20話 図書館と魔力
ゲーム世界にログインして目を開くと、そこは第二の街の噴水広場でした。そして公式からのメッセージが届いていました。内容は学校で悠斗が言っていたのと同じで、一週間後の土曜日に公式イベントがある、というのと、日曜日にこのゲームを作った会社の社長の生放送もあるよ、という感じでした。公式サイトに載っていた情報と同じようですが、それともう一つの情報もあったみたいです。明日のようなので、忘れないようにしないとですね。
「公式イベントもいいですが、予定を進めましょう。朝早いですが、素材は手に入っているので早速図書館に向かいますか!」
マップを開き、そこに載っている目印を見つつ歩いていきます。
そうしてマップを見ながら歩いているのですが、徐々に大きな通りから外れていっています。
「…これ、本当にあっているのですかね…?」
少し不安になりますが、目的地には徐々に近づいているはずですし、大丈夫だとは思うのですが…
不安になりながらも歩いていると、ついにその目的地の前に着きました。目的地らしき建物はかなりの大きさらしく、私が通っている学校の校舎と近い大きさをしています。
「結構デカいですね…」
私は大きさに少し躊躇いましたが、迷っていても仕方ないですし、さっさと入りますか。
この図書館の入り口の扉を開けて……開け…………開きませんね。
え、ここに来てと言われたのに入れないのですが…?私が戸惑っていると、扉が突然ガチャッと音がして開き、ソロさんが出てきました。
「おや、来ていたのですね。いま開けたので中にどうぞ?」
どうやらまだ鍵を開けていないだけだったようですね。ソロさんはそう言って中に案内してくれます。中に入ると、そこには無数の本棚に、これまた無数の本が大量に入って置いてありました。ふおー!これは凄いですー!
私がふおー、と声を漏らしつつ瞳を輝かせていると、ソロさんが微笑ましい物を見るように見てたので、私はハッとしてコホンと咳払いをして誤魔化します。…さらに微笑ましく見られているのは気にしません。
「それで、ここに来たということは、もう手に入れてきてくれたのですかな?」
「はい、これだけで大丈夫ですか?」
そう言って私は取ってきた墨色の花と粘着草、魔木の樹皮をこの図書館の中にあったテーブルの上に出します。
「ほう、結構な量を取ってきてくれたのですね」
「多かったですか?」
「いえ、これらの素材はいくらあっても困ることはないので、問題ありません。ではありがたく受け取りますね」
ソロさんはそれらの素材を自身の右手につけていた指輪に触れさせると、なんと素材たちが指輪へと吸い込まれました。
「おや、収納の指輪を見るのは始めてですか?」
「はい、その収納の指輪?というのはどういう物か聞いてもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
私が驚いていると、ソロさんがそう説明してくれます。
「これは、あなたたち異邦人が扱うインベントリを参考にして作られた魔道具なのです。異邦人のインベントリほどは量を入れられませんし時間も経過してしまいますが、たくさんの持ち運びには使えるので、持っている人は持っている魔道具といえるのです」
なるほど、そういうアイテムなのですね。それにしても、魔道具とはなんでしょうか…?
「魔道具のことも知らないのですか?」
「はい」
「ではそれも説明しておきますか」
ソロさん曰く、魔道具とは簡単に言えば魔力などが込められて特殊な効果を持つアイテムのことを指すみたいです。それと私の持っているこのゴスロリワンピースみたいなものも魔道具と呼べるみたいです。
「なるほど、教えていただきありがとうございます!」
「いえいえ、このくらいなら問題ありませんよ」
そう言ってソロさんは笑ってくれます。
「それでは、報酬を渡しますか」
「あ、忘れてました…!」
「ふふ、ではこれを渡しますね。これを使えばこの図書館にいつでも入れるようになるので、いつでも来ていただいて大丈夫です」
『サブクエスト【図書館の修復】をクリアしました』
そうしてクエストクリアのメッセージと共にソロさんから渡された図書館カードを鑑定してみると、どうやらさっきは開けられなかった扉を開けれるようになるアイテムらしいです。これがないとダメだったのですね。まあこれがあればいつでも来れるようですし、時々ここに来て置いてある本を読んだりしましょう!
「ありがとうございます!またちょくちょく来させてもらいます!」
「ええ、ここにある本ならなんでも読んでもらっても大丈夫ですよ」
今の時間は九時らしいですし、まだ時間はあるので早速ここの本を読ませてもらいますか!
「では、さっそく読ませてもらってもいいですか?」
「勿論いいですよ。では私はここの奥にいるので、何かあれば言ってください」
では、と言ってソロさんは奥へと歩いていきます。それを尻目に、私はワクワクしながら本を探します。本のタイトルを見てみると、何故か文が読めませんでした。もしかしてと思って適当な本を取って中を確認すると、タイトルと同じで中の文を読めませんでした。
「ま、マジですか…」
今の私はまさに、地面に手と膝をついて絶望顔をしているでしょう。これはもしかしてと思いスキルの獲得メニューを確認してみると、なんと【言語学】というスキルがありました。これは取ればすぐに読めるようにはなると思いますし……んー…よし、取っちゃいましょう!
