21話 行き倒れ
ログインした私はまず、今いる図書館から出て噴水広場へ向かい、そこで兄様たちがくるのを待っています。その待っている間には、満腹度の回復のためにここにくるまでの道中で屋台から買ったフライドポテトを摘んでいますが、ちょうど良い塩加減でなかなか美味しいです。
ちなみに、フライドポテトの材料であるジャガイモは第二の街の南側に広がっている畑で育てられているようで、ほかにも人参やカボチャなど、様々な野菜などを育てられているようです。
そうしてモグモグと食べながら待っていると、マーシャさんとサレナさんがこちらに歩いてきているのが見えました。
「マーシャさーん、サレナさーん!」
私は手を振りながら声を上げて呼びかけます。すると二人ともこちらに気づいたのか、早歩きで歩いてきました。
「お二人とも、お久しぶりです」
「久しぶりね、レアちゃん!」
「久しぶりー!会いたかったよー!」
久しぶりに会ったお二人ですが、装備は最後にあった時と変わっていて、着ているローブにアクセサリーのようなものが複数付いています。
「お二人とも、装備を少し変えたのですか?」
「あ、わかる?実はローブ自体は変わっていないけど、新しく手に入れたアクセサリーを付けてるのよ!」
マーシャさんが、どう、似合う?と聞いてきたので、私は素直に似合ってますよ、と伝えます。
「あたしも新しく買ったんだよー!」
見て見てー、とサレナさんも言ってくるので、サレナさんもお似合いですよ、と返します。
そんな会話をしながらふと向こうを見ると、兄様が歩いてきているのが見えました。
「兄様も来たのですね」
「ああ、待たせたか?」
「まだ時間じゃないので、大丈夫ですよ」
兄様はそんな言葉をかけてきますが、今の時刻はまだ十二時五十分くらいですし大丈夫ですよ!
「レアは新しい装備になっているんだな」
「あ、それあたしも思った!凄い可愛い装備だよね!」
「私も会った時から気になってたわ!」
「実は、兄様にはもう伝えていましたが、倒していたレアモンスターの素材を使って前に着ていたワンピースを強化したのですよ」
そのおかげでかなり強くなってます、と続けます。
「見た感じ、ゴスロリ風よね」
「だねー、それに白い髪に白い肌でお人形さんみたいなレアちゃんにはかなり似合っているね!」
「褒めていただきありがとうございます!」
そうして兄様も入れて四人でわいわいとたわいない会話をしていると、今度はセントさんとジンさんが一緒になってこちらへ歩いてきたので、そのまま集まります。
セントさんは前よりもしっかりとした軽鎧の見た目になっており、ジンさんも鉄製らしき全身鎧の装備に身を包んでいました。お二人ともなかなか似合っていてカッコいいですね!
「悪い、待ったか?」
「いえ、私たちもさっき来たばかりですし、待ってませんよ」
ジンさんが兄様と同じようにそう言ってきますが、別に予定の時間まではまだですし、そこまで待ったとはいいませんよね。
「レアちゃんがさらに可愛くなってる!」
「はいはい、進まなくなるから抑えて抑えて」
セントさんの興奮したような声に、マーシャさんが気持ちを抑えさせます。
「よし、全員揃ったな。じゃあパーティを組んで東の大森林に行くか」
「わかりました」
そんな中兄様はそう発したので、それに皆で頷いてパーティを組んだ後に早速向かいます。
「そういえば、兄様たちは公式イベントの闘技大会には出るのですか?」
私は大森林に向かっているその道中で、兄様たちにそう問いかけます。
「俺は参加しようとは思っているな」
「俺も出るぜ!」
「俺は、参加するのはやめておこうと思っている」
兄様、セントさん、ジンさんの男性陣はそう答えてくれました。男性陣はジンさんを除いて参加をするみたいですね。
「私はヒーラーだし、流石に難しそうだから参加はしないわね」
「あたしも参加はしないかなー」
そして女性陣の二人も、ジンさんと同じく参加はしないそうです。
「レアはどうするんだ?やっぱり参加するのか?」
「はい、私も参加しようとは思っています」
「まあレアの腕前なら、上位にいくのは堅いだろうな」
「…なあ、レアちゃんってそんなに強いのか?」
