3話 初ログイン
視界が戻ると、そこはもう仮想世界でした。現実ではあまり見ない、石や煉瓦で作られた綺麗な街並みが見受けられ、周囲にはたくさんの人が溢れ返っています。サービス開始時なのでたくさんの人がログインしたのでしょう。
「おお!風がーー」
「美味しそうな匂いもーー」
「よし、まずはーー」
「早速外にーー」
ログインしたばかりであるたくさんのプレイヤーたちの声がこの広場中に響き渡り、現実よりもはっきりとその音が聞こえてきます。
「なんだか少し耳が良くなっている気がしますね」
やはり獣人を選んだからでしょうか?
頭の上に手を伸ばすとそこにはもふもふのケモ耳があり、お尻の辺りを見てみると、これまたもふもふな尻尾も生えています。
ふと気になって頭の横にも触れると、人耳がなくなっていました。
どうやら、獣人を選ぶとケモ耳しかなくなるみたいです。
そして視界の左上に緑色のゲージと青色のゲージが見えます。多分これがHPとMPなのでしょう。
「美幸か?」
私が自身の身体を確認していると、後ろからそう声が聞こえてきました。
振り返るとそこには、私と同じ服装で170cm前半くらいにウルフカットの黒髪に黒眼の男性が立っていました。
「はい、そうです。こちらではレアですが。あなたは悠斗ですよね?」
「おう、俺はクオンだ」
なるほど、悠斗の悠でクオンですか。いつも通り名前から取った単純な名前のようですね。
「しかし、獣人になったのと髪を短くしたくらいで、見た目はほとんど変えていないんだな」
「この姿のままでも違和感はないかなと思いまして。そういうクオンは一切変えていないじゃないですか」
「俺は変えると身体の違和感があってな…」
クオンはエルフや獣人などだと違和感が強いらしいそうで、人間だそうです。
私は種族を変えるくらいなら大丈夫ですけど、人によっては全く同じ姿じゃないと違和感が強くて上手く動かない人もいるみたいです。
「まあともかく、早速フレンド交換とパーティを組もうぜ」
「ベータの時のパーティメンバーはいないのですか?」
「ああ、それは明日会うことになっていて、今日は一人なんだ」
「なるほど、だからですか。それならパーティ組みはいいですよ」
私がそう返すと、クオンからフレンド申請とパーティ申請が届いたので承諾します。すると私のHP欄の下にクオンの名前とHPが表示されます。
「これでよしっと。じゃあそのまま外で狩りに行こうか」
「そうですね、行きましょうか!」
「そういえば、クオンは初期武器は何にしたのですか?」
街の外に行くまでの道中で、私はクオンにそう問い掛けます。道中には串焼き肉などの食べ物の屋台やアクセの露店を主に見かけますが、たまに素材を売っている露店もあるみたいです。
「俺か?俺はやっぱり片手で扱える剣だな。レアはいつも通り銃か?」
「普段から慣れている物の方が扱いやすいですからね」
クオンからそう聞かれて、私はそう返します。だいたいのゲームで私は主に銃でプレイして来てましたから、クオンにとっては見慣れているんでしょうね。
そうクオンと話しながら歩いていると、街の出口である東門につきました。
「街の外には何がいるのですか?」
「ベータ版のままだったら、今向かっている東の草原や南の平原には兎がいるから戦闘のチュートリアルとしてはやりやすい感じだな」
なるほど、兎ですか。それなら初心者でも大丈夫そうですね。
私たちが周りを見ると、たくさんのプレイヤー達が兎を追いかけて倒しています。
ある者は剣だったり、またある者は魔法だったりと、それぞれの戦い方で兎達を狩っています。
「うーん、結構人がいますね…」
「これだと少し効率が悪そうだな…」
確かに、兎もそこそこいるとはいえ、人も多いですし狩れる量は少なくなりそうですね。
「なら、ちょっと危ないかもしれないが、この先の森はどうだ?」
「森ですか?」
「ああ、出てくるのは基本、狼や蛇とかの森での定番のモンスターだな。兎よりも強くなるから危険かもしれんが……まあ、レアなら大丈夫か」
なんだか信頼されていますね。まあ確かに、いまさらそのくらいの敵に苦戦はしないとは思いますが…
「そろそろ武器を出しとくか」
「あ、武器の確認してませんでした」
「おいおい…」
クオンから呆れられた顔をされてしまいました。わ、忘れちゃったものは仕方ないじゃないですか!
