37話 学校と同級生
ログアウトが完了して現実世界に戻って来ました。私は頭に着けていたヘッドギアをベッド横のサイドテーブルに置いた後、ベッドから降りてストレッチを始めます。
今日はイベントのオークションに行って、さらにはワールドクエストのボスらしきものとも戦って結構疲れているので、いつもよりもしっかりと身体をほぐしていきます。
「んっ…よし、これでおしまいですね」
いつもより少し長めにストレッチをして、ほぐすのが済んだので床から立ち上がってリビングへと向かいます。
「美幸か。今日はお疲れ様」
リビングに入ると、既に兄様は降りてきていた様でその様に言葉をかけてきました。
「兄様こそ、お疲れ様です。ではご飯の支度をしますね」
「わかった」
私は冷蔵庫にしまってある八宝菜を取り出し、レンジで温めなおします。その間に、兄様は他の食器系を用意してくれていました。
「では、いただきましょう」
「ああ、いただきます」
温め終わったので兄様の出してくれたお皿に料理を移した後、私たちはそう言って食べ始めます。
「突然だが、美幸はあの大蛇についてどう思ったんだ?」
「本当に突然ですね…?えっと、とりあえずはこれからの私の目標ですね。あの大蛇はいつか必ずこの手で倒してませます!」
兄様の唐突な言葉に私はそう返します。
今はまだスキルも技術も拙くて無理ですが、あの世界を攻略し続けて強くなり、いつかは倒したいです。
「目標か、それは確かにあるといいな」
「そういう兄様は、なにか目標でもあるのです?」
「俺は、そうだな……いつもやっていたゲームと同じくMSOでも強くなって、様々な刀類を集めていきたいな。それと、今までのゲームよりも作り込みは凄いし、あの世界を冒険して存分に楽しみもしたいな」
私たちがやっているMSOはプレイしてみた感じ、今まで私たちがやってきたVRゲームよりも細かく作られているうえにかなりの作り込みなのは把握出来ましたし、私自身も楽しんでやってますから兄様がそう言うのも納得です。
「私も、あの大蛇に負けないくらい強くなりたいです」
「ならやっぱり、近接戦闘を鍛えるんだな」
「はいっ。そのためにカムイさんや兄様に教えてもらいますしね」
私と兄様はそんな会話をしつつも、食べるのはやめません。うんうん、今日の八宝菜も美味しく出来てますね。
「じゃあ、それについてはまた明日の学校が終わって帰ってきた後にな」
「わかりました」
そうして食べ終わったので会話を終わらせて、そのまま片付けに入ります。皿洗いはいつも通り兄様にお任せです。
「では私はもうお風呂に行ってきますね」
兄様に声をかけた後に私は自分の部屋から着替えを持ってきて、洗濯を開始してからお風呂へと向かいます。
「今日は大変な日でしたね〜…」
私は全身を洗い終わって湯船に浸かりながらそう呟きます。バトルフェスがあった昨日もそうでしたが、やはり強敵と戦うのは結構精神的に疲れる様です。
「それでも、している最中は楽しいですし良いんですけどね」
それに、今日出会ったあの大蛇……深森と書いてありましたね。あれはおそらく、私の様なプレイヤーがもっと成長してから出会うはずだったモンスターに感じました。なのに、何故かあんな森の浅い所で現れたのです。
「…何故出会ったのかは多分、あの懐中時計が絶対に関係してそうですよね…」
前にも思った、あの時計に付いている特殊効果の"時空神の運命"。結果的に悪い出会いではありませんでしたが、これを着けている限りはこの様な特殊なイベントも多く出会いそうです。
「悪いことではないので装備から外す事はないでしょうが、やはり気になってしまいますね」
MSOを攻略していけば、いつかはハッキリと効果について判明出来るでしょうか?まあ害があるわけではないですし、そこまで深く考えなくてもいいですね。
「…そろそろ上がりますか」
考え事をしながら浸かっていると少しのぼせてきたので、湯船から上がってお風呂場から出ます。
上がった後はスキンケアやドライヤーなどの諸々を済ませ、その間に終わっていた洗濯物を干していきます。
「今は……もう八時五十分ですね。なら、九時半くらいまでは軽く勉強でもしてますか」
そう考えて、自分の部屋へと向かってテーブルの上に勉強道具を取り出し、クッションに座りながら始めます。
そうして勉強をしているとさっきの決めた時間になったので、片付けて軽いストレッチをして電気を消した後にベッドに横になって就寝します。
窓から差し込む朝日に気づいて目が覚めました。おはようございます、今日は月曜日です。今日からまた一週間は学校なので、頑張りましょう。今の時刻は六時半の様ですし、早速起きますか。
私はまずベッドから降りてから軽いストレッチをして、その後にパジャマから制服へ着替えます。
そして部屋から出てリビングへと向かい、干していた洗濯物を畳み始めます。
それも済ませた後はキッチンで今日のお昼ご飯のお弁当を作り始めます。中身はいつも通り卵やウィンナー、昨日の残りの八宝菜などです。
「よし、お弁当も出来ましたね」
お弁当も作り終わったので、私は朝食の食パンを取り出して、何にしようか考えます。今日の気分は〜…いちごジャムですね!
