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19話 サブクエスト

「今は……五時五十分ですか、なら、狩りはやめて少しだけ散策でもしますかね」


 腰に吊るしてあった懐中時計を手に取って確認した後、私はそう決めます。


「初期の街であるファストは周りましたし、第二の街のセクドに行きましょうか」


 そうそう、今更ですが、初期の街はファストという名前の街で、第二の街はセクドといいます。ファストの東の森や北の山などの初期エリアには特にありませんが、実はその先のエリアからは固有の名前がついてくるのです。例えば前に出てきた墓地の『忘れ去られし墓地ゴドネス』など。まあわかりやすいので、これからも初期の街などと言うと思いますが。


 私は初期の街の広場にいつのまにか浮いていた半透明の水晶に触れてメニューを開き、第二の街へと転移します。


「とりあえず、適当に歩いてみますか」


 そして転移が終わり、第二の街に着きました。ここに来た時は西から来ましたし、反対の東から行きますか!


 そうして私はあてもなく歩き始めます。


 この第二の街は初期の街とそこまで違いはなく、同じように石や煉瓦で出来た建物が建ち並んでいます。ただ、こちらの方がなんというか、年季のようなものが感じとれます。建物が古すぎるというわけではないですし、単に人の思いなどが込められているのだと思います。


「もし、そこのお嬢さん」


 周りを観察しながら歩いていると、ふと声をかけられました。そちらに視線を向けると、そこには灰色の髪を頭の後ろで束ねた身長170cm後半はありそうなイケメンのお爺様が立っていました。お爺様といってもそこまで歳を取ってヨボヨボではなく、むしろ背筋もしっかりと伸び、そこらの男性よりもしっかりとした体つきをしているのが見て取れます。まさにロマンスグレーというやつです!


「はい、なんでしょう?」

「お嬢さんは異邦人ですよね?」


 ちなみに異邦人とは、この世界で生きる住人たちが私たちプレイヤーを指す時に使う言葉です。

 そう言うということは、このお爺様は住人のようですね。


「そうですけど、なにか用があるのでしょうか…?」

「実は、私はこの街にある図書館を運営しているのですが、本の修復に使う素材が切れてしまったのです。なので、異邦人の方に素材の入手をお願いしたいのです。勿論、報酬は用意しますよ」


 この街には図書館があるのですね!それと素材を入手して来て欲しいって、何故他のプレイヤーもいるはずなのに、ピンポイントで私なのですかね…?


 このお爺様は見た限りは怪しくはなさそうですか、ちょっと警戒しちゃいますよね…


 しかし、さっきから私の【直感】スキルがこの話を受けるといい、と反応しているのです。


「…何故、それを頼むのが私なのですか?」


 警戒心を出しつつも、思い切って聞いてみます。すると隠す気はないのか、理由を話してくれます。


「実は、私は他人の称号を見るスキルを持っているのです」

「あ、もしかして…」

「ご想像の通りだと思います。他の異邦人とは違い、あなただけは神の加護を受けているのがわかったからなのです」


 なるほど、道理で私に声をかけてきたみたいです。んー、怪しさは無くなりましたし、受けてもいいのですが…


「その依頼を受けてもいいですけど、少し遅くなりそうですがそれでもいいですか?」

「勿論、構いませんよ。流石に何週間も後だとあれですが、お嬢さんはそんなことをするタイプには見えませんしね」


 神の加護を受けているのもその証拠ですね、とお爺様は続けます。なんだか凄い信頼されてますが、神の加護はなんらかの隠しステータスでもあるのでしょうか?


