162話 新たな武器
「さて、私に伝えたいこととは?」
リンネさんが去っていった後、ソロさんはソファに座りつつも私へとそのように問いかけてきます。
うーむ、どうやって伝えましょうか…?いや、普通に言えばいいだけですね。別に悪いことではないですし、正直に伝えるとしましょう!
「私は、前にワールドモンスターの一体を討伐してきたのです」
私はそう決めた後、早速ワールドモンスターを討伐したことを単刀直入にソロさんへと伝えると、流石のソロさんもそれには驚いたようで、その顔に驚愕と興奮を浮かばせます。
「…まさか、こんな短期間のうちに倒せるとは思ってませんでしたよ…」
確かにそうですね。まだゲームを始めて一ヶ月と少しなのを考えると、やはり早いとは私も思えます。
しかし、それは私を含めたトップ勢の皆さんの力を結集したためなんとかギリギリ勝てた、という具合なので、まだ私一人では勝つことは不可能とは言いませんが、かなり厳しいとは感じますけど。
それにこの前戦った深森の分身体相手に勝つことも出来たので、前よりかは強くなっていることはわかるのでこの調子ならワールドモンスターの本体ともいい線にいけるでしょう!
「それで、倒したのはどれなんです?」
「あ、伝え忘れてましたね。私たちが倒したのは天災のゾムファレーズです」
今思い返しても、天災は完全にステータスの暴力といった感じの戦い方だったから勝てたのかもしれませんね?
私が今まで相手をした深森は当然として、世喰とメラスクーナさんも天災とは違って自身の特殊能力をフルで使う感じに見えましたし、これから相手をする時はワールドモンスターの一角である天災に勝ったとはいえ、油断しないようにしなくては…!
「アレを倒したのですか……やっぱり、レアの才能は素晴らしいですね」
おっと、思考が逸れてましたね。
私がそんな思考をしている間にソロさんは何やらウンウンと頷いて納得しているみたいですし、ソロさんもワールドモンスターの討伐が成功したことが嬉しいのでしょう。
「なら、レアはこれからもワールドモンスターを狙っていくのですか?」
「そうですね、次の狙いはまだ決めてませんが、ワールドモンスターを全て討伐するのが私の目標でもあるので」
それにこの世界の神様であるクロノスさんからもお願いされてますし、私自身も深森を筆頭にワールドモンスターの討伐を目指しているうえ、それが私たちプレイヤー全員の目標でもありますしね。
「そうですか。では、陰ながら応援させてもらいますね。私に協力出来ることなら手伝いもしますよ」
「ありがとうございます!その時は、ソロさんの力を貸していただくかもしれません!」
ワールドモンスターの討伐は私たちプレイヤーだけの目標ではなく、この世界に深く関わってくることでもあるからソロさんも協力してくれるのでしょうね。
ソロさんはただのお婆様ではありませんし、これからは手を借りることもあるかもしれませんね!その時は、是非お願いするとしましょうか!
