38話 特訓
「決闘エリアはバトルフェスの時と同じようなフィールドになっているのですね」
転移が完了した後のエリアは私の呟いた通り、イベントの時とほとんど同じフィールドになっていました。
「ルールを変えれば森や水辺、荒野に砂漠などの色々なエリアに出来るが、今はルールを特に決めてないから基本に設定されているフィールドなんだ」
「ふむふむ、だからなのですね」
色々な地形でのPVPも出来るのですね。他にもあるのなら私が得意とするのはおそらく森でしょうし、そこでならカムイさんや兄様にも勝てますかね?
「それと、対戦方式も今からするのは基本に設定されているHPの半分より下まで削られたほうが負けと言うよくあるルールだが、三点先取や多数対多数、初撃決着とかこっちも種類があるから、次にする時は確認してみるといいぞ」
どうやら対戦方式も種類があるようなので、言われた通り暇な時にでも確認しますか。
「説明も済んだし、そろそろ始めるか」
「はい、お願いします!」
私たちはそう言った後にフィールド場で互いに対面し、兄様の操作したシステムで決闘を開始してカウントダウンが始まります。
『Ready fight!』
そうして開始の合図がなったのと同時に私たちは動き始めます。
「〈第一の時〉!」
私は始めに〈第一の時〉を自身に撃って加速させ、そのまま無数の弾丸を兄様へ撃ちまくります。
「これくらいなら、問題ないぞ!」
兄様は手に持つ刀で飛んでくる弾丸を切り捨てながらこちらへと向かってきます。
カムイさんなどもそうでしたが、やはりトップに立てるほどの強さである兄様のような方にはなかなか当てられないですね。
「〈第二の時〉!」
「なんの、〈秘剣・風断〉!」
私が無数の弾丸に混ぜて撃った遅延効果を持つ武技は、風の刃を放つ武技で相殺されてしまいます。
そんな攻防をしていると、ついに兄様の持つ刀の間合いへ入れられました。
「はぁ!」
兄様はその刀を振り抜き私の身体を切り裂こうとしてきますが、私はそれを後方にステップして回避します。
「〈第一の時〉、〈第二の時〉!」
回避した後に自身に加速を付与した後、お返しとして無数の弾丸と遅延効果の弾丸を混ぜて撃ちますが、それは身体を横に逸らされて回避されます。
「〈秘剣・霞突き〉!」
逸らした身体を即座に戻して兄様は高速の突きを放ってきました。
それを私は深く屈んで回避し、そのまま〈第三の時〉を撃ち返します。
「…っ!」
兄様はそれを完全には回避出来なかったようで、浅く身体に傷がついて赤いポリゴンが流れます。
「〈秘剣・地殻〉!」
私の攻撃に対して即座に動いた兄様は手に持っている刀を地面へ刺し、地面からの衝撃波を放ってきます。
私は即座に後方に跳びましたが、少しだけ間に合わずに衝撃によってダメージを受けつつも更に後方へ吹き飛ばされます。
「やっぱり、兄様もかなり強いですよね」
「そういうレアだって、殆どのプレイヤーたちよりは明らかに強いぞ。とりあえず、動きについては大体わかったから今の特訓はこのくらいにして、次に移るか」
「わかりました」
バトルフェスの時にお互いのユニークスキルについての情報は知っていますから、これ以上はそこまでやっても決着は長そうですし、特訓とは違ってしまいますもんね。
兄様は一度決闘を終わらせて、更にポチポチとメニューを操作して次の対戦方式を選んでいってます。
「近接戦闘の動きについての特訓だし、次はスキルの使用を禁止してやるか」
「そうですね、お願いします」
対戦方式を決めた後は、再び決闘を開始して兄様との近接戦闘の特訓を続けていきます。
「このくらいで終わりにしておくか」
「わかり、ました……ふぅ」
そうして何度も試合を行い特訓をして、ある程度動きが出来るようになったので一度終わりとしました。
スキル使用不可のルールを主にしてやりましたが、普段は銃系のゲームで慣れていない戦闘だったからか結構精神的にも肉体的にも疲れました…
しかし、なかなか成長出来たとは実感出来ます。始めの方はユニークスキルで加速していない状態ではなかなか回避が難しかったのですが、最後に行くにつれてドンドン回避の動きが正確になり相手である兄様の動きも読めるようになっていき、最終的には大体の攻撃は加速していない状態でも回避出来る様になりました。これなら加速していれば殆どの攻撃は躱せそうです。それと攻撃についても、近距離でも結構命中させれる様にもなっていきました。
回避と攻撃についての動きがかなり成長出来ましたし、カムイさん相手でもイベントの時よりはもっといい線に行けそうですね!