「では、えっと…」

「ああ、まだ自己紹介がまだでしたね。私はソロといいます」

「私はレアと申します。それと依頼は受けようと思います」

「レアと言うのですか、いい名前ですね。そして受けていただきありがとうございます。これが欲しい素材のリストです。私はこの街の図書館にいるので、もし用事ができたか、素材を手に入れたのならここまで来てください」


『サブクエスト【図書館の修復】が発生しました』


 ソロさんがそう言うと、私の持っているこの街のマップの一箇所にマークが付きました。おそらく、ここが図書館なのですね。それとクエストを受けたとしてシステムメッセージも流れてきました。今回はユニーククエストではなさそうなので、少し安心してしまいました。取ってきて欲しい素材の情報も貰えましたし、不安はなさそうです。


「では、また会いましょうね」


 ソロさんはそう言ってから歩き、人混みの中に消えていきます。


「なんだか不思議なお爺様でしたね……あ、報酬は何かを聞いてませんでした。まあ依頼を完了した時に聞けばいいですか」


 メモに書いてある素材を見てみると必要な素材は三個あり、一つ目が第二の街の東にある大森林の中にある"墨色の花"、そして二つ目が湿地に生えているらしい"粘着草"、最後の三つ目が墨色の花と同じ大森林に生息しているモンスターのトレントがドロップする"魔木の樹皮"らしいです。採取で取れる二つの素材はそこまで苦戦しないで手に入れられそうですが、トレントはモンスターらしいですし、どうなるかはわかりませんね…


「とりあえず、湿地の粘着草は今取ってきて、大森林の素材は夜ご飯を食べてからにしますか」


 今は六時十分近くですし、新しい場所は時間もかかりそうなので、わかっているところから集めていきます。


 この街に来たばかりですが、初期の街に即座に戻って西の湿地へ向かいます。あ、勿論汚れるのは嫌なので、今の間だけゴスロリワンピースから初期の服に変えてますよ。


「メモに書いてあった情報には、湿地の少し奥へいけばたくさん生えているとありましたね」


 私はそう情報を呟きながら、湿地の奥まで歩き始めます。少し奥まで鑑定しながら歩いていると、さっそく粘着草を発見しました。粘着草は触った感じ少しネバネバしているようで、少し嫌な感じです。使わないとは思いますが、一応私の分も少しだけ取っておきますか。


「三十個くらいあればよさそうですかね?」


 ある程度は回収したので、さっさと街に戻りますか。


 そして街に戻った後に懐中時計で時刻を確認すると、六時半くらいになっていました。


「んー、時間も微妙ですし、ご飯前に一回落ちて勉強でもしますか」


 そう考え、私はメニューを開いてログアウトをします。




 視界が戻り、私は頭に着けていたヘッドギアを外します。ご飯まであと少しですし、すぐに移れるようにリビングでしますか。鞄から教科書などの道具を用意して部屋からリビングに向かってそこで勉強を始めます。


「ん?美幸か……勉強をしているのか」

「あ、兄様」

「ああ、勉強お疲れ様」


 黙々と勉強をしているといつのまにか七時になっていたらしく、兄様が声をかけてきました。


「もうこんな時間ですか。今から餃子を焼いちゃいますね」

「そんな急がなくても大丈夫だぞー」


 私はそそくさと片付けを済ませた後、キッチンへと向かい冷蔵庫にしまってあった餃子を取り出して早速焼き始めます。んー、焼ける音も相まってお腹が空いてきますね!


 そして焼き終わったので皿に移して完成です!


「兄様、できましたよー」

「わかった、今行く!」


 食事の用意を終わらせたので、いただきますと言って食べ始めます。


「ユニークスキルの確認は済んだのか?」


 ご飯を食べていると、兄様からそう問いかけられました。


「はい、諸々は済みました。あ、あと第二の街でクエストを受けたのですよ」

「…またユニーククエストか?」

「あはは、今回は違いますね」


 ジトーっとした目で見てくる兄様に苦笑しつつそう返します。ま、まあ、前に受けたクエストはユニークでしたので、もしかしたらと思うのも仕方ないですよね…


「…そうか。この後はどうするんだ?」

「受けたクエストの続きをしようかなと思ってました」


 私は食べながらそう返します。そうしてたわいない会話を続けていると食べ終わったので、流しに置いて洗うのは兄様に任せます。私は洗濯を始めてその間にお風呂に入ります。


 お風呂やスキンケア、ドライヤーなどを済ませ、終わった洗濯物も干して兄様に声をかけた後に自分の部屋に戻ります。そして横に置いていたヘッドギアを手に取って頭につけて再びゲーム世界にログインします。




