40話 VSサルファ
「話はこのくらいにして、早速するか!」
「そうですね、始めましょう」
そうしてお互いに少しだけ距離を取り、赤色の草原の上で準備をします。
「じゃあ、このコインの落ちた合図で開始にするぞ?」
「わかりました」
サルファ君はコインを指で弾いて空へと飛ばし、私たちはそれが落ちるのを戦闘の構えをして待ちます。
そんな中待つこと数秒、コインが草原に落ちた音がこの空間内に響き、それと同時に私たちは即座に動き始めます。
「〈クイックバレット〉!」
「〈火よ〉!」
開始と同時に撃った高速で飛ぶ弾丸は、サルファ君の両手に出した炎で相殺されます。
「〈放て〉!」
サルファ君はお返しとばかりに今度は火球を連続で放ってきました。
次々と飛んでくるそれを、私は不規則に動いて回避していき〈スプリットバレット〉を撃ち返します。
「〈纏え〉!」
五発に分裂した弾丸はサルファ君に当たると思ったら、拳に火を纏いその炎で無効化されました。
「さあ、行くぞ!」
そう言って無数の火球を飛ばしながらも、こちらへと前進してくるサルファ君。
私は飛んでくる火球をゆったりとした動きで回避しつつ、こちらからも無数の弾丸を乱射します。
しかしそれらの殆どは、先程から纏っている炎の拳で相殺されてなかなか攻撃を当てられていませんね。
「〈炎の拳〉!」
そうしてヒラリヒラリと回避しながらも弾丸を撃っていましたが、ついには拳の届く範囲にまで踏み込んできて、そのまま炎の拳で右ストレートを放ってきました。
それを私は焦らずに回避して、追撃として打ってきた左の拳も身体を僅かににずらして回避します。
そして左の短銃で弾丸を撃つかの様なフェイントを入れて、そちらに気を取られていたサルファ君の足元へと蹴りを入れて転ばします。
「ちっ…!」
その転んだ瞬間にサルファ君に右手の長銃で弾丸を放ちましたが、それは一瞬だけ全身が激しく燃えた炎によって無効化され、その炎を纏って少し離れたところへと跳躍して離れると、そのタイミングですぐに全身の炎は消えました。
「やっぱり、火の精霊なだけありますね」
「そういうお前こそ、なかなか強いな!これは楽しいぞ!」
「言ってませんでしたが、私はお前ではなくレアという名前です」
「おお、そうか!じゃあレア、続きと行くぞ!」
サルファ君はこちらの反応を気にしないで、再び私へと突進してきます。
「全く、戦闘狂ですか…!」
私は先程と同じ様に、しかし今度は時間差を置いたりした弾丸も混ぜながら無数の弾丸を撃ちます。
不規則に撃っているおかげか先程のように簡単に踏み込めないようで、飛んでくる弾丸を拳の炎で逸らしたり弾いたりしつつ回避もしていますが、徐々に弾丸が身体を掠っている様でダメージが入っていってます。
「なら…〈吹き飛べ〉!」
攻めあぐねていたからか、サルファ君はそう言って新たな武技を使用します。その武技は周囲に炎の衝撃波を放つ技のようで、乱視していた無数の弾丸は全て弾き飛ばされ、私自身にも衝撃波が飛んできてそのまま後方へと飛ばされてダメージを受けました。
「…やはり防御力が低いので。今の攻撃でも結構ダメージが入りますね…」
チラリとHPゲージを確認すると、今の攻撃だけで八割近くまで減らされていました。それに炎の攻撃のせいか少しだけ肌がヒリヒリします。
「少し距離が離れていたから、そこまで深くダメージを与えられてなかったようだな」
「いえいえ、それでも結構痛かったですよ」
「そうか?なら、もっとギアを上げていくぞ!レアはユニークスキルを持っているんだろ!?ならそれを使って見せてくれ!〈纏い覆え〉!」
そう新たな武技らしき言葉を叫ぶと、サルファ君は拳だけではなく、足や身体などの全身にも赤い炎を纏い始めます。
「では、私も行かせてもらいます!〈第一の時〉!」