そう考え、私はスキルメニューを開いてSPを一消費して【言語学】を取りました。そして改めて本をみると、まだ大体は読めませんでしたが、少しだけなら読めるようになっていました。スキルのレベルが上がればもう少し読めるようになるのですかね?
そこからもレベル上げとして、全部を見れそうな絵本を何個か持って近くにあったテーブル席に向かい、読み始めます。絵本の内容は…
『初めに創造神オリジンが虚無からステファルドと名付けた世界を作りました
そして創造神はその作った世界に生命を宿すため、無数の神々を生み出しました
生み出された神々は皆で協力して大地を、森を、山を、海を、空を作りました
神々はそこへ、自身たちの分身とも言える生物である様々な種族を生み出しました
それに創造神は感激し、生物たちへ祝福を与えます
生み出された種族たちは神に感謝しつつこの世界で生きていきます
それに満足したのか、創造神はこの世界の運命から手を引き、生み出した神々に後は任せて見守ることにしたのです
残された神々は、皆で協力しながらこの世界を見守っていったのでした』
と書いてありました。なるほど、この世界の絵本には神々の歴史のようなものも書いてあるのですね。それとおそらく、創造神は運営のことですかね?
まあ今考えてもわからないことですし、置いておきますか。
それと、この世界はステファルドと言うみたいです。このような細かいことも知れますし、やはり本の情報は侮れませんね…!
では次は、こちらの絵本を読んでみますか。
『とある街に、ソロモンと呼ばれる一人の魔法使いがいました
ソロモンは人として生まれたのにも関わらず、どの種族よりも優れた魔法使いとなっていたのです
そうして魔法を極めていると、とある男の勇者が訪れてきたのです
なんでも、邪神が現れる兆しがあるらしく、仲間を集めているのです
ソロモンは一度は断りました。しかしそんな中、邪神が現れてこの世界を壊そうとしてきました
ソロモンはそれを見て、勇気を持って男の勇者、アーサーについていくことにしました
そして頼れる仲間も集まり、皆で邪神へと挑みます
皆の力もあって、邪神は魂を砕かれて消滅しました
こうして世界に平和が訪れ、アーサーとその仲間、ソロモン、カタリナ、アリババは四英雄と呼ばれ、後世に伝えられていくのでした』
ほへー、これは昔にあったことなのでしょうか?そうだとしたら、邪神を四人で倒すなんて凄いですね。邪神というだけあってランクはSとかまでいってそうですよね。まあ絵本ですし、作り話なのでしょう。だって現実世界にもいたらしき人物の名前がでてますし。
まあそれは置いておいて、スキルレベルがどのくらいになったかステータスを開いて確認してみると【言語学】はもう八レベルになっていました。これくらいあれば、絵本じゃなくても読めるようになりますかね?
そう思い、椅子から立ち上がって絵本を元の場所に戻した後、適当な本をタイトルを見ながら探します。すると、私の【直感】スキルが一冊の本に反応します。タイトルは……神々への知識、ですか。
私はその本を本棚から取って、席に向かい読み始めます。まだ【言語学】のスキルのレベルが低いからか、完全に読めているわけではないですが、大体はわかりました。どうやら絵本にも書いてあったとおり、この世界には無数の神様が存在しているらしいです。それこそ、日本の思想である八百万のように。
そして私が貰ったように、神様から加護を受けている人物も多くはないですがまあまあ存在するようで、加護を受けるにはその神に気に入られるのが条件のようです。
「まさに、タイトル通りの内容でしたね…」
読み終わったので、本を閉じて元の場所に戻します。神様が無数にいるということは、私以外にも加護を受けたプレイヤーもいそうですね……それだと、次にある公式イベントの時は苦戦は必至でしょうね。
「時間は……まだ全然ありますね。ならもう少しだけ読んでいますか」
懐中時計で時刻を確認すると、今は九時半くらいになっていました。今日はこのままお昼まで本を読んでいますか。
「何の本にしましょうかね〜…」
またタイトルを見つつ歩いていきます。すると今度は魔力について、という本を発見しました。本棚から手に取り、近くの席へ向かった後に読み始めます。内容は、自身の魔力の操作の仕方や、魔力の感知のやり方、そして魔力の隠し方が載っていました。私はその本に書いてある通りにやってみます。
「むぅ……結構難しいですね…」
今までは意識してませんでしたが、魔力はあらゆるものに宿っているようです。これを会得出来れば、スキルや武技などの消費MPを減らしたり、または増やして効果を上げるなんてことも出来るようなので、会得できるよう集中して行います。
そうしてしばらく目を閉じて集中していると、少しずつ自身の内側の不思議な何かを感じます。おそらくこれが私の魔力なのでしょう。私はその感覚を掴むためにさらに集中して、それを操作しようとします。最初は難しかったですが、コツを掴んだのか徐々に操作が出来るようになります。すると急に、先程よりも簡単に体内の魔力を操れるようになりました。
『【魔力操作】スキルを獲得しました』
スキルを獲得したから、急に操作の精度が上がって出来るようになったのでしょうね。とりあえず、スキルは獲得できたので良かったです!