「レアはおそらくこういう近接戦闘が主にあるゲームの経験がまだ足りないだけで、十分才能はあるからあとは実戦で覚えていけば大丈夫だろう。それに後は教えた通り、もっとフェイントなども交えるといいぞ」
「はい!教えていただきありがとうございました!」
そう言って私はペコリと頭を下げて感謝を伝えます。
「このくらいならいつでも言ってきて大丈夫だぞ」
「また知りたい事が出来たら、お願いします!」
「任せとけ」
兄様に教えていただきましたし、今度はカムイさんからも教わるのを楽しみにしておきましょう!
「そういえば、今の時刻は何時でしょうか?」
「結構していたし、もういい時間か?」
懐中時計を手に取って確認すると、もう六時近くになっていました。
「意外と経っていますし、そろそろ落ちてご飯にしましょう」
「そうだな。なら、ここから出るか」
私たちはメニューを開いて決闘エリアから元のエリアへと戻り、そのままログアウトをします。
私は現実に戻ってくると、ヘッドギアを外してサイドテーブルに置いてからベッドから降りてからストレッチを開始します。
「よし、リビングに行きますか」
ストレッチを済ませた後は、部屋から出てリビングへ向かいます。
リビングに降りてくると、兄様はまだ来てないようなので先にご飯の用意をしておきますか。
「美幸か、もう降りていたんだな」
「あ、兄様!」
ピーマンの肉詰めを冷蔵庫から取り出して温めていると、その様な声をかけてきながら兄様がリビングへと入って来てました。
「もう温め終わるので、少しだけ待っていてください」
「わかった」
そうして温かくなったので皿に移し、用意は終わりです。
「では…いただきます」
「ああ、いただきます」
そう言って私たちは料理を食べ始めます。
「美幸、今日の特訓はこれでよかったか?」
食べている最中に、兄様は私にそう声をかけてきました。なので、口の中に入っているものを飲み込んでから答えます。
「…はい、とても良い体験でした!改めて教えてくれてありがとうございます!」
「そうか、それならよかった」
兄様はその言葉に少しホッと息をついています。…少し心配していたのですね。兄様からの教えはかなり良いものでしたし、そこまで緊張しなくても大丈夫ですのに…
「カムイさんからも今度教えていただきますし、その時にも兄様からの教えを意識して頑張ってみます!」
「あいつは俺よりも強いだろうから俺の教えでどうなるかわからんが……まあ頑張れよ」
「はいっ!」
その後もMSOのことについて話しながら料理を食べていきます。そして食べ終わったので皿は流しに置いて兄様に後は任せ、私はお風呂と洗濯へ向かいます。
お風呂から上がった後はスキンケアやドライヤーなどをして、終わっている洗濯物を干してきます。
「これでいいですね。今は……八時くらいですか。なら九時くらいまでは勉強をして、その後に寝ますか」
そうやることを決めて部屋に戻り時間まで勉強をして、終わった後はそのまま就寝します。おやすみなさいです。
朝になりました、おはようございます。今日は火曜日で、昨日と同じく学校がありますね。今の時刻は六時半くらいの様ですし、朝の支度でもしましょうか。
私は朝のストレッチを済ませ、パジャマから制服に着替えてからリビングへ降ります。そして干していた洗濯物も畳み、片付けた後にお弁当の用意もしちゃいます。
「昨日のピーマンの肉詰めは残っていませんし、前に気になって買った冷凍食品のミニハンバーグでも入れますか。後はいつも通り卵とウィンナーに…」
テキパキとお弁当のおかずを作り、お弁当箱に詰めるのも終わらせます。
「よし、これでお弁当はいいですね。後は朝ご飯のパンの用意をしますか」
今日はマーガリンの気分なので、食パンを棚から取り出してトースターに入れて焼き始めます。
軽く待っているとすぐに焼き終わったので、取り出してマーガリンを塗ってパクパクと食べていきます。うんうん、マーガリンもなかなかいけますね!