私も自身にユニークスキルの武技を撃って動きを加速させ、再びこちらに前進してくるサルファ君には、そのスピードを生かしてヒラリヒラリと舞うかのようにフェイントを入れながらステップを踏みつつ動き、無数の弾丸を撃ちまくります。
それらをサルファ君は全身に纏っている炎を盾にしたり拳で打ち壊したりしつつ、私へ迫ってきます。
「普通の物理攻撃なら炎で無効化出来るんだが、魔力が宿った攻撃だからなかなか踏み込めないな…!」
思わずと言った様子でそう呟くサルファ君は、そう口にした通りなかなかこちらへと辿り着けていないのです。
「なら…〈疾れ〉!」
私がずっと〈第一の時〉を自身に撃って加速しているから追いつけないと感じたのか、全身に炎を纏うのをやめ、更に新たな武技らしきものを使用して足に炎を纏うと、サルファ君自身も一気に加速してきます。
急に加速したせいでほんの一瞬反応が遅れて出来た弾幕の隙間を潜り抜け、サルファ君は一息に踏み込んできました。
「〈炎の拳〉!」
そして再びの炎を纏った拳を連続で放ってきますが、私は不規則な動きで回避先を読ませずに、しかしこちらはサルファ君の動きを読んで無駄に気負わずにゆったりとした動きで回避をして、近距離から両手の銃で弾丸を撃ち返します。
「〈防げ〉!」
私が撃ち返した無数の弾丸を、サルファ君は呼び出した炎の壁で全て防ぎます。しかし、それではこちらを視認出来ませんよね?
「〈第七の時〉」
そのタイミングで呼び出した分身を、炎の壁を右から回り込ませて動かし、その間に本体である私は【気配希釈】と【魔力隠蔽】を意識して使い、少しの間を置いて左から回り込みます。
分身の視界からは、分身の方を見ているサルファ君を確認出来ていて、見事に騙されています。
分身には、自身に〈第一の時〉を撃たせて動きを加速させながら気を惹きつけさせ、その間に隠れてサルファ君の背後へと移動してから本体の私にも〈第五の時〉、そして〈第一の時〉を撃ち込んで一気に加速し、その背中に蹴りを入れます。
「ぐっ…!?」
その攻撃には気づかなかったようで、サルファ君はその衝撃によって前方へと吹き飛びます。さらにそこへ前方の分身と後方の私から〈第三の時〉を撃ちますが、それはなんとか身体を逸らしたようで躱され、そのままの流れでサルファ君の前方に立っていた分身は炎を纏った手刀で切り裂かれて消えてしまいます。
「分身だったんだな…!騙されたぜ…!」
「今ので決めるつもりだったんですけどね」
「まだまだ!もっとレアのことを知らせてくれ!」
そう言って先程のように足に炎を纏い、一気に踏み込んできます。
私は〈第一の時〉を自らに撃って加速し、それに対応します。
「おらおら!〈炎の腕〉!」
私は高速で前進してくるサルファ君の動きを予測しつつ無数の弾丸を撃ちますが、それに対して腕を連続で振り抜き、両手に纏っていた炎を振った腕の軌道をなぞる様に放たれる斬撃で私の攻撃を相殺しつつ、こちらへと飛ばしてきます。
私はそれを前と同じくゆったりとした動きで回避しながら更に弾丸を撃ってましたが、サルファ君はある程度のダメージは覚悟したのか、極力は両手の炎で防いだり逸らしたりしながらも強引に突っ込んできます。
「〈焼き尽くせ〉!」
そして更に腕を振るったかと思えば、いきなり扇状に炎の波が飛んできたので、私は再び〈第一の時〉を自身に撃ち、炎の波の範囲には入っていなさそうなサルファ君のすぐそばへと滑り込みます。
「そっちから近づいてくるなんてな!〈纏い覆え〉〈走り去る〉〈炎の拳〉!」
そう言って連続で武技を使用して全身に炎を纏い、更に拳と足にもより強く纏い、近づいてきた私に炎を纏った拳と足を使って連続で攻撃をしてきます。
