35話 クラフターフェス4
ご飯を食べてそのお店から出た後に時計を確認すると、今の時刻は三時二十分くらいです。
「あと大体一時間ですね。なら、それまでは適当に散策でもしてますか」
少しだけある待ち時間をどうするかを決めた私は、目的もなく第二の街をブラブラと歩き始めます。
「もぐもぐ、第二の街は果物系が多いので、私的には結構嬉しいですね」
先程ご飯を食べたにも関わらず、私は屋台で売っていたジャム入りベビーカステラを買い食いしながら歩きます。
今更ですが、このゲームでは料理などを食べ過ぎたとしても太ったりなどはしないので、こうして食べまくっても問題ないのです。なので、お金をたくさん使って至る所で料理を食べまくっているプレイヤーもいるとかいないとか。
「この街の北東には行きましたし、今度はまだ向かってない南の方にでも行ってみますか!」
西と同じく畑があるとは聞いていましたが、なにか面白い物でもあるといいですね!
私はそのまま南へ歩いていると、やはり聞いた通りでたくさんの畑が広がっていました。収穫は終わり、地面を鍬で耕しているのが見て取れます。
「うーん、農作業をまじまじと見ることはなかったので、こうして見ると結構新鮮ですね〜…」
私の住んでいるところは田舎ではないので、畑なども見た事がないですしね。
そう呟きつつ一人の住人の方を眺めていると、視線に気がついたのかこちらを振り返ります。
「なんだぁ?何か用かぁ?」
「あ、気を害したのならすみません。私は畑を見た事がなかったので、新鮮に感じて見てしまいました」
「いや、そこまで気にしてはいないから大丈夫だ」
私が素直に謝ると、そこまで気にしていなかったのかその方がそう続けます。
「もしかして、異邦人ってやつか?」
「はい、そうです」
問いかけてきたその質問にそう答えると、納得したのか一度手を止めてこちらをジッと見てきます。
「…お前もやってみるか?」
「え?いいんですか?」
「俺は問題ないが、大変だから無理にとは言わんがな」
「いえ、ぜひ体験させてください!」
「おう。じゃあ、これ使うといいぞ」
私は今の装備であるゴスロリとクロークをすべて外して初期装備にした後、農家の方から鍬を受け取って教えてくれる説明の通りに鍬を地面へと振るっていきます。
「そうだ、そんな感じだ」
「けっこうっ、大変っ、なのですっ、ねっ!」
私のステータス的にSTRが低めなうえ、土が意外にも硬くて鍬を振るうのも重労働で苦戦はしましたが、最終的にはある程度は出来ました。
『【栽培】スキルを獲得しました』
そしてそのようなシステム音も聞こえましたが、とりあえず確認は後ですねっ!
「体験させていただきありがとうございました!」
「んにゃ、そこまで深々と感謝なんてしなくてもいいぞ。俺たちの大変さも知れたか?」
「はい!こんな風に野菜たちは育てられているのですね…!」
こうして野菜も作られているのですね。やっぱり、今までよりも育てていただいている方にちゃんと感謝を込めて食べていきましょう!
「じゃあ、私はそろそろ行きますね」
「わかった。あ、そうだ、ついでにこれをやるよ」
その農家の方がそう言って私に渡してきたのは、このの畑で育てられているたくさんのじゃがいもやにんじんの詰め合わせでした。
「こ、こんなにいいのですか…?」
「ああ。お嬢ちゃんも頑張ってくれたし、このくらいなら問題は全然ないからな」
こんなにたくさんの野菜をくれるなんて、なんていい人なのでしょう。
「…では、ありがたく受け取りますね!ありがとうございます!」
「おう、じゃあ、また会えたならよろしくな」
「はい!ありがとうございました!」
私はたくさんの野菜をインベントリにしまって感謝の気持ちを伝えた後、その場を後にして街の中心の広場へ向かいます。
「行くまでの道中で、さっき獲得したスキルの確認をしますか」
先程手に入れた【栽培】スキルは、どうやら自身の育てる植物の成長速度と効能を上げる効果がある様です。今は使い道がないですが、いつか畑を持った時には活躍してくれそうですね。
そうして確認をしつつ、目立つので装備を元に戻してクロークのフードを深く被りながら歩いていると、第二の街の広場に着いたので転移の噴水から初期の街へと転移を行います。
転移が完了して初期の街へ着いたので、そのまま時間まで待っています。実は畑仕事を手伝っていたからか、時間が結構経ち、もうすでに四時二十五分くらいになっていたのです。
そして待つ事数分、始めに歩いていきたのは兄様でした。
「兄様が最初に来たのですね」
「ああ。まあもう時間が近いし他のやつも来るはずだが」
兄様のその言葉を合図に、続々と兄様とクオンのパーティメンバーの皆さんが集まってきました。私はフードを被っていますが、兄様がいるのですぐにわかるようです。
兄様は私に目立つと言ってましたが、十分兄様も目立っていますよ!現に今も女性プレイヤーからの視線が向いてますし!
