39話 湿地のエリアボスと再びの精霊
「クラフターオーブとはなんですか?」
「それはね〜、作ったものに使うとそのアイテムの性能が上がるっていう効果のあるアイテムなのよ〜」
私が不思議そうに聞くと、レーナさんはそう説明をしてくれました。なるほど、性能を上げるですか。
「けど、一度しか使えないからすぐには使わなそうだけどね〜」
さらにそう続けて説明もしてくれました。確かに、何度も使えたらぶっ壊れアイテムになるでしょうし、それは仕方ないですね。
「じゃあ、この装備たちは早速修理させてもらうわね〜」
「はい、お願いします!」
「修理だからすぐには終わると思うけど〜、他の注文もあるし、直し終わったらメッセージを送るわね〜」
「わかりました!では、私は狩りにでも行ってきます!」
「は〜い、いってらっしゃい〜!」
では、と言って私はレーナさんのお店を出ます。そしてお店を出た後は一旦腰にある懐中時計を手に取り、時刻を確認します。
「今の時刻は、五時二十分くらいですか。時間もありますし、今日は湿地のエリアボスでも倒しに行きましょうかね」
一人だけだと、勝てるのかどうかわからないんじゃないか?と思う人もいるでしょうが、前にスマホで見た情報では湿地のボスは単体だけなうえに特殊な行動も特にないらしいので、スキルや戦闘技術も育っている今の私なら全然行けそうだとは思うのです。
「では、出発です!」
装備はまだ直っていないので初期装備のまま、私は湿地を歩いていきます。
襲ってくるモンスターたちは軽く倒し、素材もちょこちょこ採取しながらエリアボスのいるエリアまで向かいます。
「ここから、ですかね…?」
歩き続けること数十分、私はボスエリアらしきジメジメしていますが開けている場所の手前に着きました。
「アイテムは特に使ってませんし、大丈夫ですね」
アイテムや装備などを軽く確認してから気合を入れ、そのままボスエリアへと踏み込みます。
すると、ボスエリアの奥に流れていた大きめの川から突然二メートルくらいはありそうな一体のリザードマンらしきモンスターが飛び出してきました。
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ハイリザードマン ランク F
湿地や水辺などに生息しているリザードマン。
お手製の武器を手に持ち、強力な尻尾で攻撃もしてくる。
状態:正常
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鑑定にはそう出ました。鑑定前からも見てわかりましたが、武器持ちの様です。武器は反りが付いている曲剣と丸い盾を装備している様ですが、尻尾もあるのでただの対人と思っていたら痛い目に遭いそうですね。
「よし、行きますかっ!」
まずは特訓の成果を確認するためにユニークスキルは使わず、武器を手元に取り出して両手に構えた銃から無数の弾丸を撃ちまくります。
それに対してリザードマンは、左手に持っている丸盾で大半の弾丸を防ぎながらこちらへと突撃してきます。
私はそのまま撃ち続け、その弾丸の中に紛れさせつつ盾で隠せていないリザードマンの足元へ弾丸を放ちます。撃った弾丸はしっかりとリザードマンのふくらはぎ辺りに当たり、ダメージを与えています。しかし、こちらへ向かってくる足の動きは止めていません。
そうして銃で攻撃をしてダメージを与えているとリザードマンが剣の間合いに接近してきて、右手に持つ曲剣を振るって切り裂こうとしてきました。それを私は焦らずにゆったりとした動きで回避し、さらに続けて振るわれた尻尾も同じように身体を軽くずらして回避します。
側から見ると、まるで攻撃の方が逆に私を避けているかの様に感じるでしょう。
「やはり、特訓の成果は出てますね!」