 ログインすると、初期の街の西方面にいました。時刻は七時四十分のようです。


「九時くらいまでは、第二の街の東の大森林で素材を取ってきますか」


 私は広場まで歩き、そこの水晶に手をついて第二の街まで転移します。


 転移した後の第二の街は、先程いた初期の街よりも意外とプレイヤーがいました。どうやら東の森のエリアボスを倒した人が多くなってきたようですね。


 私はプレイヤーと住人の人混みの中を歩いて、マップを開きながら東門へ向かいます。その道中で、減っていた満腹度の回復のために屋台で料理を買って食べながら歩いていきます。

 売っていた料理は初期の街とは違い、アプリ飴やベリーのワッフルなどの果物系が多く売っていました。


 そして東門に着くと、そこから少しは草原になっていて、ここからも見えていますが少し歩くと大きな森林になっているようです。草原には前にこの街に来た時と同じで、子豚や鶏が見受けられます。それらのモンスターは自分から襲ってくるわけではないので、急いでいる今は無視していきます。


 そうして歩くとすぐに森に着いたので、早速中へと入っていきます。第二の街の東にある森は初期の街の近くにあった森とは違い、鬱蒼とした木々が立ち並んで薄暗く、しかし恐怖を湧かせるようではなく神秘的な雰囲気を醸し出していて、木々も一本一本がかなり太く万年を重ねた森と判断出来ます。


「マップがなかったら迷いそうなほど大きいですね…」


 思わず呟きます。適当に歩いていますが、まだ少ししか歩いていないのにそんな判断が出来るくらいには広いエリアです。そういえば学校で『初期の街の先のエリアからは、初期エリアよりも凄まじく大きくなっているんだ』と悠斗が言ってましたね。これは確かに納得出来るくらいの大きさです。


 それとマップを見てみると、ここは『深界の大森林エルフェリンデ・浅層』という名前らしいです。浅層ということは、奥へ向かっていくにつれて深くなっているのでしょうね。


 そんな中、墨色の花や、薬草や魔草の上位の上薬草に上魔草などを見つけたのでちょこちょこ採取しつつ、トレントを探して歩いていると、突然【気配察知】と【直感】の反応と殺気を感じとりました。

 私は後方に跳んで回避を行うと、私が直前までいた場所の上から大きな木の枝が振り下ろされました。どうやら、やっと発見できたようですね!


 ➖➖➖➖➖

 トレント ランク F

 森の中に生息している木の形をした魔物。

 近づいてきた者を殺して養分にする。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定にはそう出ました。あれ、ふと思ったのですが…


 私はあることに気づいたので、トレントから離れたまま銃を撃ちます。


「ギィィッ!」


 トレントはやはりそこから動けないらしく、回避もできずに銃弾をその体に受けます。そして攻撃をしようとしますが、離れている私までは枝も根っこも届かないらしく、枝や根っこをビタンビタンするのを繰り返し、それでもこちらに届きません。…なんだか少し悲しそうな雰囲気を感じます。かわいそうですし、さっさと倒しちゃいますか。


 銃を撃ちまくってトレントを倒すと、取ってきて欲しいという魔木の樹皮を獲得しました。それと魔木の木材というのも手に入りました。これは木製品の材料に使えるようです。


「魔木の樹皮を入手できたのは一つだけなので、もう少し狩りにいきますか」


 そうして時間の限りトレントを狩って集まったのは、魔木の樹皮は十二個、魔木の木材が十個、魔木の樹液が四個、そしてレアドロップらしき魔木の枝が二個手に入りました。


 ちなみに他のモンスターは、今は先に察知して回避したので戦っていません。ここは狼や蛇もいましたが、虫や植物系のモンスターなど、初期のエリアにはいなかったモンスターもいるみたいです。


「ふふん、このくらいあれば良さそうですかね?」


 そして墨色の花も二十個ほど集まりましたし、これで手に入れてきて欲しい素材は集まりましたね!