「よし、集まったな。時間まではまだ少しあるし、ここで待っているか」
「そうですね」
そんなことを考えつつも、皆で色々と会話をしながら待っていると時間になったのか、周りにいた他のプレイヤーの皆さんが転移を始めていってます。
「俺たちも行くか」
「はい」
時間になったので、私たちも転移ポイントからイベントエリアのオークション会場へと転移を行います。
「オークション会場は建物系のエリアなのですね」
私の呟いた言葉の通り、このイベントエリアはとても大きくて広い、綺麗な木材らしきもので出来た会場でした。
「会場は、あっちみたいだな」
隣にいたクオンは転移先の斜め横に置いてあった案内板を見て、そう教えてくれました。
「そういえば、プレイヤーだけとはいえたくさんいるのに会場に入りきるのですかね…?」
「それは問題なさそうだぞ」
私のそんな呟きに、兄様は案内板を指差します。そこには、プレイヤー達の待機室はパーティごとに分かれたエリアになっており、入札はそこで出来るので買ったプレイヤーについては少しだけ載るがプレイヤーたちと顔を合わせながらするわけではない、と書いてありました。
「なるほど、これなら確かに心配はなさそうですね」
私たちのみで入れるので周りを気にしなくてもいいのは少し安心ですね。私や兄様は目立ちますし。
私たちは案内板を見た後にテクテクと歩き、道の先にある階段を登って上の階へ行ってさらに少し歩いたところにあった扉を開いて入ると、パーティエリアへと着きました。
そのエリア内は結構な広さがある様で、私たち十人がいても狭さを全く感じない程です。さらにこの部屋の中にはソファや椅子などもありリラックスしながらオークションを行えます。それと、ここならもう大丈夫なので、フードを脱いでおきます。
そして一面の壁には巨大なモニターがついており、オークションの様子や競り落としたプレイヤーについてはここから見れるようです。
「さて、着いたな」
「後は始まるまで少しだけ待ちですね」
「そうね。オークション行きの作品は何が出るのかしら」
「色々と魅力的な物もあったし、買えるといいな〜」
「わたしも欲しいものはあるし、買いたいね!」
マーシャさんとサレナさん、メアさんの女性陣も楽しげに会話をしています。マーシャさんたちは何か欲しい作品でも見つけていたのですかね?
「俺は特にないから、見てるだけになりそうだ」
「俺も同じだな!」
「俺的にはあの鎧が気になるが、金がどのくらいかかるか…」
ヴァンさん、セントさん、ジンさんもそう続けて喋っています。
「ライトさんとクオンは、何から気になるものとかはありましたか?」
「はい、僕は黒色のロザリオを見てそれが少し気になりましたね」
「俺はペアになっている双剣が気になったな」
黒いロザリオと双剣ですか。そういうのもあったのですね!それは見てなかったので、私も少し気になります!
