31話 クラフターフェス1
「戻ってきましたね」
「だな」
転移が終わり、観戦エリアへと戻った私が呟いた言葉に、兄様は同意して頷いています。
「本戦に出ただけでSPが貰えるのはありがたいな」
クオンもそれに続けて言います。確かにこれは嬉しいですよね。スキルの進化にも使いますし、あって困るものではないですからね。
「じゃあ皆揃ったし、このままどこかでご飯でも食べていかない?」
「確かに、試合などが意外と長かったから満腹度も減ってるし、待ち時間もあるからちょうどいいな」
「ついでに、このパーティでの親睦を深めるのにも良さそうだね!」
「あ、その前に、ソフィアさんとフレンド交換をしてきてもいいですか?」
「いいよー、待ってるね!」
皆が揃ったのを確認した後にマーシャさんはそう声を上げ、兄様とセントさんがそれに賛同しますが、私のその言葉に一度待っていてくれるようです。なので、同じく観戦エリアにいたソフィアさんの元へ向かってフレンド交換をお願いしてみると、軽く了承してくれたのでそのまま交換を済ませました。
ついでに一緒にご飯はどうですか?とも聞いてみましたが、ソフィアさんはフレンドと行くらしく、ごめんねと言いながら謝ってきました。
私は大丈夫ですと返し、フレンド交換をしてくれた感謝も伝えて、また今度一緒に遊びましょう!と言って手を振って別れます。
アリスさんも誘ってみようかと思っていましたが、ここにはいない様なので今回はやめておきます。
「すみません、お待たせしました!」
そうしてすることを済ませた後、皆の元へ戻って謝罪を述べつつ答えます。
「大丈夫だよ!その間に皆で決めていたけど、ムニルさんのお店に全員で行こうと思っていたのだけどよかった?」
「私は問題ありません!」
「なら決まりだな。じゃあ、早速向かうか」
その言葉に皆は頷き、メニューを開いてイベントエリアから元のエリアへと戻った後、私たちは第二の街の転移ポイントから初期の街の広場へと転移を完了させて、街の南にあるムニルさんのお店へと足を運びます。
「それにしても、あのカムイって人は強かったね〜」
そしてムニルさんのお店へと歩いている途中で、メアさんがそう言葉を発します。
「そうですね、やっぱり最強と呼ばれるだけはありましたね」
「でも、それに対抗できていたゼロさんやレアちゃんもかなりの強さなのはわかったな」
ライトさんとヴァンさんは続けて喋ります。
「…俺では、あの速さには追いつかずにすぐに切り倒されていただろうな」
「ジンはタンクだからスピードタイプではないし、仕方ないけどね!」
さらにジンさんとセントさんもそう続けます。まあ、相性の問題もありましたね。兄様と違って、主に銃を扱うゲームをメインにしていた私は、近接戦闘はそこまで慣れていなかったので近づかれたら動きを読まれて切られましたし。
それに対して兄様は、私よりも近接戦闘を経験しているおかげで数十と打ち合いもしてました。
ちょっとこれからもあるだろう近接戦闘に向けて、兄様とかにお願いして少し鍛えてもらいましょうかね…?
そうして会話をしながら歩いているとムニルさんのお店に着いたので、私たちは扉を開けて中へと入っていきます。
中には結構な人数がいる様で、そこそこ賑わっています。私が周囲を確認していると、ふと目についた人物がいました。
その人物は白い服を着た金髪青目の青年です。試合の時とは違って銀の胸当てと白い剣は装備してませんが、カムイさんですよね…?