「さあ…?一度みんなで行った狩りの時しか見てないから、詳しくはわからないわね…」
私と兄様がそうした会話をしていると、セントさんとマーシャさんがボソボソとなにか喋っているのが見えました。
「どうしました?」
「いや、少し失礼かもしれないが、レアちゃんってそんなに強いのかなと思ってな…」
「ああ、そんなことですか」
「レアはかなり強いぞ。おそらくはこのゲームでも、トップに食い込めるレベルの強さだとは思う」
兄様のその言葉に、みなさん目を見開き驚いています。まあ、皆さんの前ではあまり動いて見せてませんもんね。
そこからも取り止めのない会話を続けながら歩いていると、東の大森林に着きました。
「とっ、着いたな。じゃあここからは警戒しつつ、出会ったモンスターたちを狩っていくぞ」
「わかりました。警戒ですね!」
「…なんか、レアちゃんの言葉がおかしいような…?」
私の言葉に疑問を持っているらしいサレナさんは放っておきましょう!別に私は警戒をするだけですしね!
そうして私たちは大森林の中で狩りを始めていきます。
早速【気配察知】に反応したので向かうと、そこにいたのは初期の森にもいた狼の群れです。
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ハイウルフ ランク F
森などに生息している狼。
知能が高く、強力な牙や爪で襲いかかる。
状態:正常
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鑑定にはそう出ました。初期エリアより強くなっているとはいえ、所詮は普通の狼なので、タンクであるジンさんが攻撃を受け止めてその隙に私たちで攻撃することで簡単に倒せました。
落とした素材は爪、牙、皮でした。ウルフの素材よりも少しだけ強くはなっているようです。
そして次に出会ったのは、全長30cmはありそうな大きな蝶の群れです。私とマーシャさん、サレナさんは突如出てきた姿に悲鳴を上げます。
私はその蝶たちへ銃を乱射して蜂の巣にし、ポリゴンへと変えました。オーバーキルで撃ちまくったせいで、蝶の素材である鱗粉はともかく、翅や口吻の品質はガタ落ちしてしまいました。す、すみません…
それとこの蝶はなんと魔法を放ってくるらしかったのですが、一瞬で倒したのでそれは見れなかったです。ちょっとモンスターの魔法は少し見てみたかったですね。そして鑑定も忘れていましたし、また出会ったらしてみますか。
次からは虫を見ても乱射しないようにと兄様に軽く注意された後、再び大森林の中を歩いていきます。
そうそう、鑑定の説明を見る限り、蝶の素材は翅や鱗粉は防具やアクセに、口吻は魔法薬に使えるようです。
魔法薬とは、飲めば少しの間だけ特殊な効果を付与できるという薬のことです。その効果は使う素材や作り方によって変化するらしいので、なかなか奥が深そうです。
そうして歩いていると、また【気配察知】に反応がしたのでそちらへ向かうと、今度はまたもや虫系である蜘蛛がいました。その蜘蛛は蝶より少し大きいくらいの大きさをしており、やはり気持ち悪いです。自分と同じくらいの大きさの虫なんて、嫌すぎますよね。ですが蝶とは違って群れずに単体だったので、それもあってかなんとか耐えれました。
今回は銃を乱射しないよう耐えれたので、タンクであるジンさんを先頭に後ろに控えておきます。
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フォレストスパイダー ランク F
森などに生息している大きな蜘蛛。
糸を操り巣を張って獲物を狩る。
状態:正常
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鑑定結果を見ると、そう書いてありました。どうやらこの蜘蛛は糸を操って狩りをするようです。私たちは相手よりも先に見つけられていたので、不意打ちとして一斉攻撃をすると、防御力は低かったのか簡単に倒せました。ドロップしたこの蜘蛛の素材は糸と目、そして足でした。……足?…鑑定によると、この足は食べることが出来るようです……絶対に食べたくないですよ、こんなもの…!?