「美幸か、おはよう」
そうして食べ進めていると、その様な声を掛けられたのでそちらに視線を向けると、兄様がリビングに入ってきていました。
「兄様、おはようございます」
兄様は少しだけ眠そうな表情をしながらも、食パンを取り出してトースターで焼き始めています。
「なんだか眠そうですね?」
「ああ、昨日は少しだけ長く狩りに行っていてな」
「なら、早めに顔でも洗いに行ったらどうですか?」
「そうだな、食べたらすぐにするか」
「じゃあ私は先にしてきますね」
「わかった」
そう言って私は洗面所で朝の支度を終わらせてからリビングに戻り、入れ違いで兄様も洗顔などに向かいます。
そしてお互いにやることを済ませていると学校に行く時間になったので、家を出て悠斗を迎えに行った後にいつも通り学校へ歩きます。
「昨日は玲二さんと特訓をするって言ってたが、どうだったんだ?」
学校へと歩いている途中で悠斗からそんな風に話しかけられました。
「なかなか有意義な時間になりましたね。これで少しは近接戦闘を出来る様にはなったとは思います」
「美幸は才能があったからな。スキルの使用をなしかつ近接戦闘でだが、最終的には俺も本気で戦ったがかなり強くなってて負けそうにもなったしな」
悠斗の言葉に私はそう返し、兄様もそれに続けて声を上げます。兄様の言う通りスキルを使用を禁じた特訓でしたが、ギリギリまで兄様を追い詰めることは出来てました。…まあ追い詰めれただけで、そこからは倒せませんでしたけど。
「そうだったんですね。やっぱり美幸はかなり強いんだな……俺も負けていられないな!」
「悠斗も今のままでも十分強いと思いますよ?」
気合を入れ直している悠斗に、私はそう言います。悠斗は公式イベントの本戦にも出れてますし、普通にプレイヤーの中でも強い方に入りますしね。
「それでも、だ。せめて幼馴染として、美幸の隣に立てるくらいには俺ももっと強くなりたいんだ」
ですが悠斗はもっと強くなるのを頑張る様で、そう返してきました。…こんな私にそんな事を言うなんて、私はそこまで一緒に居て良い人間ではないのですのに……この感情は心の奥に仕舞っておいて、悠斗については精一杯応援をしておきましょうか。
「もしよかったら、ついでに悠斗も一緒に特訓でもするか?」
「…あ、いいですねそれ!悠斗もするといいですよ!自分だけで鍛えるよりはそっちの方がわかりやすいですし!」
「……そうだな、良ければ俺も鍛えてもらってもいいですか?」
「俺は構わないぞ。任せとけ」
そう言葉を交わしている悠斗と兄様。私に対してはともかく、これで悠斗自身が望んでいるらしい強さを獲得出来そうですね。
そうした会話をしている間に学校に着いたので、私と悠斗、そして兄様と別れて自分たちの教室へ向かいます。では、今日も頑張りますか!