『お待たせしました。ただいまより、オークションを開始いたします』
皆で会話をしつつ待っていると、そのようなシステムアナウンスが流れました。
「始まるみたいですね」
「だな。さて、何が出てくるか」
私たちが待っていると、まずはオークションについての軽い説明が聞こえてきます。
『このオークションでは、私リブラとカプリコーンが司会を務めます。まず、このオークションでは皆さんに投票していただいた作品達のうちトップ五十までのアイテムのみ出品されます』
こちらバトルフェスの時と同じでリブラさんたちが進行をするのですね。まあそれはともかく、このオークションについてはその様に説明をされます。
『そしてそれ以下のランキングのアイテムについては、次の日の夜中の十二時まで開けるオークションメニューから見ることができ、それまでに最高金額を載せていたプレイヤーが買うことが出来ます』
それ以下のランキングだとしても投票数が少なかっただけで面白いアイテムも多そうですし、そちらもあとで確認しましょうか。
それにしても、このオークションはトップ五十までの作品のみだけなのですね…
『それでは、オークションを開始いたします』
その言葉と同時に、画面にオークション会場が映ります。そこにはリブラさんとカプリコーンさんもいるようです。よし、ついにきましたね。では、早速出てくる作品を見ていきましょう!
『まずは、ランキング五十位から二十五位までの作品を発表します』
そんなアナウンスに続いてカプリコーンさんらしき声で作品を紹介されていきます。
ランキングの二十五位までですが、それだけでも色々な作品が発表されていきます。その中で私が気になったのは、クオンが言っていた物と思しき双剣と私が確認した大鎌、そして魔力の篭っているらしい魔導書です。
私が気になった双剣と大鎌に魔導書以外にも、片手剣や大盾、槍や軽鎧など、実に多彩な武具が出ていました。
やっぱり武具系は人気が高いですし、ランキングにも多く載っているようですね。
それらを買っているらしいプレイヤーたちもいますし、バトルフェスよりは劣るとは思いますが、新しく特出してくる人たちもいつかは出そうですね。
『続いて、二十四位から五位までの作品を発表します』
そんなことを考えていると、前半のオークションは終わった様で、次のアイテムたちの紹介が行われます。
こちらでは、私が気に入り投票した白いブラウスやミニ丈の着物、漆黒色の修道服に兄様が投票していた騎士鎧やライトさんの気にしていたと思しき黒のロザリオなどが特に目につきました。
それらは結構な人気の様で、かなりの額になっていました。普通に買うよりも高くなっているので私は買いませんでしたが、なんとライトさんは黒のロザリオを競り落とす事が出来ていました。
効果がヒーラー向けらしく見た目に惚れても効果が合わない様で、買い手がそこまでいなかったのが決め手の様です。
そうして後半の部も終わり、最後の五位から一位の作品の発表になります。
五位は私が投票欄で見たことがあるクラシックメイド服で、性能も良い上にDEXに補正がかかる効果があるらしく、女性プレイヤーが競り落としていました。
四位はこれまた私が見て投票した大剣で、こちらはSTRを強化する能力付きの様で、ムキムキの男性プレイヤーが競り落としました。
三位はアイザさん作の銀の刀で、切れ味上昇効果付きのようで、こちらは兄様が自身の全財産をかけて競り落としていました。…兄様、少しは刀剣愛を抑えましょうよ…
き、気を取り直して二位は、私が見ていないアイテムのようで赤い宝石の付いた指輪の様です。こちらは火属性のスキルの効果を上げるというかなり強めの能力のようで、火魔法を扱うプレイヤーたちは目の色を変えて入札し、最後には一人の男性プレイヤーが競り落としてました。
そして最後の一位にはなんと、私も投票をしたレーナさん作のドレスアーマーがランクインしてました。特殊効果は毒に耐性を持つ効果のようです。
こちらの装備は剣士系の女性プレイヤーたちが競争し、最終的に軽鎧を着けた女性プレイヤーが競り落としていました。
私やクオンたちはこのオークションでは何も買ってはいませんが、兄様やライトさんなど目的のアイテムを買えた人には祝福を送っています。
