34話 合間の時間
目が覚めました。今日は日曜日です。今日は午後からゲーム内でオークションがある日ですね。
時刻を確認すると、今は七時のようです。
私はいつも通りベッドから起き上がりパジャマから着替えた後、軽いストレッチを済ませてリビングへと向かいます。
リビングに入ると、どうやら兄様はまだ降りてきていないようで誰もいませんでした。
「まずは朝ご飯でも食べますか」
私は食パンを取り出した後にケチャップを塗ってチーズを載せ、トースターに入れて焼き始めます。そうして少し待つと焼き終わったので、トースターから取り出して食べ始めます。
「うんうん、ピザトーストも美味しいですね!」
そう呟きつつ食べ進め、完食したので使った皿は流しに置いておきます。
そして朝の諸々を済ませて洗濯物も畳めば、朝の支度は終わりです!
「ふんふ〜ん」
鼻歌を歌いつつ使った皿を洗って流し、拭いてと片付けているそのタイミングで、兄様もリビングに降りてきました。
「兄様、おはようございます」
「おはよう、美幸」
兄様は私の声にそう返事をした後、食パンにジャムを塗ってから食べ始めます。
「確か、オークションは午後の五時からでしたよね」
「そうだ、それとランキングは昼の十二時までだから、美幸も後でログインして投票してくるといいぞ」
「そうですね、じゃあ私は早速ログインして投票をやってきます」
「わかった。俺も食べ終わったら行くから、またな」
「はい、また後で」
そんな会話をして私は自分の部屋へと戻り、時計を確認すると今は七時四十分近くになっていました。時刻を確認した後に私は、早速ヘッドギアを着けてベッドに横になりゲーム世界へログインします。
ログインが完了して視界が戻ったので瞼を開くと、そこは初期の街の広場でした。
「とりあえず、どこか落ち着いた場所で作品への投票をしますか」
そう思考し、ログインしてからなんだか目立っていたのでマントの様につけていたクロークのフードを深く被りながら、人がいないであろう図書館へと向かうためにすぐそばにあった水晶に触れて第二の街へ転移を行います。
そして転移が完了したので、マップを見ながら図書館の方角に足を動かします。
今更ですが、図書館のある場所は第二の街の北と東の間に存在しています。
なので私は、まずは北の大通りへと歩き、そこから横に逸れていってどんどん歩いていくと、前にも見た学校の校舎程の大きさの建物の前に着きました。
私は入り口の扉を開けて中に入ってから少し歩き、ある程度入った場所で止まります。
よし、この辺りならもう大丈夫ですね。
私はフードを脱いでクロークをマント状態に戻し、ソロさんは今はいないようなのでそのままテーブル席へと移動します。
そうして私は椅子に座って、今だけメニューに表示されている作品投票を押して作品たちを見ていきます。
「昨日見たのよりも、更に多くの作品があるのですね」
防具に関しては、私が昨日見て良いなと思った白いブラウスやミニ丈の着物、それとレーナさんの作品であるドレスアーマー以外にも、鉄製らしき騎士の様なかっこいい見た目の全身鎧や漆黒色をしたベールと同じく漆黒色の修道服のセット、さらにはクラシックタイプのメイド服などなど、本当に多数の装備が載っていました。
そして武具については、アイザさん作の刀だけではなく、説明を確認する限り二メートルもある大剣に、それと同じくらいの大きい大斧や、なんなら使う人がいるのかもわからない大鎌など、こちらもたくさんのアイテムがありました。
「とりあえず、レーナさんのとアイザさんのに一つ入れますか」
私は五回あるうちの二つをレーナさんとアイザさんの作品へ投票します。
「後は……この修道服と白ブラウスと…大剣にしますか」
そして投票ボタンをポチッと押して決定します。ん、これで投票は終わりましたね。
それと二つの服以外に一つだけ大剣を選んだ理由は、なんとなくかっこよかったからです。私自身には扱えませんが、これを小枝の様に振り回せる人は凄そうですよね!
