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22話 アリ

 その後、私は途中で止まってくれたアリさんを捕まえた後、兄様をポカポカ叩いた後に図書館へ向かいます。


「す、すまなかった、レア」

「つーんだ、知りません!」


 ぷんぷんしつつも私は歩き続けます。ふんだ、兄様なんて知りませんよ!


「ふふ、可愛いわね〜…」

「怒っている顔も魅力的だぜ!」


 マーシャさんやセントさんのそんな言葉は無視です!

 道中では、兄様は私の機嫌を収めようと必死でした。私を怒らせたら夜ご飯が煮物などになるので、それが嫌なのでしょう。なら、ご飯一回分奢りで許してあげましょう!


 そうして歩いていると、図書館の前に着きました。兄様にはご飯を奢らせる約束もしましたし、この辺で許してあげます。


「アリさん、着きましたよ」

「おお、ここにソロはいるのか!」


 ショボンとしている兄様を尻目に、私は扉を開けて中に入っていきます。そしてそれにアリさんと兄様パーティも付いてきます。そういえば、今は図書館カードを使ってませんでしたけど開けれましたね。朝の早い時間とかだと鍵が空いてないから、そういう時に使う感じなのでしょうね。


 そう思考しつつも、私を先頭に奥まで歩いていきます。奥まで来たのは初めてですけど、ここら辺にもたくさんの本が置いてあるようです。兄様たちもキョロキョロと本を見つつ、私の後を付いてきます。


 そうして奥へ奥へと歩いていると、視線の先にある椅子にソロさんが座っているのを確認出来ました。


「ソロさーん、ソロさんに会いにきた人を連れてきました」

「おや、レアではないですか。会いにきた人ですか?」

「よ!ソロ!相も変わらずジジイだな!」


 アリさんは歯に衣着せずにそう声を上げます。アリさんはもう少し遠慮というものを覚えてほしいですね…


「おや、アリじゃないか。一緒にきたんだね」

「ああ、ちょっと行き倒れてな!」

「行き倒れって……昔からなにも変わっていないんだね。どうせ未知のアイテムでも弄ってたら、転移系の罠でも発動したんだろう?」

「おう!よくわかったな!」

「…ほんと、変わらないね」


 そんなことを考えている私を放っておいて、ソロさんはアリさんの発した言葉にそう言ってため息をつきます。


「まあそれは置いておいて、本題に入ろうか。アリ、頼んでいたものは持ってきてくれたかい?」

「勿論だ」


 そう言ってアリさんは紅く光る宝石のようなアイテムを取り出します。今更ですが、アリさんも収納の指輪を着けていたのですね。この街に来る途中ではそれどころじゃなくて気づきませんでした。


「それはなんなのですか?」

「ああ、これはね、私の持っているとある本の修復に使う物で、ここらでは手に入らないアイテムなんですよ」


 なるほど、だからアリさんに頼んでいたのですね。私がそう納得していると、ソロさんはその宝石を指輪にしまいます。


「じゃあ次だね。アリ、君から見て、こちらのレアはどう見える?」

「ん?んー…あれ、今気づいたが、レアってユニークスキルを持ってたんだな!それに内包されたスキルはわからないがな!」

「やはりそうですか」


 あれ、話してないのにわかるのですね。もしかして鑑定でも使われましたか?


「レア、彼女は他人の持っているスキルを感覚で感じ取れるスキルを持っているのですよ」


 なるほど、ソロさんの持っているらしきスキルと似たような物ですか。通りで話していないのにわかったのですね。


「確かに、これは面白い奴だな!ソロが気にいるわけだ!」

「だろう?」


 そう言って笑っているアリさんとソロさん。


「よし、それなら今から模擬戦をしようぜ!」

「え、何故ですか?」

「そんなの決まっているだろ!あたしがしたいからだ!」


 せ、戦闘狂ですか…!?私がその反応に引いていると、更にアリさんは続けます。


「それにユニークスキルを獲得したのなら、これから成長すればあたしやソロも追い越せるかもしれないしな!」


 流石にそこまで強くなるにはいつまでかかりますかね…?ソロさんは見てないのでわかりませんが、アリさんの強さは凄まじかったですし……それとおそらくアリさんの言葉からすると、ソロさんもアリさんと同じくらい強いのでしょうし、超えるなんてもっと先のことですよ…