「どうした、レア?なんか凄い顔をしてるぞ…?」
私が引き攣った顔をしていたからか、兄様がそう聞いてきました。
「えっと、蜘蛛の足という食材アイテムがドロップしたのですよね…」
「あー…それでか」
兄様は苦笑しつつ納得しています。まあ虫が嫌いなのに、それを食べるためのアイテムが出てきたらそうなりますよー…
ま、まあでも、他のドロップアイテムの糸は新しい防具として使えそうなので、複数は確保しておきたいですね!見つけ次第狩るようにしますか。
それでは気を取り直して、狩りを続けます!
そして今度は、昨日も狩ったトレントが現れました。近接組の兄様、セントさん、ジンさんは根っこや振り下ろしの枝を回避しながら攻撃を繰り出しますが、昨日のうちにわかっていた私はマーシャさんとサレナさんを連れて少し離れて攻撃をします。ここならトレントの攻撃は届きませんからね。まあジンさんがヘイトを取っているからか、こちらまでは攻撃が飛んできませんでしたけど。
そんなトレントからドロップした素材は昨日と同じだったので、特に言うことはないので割愛とします。
それと昨日はトレント以外のモンスターは先に察知して避けてたのでわかりませんでしたが、ここのモンスターは戦った感じ、初期の森よりも強めのようです。まあソロならともかく、このパーティでなら苦戦はしませんでしたけど。
そうして狩りを続けてスキルのレベル上げや素材集めをしていると、またもや【気配察知】スキルが反応したので皆で確認しに行くと、森の中でうつ伏せに倒れている女性を見つけました。
「兄様、誰か倒れています!」
「罠かもしれないから少し様子を見て…っておい!」
私は兄様の言葉をスルーして、その倒れている女性に駆け寄ります。
「大丈夫ですか!?」
その女性を仰向けに返し、そう声をかけます。
「……れ…」
「はいっ!?なんですか!?」
「食べ物を……くれ…」
「食べ物、ですか……ちょっと待ってくださいね…」
その言葉に私は、インベントリから前に取っておいていたアプリの実を取り出してその女性に渡します。すると受け取ったと思ったらすぐにバクバクと食べ終わります。
「すまない、もう少しだけもらえるか…?」
「ま、まあいいですけど…」
そう言われたので、とりあえずあと五個ほど取り出して渡します。
そして受け取ると、またもやバクバクと五個全てを食べて、さらに要求してきます。どれだけ食べる気ですか…!?そしたまだインベントリに残っていたアプリの実を食べ尽くして満足したのか、食べるのをやめます。
「いやー、ありがとな!」
「い、いえ、問題ありませんよ、あはは…」
起き上がったその女性を確認すると、身長は170cm後半はいってそうなほど高く、肩まであるダークブラウンの髪に深緑色の瞳の見た目をしており、まさに豪傑と呼べるような人間の女性です。
そして、インベントリに残していたアプリの実はほとんどこの女性に食べられました。うう、せっかく残しておいたのに……まあもしもの時のために残していたものですから、いいんですけどね、はぁ…
「それで、あなたは何故ここで倒れていたのですか?」
アプリの実を食べ尽くされたせいか、私は少しツンツンしながらそう聞きます。
「おう、それはだな…」
そんな私の様子には気づいていないようで、その女性はそう言って話し出します。
「実は、ソロってやつのとこに向かう途中で、偶然見つけたダンジョンで手に入れたアイテムを弄ってたら、うっかり暴走を起こしてしまって、それがまあ転移系の暴走だったからこれはもう大変のなんのってな。森に飛ばされたのはわかったが、地図も持ってなかったから彷徨い歩いて今に至るってわけだ」
そう締めくくって笑います。笑い事ではない気がしますよ…?もし私が気づかなかったらどうなっていたのでしょうね…
「…そうなんですね。あと、ソロって人なら知っている人なので案内できますけど、どうします?」
「お、そうなのか!じゃあお願いしてもいいか?」
「兄様たちも、狩りの途中ですがいいでしょうか?」
「別に構わないぞ。それに少し面白そうだしな」
「私たちも問題ないわよー、ちょうど限りはいいしね!」
兄様とそのメンバーもそのように言ってくれます。よし、ならさっさと向かいますか!