やることを済ませた後に時刻を確認すると、ここまでの移動や作品を見るのに夢中になっていたからか、もう八時半近くになっていました。
「さて、それじゃあお昼までは本でも読んでいますかね」
そう考えて座っていた椅子から立ち上がり、適当な本を探し始めます。
「ん〜……あ、これにしてみますか!」
私が手に取った本は、魔物図鑑というわかりやすい名前の本です。
その本を持ってテーブル席へと向かい、早速読み始めます。とりあえず、『深界の大森林エルフェリンデ・浅層』で出るモンスターについて見てみますか。
「ふむふむ、なるほど…」
書いてある内容を読む限り、そこには私たちが出会った狼や蝶、蜘蛛にトレントだけではなく、他にも初期の森にもいた猪や蛇、珍しいモンスターでは猫や栗鼠に鼺鼠などが奥で出たりもするようなのです。
「猫……触ってみたいですね」
そういえば、このゲームではまだ他のゲームにもあったペットや従魔などは見たことがないですね。
あ、アリスさんの人形は別ですよ。あれは自意識がなくて自身で操作するタイプらしいので。
「東の大森林については見ましたし、この街の北にあるらしい森に出るモンスターも見てみますか」
イベント後のいつかに挑みに行くでしょうし、先に知っておくのは大事ですからね。
そうして本を読み進めると、北の森の方でも狼や蛇などが出るみたいですが、今までの獣系のタイプとは違って人型らしい複数のゴブリンたちが出たりもすると書いてありました。
「普通は苦戦するのでしょうが……私や兄様、それとカムイさんとかならそこまで難しくはなさそうですね…」
PVP、つまりバトルフェスの時と同じ対人戦のような物ですしね。無数に囲まれればもしかしたら危ないかも知れませんが、まあ大丈夫でしょう。
「エリアのモンスターについてはこのくらいでいいですね。次の本を探しに行きますか」
私は椅子から立ち上がり、今読んでいた本を元の棚に戻した後、新たな本を探しに歩きます。
図書館内を歩いて他にも本を探していると、攻略や情報には関係ないですが何冊かの小説らしきものもあったのでそれらを読み始め、気づいたらもう十一時になっていました。
地味にこの世界特有の小説も置いてあったので、ついつい読み耽ってしまいました。
ちなみに、読んでいた小説は騎士物語の本で、内容は悪魔王に攫われた王国の姫を一人の騎士が色々な苦難を超えて成長しつつ助けに行く、というまさに王道の内容でなかなか面白かったです。他にも恋愛ものや冒険もの、英雄譚などもあったので、また機会があれば読んでみますか!
「午前中はこのくらいにして、一旦ログアウトしますか」
そう呟きつつ、私はメニューからログアウトを選択してこのゲーム世界から一時的にいなくなります。
現実世界に戻ってきました。私はヘッドギアをサイドテーブルに置き、ベッドから降りて軽くストレッチを行います。
「んー…っと、よし、お昼ご飯でも作りますか」
ストレッチを済ませた後は、自分の部屋から出てリビングへ向かいます。
そしてすぐに着いたのでリビングの扉を開けて中に入ると、兄様はまだいませんでした。そのまま私はリビングを通ってキッチンにある冷蔵庫の方へ歩き、中身を確認します。
「…食材は減ってきてますし、午後にでも買い物に行きますか。それと、今日のお昼ご飯はチャーハンにでもしましょう」
そう考えて、テキパキと使う食材を冷蔵庫から取り出して料理を作り始めます。
そうそう、家で作るチャーハンをお店の様にパラパラにするには、卵に半熟状に火を通してご飯を投入してから炒めると、ご飯はほどよくパラリとし、卵は具材としての存在感があって香ばしく味のバランスもよい出来になるのです。
「よし、出来ましたね」
チャーハンは簡単に出来るので、そこまでの時間はかからずに作り終わりました。時刻は十一時十分くらいなので、兄様が降りてくるまでは少しネットで情報でも見てますか。
「…イベント中ですし、攻略についての情報はなさそうですね」
ネットを巡って見ていきますが、気になる情報はそこまで載ってませんでした。ですが、ユニークスキルについての話題はそこそこ載っていました。
バトルフェスでは勝ち上がっていったプレイヤーは基本ユニークスキルを持ってましたし、皆さんもどうすれば手に入れられるかは気になっている様です。
「まあそんな簡単に手に入れられる物ではないですが、やっぱり自分だけのスキルというのは憧れますもんね」
そんな風に考えながらスマホの画面を眺めていると、ふと扉の開く音が聞こえました。そちらを確認すると、兄様がリビングに入ってきた音のようで、入り口に立っていました。
「兄様、来たのですね」
「もういい時間だしな」
時計を見ると、十一時から少し経って十一時十五分になっていました。スマホを見ているのが少し長かったようですね。
「じゃあ、いま用意しますね」
「頼む。俺はコップとスプーンを出しとくな」
「お願いします」
そう言って動く兄様を尻目に、私は少し冷めてしまっているチャーハンをフライパンで温めてからお皿に盛り付けます。今日のお昼ご飯はこれだけですし、準備はすぐに終わりますね。
「では、いただきましょうか」
「ああ、いただきます」
そうして私たちは食べ始めます。うんうん、チャーハンは上手くパラパラに出来ていて美味しいですね!