 ですが、これはいい機会かもしれません。私の出会った人の中で一番な強さなのは間違いないですし、その技術を少しでも得ることは出来るでしょうしね。


「んー…まあ、一度だけならしてもいいですかね…?」


 私はそう考えて、答えます。


「よっしゃ、決まりだな!」

「ですが、手加減はしてくださいよ!?私なんかアリさんが少しでも力を入れただけで簡単に吹き飛ぶような命なんですから!?」


 アリさんはわかってるわかってる、と笑いながら言いますが、信用が出来ません。本当に大丈夫でしょうか…?


「そういえば、模擬戦をするにしても、何処でやるのです?ここにそんな場所があるのですか?」


 この図書館は所狭しと本が置いてあるので、そんな激しく動ける場所はありません。まああったとしても、本が傷つくのでしないとは思いますけど。


「それなら、ここの奥から行ける広場にいいところがありますよ」


 着いてきてください、と言ってソロさんはそちらへ向かいます。私とアリさん、兄様たちはそれに続いていきます。


 そして少し歩くと扉があり、ソロさんがそこを開いてその向こう側へ歩いていきます。私たちも扉を潜ると、そこは白い木のようなタイルに、同じく白色の無数の本棚に囲まれた、私たちの通っている学校にもある体育館のような広さの景色が広がっていました。


 壁は本棚ですが、これならかなり広いので戦っても大丈夫そうですね。ですけど、本棚に当たったりしたら大変じゃないですかね…?


「レアの心配しているようなことは問題ありませんよ。ここは本棚の少し手前にあらゆる攻撃を無効化する結界が張ってありますからね」


 なるほど、だから自信満々にここを勧めたのですね。


「さて、では始めるか!」


 そう言ってアリさんは腕を回してウォーミングアップのようなことをしながら、中心の広いところへ向かいます。

 私も準備をしてからいきますか。二丁の魔銃は問題ありませんし、装備のゴスロリも大丈夫です。アクセの耐久も問題ありません。では、いきますか!


 私もアリさんに遅れて中心まで歩いていきます。兄様たちはソロさんと同じところで見学をするみたいです。


「レアも準備はいいですか?」

「はい」


 ソロさんがそう聞いてきたので、私は返答を返します。そしてお互いに構え、始めの合図を待ちます。


「では……始め!」


 その合図がなったと思ったら、もう私の目の前にアリさんがいました。アリさんは逆手に構えていた右腕の短剣で逆袈裟斬りをしてきました。


「…っ!」


 私はそれをなんとか後ろに引いて回避しますが、今度はこちらも逆手に持った左手の短剣で横薙ぎに斬撃を放ってきたので、それを私は屈んで回避します。この時ばかりは、私の身長が小さいのが助かりました。


 そして私は屈んだその姿勢から、右足で膝蹴りを放ちますが、それをアリさんは軽々と後方へ跳んで回避します。


 私はそこへ、右手の長銃と左手の短銃で時間差を置きつつ、アリさんへ弾丸を無数に撃ちます。


 それをアリさんは、着地して地面に立った姿勢で躱さないのかと私が思ったら、両手がブレて気づいたら自身に当たる弾丸を全て切り捨ててました。


 銃弾を切るなんて、やっぱり強いですね。ちなみに兄様も少しくらいなら出来ますし、それをゲーム内でも見せてもらっていたのでそこまでの驚きはありません。


「銃弾を切れるのに驚きはしないんだな?」

「はい、私の兄様も少しは出来るので」

「ほほう、そうなのか!それなら、その兄様とやらとも戦ってみたいな!」

「後で聞いてみればいいんじゃないですか?断られはしなさそうですし」

「おう、そうしてみる!じゃあ、続きといくぞ?」

「はい」


 そして先程とアリさんが同じように突っ込んでこようとしている時に、私はユニークスキルを発動します。アリさんは使う気はなさそうですが、こちらは使わないとかなり辛そうなので。