同じく食パンと同じ所に仕舞っていたいちごジャムを取り出し、食パンに塗ってから食べ始めます。んー、美味しいです!やっぱり朝の甘いものは一日の原動力になりますね!
そうして機嫌良く食べていると、そのタイミングで兄様も降りてきました。
「兄様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
兄様はそうこちらへと返した後に、私と同じく食パンを取り出してトースターで焼き始めます。
兄様が食パンを焼き終わるのを待っている間に、私は洗顔、歯磨き、スキンケア、日焼け止めを済ませてリビングに戻ります。そんな支度をしていると、もう出る時間に近い七時半になっていました。
「では、行きますか」
「そうだな」
私たちはそう言葉を交わしてから家を出て、まずはいつも通り悠斗を迎えに行きます。そして呼び鈴を鳴らしたらちょうど出てきた悠斗と合流した後は、そのまま学校へと歩いて行きます。
「美幸はあまり疲れてはいなさそうだな?」
学校へと歩いている道中で、悠斗からそんな声をかけられました。
「そうですけど……悠斗は昨日ので疲れているのですか?」
「いや、俺も特には疲れてないぞ?ただ、美幸はあの大蛇と単独で戦っていたから少し心配したんだ」
なるほど、通りでその様なことを聞いてきたのですね。
「悠斗が心配するほどは疲れてないので、大丈夫ですよ〜」
軽く笑いながらそう答えると、悠斗は納得したのかこちらも軽く笑みを浮かべて、そうかと答えます。確かに昨日のログアウトしてからは疲れてましたが、残るほどではありませんでしたしね。
そんな会話をしつつ歩いていると学校へ着いたので、別の教室の兄様とは別れて悠斗と二人で自分たちの教室へと向かいます。
そうして午前中の授業なども一通り終わり、お昼の時間となりました。
「美幸は帰ったらまたMSOをやるのか?」
「ん、そうですね。今日は兄様に近接戦闘について教わる予定なのです」
私と悠斗は鞄からお弁当を取り出して、パクパクと食べながらゲームについての会話をします。
「玲二さんからか。それなら確かに、教わるのには文句ない人選だな」
「それと今度ですが、カムイさんからも教わる予定なのですよ」
続けて言った私の言葉に、悠斗は驚いて食べていた唐揚げを喉に詰まらせました。私もそれに驚きましたが、横に置いてあった水筒からお茶を飲んでなんとか飲み込みます。
「だ、大丈夫ですか…?」
「ああ、なんとかな……それよりも、あの人からも教わるんだな」
「予定が空いた日にですけどね」
普通は負けた相手に教わりには行かないでしょうし、確かに驚きはしますよね。ですが、私は勝ちたいとは思ってはいましたが、自分で言うのもなんですがそこまで根に持つタイプではないので、そこまで気にしてはいませんが。
「ねぇ、深剣さんと月白さん。聞こえていたんだけど、もしかして二人もMSOをやっているの?」
それからも悠斗と情報交換をしつつ会話をしていると、女性らしき声を横からかけられました。そちらへ視線を向けると、そこには身長150cm後半らしき同級生の女子がいました。
「えっと、確か宮里葵さん、でしたっけ。宮里さんもMSOをやっているのですか?」
「そうなの!それと、もしかしてレアって名前でプレイしている?」
「そうですが……あ、もしかしてイベントで目立ったから知っているのですか?」
「美幸は現実とほとんど同じ見た目だし、同級生とかにはすぐにバレるよな」
悠斗の言葉に私も同意します。私は現実でも白髪で目立ちますから、同じゲームをしている人には余裕でバレますしね。
「そう!月白さんってあんなに強かったんだね!」
「それでも、私よりも強い人はいましたけどね」