『それでは、これにて第一回イベント、バトルフェスならびクラフターフェス、オークションを終了とさせていただきます!会場は残り六十分で強制的に退出させられるので、それまでに元のエリアへと戻っててください』
そのアナウンスを最後に、モニターは再び暗く染まって映らなくなりました。
「じゃあ、オークションも終わったし戻るか」
「そうですね」
そう言って私たちはメニューを開いてイベントエリアから出て元いた初期の街の広場へと転移します。
「戻ってきましたね」
初期の街に戻ってきた後に今の時刻を確認すると、すでに六時近くになっていました。
「まだ少し時間はあるが、今日はこの辺で解散とするか」
「えー、もう少しだけ一緒にいようぜー」
「ですが、レアさんは多分もうご飯の用意をしないといけないのではないですか?」
兄様のその言葉に反論を返したセントさんですが、ライトさんにそう言われてうっ、と怯みます。ですが…
「もう夜ご飯は作り置きしているので、まだやっていても問題はないですよ?」
「そうなの?」
「はい、ログインする前に用意はしておいたのです」
メアさんの反応に私はそう返して、今日は午後からこのオークションもありましたしね、と皆さんに聞こえる様にも続けます。
「そうだったのか。じゃあまだ時間もあるし、どこかで狩りにでも行くか?」
「それなら、このメンバーでレイドでも組んで第二の街の東にある大森林にでも行ってみないか?」
「あ、いいわね!そうしましょう!」
ジンさんのアイディアに、マーシャさんが賛同を示します。他のメンバーの皆さんも反対意見はない様なので、早速レイドを組んで行きますか!
あ、そうそう。レイドというのは、通常のパーティよりも多くの人数でパーティメンバーを組み、一緒に行動をする事が出来るシステムのことです。こちらのレイドは最大で六パーティの合計三十六名まで組む事が出来て、それより上にはレギオンと呼ばれるものもあります。そちらは人数制限はない様ですが、それについての説明をはまた次にでも。
私たちは十人でレイドを組み、広場の水晶から第二の街へと転移をして東の大森林に向かいます。ちなみにパーティ編成は、兄様パーティ五人と私を加えたクオンパーティ五人で組んでいます。
そして歩いていくと大森林の手前に着いたので、早速中へと入っていって狩りと洒落込みましょう!
「誰ですか!?あんなやばい奴をこのエリアに放ったやつは!?」
私は悲鳴の様な声を上げながら、背後へと右手に持つ長銃で無数に弾丸を撃ちつつ森の中を駆けて行きます。
「喋ってる暇があるなら足を動かせ!死ぬぞ!」
「そんなのわかってますよー!」
そんな兄様の言葉に、泣き言を言いつつも手と足を動かすのは止めません。
今の私たちが何をしているかというと、森の中に居た謎のモンスターらしき大きな蛇から必死に逃げているのです。しかもこの辺りのモンスターは全て鑑定が出来ていたのですが、この大蛇は一切見れなかったので明らかにやばいやつです。
この森に入ってきた最初の頃は普通に生息しているモンスターたちを狩っていたのですが、徐々にモンスターが出なくなったと思ったら、突如前を歩いていたジンさんが上から降ってきた深緑色をした、私くらいなら余裕で飲み込めるほどのとても大きな蛇に押しつぶされてポリゴンとなったのです。
…そこからは悲惨でした。ジンさんという壁役を最初に倒されたせいでヘイトがばらけ、後衛であるマーシャさんとサレナさん、そしてメアさんとライトさんがその大蛇が振るった巨大な尻尾の一撃で一瞬の内に吹き飛ばされ、森の中を飛んでいきました。飛んでいった先は見えませんでしたが、明らかにやられているでしょう。
そうして生き残った私、クオン、ヴァンさんと兄様、セントさんの五人で攻撃をしましたが、殆ど効いている感じがしなかったので即座に撤退としました。
しかしそれでも、足の速い私とそれより少し下の兄様以外の三人は、私たちのすぐ後方を走ってましたが即座に追いつかれ、躱す暇もなくその大蛇に食べられてしまいます。兄様にもその勢いのまま迫ってきておりそれを咄嗟に回避をしますが、徐々に追い詰められ、ついには回避が出来なかったようで食べられてしまいます。うわぁ、あの死に方は嫌ですね…