学校の授業も全て終わり、もう帰る時間になりました。今日は昨日も会った宮里さんと少しだけ会話をしましたが、ゲーム内で会うのは今週土曜日のお昼くらいに初期の街の広場で会おうと約束をしました。まあまだ詳しい時間は決めてないんですけどね。
「美幸、帰ろうぜ」
「いいですよ」
悠斗がこちらに声をかけて来たので、了承を返して一緒になって学校を出ます。その途中で校舎前で待っていた兄様とも合流してから帰路に就きます。
「じゃあ、またな」
「はい、またです」
道中ではそれぞれの家までの道に分かれて、私と兄様は揃って家へと向かいます。
「では私は夜ご飯の作り置きをしますね」
「なら俺は軽くリビングの掃除でもしておくな」
家に着いたので鍵を開けて中に入り、まずはそれぞれのやることを済ませに動きます。
「あ、そうだ。兄様、鶏肉で食べたいものとかありますか?」
「そうだな……チキン南蛮とかってどうだ?」
「いいですね。他の材料もありますし、今日はそれにします!」
そう言って私はチキン南蛮を作り始めます。私が調理をしている間に兄様がしていた掃除は終わった様で、私に部屋にいると伝えてから向かいました。
「…揚げ焼きも済みましたし、粗熱を取っている間にタルタルソースも作りましょう」
お気に入りの曲を鼻歌で歌いながら、タルタルソースも作り始めます。まあこちらはチキン南蛮よりもすぐに作れるので、数分で出来上がりました。
料理の工程はすぐに終わったので、出来ているチキン南蛮とタルタルソースを冷蔵庫にしまっておきます。
「今は……五時くらいですね」
今の時刻からご飯までは二時間近く時間がありますし、その間はゲームでもしてますか。
そう決めて私も自分の部屋へと行き、置いてあったヘッドギアを着けてベッドに横になってゲーム世界へログインします。
ログインして視界が開けると、そこは昨日ログアウトした場所である初期の街の広場でした。
「さて、何をしましょうか…」
そう顎に指を当てて少し考えます。…あ、そういえばあの大蛇に壊された防具たちがありましたね。まずはそれをレーナさんに相談してみますか。
「レーナさんはフレンドリストを見る限り今はログインしている様ですし、とりあえずメッセージを送りますか」
私はレーナさんに、ちょっと装備について相談がしたいので時間がある時に返事を返してくれると嬉しいです、と書いてメッセージを送りました。
するとすぐに返信が返ってきて、内容は、今は大丈夫だから待っているわね〜、と書いてありました。
なので、早速レーナさんのお店に向かいます。
テクテクと歩いていると、道中でプレイヤーらしき人たちにチラチラと見られています。イベント前はそこまでだったのに、今は顔を隠していないと本当に目立ってしまいますね…
目立つのは嫌なので、足早に歩いていきます。
そうして歩いているとレーナさんのお店が見えてきたので、そのまま中へ入ります。
「あ、レアちゃん〜!待ってたわよ〜!」
中に入るとすでにレーナさんがカウンターに座っていたようで、こちらへそう声をかけてきました。
「メッセージを送っては来てたけど、どうしたの〜?」
「実は、装備が壊れてしまったので直してもらえないかなと思って来たのです」
そう言って壊れたゴスロリのワンピースにソックス、ブーツに漆黒のクロークをインベントリから取り出してレーナさんに見せます。
「あら〜、これは結構やられたわね〜。何かと戦ってきたの〜?」
「はい、ワールドモンスターと呼ばれるらしいモンスターと出会って、その時に攻撃を受けて壊れてしまったのですよ」
「なるほど、それでね〜…」
そう言って装備を見ながら触って確認をしているレーナさん。うーん、結構酷く壊れましたし、大丈夫でしょうか…?
「直せますかね…?」
「まあ直すのはそこまで難しくないから大丈夫よ〜。あ、何が使いたい素材とかってあったりする〜?」
「いえ、今回はありません。修理、お願いします…!」
「任せておいて〜!」
直せるようなので一安心ですね!結構深く壊れてしまったので、直せると聞くまでは少し不安になっちゃってました。
「あ、それと遅くなりましたが、クラフターフェスでランキング一位おめでとうございます!」
「ありがと〜!狙ってはいたけど、行けてよかったわ〜!そういうレアちゃんも、準優勝おめでとう〜!」
「ありがとうございますっ!それと、クラフターフェスの一位の称号とアイテムって何があったのですか?」
私がそう聞くと、それはね、とレーナさんは説明をしてくれます。
「私がもらったのは〈頂の生産者〉って称号と、クラフターオーブというアイテムだったわね〜」
称号はともかく、クラフターオーブとはなんでしょうか?