「それでもだよ!私は出場はしてないけど、それでも私では相手にならなそうなのは理解出来たしね!」
…こうしてベタ褒めをされると、少しだけ恥ずかしくなってしまいます。
「まあそれはいいとして、もしよければゲーム内でも会いませんか?」
「え、いいの!?」
「予定もあるので、時間がある時にですが」
「それでもいいよ!じゃあ、また会える時に教えてもらってもいい?」
「いいですよ。では、また今度に」
「うん!ありがとね!じゃあねー!」
そう言って宮里さんは手を振って他の同級生の元へと向かっていきました。
「プレイヤーは二千人しかいないはずだが、こんな偶然もあるもんなんだな」
「ですね。まさか同じクラスの同級生もやっているとは…」
まあ別に恥ずかしいことはしてないので、そこはあまり気にしてはいませんけど。
「今日は兄様との予定があるので無理ですが、早くても今週中のどこかで会えるでしょうね」
そんな事を呟いていると、お昼の終わりのチャイムが鳴ったので悠斗は自分の席へと戻っていきました。よし、午後もしっかりと頑張りましょう!
そして午後の授業も終わったので、帰る準備をして悠斗と帰路につきます。その途中で校舎前で兄様とも合流し、そのまま三人で帰り道を歩いていきます。
「じゃあ、また明日な」
「はい、また明日に」
分かれ道でそう言葉を交わして別れ、それぞれの家へと歩きます。
そこからも数十分くらい歩いていると、家に着いたので扉の鍵を開けて中へ入ります。
「とりあえず、夜ご飯の支度を先に済ませてきますね」
「わかった。なら俺はリビングの掃除でもしておくな」
「お願いします」
そう言ってそれぞらのやる事を始めて行きます。私はキッチンに、兄様は掃除機などを持ってきてリビングに行きます。
「…そうですね、今日はピーマンの肉詰めにでもしますか」
掃除をしている兄様を尻目に、私は作る物を決めて早速作り始めます。前に買い物に行った時に時期だからかピーマンが安かったので買っておいたのです。
「これは焼いてタレをかけるだけですし、すぐに終わりましたね」
そうして料理も作り終わったので、粗熱を取ってから冷蔵庫にしまいます。今の時刻は……は四時四十分くらいですね。
「兄様は掃除もすでに終わって部屋へ戻っていますし、私もそろそろ向かいますか」
使った道具を洗ってから片付けた後に自分の部屋へ向かい、置いてあったヘッドギアを頭につけてベッドに横になってゲーム世界にログインします。
ログインすると、そこは昨日ログアウトした場所である初期の街の広場でした。
「兄様は……ログインしてますね。なら連絡しますか」
そう呟きつつ、私は兄様へと今ログインしましたとメッセージを送ります。
するとすぐに返事が返ってきました。兄様からは、初期の街の広場で合流してそこから特訓をしよう、ということだったので、私はわかりましたと返します。
「もう既に集合場所にいますし、軽くステータスでも確認しながら待ってますか」
兄様と特訓もしますし、待っている間にでも自身のステータスを把握しておかないとですね。
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名前 レア
種族 狼人族
性別 女
スキル
【双銃Lv6】【鑑定Lv30MAX】【錬金Lv30MAX】【採取士Lv3】【気配感知Lv6】【隠密Lv5】【鷹の目Lv5】【ATK上昇+Lv6】【AGI上昇+Lv6】【DEX上昇+Lv6】【体術Lv33】【気配希釈Lv5】【採掘Lv17】【INT上昇+Lv3】【直感Lv29】【跳躍Lv18】【夜目Lv19】【言語学Lv25】【魔力操作Lv24】【魔力察知Lv19】【魔力隠蔽Lv16】【MP上昇Lv14】【HP自動回復Lv13】【MP自動回復Lv13】【栽培Lv3】
ユニークスキル