「美幸はどんな作品に投票したんだ?」
パクパクとチャーハンを食べていると、兄様からそう聞かれました。なので私は口に入っているお米を飲み込んでから、答えます。
「…私はレーナさんとアイザさんの作品と、修道服に白ブラウス、そして凄く大きな大剣に投票をしました。そういう兄様は?」
「俺は美幸と同じくレーナとアイザの作品と、他は騎士鎧とアイザ以外のプレイヤーの作品の大太刀と短刀に投票したな」
「五個中三個は刀系なのですね」
「まあ自分で言うのはなんだが、俺は刀剣類には目がないからな」
確かに、兄様ならそうですよね。剣も扱える様ですが、基本は刀系を得意とする兄様は今までのゲームでも趣味として刀を集めていただけはあります。
「それにしても、刀だけではなく騎士鎧にも投票したのですね」
「俺は基本鎧系は着ないが、あれは結構カッコよかったからな。俺も男だし、あういうのには憧れるんだ」
女の私から見ても、確かにあれはカッコよかったですしね。きっとあれもオークションには出るでしょうし、買い手が誰になるかも少し気になりますね。
そんな会話をしつつ食べていると、お互いに食べ終わったので流しへと皿を置きます。皿洗いは兄様がするので、私はその間に後で行く買い物リストを確認しておきます。
「じゃあ私は買い物へ行ってきますね」
「わかった。あ、それと午後五時からのオークションについてだが、四時半くらいに初期の街の広場に集合してみんなで行かないか?」
「私は問題ありません。それで大丈夫です」
「よし、ならそういうことで。俺は部屋に戻って続きでもしてくるな」
「はい、では私は買い物に行きますね」
「わかった。気をつけてな」
兄様から見送られながら、私は家から出て買い物へと向かいます。
そこそこの距離を歩いて行ったスーパーで買い物を済ませたので、私は家への帰路についてます。
「とりあえず、帰った後は勉強を少しした後に錬金でもしてますか」
そう呟きながら私は帰り道を歩いていると、トコトコと道を横切る黒い野良猫が目に付きます。
「…やっぱり猫は可愛いですね」
私はさっきゲーム内の図書館で見た猫型モンスターについての情報を思い出します。
「モンスターとはいえ猫ですし、イベントが終わった後にちょっと探してみましょうかね」
奥に生息している、と書いてありましたし、出会えるのはもっと先かも知れませんが。
そんなことを想像しながらその野良猫をジッと見ていると、視線に気づいたのか野良猫がこちらへと視線を向けてきます。
「おっと、こんなところで立ち止まっていないでさっさと家に帰りますか」
名残惜しいですが、私は野良猫から前方へと視線を戻して家へと歩き始めます。
そして何事もなく家に着いたので、扉を開けて家に入ります。そのままリビングへと向かってキッチンへと歩き、置いてある冷蔵庫に買ってきた食材たちをしまっていきます。
「ついでに夜ご飯の作り置きもしておきますか」
そう呟き、私は食材を見て作るものを考えます。
「そうですね……今日は八宝菜にでもしましょうか」
作るものを決めた後は、サクサクと工程を進み、作り終わりました。出来た料理は皿に移して粗熱をとったあとに冷蔵庫にしまいます。
「今の時間は……十二時二十分ですか。なら、一時くらいまでは部屋で勉強をしていましょうかね」
終わらせることも済ませましたし、私は部屋へ戻って部屋に置いてあるローテーブルにいつも通り勉強道具を取り出し、勉強を始めます。
そして勉強をしていると一時前になったので、限りがいいところで終わらせて片付けます。
「じゃあ、ログインといきますか!」
そう声に出し、置いてあったヘッドギアを頭につけてベッドへ横になり、ゲームを開始します。
ログインが完了し視界が戻ると、そこは先程ログアウトした場所である図書館の内部でした。
「時間まではまだありますし、その間は錬金をしてますか」
そう思考し、私は一度図書館から出てガラス瓶を買ってきてついでに水を入れておきます。そして図書館に戻ってきた後は、図書館の空いているスペースで初級錬金セットを取り出して錬金を始めます。
「よし、まずはエルフェリンデの浅層で手に入れていた麻痺回復効果のあるミミ草と眠り花を使いましょう!」
インベントリからそれらの素材を取り出して、早速合成を始めます。
ちなみにミミ草はほんのり黄色をした薬草のような見た目で、眠り花は水色の花弁をした小さめの花の姿をしています。
そしてそれらの素材や既存の素材たちでポーションを作り、新しく出来たのがこちらになります。
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解麻痺ポーション ランク F レア度 一般品
麻痺を治す効果のあるポーション。飲むと麻痺状態を解除する。
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睡眠ポーション ランク F レア度 一般品
眠り効果のあるポーション。飲むと眠り状態になる。
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今までに作った解毒ポーションや微毒ポーションなどと殆ど説明は変わっていませんが、効果はしっかりと変わっています。
「そろそろ、錬金セットの新しいのも買わないとですね…」
そういえば、ネットで見た情報には錬金に限らず生産に使う道具などは西から行ける職人都市で上位の物を買えるようなので、そこへ向かう予定も入れておかないとですね。
そう考えながらも手は動かして、下級ポーションや下級MPポーションなどをさらに作っておきます。バトルフェスではあまり使いませんでしたが、持っておいて損はないですしこういう機会にたくさん作っておいているのです。
「…今何時でしょう?」
そうして作るものをある程度終わらせたので懐中時計を確認すると、時刻は二時半になっていました。
「買ってきたガラス瓶と薬草類はなくなりましたし、この辺で終わりにしますか。それじゃあ、次はどうしましょうか…」
きゅぅぅ
そう口に出して何をするか考えていると、そんな音が響きました。
慌てて満腹度を確認すると、もう30%近くしかありませんでした。
「…先にどこかでご飯でも食べてからにしますか」
誰にも聞かれてはいないでしょうが少しだけ恥ずかしくて頬を赤く染めつつも、図書館から出て何処か適当なお店へ寄り、ご飯を食べて満腹度を回復してきます。