曲剣の斬撃、尻尾の払い、盾による殴打と、次々としてくる攻撃をヒラリヒラリと回避しつつもフェイントを入れながら弾丸を撃ち返してダメージを与えていきます。兄様との特訓のお陰で加速していない今の状態でも余裕で回避が出来ていますし、回避しながらの攻撃もスムーズに出来て尚且つしっかりと当てれもしています。
それにこのモンスターは思考がそこまで良くはないからか、簡単にフェイントにも騙されますし、カムイさんとの試合の時の様に回避先を読まれることがないうえにリザードマン自体もフェイントを一切してこないので、単調な動きで動きを読む程でもなく、特訓の時と比べるとかなり簡単に回避も出来ます。
まあ、またカムイさんと対戦をしても成長した今の私なら、前の様に先を読まれることは殆どないとは思いますけど。
「カムイさんや兄様と比べれば、このくらいなら結構余裕ですね!〈スプリットバレット〉!」
私は振り下ろしてきた曲剣を紙一重で躱して接近し、ゼロ距離からリザードマンの身体に武技を放ってさらにダメージを与えます。
「シャアァ!」
「っと、そんなんじゃ当たりませんよ!」
大きなダメージを受けたうえに至近距離に私が居たからか、手に持つ曲剣と尻尾をめちゃくちゃに振り回して私との距離を取ろうと動きます。
私はその攻撃をこれまたギリギリで回避しつつ、壊れないのをいいことに銃で受け流したりもしながら距離を保って近距離から弾丸を無数に撃ちます。
それらの攻撃でリザードマンはどんどん傷ついてダメージが蓄積し、HPが削れていってます。
このボスであるリザードマンのHPも半分近くも削れていますが、やはり初期のエリアのボスだからか情報通りで、前に戦った大蛇と違って特殊な行動もないらしくこのままでも問題なく倒せそうですね。
「もう特訓の成果も確認出来ましたし、そろそろ終わりにしますかっ!」
そう呟いて、私は決着をつけようとします。まずユニークスキルの〈第二の時〉をリザードマンに撃って動きを遅くして、更に〈第一の時〉を自身に撃ち動きを加速させます。そしてリザードマンの周囲をフェイントを入れながら高速で動きつつ、弾丸を連続で放ちます。
急にお互いのスピードが変化したことに加え、私の不規則な動きによってリザードマンは反応が出来ず、次々と弾丸に撃ちまくられて一気にHPが削れ、最終的に止めとして撃った〈第三の時〉 がリザードマンの頭を撃ち抜いてHPが零になり、ポリゴンとなって消えていきました。
『西の湿地のエリアボス〈ハイリザードマン〉を討伐しました』
『西の湿地のボスを討伐した事により、次のエリアが開放されました』
『称号〈西の湿地のボスを倒し者〉を獲得しました』
リザードマンがポリゴンとなって消えた後にその様なシステムメッセージが流れました。
「よし、無事に倒せましたね!」
東の森のエリアボスと殆ど同じ称号を獲得してしました。まあこちらもとくになにか効果があるわけではないので、確認は別にいいですね。
「では、このまま職人都市へも向かいましょう!」
そう考えて、私はボスエリアの奥にあった大きめの川を超えて先にも続いている湿地を歩いて行きます。
「あ、ついでにドロップアイテムの確認もしておきましょう」
私はインベントリを開いて確認すると、皮に鱗、そして尻尾の肉を獲得してました。
「尻尾の肉……ま、まあ蜘蛛の足と比べればゲテモノ感はなさそう、ですかね……?」
うーん、とりあえずムニルさんかギルドにでも売りに行きましょうか…?
ドロップアイテムの確認をしながら歩いていると、気づいたら湿地を越えていて少し地面が乾燥した平原の様になっていました。そこからさらに進んで行くと、視界の奥に石造りの街も見えてきました。あれが、職人都市ラフタルなのでしょうね!