【時空の姫】
所持SP 32
称号
〈東の森のボスを倒し者〉
〈時空神の加護〉
〈第一回バトルフェス準優勝〉
〈深森の興味〉
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あの大蛇との戦闘とそれまでの狩りに、図書館でやった【錬金】スキルが育っていますね。それと【鑑定】スキルも最大まで上がっているので進化も済ませましょう。そうして進化をしたステータスがこんな感じです。
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名前 レア
種族 狼人族
性別 女
スキル
【双銃Lv6】【鑑定士Lv1】【錬金術Lv1】【採取士Lv3】【気配感知Lv6】【隠密Lv5】【鷹の目Lv5】【ATK上昇+Lv6】【AGI上昇+Lv6】【DEX上昇+Lv6】【体術Lv33】【気配希釈Lv5】【採掘Lv17】【INT上昇+Lv3】【直感Lv29】【跳躍Lv18】【夜目Lv19】【言語学Lv25】【魔力操作Lv24】【魔力察知Lv19】【魔力隠蔽Lv16】【MP上昇Lv14】【HP自動回復Lv13】【MP自動回復Lv13】【栽培Lv3】
ユニークスキル
【時空の姫】
所持SP 28
称号
〈東の森のボスを倒し者〉
〈時空神の加護〉
〈第一回バトルフェス準優勝〉
〈深森の興味〉
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【錬金】は【錬金術】に、【鑑定】は【鑑定士】に進化をし、それと同時に【錬金術】スキルは【錬金】のLv30で〈錬成陣〉を、【錬金術】に進化した時に〈ゴーレム錬成〉を覚えました。
〈錬成陣〉は魔法陣を一時的に生み出し、その上に載せた複数の素材を消費して通常では作れない大きな物を合成できるという効果で、〈ゴーレム錬成〉はその名の通り〈錬成陣〉で生み出した魔法陣の上に載せたアイテムを合成しゴーレムを作れる効果です。
【錬金術】スキルは両方とも陣を生成して何かを生み出す特殊なアーツのようですし、今度試してみますか。
そして【鑑定士】スキルの方については、今までは見れなかった強めのモンスターの情報も見れるようになるらしく、こちらは特に変わってはいないので確認は別にしなくても良さそうです。
それとイベントの時に獲得した称号については、記念称号で特に効果はないので割愛します。
「お、レアはもう来てたんだな」
自身のステータスを確認していると、そのような声が聞こえました。ステータスを見ていた視線をそちらへと向けると、そこには兄様が立っていました。
「意外と早かったですね」
「後でレアと特訓をするのを決めてたし、軽く街を散策していたくらいだからな。よし、早速近接戦闘の特訓を始めるか」
「はい。あ、でもどこでやるのですか?合流はここでって言ってましたけど…」
「ああ、それはな、このゲームで出来る決闘システムでしようと思ってたんだ」
「決闘システムですか?」
決闘システムとはなんでしょう?初めて聞きましたが、それはどんなものなのですかね…?
「簡単に言えば、一対一のPVPを特殊なエリアに行って出来るというもので、そこでなら邪魔も入らずに何度も出来るからな」
「なるほど、確かにそれは今の状況に合ってそうですね」
私と兄様は本戦に出ていたうえに特に顔も隠していないので、そこら辺でやるとかなり目立ちそうですし、隠しておきたいことでもありますしね。
「じゃあそろそろ行くか。最初は特にルールはなしでやってみよう」
「わかりました」
そう決めた後、兄様はメニューを操作して決闘の申請を送って来ました。私はその申請に承諾を押すと、身体が光って決闘エリアへ転移が起こります。