です」
「ありがとう、レアさん!二人は倒すのが早いね!」
「まあ今までのゲーム歴が長いですし、このくらいは簡単ですよ」
私はそう返し、ドロップアイテムの確認をします。倒したのは東の大森林と同じのモンスターなので、特に変わった物は手に入れてませんね。
「やっぱり、バトルフェスの時に本戦に出てるだけはあるね〜……私とは大違いだよ…」
「アオイさん、レアは普通の人とは違って才能が飛び抜けているから、そこまで気にしなくても大丈夫だぞ」
む、なにやら失礼な言葉が聞こえてきましたね!
「私は別に普通ですよ?」
「いや、あのカムイさんともあんだけ戦えるレアが普通はないから」
そうジトーっとした視線を向けてくるクオン。それに私は頬を膨らませつつも納得します。確かに、あれだけ戦えていれば普通ではない……のかもしれません…?
それに、イベント後に兄様から近接戦闘を教えてもらいましたし、今度はカムイさんとも日曜日に特訓をしますから普通のプレイヤーとは強さについてはズレていそうです。
「ま、まあそれは良いとして、散策の続きといきましょう!」
「ふふ、わかったよ!」
アオイさんからも微笑ましいような笑われてしまいました。うぅ、恥ずかしいです…!
そこから再び歩き始めた私たちですが、数分間歩いていると何やらギャアギャアとした声が聞こえてきました。もしかして、本に書いてあったゴブリンたちの声ですかね?ですが…
「言い争っているような声がしますね」
「ん?俺には微かに聞こえるくらいで、判別は出来ないな」
「私もわからないね…」
お二人にはそこまでハッキリと聞こえはしていないようです。あ、もしかして、私が狼人族だからでしょうか…?
「とりあえず、行ってみませんか?」
「そうだな……何かトラブルがあったのかもしれんし、向かうか」
「私もそれで問題ないよ!」
私たちはそう決め、音が聞こえている私が先導してその音の発信源へと移動して行きます。
そうしてさらに向かうこと数分で、その場に到着しました。
「…だから、本当なんだって!」
「嘘をつくな!ならなんであいつが死んだんだよ!」
そこには、そう言い争っているプレイヤーらしき男性三人と女性一人がいました。
「あの、どうしましたか?」
「あ、おい!」
私はそこへ近づき、そう問いかけます。クオンは言い争っているプレイヤーに対してなにやら考えていましたが、私が話しかけたことで、仕方ないな、というような顔で一緒についてきました。そんなクオンの後ろにはアオイさんもいます。
「あ?って、【時空姫】!?」
「え、本物!?」
話しかけた私へと、その言い争っていたプレイヤーがこちらを振り向いて驚いた感じでそんな言葉を発しました。
「【時空姫】?」
私が思わずそう聞き返すと、隣にいたクオンが説明をしてくれます。
「レア、それは掲示板で言われているレアのことだぞ」
「私、そんな風に呼ばれているのですか…!?」
なんだか、少し中学生の頃を思い出して恥ずかしく感じますね…
「それは置いといて、何があったんだ?」
そんなほんのり頬を染めて恥ずかしがっている私を放置し、クオンはそのプレイヤーたちに何があったかを問いかけています。
「あ、ああ、実はな…」
そう言って話し始める男性プレイヤーの一人。
そうして話を聞いた感じ、どうやらここにいるプレイヤーたちで即席のパーティを組んでいたようなのですが、一人の女性プレイヤーがなんの前触れもなく殺されて街に戻ってしまったようなのです。
それに近くにいた男性プレイヤーが短剣を持っていたことから、その人が女性プレイヤーをPKしたと思ったらしいです。
「だからこいつを問い詰めたんだが、いつまでもしらを切っているんだ」
「何度も言っているが、俺はPKはしてないって言ってるだろ!」
なるほど、それが言い争いの理由ですか。というか、頭の上のマーカーを見ればその人がPKをしたかはわかるはずですが、それを言わないということはゲーム初心者なのですかね?