「兄様兄様、あの方ってもしかしてカムイさんじゃないですかね…?」
「ん?…本当だな、カムイもこの店に来てたんだな。ちょっと話しかけてみるか」
まだ店員さんが来てないので、そのままカムイさんの元へと向かい話しかける兄様。それに私たちも着いていきます。
「カムイ、だよな?」
「む…お前は、ゼロだったか。お前もこの店を知っていたんだな」
「それはこちらもだ。カムイもここの店主のプレイヤーとフレンドにでもなっているのか?」
「も、ということはお前もなんだな…っと、後ろにいる人たちはお前のフレンドか?」
「ああ、紹介するな、こっちの小さい女の子は知っていると思うが、レアという。俺の妹だ」
兄様がそう紹介をしてくれたので、私はそれに倣って挨拶を返します。
「レアと申します。決勝で戦ったので、覚えているとは思いますが…」
「大丈夫だ、覚えているさ。改めてカムイだ、よろしくな。それとゼロの妹だったのか、兄妹揃って強いなんて凄いな」
「それでも、カムイさんには負けてしまいましたけどね」
カムイさんのその言葉に苦笑しつつ、私はそう返します。
「まあ、レアと俺では相性もあるし、仕方ないとは思うがな」
俺は完全近接特化で、レアは双銃ということは中距離戦タイプだろうしな、とカムイさんは続けます。
「ねぇ、話してないであたしたちも紹介してよ〜」
「ああ、悪い、いま紹介するな。こいつらは…」
サレナさんの言葉に、兄様はそう言って他のメンバーのことも紹介します。皆さんは互いに挨拶を交わして自己紹介も済ませます。
カムイさんはこうしてしっかりと対面して会話などをした限り、落ち着いた性格をしているように見えますね。
「ここで出会ったのも奇遇だし、ついでに一緒に食べていかないか?まだ注文も来てないしな」
「いいのか?…それなら、同伴させてもらうな」
私がそう思考していると、カムイさんはそう発しました。それを聞いて兄様はそれを了承し、皆を代表して店員さんにその旨を伝えた後にカムイさんの座っていたテーブル席とその隣の空いていたテーブル席に分かれて座ります。
ここにはカムイさんも含めて十一人もいますが、座席が広いおかげで座りきれてます。
ちなみに席は、カムイさん、私、兄様と並び、反対側にマーシャさん、サレナさんと座っています。
隣のテーブル席の方ではジンさん、セントさん、クオンと続き、反対側にライトさん、メアさん、ヴァンさんとなっています。
「さて、俺たちの注文は何にするか」
「あたしは今日はハンバーグにしようかな〜」
「いいわね、私も同じにしようかしら」
サレナさん、マーシャさんがそれぞれメニューを決めていきます。
「レアはどうする?」
「んー…そうですね、私はビーフシチューにしますっ!」
「わかった、なら俺はステーキにするか」
そうして注文を決めたので、兄様は代表して店員さんを呼んでそれぞれの注文を頼みます。
「カムイさんは何を頼んでいたのですか?」
「そうだな……それは来てからのお楽しみってことで」
そう言って軽く笑い、教えてくれませんでした。まあすぐに来るでしょうし、その時にわかりますか。
「あ、それとカムイさん。もしよければなんですけど、近接戦闘のコツなどを教えてもらえませんか?」
「近接戦闘か?もう十分強いと思うが…」
「確かにある程度は現時点でも出来ます。ですが、カムイさんや兄様の様な相手では剣などの間合いに近づかれた場合、対処が難しかったのです」
カムイさんの時も徐々に動きを読まれていましたし、とも答えます。
「なるほど……そうだな、なら今日のイベントが終わった後の空いている日にちに軽くなら教えてもいいぞ」
「ほんとですか!ありがとうございますっ!」
私のそんな頼みに少し考えた後、了承してくれるカムイさん。凄くありがたいですね!これで、もう少し強くなれますかね…!
「よく教えてくれるな?」
「まあ、強敵が出来るのは俺も望むところだからな」
そしてそんな喜んでいる私を尻目にコソコソと話すカムイさんと兄様。何を話しているのでしょうか?…まあいいですけど。
それと私の戦闘スタイルは銃から変わることはないでしょうし、近接戦闘が強くなるのは嬉しいですけど中距離と遠距離にも、もっと対応出来る様頑張りますか!