「〈第一の時(アイン)〉」


 私は左手の短銃でスキルを発動しつつ、自身のこめかみを撃ち抜きます。


「なっ!?」


 流石に初めてこんな場面を見たからか、少しアリさんは驚いているようです。

 見学しているソロさんや兄様たちも驚いているのが気配で把握出来ます。


 その一瞬の隙に私は逆にアリさんの懐に近づき、そこから左手の短銃で弾丸を撃ちます。


 先程よりもかなり早く動いたからか、回避が間に合わないと思ったようで、アリさんは咄嗟に両手の短剣を交差させて防御しますが、その攻撃を喰らってアリさんは後方へ後退します。


「〈第二の時(ツヴァイ)〉!」


 そのアリさんへ、私は高速で移動しつつ、今度は別の武技を放ちます。


 それをアリさんは先程と同じように短剣で切り捨てようとしますが、短剣にその弾丸が当たったと思ったら、ガクンとアリさんの動きが遅くなりました。


「これはっ…!?」

「〈第七の時(ズィーベン)〉!」


 そして私は更にここで武技を使うため、自身のこめかみに短銃で武技を撃ち込みます。


 すると、私のすぐそばからもう一人の私が現れました。


「レアが、増えた…!?」


 そんな兄様の言葉が聞こえてきましたが、スルーします。


 私は分身と共に、無数の弾丸を撃ちます。その間に〈第一の時(アイン)〉の効果は切れてしまいました。


「くっ…!」


 しかしそれでも撃ち続けていますが、アリさんは押し込めません。無数の弾丸を回避し、当たりそうな物だけは切り捨ててと、かすり傷はありますが、決定打には欠けています。


 この弾丸は最初は切れたのに、触れると起こる効果に変える初見殺しの技なので、いま付与した〈第二の時(ツヴァイ)〉の遅くする効果が切れた場合は、今の私にはもう一度アリさんに当てることが出来なくなって対処が難しくなりそうです。


 そして十秒が経ったのか、遅くなっていたアリさんの動きが元の速さに戻ります。


「動きが戻れば、こんなものっ!」


 遅くする効果が切れたせいで、もう攻撃を掠らせることも出来なくなりました。ですが、まだ最後まで足掻かせてもらきますよ!


「〈スプリットバレット〉!」


 そして今度はユニークスキルではなく【双銃】の武技を放ちます。


 私の撃った武技は五発に分裂して、アリさんではなく、すぐ近くの地面(・・・・・・・)に当たりました。


「これは……目眩しか…?」


 アリさんの言うとおり、私は目眩しとして地面へ武技を撃ち込んだのです。下は土ではなく木材ですが、衝撃で木屑と煙が舞い上がります。


「〈第一の時(アイン)〉」


 その隙に、再びユニークスキルの武技で自身を撃って動きを加速させ、高速で移動して居場所を特定できないようにします。


「〈第十一の時(エルフ)〉!」


 続いて繰り出した武技は、直前で気付いたものの完全に回避は出来なかったようで、効果が発揮します。そしてそこで舞い散っていた木屑と煙が収まります。


「足が、動かないっ…!?」


 最後に、一日に一回しか使えないという、まさに私の切り札である武技を放とうとします。


「〈第十二の……っ!?」


 すると、確かに当たって動けなくなっていたはずのアリさんが目の前に現れました。その驚きで一瞬体が固まってしまい、アリさんはそれを見逃さずに私のお腹へと蹴りを入れます。蹴られた私はそのまま吹っ飛ばされ、背後にあった本棚の前の結界に背中を強打します。


