24話 生放送
そうして私は図書館内を歩き、神様関係の本を探しています。
「神様、神様…」
そう呟きつつ無数の本のタイトルを見ながら歩いていると、ある本を見つけました。
「これは……神々の加護、ですか…」
タイトルを見るに、これは探していたこの世界の神々について書いてありそうです。では、これを見てみますか。
私はその本を持って、近くにあったテーブル席に向かい読み始めます。
そして本の中身を見てみると、内容は様々な神様の加護の力や、それにちなんだユニークスキルなどの情報が書いてありました。加護の力はその神によって違いますが、基本的にはそれにちなんだ力が強化されるようです。私のもらった時空神の加護は、時属性と空間属性のスキルのMP消費を少しだけ下げる効果でしたし。
まあユニークスキルについては、個人の力が混じって生まれる力なので大まかな傾向ですけどね。
この世界の神の加護のこともわかりましたし、次の本を読みにいきますか!
「次はー……これにしますか」
読み終わった神々の加護の本を元の棚に戻した後、次に手に取ったのは、スキルについて、という本です。これも先程と同じようにテーブル席に移動した後、椅子に座って読み始めます。
こちらの本は、私たちの獲得できるスキルのことや、それらの派生スキルなどが書いてあります。例えば、【刀剣】の進化は【片手剣】や【短剣】、【大剣】など、私の持っている【鑑定】スキルは【鑑定士】などと、様々なスキルの情報が書いてありました。
「これを見れば、スキルの進化先がわかるようですね」
そうして本をめくりながら見ていると、何故か読んでいた本の四分の一くらいから文字が読めなくなってしまいます。
「これは、何故でしょうか…?」
読めるページの最後は、一段階目のスキルの進化先のページが終わったところです。
「あ、もしかして、スキルのレベルが足りないからとかですかね?」
【言語学】か、はたまた他のスキルのレベルか。とりあえず分かる範囲では読めたので、これくらいで良いですね。
スキルの本を棚に戻した後に時刻を確認すると、今は九時十分ぐらいになっていました。
「いい時間ですし、今日はこの辺でログアウトしますか」
私はメニューを開き、ログアウトをします。
視界が戻り、現実世界に戻ってきました。ヘッドギアを外してサイドテーブルに置き、いつも通りストレッチを済ませます。
「んー…っと、明日は午前中は出来ませんし、今日はゆっくりと寝ますか」
そう言葉を漏らしつつ、部屋の電気を消した後にまたもやベッドに横になり就寝します。
朝になりました。今日は日曜日です。今は七時のようです。休みだったからか、少し長く寝てしまっていましたね。
私はパジャマから着替えた後、いつものストレッチを済ませてからリビングに向かいます。
扉を開けて中に入ると、リビングには誰もいませんでした。今日も兄様はまだ降りてきていないようです。
「とりあえず、朝ごはんでも食べますか」
そう呟きつつ、私はトースターに食パンを入れて焼き始めます。少し待っていると焼き終わったので、取り出してマーガリンを塗って食べます。んー!マーガリンのパンも美味しいです!
「ご馳走様でした」
食べ終わった私は皿を流しに置いておき、洗顔、歯磨き、スキンケアなどを済ませます。その後に、昨日干していた洗濯物を畳んで片付けます。
そして私が洗濯物を畳んでいるタイミングと同じくらいで、兄様もリビングに降りてきました。
「おはようございます、兄様」
「ああ、おはよう、美幸」
フワッと欠伸をしながらそう答えてくる兄様。
「また遅くまでやっていたのですか?」
「ああ、パーティで狩りをしていてな。二段目のスキルはなかなかレベルが上がらなくて、つい長くやってしまっていたんだ」
そんな会話をしつつ、兄様は食パンをトースターに入れて焼き始めます。よし、洗濯物も畳終わりましたね。
「今日は確か、十時から生放送があるんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。メンテナンスも一時までだし、少し時間が空くな」
兄様は焼き終わったパンを取り出して食べながら、そう返してきました。
「じゃあ、悠斗が来るまでは一緒に他のゲームでもしませんか?」
私はリビングにあるチェストにしまってあったVRゲームではなくテレビゲームのソフトを取り出し、兄様に聞いてみます。
「お、いいな。久々にやるか」
そう会話しつつもパンを食べ終わったようなので、兄様の朝の支度が済んだ後、そのゲームを始めます。ふふん、今日こそボコボコにしてあげますよー!