私はそのまま鼻歌を歌いながら、そこまでの道中のモンスターたちを見つつ歩いて行きます。ここのモンスターたちはスライムやダンゴムシみたいなのが生息しているようですが、これらのモンスターも自分から襲ってくるタイプではないようなので、今はスルーして職人都市へ歩き続けます。
そうして歩き続けて数十分が経った頃に、職人都市の入り口に着きました。
私はそのまま入り口の東門を超えて中へと入ると、そこは来る道中で見たのと同じように、全体的に灰や黒、白などの色をした石造りらしき街並みとなっていました。それに街全体がその名の通り職人の為の場所や道具、お店などが立ち並んでいるようで、けっこう街中の通りもワイワイとした雰囲気を持っています。
「見るのもいいですが、まずは転移ポイントを解放しましょうか」
周りをキョロキョロと見ながらも私はこの街の中心へと向かい、広場となっている場所の中心に生えてある転移ポイントらしき半透明の水晶の柱に手をつくと、転移ポイントが登録されました。
ちなみに今更ですが、転移ポイントは基本街にある場合は街の中心にあると公式から明言されているので、私たちのようなプレイヤーはすぐに行けるようになっているのです。それと街以外にも転移ポイントはあるようで、それらもすぐにわかるように基本水晶の見た目ともなっているらしいです。まあまだこの目で見てないので情報としては、ですがね。
そしてやることも終わったので懐中時計で時刻を確認すると、今は六時十分になっていました。
「転移ポイントの解放も済ましたし、まだ時間はあるのでこの街の散策でもしてますか!」
そう呟いて私は目的も決めずに街中をブラブラと歩き始めます。
「ふんふ〜ん」
一人でもエリアボスを倒せたのに気分を良くしつつ、鼻歌を歌いながら歩いていると、なんだかいい匂いがしたのでそちらへ視線を向けると、そこには焼きそばらしき物を売っている屋台がありました。
「そういえば、満腹度も結構減っていますね」
今の満腹度は大体40%くらいなので、ついでに買い食いをして回復させておきましょうか。
「すみません、焼きそばを一つお願いします」
「あいよ!お嬢ちゃん可愛いから、サービスしとくな!」
「わぁ、ありがとうございます!」
サービスなのか、紙皿から溢れそうなくらいの量を乗せて渡してくれた屋台のお兄さん。材料は麺だけではなく野菜や肉も入っており、ソースの香ばしい匂いもしてなかなか美味しそうです!
私はお兄さんに代金を払い、一度インベントリに仕舞ってから他の屋台も見に行きます。
インベントリの中に入れてある食べ物などは取り出すまで時間が経たないようになっているので、いつでも温かいのが食べられるのです。なので、他の屋台の料理も買ってから食べようかと思っています。
「他は……あ、あれも美味しそうですね」
そう言って次に目をつけたのは、ホットドッグです。
「お姉さん、ホットドッグ一つお願いします」
「任せて!お嬢ちゃん小さいんだから、たくさん食べな!」
「ありがとうございます!いただかせてもらいます!」
屋台のお姉さんはそう言ってもう一つ追加でホットドッグをサービスしてくれました。小さいは余計ですけど、サービスをしてくれるのはありがたいです!