「カハッ…!?」


 私の視界内に映っているHPゲージが、今の一撃だけで九割も減っています。ほんとギリギリ生きているかいないかレベルです。しかも状態異常の骨折が起きているからか、上手く立ち上がれません。これはもう負けですね…


「す、すまん!?つい興奮して本気で蹴ってしまった!?」


 慌てて駆け寄ってくるアリさんとソロさん、兄様たちを視界にいれたまま、私は意識を落とします。




「アリ、君ね……手加減するんじゃなかったのかい?」

「本当にすまん!苦戦したせいで興奮して、つい…!」

「アリ、謝るのは私じゃなくて、レアとその仲間たちに、でしょう?」

「ああ……本当にすまなかった…!」


 アリさんがそう俺たちに土下座をして謝ってくるのを見て、俺は少しだけ溜飲が下がるのを感じた。だが…


「レアちゃんにもちゃんと謝ってよね!」

「そうよ!しっかりと反省するといいのよ!」


 女性陣の二人は怒りつつ、そうアリさんに小言を漏らしているがな。


 今はさっきの本棚付き体育館のような場所から移動して、その奥に存在するソロさんの自室のスペースらしき場所に俺たちはいる。


 さっきの模擬戦が終わった時にレアは急激なHPの現象によって気絶の状態異常を受けて気を失っており、しかも骨折の状態異常も受けていたのだが、それはソロさんが使ったなんか高位そうな呪文でHPも骨折も、そして傷跡もなく治してくれたのでまだよかった。


 だが、そこまでの攻撃を与えたアリさんへ皆責めるような視線を向けてしまっていたのは仕方がないと思う。俺もそうだし。まあ、プレイヤーだから死ぬことはないが、気分の問題がな。


 それにしても、レアの強さは知っていたからこそ、ここまでの差があるとは思わなかった。アリさんには聞いていないが、おそらく特殊なスキルで最後のあの状況を脱したのだろうとはわかる。


 確か、レアの選んでいる狼人族の特徴は素早さが高く防御が低い、だったはずだ。だが、そうだとしてもただの蹴り一発であそこまで削られるのはやばいな。


 もし、今の俺たち全員で本気で戦った場合、勝てるかどうかは…


「まあ、無理だろうな」


 思考していた考えに、ついそう声が漏れる。


「無理なのかっ!?」


 すると、女性陣で話していた三人の中のアリさんが、思わずといった感じでこちらの言葉に反応してきた。


「あ、すまん、そっちの話は何も聞いてなかった」

「じゃあやっぱりダメなのかーっ!?」


 アリさんは頭を抱えて、ぐおーっ!?と焦っているようで、その様子はさっきレアを蹴り飛ばした動きをしたのと同じ人物とは、到底思えない。


 やっぱりこいつ、ダメ人間なのか…?


 俺の頭の中で、アリさんの評価が下がる音がした。…まあ、しっかりした時もあるのだろうが、今まで見たのがダメなところばかりだったしな…


 その反応に、マーシャとサレナも呆れて、対応を俺に任せることにしたようだ。…いや、俺もめんどくさいんだが。


 ちなみに、レアは今ソロさんが普段使っているらしきベッドに横に寝かせてもらっている。HPも減ってないし傷も残ってはいないが、怪我人だしな。


 それと、レアのユニークスキルをこの目で見るのは初めてだったが、なかなか強力そうだったな。だが見た限り、攻撃手段には乏しそうに見えた。しかし、先にレアの情報を知ってしまったのは少しズルく感じてしまうな…


「次の公式イベントの闘技大会、兄としては負けたくはないな」


 もし試合で会ったのなら、ズルいとしても、勝たせてもらうぞ…!兄の威厳を保つために!

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