「あ、あ、やめてください!兄様!」
「ほらほら、もう後がないぞー?」
テレビに映っている、私の操作するピンク色のボールのような見た目のキャラが、兄様の操作するレイピアのような剣を持ったイケメン剣士の攻撃によってステージの場外に飛ばされてしまいます。
私は必死になってステージに戻ろうとしましたが、無慈悲にも兄様のキャラによって下に叩き落とされて、残機が尽きて勝負がつきました。
「むぐぐ…!」
「はは、やっぱり美幸はVRゲーム内なら凄く強いが、こういう系のゲームは弱いな」
「弱いって言わないでくださいっ!まだです!もう一度勝負です!」
今私たちがしているゲームはテレビに映してやるもので、名前は『スマッシュシスターズ』といいます。このゲームはたくさんのキャラの中から操作するキャラを選び、そのキャラで、相手を吹っ飛ばしたり落としたりといったことをして戦うゲームです。
兄様が言ってましたが、私はこういう手で操作するゲームではあまり強くないのですよね……まあ、たまにこうやってやりたくなるのでやりますが、いつもこうしてボコボコにされています。うぅ、悔しいです!
そうして兄様とゲームをしていると、ピンポンッとインターホンがなったので玄関に向かい、扉を開けるとそこには悠斗が立っていました。
「思ったより早いですね」
「十時に生放送だから少し早めにきたんだ」
今の時間は、生放送の始まる時間より早い九時です。意外と兄様とのゲーム時間が長かったようです。
「あ、それと、ついでになんかお菓子も買ってきたぞ」
「それはありがたいです。それは放送を見る時にでも食べますか。まあ立ち話もここら辺にして、中へどうぞ?」
「おう、お邪魔します」
そう言って悠斗は家に入ってきます。
「悠斗、こんにちは」
「はい、こんにちはです」
「それで、美幸とはどこまでいっているんだ」
「ど、どこまでって言われても…」
「兄様、そんなめんどくさい反応はしなくていいですからっ」
私はリビングのソファに座っていた兄様の後ろから頭にチョップをします。
「とりあえずまだ時間もありますし、三人でゲームでもしませんか?」
「いいな、しようか」
「兄様もいいですか?」
「ああ、いいぞ!」
チョップを受けた兄様は少しの間ショボンとした顔をしてましたが、私がそう声をかけると、すぐに元気な顔になりました。やっぱりシスコンですねぇ…
今度は先程やった対戦ゲームでなく、協力プレイのゲームソフトを取り出してやり始めます。
「そろそろ時間になるな」
そうして少しの間ゲームをしていると、兄様がそう声を上げました。それに釣られて時計を確認すると、もう九時五十分近くになっていました。
「では、一度やめて準備をしますか」
私は兄様と悠斗にコントローラーなどの片付けをしてもらい、その間にパソコンと、ついでにさっき悠斗が買ってきたお菓子も持ってきてそれをダイニングテーブルの上に置いて椅子に座り、公式の動画を開きます。
ちなみに兄様と悠斗は、私の後ろから覗き込むように見ています。
そんな準備も終わり、待っていると生放送が始まりました。
『皆様、はじめまして。このゲーム、"Memorial Story Online"の制作会社ユグドラシルの社長、天馬光輝と申します』
まず生放送に出てきて挨拶をしたのは、明るい茶髪に同じく茶色の瞳をした、端正な顔立ちの二十歳辺りだろう成人男性です。こんな若そうな人が社長なんて、凄いですね。
『この度は、我が社が開発したゲームである、MSOをプレイしていただきありがとうございます』
そう言って深々とと頭を下げる天馬さん。そして頭を上げて、続きを話し始めます。
『今回の放送では、近々ある公式イベントについて説明させていただきます』
動画のコメント欄には"待ってました"や"どんな内容なんですか?"などのコメントが流れています。