それらは先程よりもかなり早くて鋭く、〈第一の時〉を使用していてもなんとか紙一重で躱せるくらいで、ゆらゆらとフェイントを混ぜた不規則な動きで回避先を読ませない様に動いたり、武器である両手の銃で受け流したりする事でなんとか軽く身体に傷をつけられる程度で捌くことが出来ています。そんな攻撃の嵐の中でも私は一瞬の隙を見つけてサルファ君に自ら接近し、ゼロ距離から〈パワーショット〉を撃ちます。
「…っ!」
サルファ君はその攻撃でダメージを負ったせいか少し怯みましたが、すぐに立て直して強引に私のお腹へと足を振り抜いてきたので、それを後方にステップをしてなんとか回避しますが、完全には躱し切れずに軽くお腹辺りに掠ってHPが一割ほど削られます。…チラリとサルファ君の方のHPゲージを見る限り、あの大蛇よりかはマシですが、結構攻撃したはずなのに弱点に当てていないからか全然減っていませんね。私自身は今の攻撃に軽く当たったくらいで一割近くも削られて、これまでの攻防のせいで残り五割くらいですのに…
「ファムの言っていた通り、かなり面白いな!この俺とここまで戦える相手は久々だぜ!」
そう言って蹴った後の姿勢を戻した後に、サルファ君はそう言葉を発します。
「そうなんですか?」
「なんせ俺は、精霊の国の中でもかなりの強さを持っているんだからな!」
確かに、サルファ君の強さは今まで相手をしてきた中でもかなり強い方ですし、もし兄様やカムイさんと戦っても普通にいい勝負で、本気を出していれば勝つことも出来そうなくらいですもんね。もし私が兄様との特訓をしていなかったら、おそらくはすぐにやられていたでしょう。
「楽しい時間だったが、そろそろ終わりにしてやるぞ!〈纏い尽くし〉〈焼き払う〉〈火の精霊〉!」
次々と武技を発動し、これまでよりも更に激しく燃え上がる炎を纏うサルファ君。これが全力とは思いませんが、それでも今の私よりは遥かに強いのはわかります。
「…なら、私も切り札を使うしかありませんね」
そう小声で呟き、両手の銃をしっかりと持って構えます。
「…〈焼き貫け〉!」
そして右手を後ろに構えて纏っていた紅蓮の炎を拳に収束し、その状態で一瞬の内に私へと踏み込んできます。
「…〈第一の時〉、〈第十二の時〉!」
私は動きを加速させてなんとかそれに反応をして、切り札である〈第十二の時〉を撃ち込み、三秒間だけサルファ君の動きを止めます。
時を止めている間に横にずれ、攻撃の軌道から逸れてからサルファ君の両腕と両足を一息に撃つと、そのタイミングで時が動き始め、先程まで私がいた地点を巻き込みながら一気に炎の拳を突いて、紅蓮の業火が一直線上に焼き尽くしました。
「な、ぐっ…!?」
その一撃を躱されたのと、両腕と両足が撃たれたことによるダメージで驚いていますね。まあ強さの差があるせいかHPはほとんど削れてませんし、精霊だからなのか撃ち抜いてもまだ余裕で動けるみたいですが。
「はは、まさか躱されるとは思ってなかったぜ…!」
そう言いながら、サルファ君は両腕を広げながらこの草原に寝転がります。どうやら試合は終わりの様なので、私は武器である双銃をインベントリに仕舞って寝転がっているサルファ君の元へ歩いて向かいます。
「それでも、今の私じゃ攻撃を回避したりするのは出来ましたが、ダメージを与えるのは殆ど厳しかったですよ」
「まあステータスの差があるし、それが普通だぜ。それにレアって異邦人らしいよな?」
「そうですね」
「なら、なおさら仕方ないぜ。俺はこう見えても二百歳を超えているくらいだしな!」
「…ファムちゃんもそうでしたが、精霊は皆さん、そう…幼なげな見た目をしているのですか?」
サルファ君の歳を聞いて、思わずそう思って聞いてしまいました。しかし、それに特に悪い感情は感じていないのか、寝転がりながらも答えてくれました。
「まあ大体はそうだな。俺たちのような幼めの姿が主だが、他に大人の姿や幼児の姿に、なんなら人ではなく獣型の精霊もいたりもするな」