コホンと咳払いをして誤魔化したあと、私はインベントリから初期装備の銃とマガジンを出して早速確認します。
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初心者の拳銃 ランク F レア度 一般品
ATK+1
耐久度 破壊不可
初心者が扱う拳銃。不思議な力で守られているため壊れはしないが性能は最低値。
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鉛のマガジン ランク F レア度 一般品
ATK+1
耐久度 破壊不可
初心者が扱うための鉛の弾丸が入ったマガジン。六発分入っている。
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まあ初心者用って感じの性能ですね。それとマガジンは全部で10個あるので、60発分の弾丸を持っているわけです。
そういえば今着ている防具の確認もしてなかったので、ついでにしておきましょう。
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初心者のシャツ ランク F レア度 一般品
耐久度 破壊不可
初心者が着ている白いシャツ。不思議な力で守られているため壊れはしないが性能は最低値。
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初心者の半ズボン ランク F レア度 一般品
耐久度 破壊不可
初心者が着ている茶色の半ズボン。不思議な力で守られているため壊れはしないが性能は最低値。
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初心者の靴 ランク F レア度 一般品
耐久度 破壊不可
初心者が履いている黒い靴。不思議な力で守られているため壊れはしないが性能は最低値。
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初心者用なので仕方ないですが、これはダサいですね……早めに可愛い服を得たいところです。
「そろそろいいか?」
「あ、もう大丈夫です!」
おっと、思考がズレていました。確認もすみましたし、早速拳銃を腰に装備したホルスターに入れておきます。
気づいたら、クオンも腰に片手剣を差していました。あれも初心者用の武器なのでしょう。
「じゃあ行くぞ」
「はい」
そう言って私たちは森へ入って向かって歩いて行きます。そしてその道中で、プレイヤーに狙われていない兎を見つけました。
「クオン、少しあの兎で鑑定を試してみてもいいですか?」
「お、【鑑定】スキルを選んだんだな。いいぞ」
私はそのまま兎へ視線を向けて【鑑定】スキルを使ってみます。
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ラビット ランク F
様々な草原などで穴を掘り生息している兎。
食用として重宝されている。
状態:正常
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鑑定を使用してみると、このような情報が現れました。ふむふむ、結構簡易的な情報なのですね。
それと兎は食用として使われているようです。街中の屋台に売っていた串焼き肉は多分この兎を使っているのでしょう。
「ついでにちょっと狩ってみるか?」
「そうですね、ちょっとこのゲームでの銃の感覚を知っておきたいですし」
クオンからそう聞かれたので私はそう返し、右手でホルスターから拳銃を取り出して兎へ構えます。そしてパンっという音とともに弾丸が発射され、そのまま兎の頭へとヒットします。
「うん、他のゲームともあまり違いはないですね」
「やっぱりレアは銃を撃つのが上手いな」
「まあ昔からやっていますからね」
そう私達が話しているうちに、兎の死体がポリゴンとなって消えます。すると私のインベントリに兎の肉と皮が入って来ました。
このゲームでも、頭を撃ち抜けば基本的に即死みたいですね。
そうして道中の兎を二人で狩りつつ、再び森へ向かいます。
三十分くらいで森につきました。東に広がる森は、初期の街の北東から南東まで広がっているようで、かなりの広さがあるように感じます。そして私たちはいつでも武器を抜けるよう気をつけながら二人で並んでその森へと入っていきます。
「ここからは結構強くなるから一応気をつけておけよ」
「はい」
私には【気配察知】と【忍び足】があるので、それを意識して使って見ますか。すると、私の視界には入れていないのに、あたりの気配を感覚で感じ取れます。ただ、まだレベルが一なので範囲はかなり狭いみたいで、大きな生物は感じ取れませんでした。
