4話 防具と錬金
街に戻ってきた私たちは、クオンの案内でとあるプレイヤーの元へ向かっています。
「これから会うのはどなたなのですか?」
「ベータ時のフレンドだな。その人は生産者のプレイヤーでよくお世話になってたんだ」
クオンのベータ時のフレンドですか。クオンがお世話になっていたということは、それだけいい腕前の職人なのでしょうね。
「っと、着いたな」
そしてクオンは、大通りにある一軒のお店の前で止まります。そこはガラス張りでオシャレな白色の建物で、中には複数の人が何かを見て喋っているのが見えています。
クオンはそのまま建物の扉を開けて入っていくので、私もそれに続いて入ります。
「レーナはいるか?」
「はい、少々お待ちください」
クオンがカウンターにいた店員さんにそう声をかけると、その店員さんは奥へと向かいレーナさんと言う人を呼びにいきます。
呼ばれたその人が来る前に私はお店の中を確認すると、そこには様々な洋服や革装備が立ち並んでいるのがわかります。どうやらこのお店は【裁縫】スキルで作った装備を売っているお店のようですね。
「おまたせ〜って、クオンくんか〜…」
「相変わらずだな…」
そうしてクオンに呼ばれてきたその女性はそう言って、こちらに近づいてきます。パーマのかかった肩あたりまで伸びた茶髪に橙目の人間で、身長160cm半ばでクオンより少し下くらいみたいですね。ちなみに服装は私たちと同じく初期装備です。
「今日はどうしたの〜?」
「さっきまで狩りをしてきて、その素材で俺たちの防具を作って貰えないか来たんだ」
「俺たち〜?」
そしてその女性は今気づいたのか、こちらへと視線を向けてきます。
「おお〜!美少女〜!クオンくん、遂に美少女を誘拐してきたの〜?」
「違うわ!こいつは俺の幼馴染で、こう見えても同級生だ」
「どうも、レアと申します」
「ご丁寧にどうも〜、私はレーナって言うの〜。よろしくね〜?」
私がそう返すと、レーナさんは少し屈んで、目線を合わせてきて言葉を返してきます。…なんだか少し子供扱いな気がしますね…
「それで〜、防具って言ったわよね〜?ならやっぱり革防具〜?」
「ああ、森まで狩りに行ってきてその帰りなんだ」
「さすがね〜、クオンはともかく、レアちゃんも強いんだ〜?」
「まあ、狼くらいなら一人でも余裕そうなレベルでしたね」
「やっぱり、上手い人のところには上手い人が集まるのね〜……さて、じゃあどんな革防具がいいかしら〜?」
「あれ、レーナさんが作るのですか?」
「ええそうよ〜、ここは私のお店だからね〜」
その言葉に私は驚きます。
「サービス開始初日からもうお店を持っているのですか?」
「普通は無理だけど、私もベータテスターだからね〜。実は、ベータテスターはベータ時から所持金だけは引き継げるの。それに私は住人と仲良くなっていたおかげで、少し割引でこのいい場所のお店を買ったの〜」
まあ一番安いのだけどね〜、とレーナさんは苦笑しつつ続けます。
そうだったのですね。あ、じゃあクオンも結構なお金を持ってたりするんでしょうか。それと、それならすでに複数の人がお店を持ってたりするのですかね?