「では次は、魔力察知ですね」
今度は操作ではなく感知なので、先程と少しやり方が違います。ですが【魔力操作】を得たからか、まだやりやすくは感じました。
このスキルは体内ではなく外側の、つまり自身の周囲を感知するスキルで【気配察知】の魔力バージョンですね。
そこからは気配察知を意識するように、体外の魔力を感じ取ろうとします。これもまた少し苦戦はしましたが、コツを掴めばあとは簡単でした。
『【魔力察知】スキルを獲得しました』
そして最後は、それを感知ではなく隠すやり方をします。こっちは【気配隠蔽】のやり方と似ていますね。【気配隠蔽】を持っているからか、さっきまで魔力の操作と感知をしていたからか、考えられる理由はいくつもありますが、それらの理由で他二つよりも簡単に得ることができました。
『【魔力隠蔽】スキルを獲得しました』
「よし、これで覚えておきたいスキルはゲットしましたね!」
ふぅ、と一息ついて時刻を確認すると、スキルを得るのに時間がかかってしまったのか十一時近くになっていました。
「ちょっと早いですが、一度落ちて十二時まで勉強でもしてますか」
私はさっきまで読んでいた本を元の棚に戻した後、この図書館の中でメニューを開いてログアウトします。
現実世界に戻ってきた私は、頭につけていたヘッドギアをサイドテーブルに置き、軽くストレッチをした後、鞄にしまってあった教科書などを部屋に置いてあるローテーブルの上に取り出した後、クッションに座りながら勉強をし始めます。
「おーい、美幸、起きてるかー?」
黙々と勉強をしていると、兄様が私の部屋の扉をノックしながら声をかけてきました。時計を見ると、もう十二時を少し超えていました。いつの間にか予定の時間を過ぎていたのですね…!
「すみません、勉強に集中しすぎて気づきませんでした!」
私は片付けもそこそこに、部屋の扉を開いて兄様にそう返します。
「いや、別にいいんだけどな。ご飯の時間になっても降りてこなかったから、少し心配しただけだしな」
「それは失礼しました。ただ集中しすぎていただけなので問題はありませんよ!」
そんな会話をしつつ、私たちはリビングへ向かいます。兄様にも少しだけ心配させてしまったようですし、これからは気をつけるとしましょう…!
「ではご飯の用意をしますね」
「そのくらいなら俺も手伝うぞ」
「それなら助かります。ありがとうございます、兄様」
リビングに降りてきた私たちは、私がご飯を皿に盛り、兄様はその盛られた料理とコップをダイニングテーブルに置いていきます。ちなみに、今日のお昼は挽肉と卵のそぼろ丼です。
そしていただきます、と言って私たちは食べ始めます。
「美幸は午前中なにをしていたんだ?」
「私は昨日言っていたクエストの報告を済ませてきて、そのまま図書館で本を読んでいましたね」
「図書館?そんなものどこにあったんだ?」
食べながらそう返すと、兄様がそう言ってきたので私は首を傾げます。
「第二の街ですけど…」
「確か、その街の図書館なんて見つけられていないはずだ」
「図書館までの道は確かに複雑でしたが、ちゃんと存在していますよ?」
「うーん……もしかして美幸はなにか特別なアイテムとかを持っていたりするか?」
「んー、確かそんなアイテムは……あっ」
そういえば、私の持っている懐中時計の時空の瞳には、時空神の運命、という謎の効果がありましたね。もしかしてそれでですかね…?
「…どうやら思い当たるのがあるようだな」
「あ、あはは…」
兄様のその呆れた視線に、思わず私は視線を横に逸らします。
「初期の街の近くの墓地もそうだったが、美幸は特別なエリアをよく見つけるな…」
羨ましいな、と言ってジトーっとした視線をこちらに向けつつご飯を口に運んでいく兄様。な、なんかすみません…
「ご、合流は一時ですよねっ!」
私はその話から逸らすように、そう問いかけます。
「…ああ、そうだな」
「今日はどこに行くのですか?」
「とりあえず、新しいエリアは目指さず、第二の街の東にある大森林でスキルのレベル上げをしようと思っていたな」
「あそこですね、わかりました」
お互いにご飯を食べ終わったので、会話を終わらせてから片付けをします。使った食器は兄様が洗ってくれるので、私は兄様に先に行ってますね、と伝えて部屋に戻り、ヘッドギアをつけて再びゲーム世界へとログインします。