「時間は……八時五十分くらいですね。もう時間は遅いですし、また明日か明後日にでも図書館に行って渡しますか」


 私はトレント狩りを済ませ、街に戻るために走って森の出口に向かいます。狩りのときにも見ましたが、これだけ歩いてもまだこの森のマップの一割も踏破できていないようです。広すぎではないですか…?


 ま、まあさっさと街に戻りますか。そうして走っていると森の入り口に着いたので、そこからは歩いて第二の街へいきます。


「今日はもう落ちて、寝ますか。明日は兄様との約束もありますし」


 そう思考しながら歩いていると、近かったからかすぐに街に着きました。東門を越えてそのまま噴水のある広場へと向かい、そこでメニューを開いてログアウトします。




 現実に戻ってきたのでヘッドギアを外してサイドテーブルに置いたあと、部屋で軽くストレッチを済ませて電気を消し、就寝します。おやすみなさいです。




 チュンチュンと鳥の鳴き声で起きました。今日は土曜日です。今の時刻を確認すると、七時のようです。今日は学校は休みなので、ゆっくりとできますね。

 私はパジャマから私服に着替えて軽くストレッチをしたあとにリビングへ降ります。中に入ると兄様はまだいないようなので、その間に朝ご飯を済ませます。そして洗顔、歯磨き、スキンケアも済ませた後に洗濯物を畳んでいると、兄様が降りてきました。昨日長くゲームをやっていたのか、少し寝ぼけ目です。


「兄様、おはようございます、目つきがヤクザみたいになってますよ。まずは洗顔を済ませてきてはいかがですか?」

「…ああ、おはよう。そうしてくる」


 そう言って兄様は洗面所へと歩いていきます。その間に干していた洗濯物を畳むのを済ませ、兄様のご飯も作っておきます。まあパンを焼くだけなのでそこまでではないですけどね。


 そして兄様が戻ってきたタイミングでちょうどパンも焼けたので皿に出しておきます。


「兄様の分のパンも焼いておきましたよ」

「お、ありがとう。やはり美幸はいいお嫁さんにやりそうだな」

「ふふ、ありがとうございます。でも私以外にはそんなこと言わない方がいいですよ」

「美幸以外には言わないから大丈夫だ」


 兄様が口説くようなことを言ってきたのでそう返すと、そのように答えてきました。今更ですが、兄様ってだいぶシスコンっぽいですよね?


「あと、今日の集合時間と場所は、前と同じく一時に、第二の街にある中央の噴水広場でいいか?」

「大丈夫です」


 それと今日は午後から兄様パーティとの狩りですし、午前中の空いている時間に買い物とクエストの報告をしてきますか。


「ご馳走様でした。よし、俺は早速ログインしてくるな」

「わかりました、ご飯は十二時くらいにしようと思うので、そのくらいにきてくださいね」

「わかった」


 じゃ、と言って兄様は部屋へ戻っていきます。ほんと兄様はゲーマーですね〜……では、私もさっさと買い物をしてからログインしますか。


 そう考え、歩いて食材の買い物に行ってきます。


 そして五十分くらいで買い物を済ませてきて、買った食材を冷蔵庫にしまい、作り置きの料理も作って置いておきます。よし、これでやることは済みましたね!


 終わったので時刻を確認すると、八時四十分くらいになっていました。


「では、ログインしますか!」


 自室へと戻ったあと、テーブルに置いてあったヘッドギアを頭に付けてゲームにログインします。

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