『では皆さんが気になっているであろう公式イベント『バトルフェス』と『クラフターフェス』について説明させてもらいます』
天馬さんがそう言うと、コメント欄が早く流れていきます。皆さんお待ちかななのでしょうね…
『まずは『バトルフェス』から。もう知っている人も多いとは思いますが、こちらはプレイヤー対プレイヤーの決闘で一番強いプレイヤーを決める大会となっています』
これはもう知っていた情報ですし、私たちはそこまでの驚きはありません。コメントでも、知らない人はあまりいなさそうな雰囲気です。
『『バトルフェス』では、まず百人のプレイヤーでバトルロイヤルをしてもらい、最後まで生き残っていた二人のプレイヤーが本戦に出場出来る仕組みとなっております』
「そういえば、今のログイン数はどのくらいなのですか?」
「確か、今の最大人数は、二千人だったはずだな」
なるほど、その全てがログインしているというわけではないでしょうし、生産プレイヤーも多いだろうとはいえそれでもかなりの数になりそうですね。
『こちらのイベントの参加条件は、一つ以上スキルの進化を済ませているプレイヤーのみになっております』
ふむふむ、参加条件もあるのですね。まあ、私は超えていますし、悠斗や兄様たちもおそらくは超えています。なので特に問題はなさそうです。
『そして、次の『クラフターフェス』の説明を。こちらは戦闘系プレイヤーではなく、生産スキルをメインに活動しているプレイヤーへのイベントになります』
これから生産のイベントの説明となるタイミングで、天馬さんは一度水を飲み、間を開けてから続けます。
『それと、こちらのイベントには特に参加条件などはありません。このイベントでは、作った物を一度納品し、プレイヤーの皆様の人気投票でランキングを競い合います』
こちらは参加条件がないようなので、私たちのような戦闘プレイヤーでも一応納品は出来るのですね。まあ、私が持っている生産スキルは【錬金】なので、作ったとしてもあまりいい結果にはならなそうですけど。
『それと納品はしないが作品を売りたい、という方もイベントエリアのお店を事前に指定して売ることが出来ます。そして終わったあとにはオークションのようなものも行い、そちらでは納品されたアイテムたちをプレイヤーの皆さんが買うことも出来るので、是非楽しんでください』
…これはまた、凄い情報ですね……オークションですし、かなりの額が動きそうです。私はそこまで持っているわけではないので、買うのはあまりしなさそうです。コメント欄にも、お金の心配をしている人がちらほら見受けられます。
『そして最後に。ランキングの上位に入ったアイテムを作ったプレイヤーには特殊な称号とアイテムを送られるので、我こそはという方は是非狙って見てください』
これもまた、今初めて出た情報です。これは、ほとんどの生産プレイヤーが目指す目標になりそうですね。私はもう特殊な称号の〈時空神の加護〉を得ているのでそこまで欲しいとは思いませんけど、他のプレイヤーはまだそんな称号などは得ていないでしょうから、目の色を変えて目指しそうです。
それに前にネットで見た時は、まだ特殊な効果のある称号の情報は出てませんでした。まあ、私以外にも獲得しているプレイヤーは間違いなくいるはずでしょうけど。
『伝えるべき情報は話しましたし、ここから少しの間は質問に答えていきます』
そこからは、コメントされた質問を当たり障りない程度に天馬さんが答えていきます。質問されていた内容の何個かを出すと、レアモンスターはどうやったら遭遇できますか、とか、特殊なスキルとかってどこで手に入るんですか、や、恋人はいますか、などの質問がされていました。
それに天馬さんは、レアモンスターは運とそのモンスターの行動次第です。と答え、特殊なスキルについては、もっと街などを散策してみてはいかがでしょう?と言い、恋人関係に関してはストレートに、いません、と答えていました。