「レア、この人はベータ時は生産職のトッププレイヤーだったんだ。その人が一番安いのなんだから、他のプレイヤーはほとんど持ってないと思うぞ」
「あ、そうなのですね」
「トッププレイヤーだなんて言われるのはちょっと恥ずかしいけどね〜」
そう言って照れるレーナさん。そんな人とフレンドなんて、クオンの交友関係も侮れませんね。
「さて、防具の話に戻るけど〜、やっぱり革の胸当てがいいかしら〜?」
「そうだな、動きやすさを考えてそれだな。レアも同じのでいいか?」
「そうですね、全身だと重くなりそうですし、わたしもそれでお願いします」
「オッケ〜、それなら入手してきた素材をみてもいいかしら〜?」
「あ、そういえば忘れていましたね」
話が逸れて、出すのを忘れていました。レーナさんに言われて、私とクオンは森で手に入れた素材を出していきます。
「ふむふむ、ウルフの皮はともかく、フォレストボアの皮も手に入れてたのね〜。あっ、でも品質が少し悪いわね〜」
そこそこの量があるので、カウンターの上から少し溢れそうですね。
「おお〜!ブラウンベアーの皮もあるのね〜!」
レーナさんが急に黄色い声をあげます。
「そんなにいい物なのですか?」
「初期の装備としてはウルフの皮でも十分だけど〜、ブラウンベアーはそれよりも良い装備になるのよ〜」
なるほど、序盤の装備にしては最高だということですか。なら、これで頼むのがよさそうですね。
「そうね〜、これを使うのなら、明日までには作りあげるわ〜」
「意外と早いんですね」
「これでも遅いほうなのよ〜?ほかのプレイヤーからの注文もあるしね〜。あ、素材は持ち込みだし、代金はそれぞれ2,000Gでどうかしら〜?」
「結構安いな」
「まあ私のスキルのレベル上げにもなるし〜、そこまでレアリティの高い物でもないしね〜」
そう話すレーナさんへと私たちは、それぞれ2,000Gを払って装備の依頼をしました。
ちなみに、Gとはこの世界でのお金の単位です。そしてログインしたばかりの私がよく払えたかというと、初期のお金として10,000Gを最初から持っているので払えたのです。それとフレンド交換にも誘われたので、レーナさんからの申請を受けて二人目のフレンドをゲットしました。
装備は明日までには出来るというので、今日はもう外には出ないで街の散策にでも行きましょうかね。
「では私はーー」
きゅうぅぅ
突然私のお腹からそんな音がしました。その音は二人にも聞こえていたようでこちらを見ていますが、私は恥ずかしさで少し顔が赤くなってしまいます。
「ふふ、話はもう終わるし〜、二人ともなにか食べてきたらどう〜?」
「そうだな、まだログインしてから何も食べていないから満腹度もかなり減っているしな」
満腹度とはこのゲームのシステムの一つで、時間経過や活動状況に応じて減少していくものです。たとえば、活動が活発であれば大きく、逆に控えめだと少なく減少していきます。回復するには何かしらの食べ物を食べたり飲んだりしないといけないといった、自然回復がないものでもあるのです。
満腹度が10%まで減少するとステータスが低下し始め、満腹度が0になるとHPが徐々に減っていき、最終的には死んでしまうらしいです。
なので定期的に何か飲食をしないと、いつのまにか減っていてステータスが下がる現象が起こるのです。
ちなみに、満腹度は基本的に視界に映っているHPとMPの下のオレンジ色のバーで確認が出来ます。今確認してみると、残りは30%くらいしかなかったみたいです。
そして私達はレーナさんへ別れの挨拶を告げ、お店から出て行きます。
「とりあえず、どこかの店で食べていくか」
「そうですね」
私たちはそのまま大通りを歩いてお店を探します。そんな中で私は、歩いている途中でいい匂いが漂ってくるお店を見つけました。
「クオン、あのお店にしませんか?」
「ああ、いいぞ。この匂いからして肉系か?」
そう呟いているクオンを置いて、私は早速中へと入って行きます。気づいたらお店に入っていく私を見て、慌ててクオンも一緒に入ってくるのが少し面白かったですね。
中は意外にも広く、小さめのカウンターに無数のテーブルと椅子が置かれて仕切りのない広々とした空間になっています。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
私が内装を確認していると、そう店員らしき人に声を掛けられました。なので私は返答を返します。
「二人です」
「では空いているお席にどうぞ!」
そう言い、店員さんは案内をして離れていきます。お店の中はまだ初日にもかかわらず結構な人がおり、なかなか賑わっているみたいですね。
私たちは早速とばかりにメニューを見ますが、メニューには様々な料理の名前が書かれており、結構悩みますが……うん、これにしましょう。
そして頼むものを決めたあと、私たちは店員さんを呼びます。
「ご注文はお決まりですか?」
「私はこのハンバーグセットでお願いします」
「俺はステーキセットで」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
そう言って店員さんは去っていきました。うーん、料理が届くのが今から待ち遠しいですね!