「じゃあいきますよ、まずはこの森から出ないといけないですからね」
「おう、頼む!…それとなんかツンツンしてないか?」
「気のせいです」
「いや、けど…」
「き・の・せ・い・で・す!」
「…お、おう」
ふんだ、私のアプリの実を食べ尽くしたのは許さないんですからっ!
そしてそのまま歩いて、やっと大森林を抜け出しました。本当に初期エリアから先はかなりの大きさのようで、アリさんと出会った時は三時半くらいだったのに、そこから森を出るのに三十分近くかかって今はもう四時になってました。
それと、アリさんというのはさっき助けた女性の名前で、この世界の住人でもあります。それについては歩いている途中に聞きました。
「ここまでくれば、あとはもう安心ですね」
そう言って張っていた気を抜いて一息つきます。
道中で出会ったモンスターとはアリさんも戦ってくれました。そしたら、それまでのイメージを覆すほど本当に強くて、少しビビりました。何処からともなく短剣を二本取り出したと思ったら、その場から消えて気づいたらこちらに向かってきていた敵を細切れにして立っていました。兄様たちも思っているだろうと思いますが、言わせてもらいます。
強すぎませんかっ…!?
少しツンツンしていた自分が怖くなります。機嫌を損ねたら、頭を飛ばされていたモンスターのように私の首も飛ばされそうです……まあこの少しの間だけでも人柄はわかったのでそんなことはされないと思いますが、恐怖心は仕方ありません。
「おー!ここがソロのいるセクドまでの道か!長閑だな!」
私が戦々恐々している間にも歩みは止めず、どんどん街に近づいてきます。
「とりあえず、ソロさんのいる場所まで案内しますね」
「おう、たのむ!」
「兄様たちは……着いてきますか?」
「ああ!」
私はアリさんを案内するために街に入ったあとは図書館までの道を歩いていましたが、普通に兄様たちも着いてきたのでそう聞くと、それはもう楽しそうに返事を返してきました。むぐぐ、人ごとだと思って楽しそうにして…!
むすっとした顔をしつつも、図書館まで進む足は止まりません。その道中では誰も喋りません。む、無言の空間が気まずいです…!
「…アリさんは、どうしてソロさんに会いにきたのですか?」
その空気に耐えきれず、私はアリさんにそう聞きます。
「ん?ああ、実は、面白そうな人物を見つけたらしくてな、ソロが気にいるなんて珍しいから、あたしも興味が湧いて会いにきたんだ」
それに頼まれていた物も届けるついでだしな、と続けます。ほへー、そうなのですね。ソロさんとは特にそれについての会話をしていなかったので知りませんでした。
「その人の特徴とかって聞いていないんですか?」
「確か……白い髪に金色の瞳をしていて…」
ほうほう、私と同じ髪と瞳の色の人がいるのですね。確かこのゲームでは白い髪には出来ないらしいですし、私もその人が気になりますね!
「魔法の銃を扱い、狼の耳と尻尾が生えた身長の小さな超絶美少女……で………」
ほうほ……いや待ってください。
それ、明らかに私じゃないですか?魔法の銃なんて今の段階では私しか持っていないはずですし、ケモ耳と尻尾、身長の小ささも合ってます。そしてそんなアリさんも、私を見つめて固まっていますし…
「ま、まあソロさんに会えばわかりますよねっ!」
「そ、そうだな!さっさと行くか!」
そう言って私の前を走っていくアリさん。…って、そっちじゃないですよ!私は見当違いの方向に走っていくアリさんを追いかけます。もう、この人は本当に…!
それを兄様たちは後ろで笑っていますが、兄様は後でお仕置きですっ!!