『では、今日の生放送はここまでにしますか。それでは長い間見ていただきありがとうございました』
そうして質問もあらかた片付いて、一息ついたそのタイミングでそう発し、放送を終了しました。
放送が終わったので、サムネで固定された動画を終了し、パソコンの画面も消しました。それと三人でちょくちょくお菓子も食べていたからもうなくなっていたので、そちらも片付けます。
「今回の放送では、公式イベントの新しい情報が出てきましたね」
「ああ、それにしても、オークションか……金を稼いで貯めておかないとな」
「それと、生産の方では称号ももらえるんだな」
「みたいですね。まあ私たちでは上位に行くことは難しそうですし、そこまで意識しなくてもいいとは思いますけど」
「美幸は【錬金】スキルを持っているからまだしも、俺たちのパーティは誰も生産系のスキルは持っていないからなぁ…」
兄様はそう言ってため息をついています。私も生産系の【錬金】は持っていますが、レベルも低いですし錬金に使えそうな特殊な素材もないので、やはり参加はしませんけどね。
「俺は闘技大会に全振りだな」
悠斗はそう言葉を発します。二人とも生産系スキルを持っていませんし、やっぱりそうなりますよね。
「私も特に生産の方に参加する気はないので、もし試合であったのなら、勝たせてもらいますよ!」
「ああ、俺も全力で相手してもらうな」
私たちがそう話していると、後ろから兄様も喋りかけてきました。
「俺もそっちのみに参加するし、悠斗、お前だけには負けんぞ」
「あはは……お、お手柔らかに…」
「もう、兄様はそんな悠斗にツンツンしないでくださいっ!」
めんどくさい系のお父さんですか!と続けると、兄様はガーンッと音がしそうなほどの顔で項垂れます。もう、兄様ったらシスコンなんですから!それを悠斗は苦笑しながら見ていました。
「兄様は置いておいて、悠斗はお昼にはなにか予定は入っていますか?」
「ん?いや、特にないぞ?」
「それなら、お昼ご飯は一緒に食べませんか?」
まだ作っていないから少し待ってもらくことになりますけど、と続けると、悠斗は少し悩んだあと、一緒にいいか?と聞いてきたので、勿論ですと答えます。では、早めに作っちゃいますか!
早めに作りたいですし、昨日とジャンルは被りますが、丼物にしますか!
冷蔵庫の中を見ると、ほうれん草と豚こま肉があったので、それらと兄様のために買い置きしている焼肉のタレを混ぜて、ビビンバ風にして作りましょう。
そうしてササッと作り終わり、私と兄様、そして悠斗の分を丼に盛って完了です!兄様と悠斗の分は私よりも多めにしています。食欲旺盛な時期ですしね。
「では、いただきます!」
「「いただきます」」
そう言って私たちは食べ始めます。うん、味付けもなんとなくでしたけど、ちょうどいいですね。
「やっぱ美幸の料理は上手いな」
「ふふ、ありがとうございます」
その言葉に違わず、悠斗はモリモリと食べて言ってます。ここまで美味しそうに食べてくれるなら、作った側としても嬉しく感じます。
そして適度に会話をしつつ食べ進め、食べ終わったので、食器はいつも通り兄様にお任せしまいます。
「いつもありがとうございます」
「いや、こちらこそ料理を作ってくれて本当に助かる」
俺は料理ができないしな、と苦笑しながら皿洗いに向かう兄様。まあそれぞれの得意不得意がありますししょうがないですよ。
「じゃあ俺はもう家に戻るな」
「はい。ではまた明日にでもリアルで会いましょうね」
「おう、じゃあ」
悠斗はそう言って手を上げ、自分の家へと戻っていきました。
「ん?もう帰ったのか?」
「はい。メンテはもう少しかかりそうですが、そうですね」
今の時刻はもう十一時四十分くらいですから、まだ時間はありますが、その間にネットで情報でも見ているんじゃないでしょうか?
それじゃあ私もそろそろ部屋に戻って、メンテの待ち時間は勉強でもしてますかね。