「それで、この後はどうするんだ?」
そして料理を待つ間に、クオンがそう聞いてきます。
「んー、とりあえず今日はもう狩りに行かないで、このまま街を散策してみようかと思っています」
「そうか、じゃあ俺はそのまま狩りにでも行ってくるかな」
「それなら、ここで解散ですね」
私とクオンはそう会話をしていると、さっきの店員さんが料理を運んできました。
「お待たせしましたー!ハンバーグセットとステーキセットです!」
そうしてテーブルに置かれたハンバーグセットとステーキセットに付いているのはお米ではなく白いパンのようで、なかなか美味しそうですね!それに両方ともサラダもあるみたいです。
「では、ごゆっくり!」
店員さんはその言葉を後に、他のテーブルの注文などに向かいました。
「じゃあ、食うか」
「ですね」
なので、いただきますといって私達は食べ始めます。私は早速ハンバーグをナイフで一口大に切って、口に運びます。掛かったデミグラスソースの味に、しっかりと下味が付いた肉。さらに、噛むと解れてたくさんの肉汁が溢れてきます。
そしてパンも柔らかくふんわりとした味で、ハンバーグと一緒に食べても相性がよく、手が止まりません。
合間に付け合わせのサラダも食べると、肉の油で重くなった胃もスッキリしてまた美味しく食べられます。
「美味しいですね!」
「これは美味いな」
そう話しつつも、手は止まらずに口へと料理を運んでいきます。これはなかなかは当たりの料理のようですし、凄く美味しくてパクパクと食べ進めていけますね!
そうして私たちは料理を食べ切ったあと、水を飲んで少し休んでいました。
「クオンは確か狩りに行くのですよね?」
「ああ、スキルのレベル上げもしたいからな」
そう喋りながら私たちは会計を済ませ、お店の外へ出ます。
あ、掛かったお金は私は300Gでクオンは400Gで、今回はゲームソフトをくれたお礼として私が払いました。
「じゃあ私は、街を探検でもしてきます」
「それなら俺はまた森で狼でも狩ってくるかな」
そして、それじゃっとクオンが言い、私たちは別々に分かれますが、クオンはそのままその足で森へと向かって行くようで、街の外へと向かいました。
「では私は、まず銃弾を買いに行きますか」
狩りから帰ってきてそのままレーナさんのところへ向かったので銃弾がほぼないのですよね。今日はもう外に向かう気はありませんが、念の為です。
そのまま私は露店へと足を運び、鉛の銃弾を百二十個買います。値段は一個5Gの合計600Gとなりました。
「それとステータスもちょっと確認しておきましょう」
そう思い、私はステータスを確認します。
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名前 レア
種族 狼人族
性別 女
スキル
【銃Lv6】【鑑定Lv3】【錬金Lv1】【採取Lv5】【気配察知Lv5】【忍び足Lv5】【遠視Lv4】【ATK上昇Lv4】【AGI上昇Lv4】【DEX上昇Lv4】【体術Lv3】
所持SP 0
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そこそこ上がってはいますが、まだLv10まではいっていないようです。
それと、銃の武技というものも修得しました。
このゲームにある武技というのは、その武器などに沿った技のようなもので、使用するとそれぞれの効果を発揮して主に戦闘などに使えるのです。
そして今獲得したそれは〈パワーショット〉といって、通常よりも攻撃力を上げた弾丸を放つことが出来るみたいです。リキャストタイムというのがあって連発は出来ないらしいですけどね。
スキルの確認と銃弾の確保も済みましたし、早速探検といきましょう!