ちなみに、その疑われている男性プレイヤーはマーカーは青なので、PKはしていないと把握出来ます。
「理由はわかりましたが、その男性はおそらくはPKをしてませんよ?」
「なんでそんなことがわかるんだよ!」
「それは頭の上に視線を集中するとわかりますよ」
私の言葉に、他の三人のプレイヤーのみなさんはその人の頭上を見つめます。
「…なんか、青いマーカーが見えるな」
「それが、その人がPKをしていない証ですね」
そして知らないであろう皆さんに、マーカーの色に関しての説明をします。
「そうだったのか……疑ってすまなかった!」
「いや、誤解も解けたのならそれでいいよ」
「けど、じゃあなんで突然死んじゃったのかな…?」
PKではないとわかったからか、一人の女性プレイヤーがそれを疑問に思っているようです。
「それについては簡単です。そのプレイヤーはほかのプレイヤーではなくてモンスターにやられたのですよ」
「モンスターって……周りには特にいなかったぞ?」
「いえ、いますよ。それに、今もこちらを見ています」
「なっ…!?」
私のその言葉に四人のプレイヤーは周りを警戒し始めますが、それは見つけられていません。
「クオン」
「わかってる」
クオンに一度声をかけてから私は両手に銃を呼び出し、先程から【第六感】スキルの反応している地点へと弾丸を放ちます。
「グギャァ!?」
それ目掛けて放った弾丸は、油断していたようだがなんとか直前で気づいたのか、その攻撃で透明化が切れて顕になった深緑色の肌をした人型モンスターであるゴブリンの顔を掠め、背後の森の中へ飛んでいきました。
「ご、ゴブリン…!?」
「けど、あれはなんか普通のと違くない…?」
そう声を漏らしている人の言ったように、そのゴブリンは影に潜むためか黒色の服を着て、同じく黒色の短剣を装備した身長150cmくらいの見た目をしています。
私は普通のゴブリンはまだ見てないですが、それでも普通とは違うだろうというのはわかります。
「クオンとアオイさんはこの人たちの守りをお願いします。私はあれを倒してきます」
「任せとけ」
「レアさん、気をつけてね!」
そんな声を背後に受けながら、私はそのゴブリンへ接近していきます。
「ギャギャッ!」
ゴブリンは自身に近づいてくる私に狙いを決めたのか、腰元に下げていた武器と同じく黒色をした小さめの投げナイフを手に取り、こちらに飛ばしてきました。
私はそれを手元に持っていた左の短銃で弾き、右手の長銃でゴブリンの頭、胸、腰にと連続で弾丸を撃ち返しますが、ゴブリンはそれを空中に跳んで回避し、その勢いのままに逆手に持った短剣を振り下ろしてきます。
それはゆらりとした動きで回避して、反撃として右足を軸に左足で蹴りを放ちますが、その反撃に対してもバク転をして距離を取られて回避されます。
このゴブリンの動きはエリアボスのハイリザードマンよりもかなり正確なので、この強さからするとやはりレアモンスターの感じがします。それに二個目のエリアだからか、前に戦ったブラックホークよりも強さがあって簡単には倒せる気はしません。あ、そういえば鑑定をしてませんでしたね。早めにしておきましょう。
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アサシンゴブリン ランク F
森の中に生息しているゴブリンの中でも稀に生まれる暗殺者の力を持ったゴブリン。
その技術は熟練の暗殺者と同じくらいの力を持つ。
状態:正常
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やはり、レアモンスターですね。このゴブリンはその中でも暗殺者スタイルのようだからあのプレイヤーの皆さんは気づかなかったのでしょうね。
「ギャギッ!」
あちらも警戒をしていたのかこちらを離れた状態を保ちつつ観察してましたが、そんな声と共に再びそのゴブリンの姿が見えなくなりました。
「本当に消えた…!?」
そんなアオイさんの声は気にしないで、私は神経を集中します。
【気配感知】スキルと【魔力察知】スキルには反応がありませんが、【第六感】スキルには感じ取れます。それに、姿と気配、魔力は隠せていますが、布の擦れる音や僅かな息遣い、殺気などは完全には消せていないようなのでそこまで苦戦せずに場所は特定出来ます。
そして私の背後に回っているらしきゴブリンが透明化をしたまま一気にこちらに踏み込んできて、その黒い短剣を私の首元へと振るってきます。
「〈第二の時〉!」
私はそれを地面に深くしゃがんで避け、まさか躱されるとは思っていなかったのか一瞬だけ動きが止まったそのゴブリンへ、左手の短銃でユニークスキルの武技を撃ち返して動きを遅くします。
「ギギャッ!?」
そして撃たれたことによって透明化が切れ、姿を現したゴブリンのその足元へ、今度は蹴りを放ちます。
「ギャッ!?」
ゴブリンは遅くなっているせいもあってか、私の蹴りは躱せずに受けて派手に転倒しています。
「終わりです、〈第三の時〉!」
蹴られた衝撃で転び怯んでいるゴブリンに、トドメとして再びユニークスキルの武技をその頭に撃ち込みます。
その攻撃は躱されず、ゴブリンの頭蓋を正確に撃ち抜いてポリゴンへと変えました。
「よし、片付きましたね」
私は軽く息を吐いて、そう呟きます。
今回のレアモンスターは隠蔽効果持ちでしたが、【第六感】スキルとスキルに頼らない察知技術のおかげもあって、意外と苦戦はしないで倒せましたね。おそらくは隠蔽効果の強いレアモンスターのようでしたから、戦闘力に関しては低めだったのでしょう。
「凄いな、そんな簡単に倒せるなんて!」
「トップのプレイヤーはこんなに強いんだね!」
「そうだな!さすが【時空姫】だぜ!」
「その【時空姫】って言うのは恥ずかしく感じるので、出来れば名前で呼んで欲しいですね」
プレイヤーの皆さんの声に思わずそう返してしまいましたが、興奮して特に気にしてくれていません。…まあ、いいんですけどね。二つ名みたいなのは今も残っているこの厨二心が擽られてカッコ良くは感じますが、やはり恥ずかしいです。
「これで問題は全て解決ですかね?」
「みたいだな」
「【時空姫】もありがとう!」
「お陰でなんとかなりそうだよ!」
「じゃあ俺たちはもう街に戻って、死んじゃった奴のところに向かうな!」
「はい、ではお気をつけて」
そうして言葉を交わした後、四人のプレイヤーは私たちとは別れて街へと戻っていきます。
「初めて生で見たけど、凄かったよ!」
「アオイさんもありがとうございます」
四人が去った後にアオイさんからそんな声をかけられました。アオイさんは目を輝かせて言ってきますが、そこまで凄いですかね?
カムイさんとの試合ならともかく、このくらいなら特に緊張しないで戦えますから、凄いと言われてもあまり実感がありません。
「では少し寄り道になりましたが、狩りの続きと行きましょうか」
「そうだな、行くか」
「わかった!今度は私の腕前を精一杯見せるよー!」