「レア、俺からも教えてあげれるぞ?」
「兄様もいいんですか?」
そんなカムイさんに対抗するかのように、兄様もそう声をかけてきました。
「勿論だ。家族なんだし、遠慮しなくていいんだぞ?」
「それなら、兄様からも教わりたいです!」
「はは、いいぞ!じゃあまた空いている日に教えてあげるな!」
「はい!兄様もありがとうございます!」
なんと兄様からも教われるようです。一人よりも二人の方が、経験での差で教わることは多そうですし、本当にありがたいです!私が目をキラキラさせて意気込んでいると、またもや二人でコソコソと話し始めます。
「…これはなかなか、可愛いな」
「だろ?まあ渡さないがな!」
「さっきからなんの話をしているのですか?」
「「いや、なんでもないぞ」」
「…?」
私は二人の反応に首を傾げます。それにマーシャさんとサレナさんも苦笑していますが、何を言ってたのでしょうか…?そしてそんなことをしていると、店員さんが何やらお盆に料理を載せてこちらへと向かってきました。
「お待たせしました!こちら、薬草マシマシシチューです!」
そして、その声と共にカムイさんが頼んだものらしき料理が運ばれてきました。それの見た目は、濃い緑色をして薬草らしきものや葉野菜などが入っているシチューのようです。アクセントとしてか、赤い人参や紫色のじゃがいもらしきものもありますね。
「み、見た目が凄いですね…」
「確かに見た目はアレだが、緑色のシチューは現実でもあるみたいだから別に不味くはないだろう」
思わずといった感じで声を漏らす私に、そう述べるカムイさん。私たちに先に食べてるな、と言った後、躊躇なくスプーンでその緑色のシチューを掬って口に運びます。
「…うん、美味いな」
そう言ってパクパクと食べ始めます。うーん、どんな味なのでしょうか?薬草マシマシと言ってましたし、苦味などがあるのですかね?
「カムイさん、それはどんな味なの?」
「それ、私も気になります!」
サレナさんが私も気になっていたことを聞きます。
「抹茶のような僅かな苦味に、野菜や肉の旨みが出たルーの味が混じって後を引く美味さ、って感じだな。薬草の苦味はそこまで強くないから、これはかなりの当たりの部類の味だ」
ふむふむ、薬草と言ってもそこまで苦いというわけではないようですね。というか、当たりの部類の味がわかるということは、よく食べているのでしょうか…?
「よくこういう実験メニューとかを頼んだりしているのかしら?」
私たちが思ったことを、今度はマーシャさんが問いかけます。
「ああ、ここに来る時は基本実験メニューを頼んでいるんだ」
カムイさんは食べながらそう答えてくれます。結構な勇気を持っているのですね…
「じゃあ、今までに食べた料理でハズレとかもあったんですか?」
「いや、微妙なものはあっても、不味いというレベルの料理はなかったな」
そうなのですか。じゃあそこまで警戒して頼まないというわけじゃなくても大丈夫なようですね。
「あ、でも虫の料理も出ることはあるから、それは人によってはキツイかもしれんな」
…前言撤回です。やっぱり実験メニューはダメですね。私は大人しく普通の料理にしましょう。
「お待たせしましたー!こちら、ご注文の料理になります!」
そうしてお喋りを続けていると、私たちの頼んだ料理も届きました。
「じゃあ、俺たちも食べ始めるか」
「そうですね。では、いただきます!」
そう言って私たちも自分の料理を食べ始めます。私が頼んだのはビーフシチューなので、パンも付いてきています。ビーフシチューは熱いでしょうし、パンを食べて待ってますか。
このパンはロールパンの様なので、ほんのりと小麦の風味がして柔らかく、なかなか美味しいです。そしてある程度待って少し冷めているであろうシチューをスプーンで掬い、口に運びます。
「熱っ…!」
…ちょっとまだ熱かったですね。ゆっくり食べましょうか。このシチューはまだ熱いですが、こちらもとても美味しいです!入っている肉はスプーンですら切れるほどに柔らかく、肉や野菜などから出た旨みなども残っており、デミグラスソースの味もあってかとても濃厚で最高です!