「ふんふんふ〜ん」
鼻歌を歌いながら、私は大通りを歩いていきます。あ、【錬金】のスキルのレベル上げもしないとですね。素材である薬草や毒草はさっき森で手に入れてきましたから、あとは錬金キットが必要ですね。
探検途中ですが、錬金をしようと考え、私は錬金キットを売っていそうなお店を探します。すると、看板に道具屋と書かれたお店を発見しました。
「いらっしゃい」
なので早速中へ入ってみると、そこには道具屋というだけあり、様々な道具が置いてありました。私の探している錬金セットは勿論、鍛治に使うであろう簡易的な炉と槌や裁縫道具など、初期に使うような道具が無数に並んでいるようです。
「この錬金セットとガラス瓶を三十個ください」
「800Gだよ」
初級錬金セットが500Gでガラス瓶は一個10Gですね。そう値段を言われたのでお金を払い、道具を買います。その後はそのままお店を出て職人ギルドへと向かいます。
あ、職人ギルドというのは、生産スキルを使って物を作ることができる場所で、私は錬金を試すためにそこへ向かっているのです。
そして職人ギルドについた私は、早速受付の人へと話をつけて個室を借ります。
ちなみに大部屋はお金はかかりませんが、個室には一時間100Gかかってしまいます。まあそれでも人が多かったので仕方ないですね。
「えっと、確か錬金の初めのアーツは合成でしたね」
まず私は、【錬金】スキルの合成を試してみます。さっき買った初級錬金セットは少し大きめな一枚の布で、そこに錬金の効果のある魔法陣が描かれています。
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初級錬金セット ランク F レア度 一般品
錬金を始める初心者のための錬金布。初級では二個まで同時に合成出来る。
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鑑定してみると、どうやら初級の錬金セットでは二つまでしか合成出来ないようです。
私はその布の上に薬草と、作業場にある水道から入れた水入り瓶を置いて合成を使用します。
すると置いた素材が光り、光が治るとそこには緑色のポーションがありました。
「これは……成功ですかね…?」
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初級ポーション ランク F レア度 一般品
HPの回復効果のあるポーション。傷口に掛けても効果がある。
HP20%回復。
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鑑定してみると、そんな説明がでました。よしよし、この調子でポーションを作っていきましょう。
そして私はそのまま残りの十四個の薬草を初級ポーションへと作り替えます。
「次は、毒草を使ってみますか」
次に毒草と同じく水入り瓶を合成すると、今度は紫色のポーションが出来ました。
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微毒ポーション ランク F レア度 一般品
微毒の効果のあるポーション。飲むと微毒状態になる。
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同じく鑑定すると、そんな説明がでます。飲むと効果があるというので、少し使いづらそうですね…
これは五個作りました。
次に、麻痺草も使ってポーションを作ります。
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微麻痺ポーション ランク F レア度 一般品
痺れ効果のあるポーション。飲むと麻痺状態になる。
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今度は黄色のポーションが出来ました。鑑定結果も微毒が麻痺になったくらいであまり違いはありませんね。
これも微毒ポーションと同じく五個作ります。
そして最後に残った五個のガラス瓶はトクポ草と合わせて合成してみます。
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解毒ポーション ランク F レア度 一般品
毒を治す効果のあるポーション。飲むと毒状態を解除する。
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これは薄紫色のポーションになりました。毒を使うなら解毒ポーションは持っておかないとですね。
それと作っている途中に思いついたので、それもやってみます。
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麻痺毒ポーション ランク F レア度 一般品
微毒と痺れ効果のあるポーション。飲むと微毒状態と麻痺状態になる。
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さっきの微毒ポーションと微麻痺ポーションを組み合わせて合成してみると、こんな橙色のポーションが出来ました。【錬金】の合成スキルは、その名の通り、効果を合わせることも出来るようですね。
「とりあえずはこんなものですかね」
ガラス瓶はもう無いですし、【錬金】スキルも6まで上げることが出来ましたので、この辺でまた散策に戻りましょうかね。私はそう思い、素材を片付けて職人ギルドを後にします。