まあ、そんな近くで感じれたら使わなくてもわかるとは思いますけど。
それと【忍び足】の方は足音が小さくなる効果が主で、気配隠蔽などの専用スキルよりかは効果が薄いですが隠蔽全体の効果を上げる効果もらしいですけど、過信はしないほうが良さそうですね。
あ、それに採取もしておきたいですね。狩りついでに【鑑定】スキルであたりを鑑定して採取しておきましょう。
そう考えて周りを鑑定しつつ採取もしていると、突然【気配察知】が反応します。すると右斜め前から草のガサガサ音とともに灰色の狼が口を大きく空けて私目掛けて飛び出してきました。
クオンは左前に、私は右に躱わし、そのまま狼の方を向いて拳銃を構え、弾丸を一発、狼の頭へと撃ちます。その狼は躱わす事が出来ず、頭へ弾丸を撃たれてそのまま絶命しポリゴンとなりました。
しかしそれを気にしている暇はありません。まだ周囲には狼がいるのです。【気配察知】の反応によると、どうやら六匹の狼に囲まれています。
「クオン!左はお願いします!」
「まかせろ!」
私はクオンにそう言葉を送り、私自身は右にいる狼達へと視線を向けます。右側の狼は三体いるみたいです。
私の【気配察知】スキルで狼の場所はわかっているので、まずは前方の草陰にいる狼へと拳銃を向けて弾丸を二発撃ちます。そこにいた狼は頭部に弾丸を受けたようで、そのまま倒れてポリゴンとなります。
残りの二匹は草陰から左右に分かれてこちらへと向かってきます。その隙に私は拳銃の弾丸をリロードして、再び拳銃を構えます。
右の狼の方が近いので、まずはそちらに弾丸を一発撃ちます。狼は右に避けて弾丸を回避し、そのまま私へと噛みつこうとしてきました。
私はその狼の頭を、右足で蹴りとばします。
「キャンッ!?」
「…っ、結構足に響きますね…」
現実よりも痛みは制限されていますが、実物よりも少し大きいくらいの大きさの狼を蹴ったのですから、意外と私自身の足にも衝撃が響いて少し痛いです…
対して蹴られた狼はたまらず声をあげ、そのまま左へとタタラを踏みます。
その間にもう片方の狼へ視線を向け、弾丸を一発撃ちます。その狼は急に飛んできた弾丸に驚き、慌てて回避行動をとりますが、その隙を逃さずに私は倒れかけた方の狼へ視線を戻し、頭部をもう一度、今度は左足で蹴ったあとに弾丸を一発。頭部に弾丸を受けた狼はそのままポリゴンとなって消えます。
最後の一匹の狼は回避行動をとった後に遅れて私の腕に噛みつこうとしてきます。
これに対して私は最初の一匹と同じように右に回避して、同じく頭部へと一発、弾丸を撃ちこみます。
結局、その狼は初めの狼と同じ末路を辿るのでした。
『【体術】スキルを獲得しました』
そうシステムの音が聞こえ、ステータスを確認すると新しいスキルを獲得してました。
多分、蹴ったりしていたからでしょうね。
私の方は終わったのでクオンの方を見てみると、そちらももう終わったようです。
「レア、お疲れ様」
「クオンもお疲れ様です」
クオンは片手剣を腰の鞘に戻してそう話し掛けてきました。
「やっぱりそこまで心配はしなくても大丈夫そうだったな」
「クオンの方も全然余裕そうですね」
「まあベータでもやっていたからな」
クオンも私もVRゲームには慣れていますし、わかりきっていた答えですね。
「それにしても、足癖が悪いな」
「なんです?クオンも撃たれたいんですか?」
「す、すまん」
凄い失礼なことを言われたので、ジト目でそう返すと謝ってきました。なら最初から言わなければいいのですが…
「じ、じゃあこのまま狩りをしていくか」
「そうですね」
話題を変えるかのごとく、クオンがそう言ってきたのでこの話は終わりにしてあげましょう。
そしてそのまま、さっきの狼や蛇、鹿や猪などを狩っていきました。
蛇と鹿には全く苦戦しませんでしたが、猪に対しては少し苦戦しました。その猪は二メートルくらいの大きさで硬い皮に包まれていて、鉛の銃弾ではあまり深い傷はつかなかったのです。まあそれならばと、目などに撃てば効いたので、視界を奪った後にクオンが剣で滅多斬りにして倒してくれました。
そうして二時間くらい狩りをしながら合間に採取もし、手に入れた素材達がこちらです。
・ラビットの肉×4
・ラビットの皮×3
・ウルフの肉×15
・ウルフの牙×13
・ウルフの皮×12
・フォレストスネークの肉×7
・フォレストスネークの牙×6
・フォレストスネークの皮×6
・フォレストディアの肉×4
・フォレストディアの角×3
・フォレストディアの皮×3
・フォレストボアの肉×4
・フォレストボアの皮×2
・薬草×26
・毒草×18
・麻痺草×6
・トクポ草×5
・アプリの実×18
・ベリーの実×24
このようなものがゲット出来ましたが、猪の皮についてはクオンが滅多斬りにしたら品質が落ちてしまいました。やっぱり綺麗に倒したほうが品質の良い素材は手に入れられるみたいです。