熱いので少しずつ食べ進め、最終的に完食しましたが、私が食事を済ませたころにはもう皆さんも食べ終わっていました。
「すみません、お待たせしました」
「いや、そんなに急いでないから大丈夫だぞ」
私がそう言って謝罪をすると、兄様はその様に返してきました。というか、なんだかいつもより力が湧いている気がしますね…?
気になったので、自身のステータスを確認してみます。
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レア 状態:正常
ステータス上昇 一時間
(ATK・STR・DEX)
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すると、その様な情報が確認出来ました。なんと、料理を食べたことでバフが付いていたようです。
「兄様、ここの料理を食べたらなんかバフが付いてました!」
「そうなのか?」
「はい。なんか力が湧くと思い確認してみたら、ATKとSTR、そしてDEXのステータスが一時間上昇と出てたのです」
今まで食べた料理ではバフが付いてませんでしたけど、何故でしょうか?
「おそらく、【料理】スキルの上位のお陰ではないか?」
私が考えていると、カムイさんがそう声に出します。
「少し前にネットで出ていたのだが、【料理】スキルが進化した【料理人】からは、その食材によって様々なバフが付くらしい」
そして、そう続けて説明をしてくれました。なるほど、道理で今までと違っていたのですね。私が食べたビーフシチューはこういうバフが付くのですね〜…
「そんな情報が出ていたのか、よく知っているな」
「まあ時間はたくさんあるし、そのついでにな」
時間がある、と言ってますが、そんなに調べ尽くしているのは十分凄いですね…
「さて、そろそろクラフターフェスの時間になるし、行くか」
兄様の言葉に皆頷いて、席から立ち上がってレジへと向かいます。あ、隣で食べていたクオンたちも一緒に行動はしています。どうやらこの食事の間で結構仲良くなった様で、少しだけ親密になっているのが感じ取れました。それと、カムイさんにも聞いてみますか。
「よければ、カムイさんも一緒に行きませんか?」
「…そうだな、特に一瞬に行くフレンドはいないし、同伴させてもらうおうかな」
私の誘いに乗ってくれるカムイさん。そういえば…
「忘れてましたけど、フレンド交換もしませんか?」
「いいぞ、じゃあ行きながらするか」
そうして初期の街の広場へと向かう道中で私たちはカムイさんともフレンドを交換しました。フレンドもなかなか増えてきて嬉しいです!
フレンド交換を済ませながら歩いていると広場に着き、もう行けるらしいのでそのまま全員で転移ポイントからクラフターフェスの会場へと移動します。
「…バトルフェスの時とは違って、こっちは簡易的な街の様になっているエリアなのですね…!」
転移が終わって視界が戻ると、私たちは開けた広場らしき場所に立っており、そこは先程までいた初期の街を少しだけ小さくしたかの様なたくさんの市場が広がるエリアでした。
「とりあえず、どこから見て回るか?案内板はあるみたいだが」
「私は職人のプレイヤーはレーナさんとアイザさんしか知りませんし、それはすぐに行けるでしょうからどこからでもいいですよ」
「俺も特に行きたいところはないから、このままゼロたちに付いていこうと思ってたな」
私とカムイさんのその言葉に、兄様は少し考えて答えます。
「それじゃあ、ある程度バラけて見たいところへ向かうか」
「じゃあ私とサレナ、メアさんは三人で行かせてもらうわね?」
「わかった、なら他はどうするか」
「なら、俺たち男勢もこの五人で行ってもいいか?」
そこにマーシャさんは三人で行くと述べ、それに続いてヴァンさんもそう答えます。どうやら、クオンもそこのメンバーと一緒に行く様ですね。
「セントたちも決まりか。なら、俺たちは三人で適当にブラブラしながら目的地へ向かおうか」
「わかりました」
「俺も問題ない」
では、と言ってヴァンさんたちとマーシャさんたちは別れて歩いていきます。よし、なら私たちも行きますか!