なるほど、要はその人によって姿の個性があるのですね。私が出会ったお二人がたまたまそう言う姿なだけだったみたいです。
「あ、それと俺たちの主人である精霊王様も、大人っぽい男性の姿をしていたぞ!」
精霊王様、ですか……精霊たちの住んでいる都市らしいですし、そこの主人らしき精霊たちの王様もいるようです。まあ考えても会えたりはしないですし、今はいいですね。
「さて、試合は終わったが…」
「試合は終わりましたし、これ以上はもう疲れているので続きはしませんよ?」
「わ、わかってるわかってる…!」
そうジトーっと見つめていると、サルファ君は視線を横に逸らします。…まあ、わかってるみたいですし、これ以上はいいですね。
「試合を通じてわかったが、やっぱりレアは面白いやつなのはわかったぜ!」
「別に私は、そこまで面白い人物ではないと思いますが…」
面白いやつと言われても、こんな私なんかよりももっと心も綺麗で楽しげな人もいるとは思います…
「自己評価が低いんだな。過去に何があったかは俺にはわからないが、レアは十分自信を持っても大丈夫だと俺は思うぜ!」
「…まあ、そう言われると少し嬉しいです」
流石に出会ったばかりの方に言えることでもないですし、これ以上は空気が重くなってしまいますから終わりにしましょうか。
「それで、私への用事はこれで終わりですか?」
「ああ!こうして会って話して試合もして、久々に楽しかったぜ!」
そう言って屈託の無い笑顔を浮かべるサルファ君。少しだけ疲れましたが、私自身もなかなか楽しめましたね。
「では、私はもう戻らせてもらってもいいですかね?」
「そうだな!じゃあ元のエリアに戻るか!」
そして来た時と同じように私たちの足元へ魔法陣を生み出し、それから光が溢れて転移が起こります。
「…よし、戻ってきたな」
光が収まると、そこは元いた場所である職人都市の小道でした。
「じゃあ、今日はありがとな!」
「いえ、大丈夫ですよ。では私はもう行くので、これでお別れです」
「おう!…あ、そうだ!」
サルファ君はふとなにやら思ったのか、そう言って手を叩いた後に私へとその小さな両手を向けてきます。
「ど、どうしましたか…?」
「待ってな、すぐ終わるから!」
その動きに私は思わずそう問いかけますが、そう返事を返してきたので不安になりながらも待つことにします。サルファ君は悪意を持って何かしてくる様ではないですし、大丈夫……なはずです…!
そして数十秒その状態で待っていると、なにやら温かいものが身体に流れ込んできました。
『称号〈火霊旅騎士の魔印〉を獲得しました』
すると、何やらそのようなシステムメッセージが流れました。称号を獲得したみたいですが、この温かい何かのおかげでしょうか?それに、サルファ君は火霊旅騎士という職業らしきものについているようです。
「これは何ですか…?」
「ふぅ…これはな、俺が認めた者の証でもある魔力の印だ!これがあれば、もし俺たちの国に来ても大歓迎されること間違いなしだ!」
なるほど、つまりはパスポートみたいなものですかね?いつかは精霊の国にも行けるでしょうし、それまで待っていますか。
「よし!これでやることは済んだぞ!」
「分りました。では、今度こそお別れですね」
「そうだな!俺は基本精霊の国にはいないでこの世界を旅しているから次にどこで会えるかはわからないが、またどこかで会おうな!」
称号にも旅騎士とも書いてありましたし、そういう性格なんでしょう。サルファ君も言ってますが、またどこかで会えると良いですね。
「はい、またどこかで」
「おう!じゃあなー!」
そう言って足を曲げて空へと跳び上がり、ピューッと音がするかの様に向こうの空へ飛んでいきました。
「…精霊は、ああやって飛ぶことも出来るのですね」
そんな飛んでいく姿を見送りながら、私はそう言葉をこぼします。空を飛べるのは結構楽しそうですし、私もしてみたいですね…