さっきと同じで、代金をお姉さんに払った後にインベントリに仕舞ってから、私は大通りから少しだけそれた小道に置いてある木の箱に座って食べ始めます。
「…んー!焼きそば、ソースがいい味をしていて美味しいです!ホットドッグもウィンナーの味とパン、そして下に敷いてあるキャベツも相まってこちらもとても美味しいですね!」
そういえば、今食べている焼きそばのソースとかホットドッグに付いているケチャップなんかもこの世界にはあるみたいですね。
「もっと探せば、他にも様々な料理や食材もあるのでしょうね。まあこれからの楽しみにでもしますか」
そんなことを考えながらももぐもぐと食べていると、ふと視線を感じました。
そちらを見ると、身長120cm前半あたりで赤色のさっぱりとした髪型をしている男の子を発見しました。その男の子は私の持っているホットドッグに視線が釘付けになっているようで、ホットドッグを右に左にと動かすと視線もそれにつられて動いています。
「……食べますか?」
「……ああ」
「それで、あなたは誰なのですか?」
ホットドッグは二つ買っていたので、口をつけていないもう一つをその男の子に渡してから私はそう問いかけます。
「ふぉれふぉ、ふぉふぁえのふぉ…」
「…一度食べるのか喋るのかどっちかにしましょう?」
「……」
「食べるの優先ですか…」
私が思わずそう言うと、その男の子は食べるのに集中をします。…私も食事の途中でしたし、食べかけの焼きそばも食べちゃいますか。
「もぐもぐ…」
「……」
…お互いに食べるのに集中していて会話が起こりませんね。まあさっさと食べて話を聞きましょうか。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした?」
「ああ、これはですね…」
私が食べ終わる頃には、もう男の子は食べ終わっていたのようなので少しだけ待っていてもらったのです。…食後の挨拶に興味が湧いているようなので、始めにそれを軽く説明をしました。
「…さて。それでは改めて聞きますが、あなたは誰なのです?」
「俺はサルファって言うんだ!これでも火の精霊なんだぜ!」
なんと、まさかの精霊さんでしたか。確か前にファムちゃんっていう方と出会いましたが、精霊は皆さんそういう小さな姿なのですかね…?まあまだ出会ったのは二人だけですが…
「精霊ですか……ですが、そんな精霊であるあなたが何故こんなとこにいるのですか?」
「それはな、精霊仲間である奴の一人から面白い人間を見かけたって聞いて、気になったからそのままここまで飛んできたんだ!それで、まずこの街からその人物を探してたってわけだ!」
精霊に気に入られるなんて、なんだか特殊なイベントらしく感じますね。
「確かファムから聞いた話には……白髪で狼人族の小さな女の子って言ってたな!…ん?それってもしかして、お前のことか!?」
「ファムちゃんが他の方と会ったりしていなければ、多分あってますね」
…なんだか、こういう場面によく出会いますね……この懐中時計に付いている"時空神の運命"の詳細について、本当に気になりますね…!
「そうかそうか!なら話は早いな!じゃあ俺と試合をしようぜ!」
「え、何故ですか!?」
「そんなの決まっている!男は拳を交えることで友情が深くなるからだよ!」
「…私、女なんですけどね」
私の言葉もなんのそので、これは試合をしないと話が終わらなさそうです。仕方ありませんね…
「はぁ…わかりました、なら一度だけならしますよ」
「よっしゃ、そう来なくっちゃな!」
「ですが、どこでするのですか?」
「それはもちろん、精霊都市……と言いたいが、ここからでは開けないし、俺自身の精霊領域でやろうと思ったんだ!」
そういえば、兄様にも同じようなことを聞いていましたね。サルファ君はそんな私の言葉に胸を張りつつ自信満々にそう答えてきました。
今は行けないようですが、精霊都市と言うのもあるのですね。いつかは行ってみたいです!
「準備はいいな?では早速行くぞ!」
「え、ちょ、ま…」
サルファ君が発動した魔法陣が足元に出てきて、一気に光ったかと思ったらそのまま転移が起こり、小道から私たちの姿は消えました。
「…っ、ここは…?」
光が収まったので目を開くと、そこは鮮やかな赤い草原が広がっている世界でした。ここから少し離れた場所には、透き通るような水質の湖もあってなかなか綺麗な風景となっています。
「ようこそ!俺の精霊領域へ!」
景色を眺めていた私へ、サルファ君はそう言って歓迎してくれます。
「精霊領域って言ってましたが、精霊はみんなこのような物を持っているのですか?」
「そうだ!それと俺たち以外にもかなりの実力を持つ奴は、俺たち精霊が使っている領域よりも自身に合った領域を現世に作り出せるって聞いたことがあるぞ!」
まあそれでも、俺たちのように固有の空間を作るのは出来ないらしいがな!と続けて言うサルファ君。
固有空間はないとしても、精霊以外にもこんな領域を作ることが出来るのですね…!このまま攻略をして強くなっていけば、私にも出来たりするでしょうか…?自分だけの領域というのは少しだけワクワクしますし、これから覚えられるといいですね!