ちなみに薬草系統は麻痺草を除いて全て緑色で似た見た目をしており、木の実であるアプリの実はリンゴ、ベリーの実はブルーベリーみたいな見た目で味も同じです。それとトクポ草は、解毒効果を持った草です。
麻痺草については薬草などとは違ってほんのり黄色味がかった見た目で、他の草よりはわかりやすかったですね。
「よし、そろそろ戻るか」
「結構素材も集まりましたし、スキルのレベルも上がりましたもんね」
そうクオンと話し街へと戻ろうと考えていると、レベルの上がった【気配察知】に反応がありました。
「クオン、何かきます!」
私はそう言い銃を構えます。クオンも私と同じく、腰の剣をいつでも抜けるよう構えています。
そうして音が私たちの耳にまで届く頃になると、目の前に全長三メートルくらいの大きな茶色の熊が草を掻き分けて現れました。
私くらいなら一発で叩き潰せそうな大きな腕に、大木すら真っ二つに裂けそうな鋭い爪、そして私たちへの殺意を剥き出しな黒い瞳。
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ブラウンベアー ランク F
森などの奥に生息している茶色の大熊。
非常に凶暴で縄張りに入ってきた者を逃がさない。
状態:正常
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鑑定結果にはそうでました。正直言って、今の私たちではかなり危険な大熊です。ですが…
「逃げられそうにもないですよね…」
「みたいだな。俺が前衛をやるから、後衛は頼む」
「わかりました。気をつけてください」
「おう」
そう言って、こちらに突っ込んでくる大熊へクオンは突撃して行きます。そんなクオンを尻目に私はクオンの後ろから熊の右目、首、胸へと弾丸を一発ずつ撃ちます。しかし大熊は見た目とは違い、思いの外俊敏な動きで弾丸を躱しました。
大熊は弾丸を躱したあと、近づいてきたクオンへ左腕を振り下ろしますが、クオンはそれを避けて大熊へと片手剣を振るいます。
「ガアアアッ!」
大熊は躱せず、クオンの片手剣の攻撃を左腕に受けて皮が切られ赤いポリゴンが流れ出ます。しかし浅いようで、切られた左腕を横へ振るってクオンを弾き飛ばそうとします。
クオンはそれをなんとか後ろに下がって回避出来ましたが、見てた感じあれは受けたら確実にやばい攻撃ですね。
そしてその隙に私は、もう一度右目へと弾丸を撃ちました。
「ゴガアアアッ!?」
今度はしっかりと被弾したみたいで、右目を押さえて苦しんでいます。
「はあっ!」
クオンが再度、今度は首へと片手剣を振り抜きます。その攻撃はさっきとは違ってしっかりと切れたようで、鮮血の代わりの赤いポリゴンが辺りに飛び散ります。そこへ、私も大熊の胸部へ弾丸を追撃として二発撃ち込みました。
「ガアアアアッ!!」
切られた痛みと弾丸の傷を受け、大熊が右目を片手で押さえながら体を手当たり次第に動かして暴れますが、その隙にクオンは後ろへと下がってきました。
「弾丸を結構消費しているけど、大丈夫か?」
「ちょっと怪しいかもですね…」
今までの狩りでも使っていたので、私の持っている弾丸はあと四発分しかありません。普通に使っていたら弾切れになってやられてしまいますが…
「今度は左目を撃ち抜くので、その隙に首を切ってきてください」
「自信満々だな、オッケー任しとけ!」
大熊は暴れるのをやめてこちらを睨んでいます。そんな大熊へとクオンが走って近づいていくのを尻目に、私は牽制としてまず一発弾丸を左目へと撃ちます。対して大熊はその弾丸を危険視したのか、それを注視しつつ回避します。
「グガアッ!?」
しかし私は、その回避先へともう一発弾丸を遅らせて撃っていたのです。大熊がそれに気づいた時にはすでに遅く、残っている左目へと弾丸が吸い込まれ、着弾します。
「ガアアアアアアッ!」
そう声を上げて、今度は左目を押さえて片腕を周囲に振り回して暴れますが、そこにクオンはいません。
「悪いが、首、取らせてもらうぞ!」
クオンは空中に跳んでいて、そこから大熊の首へと片手剣を振り下ろします。
その片手剣は正確に大熊の首を捉え、今度はしっかりと切り落としました。大熊は落ちた首と共に徐々にポリゴンとなって消えていきます。
「ふう、なんとかなりましたね」
「流石にこれは疲れたな…」
私は後衛にいたのでダメージを受けることはありませんでしたが、クオンの方は結構大変だったと思います。その証拠に、少し疲れた顔をしています。
しかしその分、スキルなどのレベルアップも大きいのが不幸中の幸いですね。
「最後にこんなことがあったが、今度こそ帰るか」
「ですね」
そう話し、私たちは森を後にしました。