「…さて、伝えたいことはそれだけですか?」
「はい。一度ソロさんにワールドモンスターの討伐をしたことを言っておきたかっただけなので、これで、要件は終わりです」
まあ別に言わなくてもよかったのかもしれませんが、ソロさんはわざわざ私にワールドモンスターの情報などを教えてくれましたし、その感謝の代わりとして伝えるべきではあったので言いましたが。
「じゃあ、私はこの辺で行くので、また会いましょうね」
「ソロさんも、お元気で!」
では、とソロさんが口にしたタイミングで裏世界のおじさまのように転移魔法らしきものでこの場から去っていったので、私はそれを確認しつつも応接室から出てリンネさんの元へと向かいます。
「…それにしても、今回のクエストをしっかりとクリアしましたし、これからは裏世界の住人もこの街に増えたりしそうですね」
リンネさんは教会で会うつもりとも言ってたので、あの人たちは裏世界と現世の移動が可能なのでしょう。
なら、この街に裏世界の住人が増えるのは間違いないですね。裏世界の人たちにとっては新鮮かもしれませんが、住人の種族が違うだけで変わり映えはないのでそこまで問題はないとも思えますしね。
「あ、レアさん、もういいのですか?」
そうこうしているうちにリンネさんと子供たちの元へと着いていたようで、私を見つけてすぐにそのように声をかけてきました。
「はい、ソロさんも行ったので、これで私の用事は終わりです」
「そうですか。レアさんはこの後は?」
この後、ですか。それを聞かれてチラリと腰元の懐中時計を確認すると、今の時刻はおよそ四時近くなのでまだ時間はありますね。
んー…なら、この時間は先程の報酬として渡された箱の確認をした後に南大陸の港町の散策もしてみますか。それに船長さんも知っていたみたいですし、ワールドモンスターである静海のリーブトスについてもそこで働いている船乗りの住人たちへ聞けば、少しは情報を集めれるでしょう。
「この後は港町に向かおうと思います」
「港町ですか。では、お気をつけてくださいね」
「レアちゃん、またね!」
リンネさんに続くようにアンちゃんたち子供組からも別れの挨拶をされたので、私はクスッとしつつも手を振って別れを告げ、そのまま教会から港町に向かうべく歩き始めます。
「ひとまず、人通りの少ない場所で箱の中身を確認ですね」
私は先程までいた教会から港町に向かうために広場を目指していましたが、その途中で一度人通りのない裏路地に道を逸れていきます。
この前のように裏世界に続く空間の狭間を見つけたり、何か特殊そうな住人と出会うといったこともなく、無事に裏路地の奥にポツンとあった広場らしき場所に辿り着きました。
ここなら人目も一切ないですし、確認するにはピッタリですね!
「では、早速報酬の確認と行きますか!」
早速インベントリからおじさまからもらった大きめの箱を取り出し、地面へと下ろします。持った感触からはそこまで重くは感じなかったので、もしかしたらなんらかの防具でしょうか?それか私の使っている双銃のような武器だったり…?
「まあ開ければわかりますね。いざ、オープン…!」
そうしてワクワクを隠さずに箱の蓋を開けて中を確認してみると、中には一つの銃が入っていました。
その銃の見た目は全長で私と同じくらいの大きさがあり、かなりの長さの銃身とそれを支えるかの如くぶ厚く作られた銃床が特徴の、いわゆる狙撃銃と呼べるものでした。
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魔導狙撃銃・黒死蝶 ランク S レア度 固有品
ATK+75
DEX+30
耐久度 破壊不可
・魔影弾 自身のMPを消費して弾丸が撃てるようになり、MPの続く限り弾数は無限になる。
・〈死すべき弾丸〉 自身の撃つ弾丸に一度だけ即死効果を付与する。 リキャストタイム二十四時間
魔創の影が自身の力をフルに使って制作された魔導銃。その狙いから逃れることが出来る者はいないだろう。
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鑑定結果ではこのように出ましたが、この説明の中で一つ気になるものがありました。それは魔創の影、というものです。
おそらくはあのおじさまのことを指しているのでしょうけど、おじさまはこのようなカッコいい二つ名らしきものを持っていたのですね!
「それに、この武器のスキルも凄いものですね…」
一つ目のスキルは、私の愛用している双銃と似たようなものである弾丸の無限化です。こちらの場合はMPを使うことになるみたいですけど、これはすでに双銃でも知っているので気にする必要はありませんね。そして、もう一つのスキルもこれまた凄いものなのです。
それは、弾丸に即死効果をつけるというものなので、運が良ければこの一撃だけで対象を倒すことも出来るでしょう!…その分リキャストタイムは膨大なので、連発は出来ませんけどね。
だとしても強力なスキルなのは変わりありませんし、この武器を使う時は頼ることはありそうです。
「…おっと、これは結構重たいですね…!」
私は確認した後に一度手に取ってみると、先程まで箱として持っていた時よりも明らかに重く、少しだけタタラを踏んでしまいます。
これだけの大きさをしているので重さには納得出来るのですが、それでも箱の時と比べて重さが変わり過ぎて戸惑ってしまいますよ…!
一応待てないこともないですけど、これは立って撃つのは私には難しそうですね…?私の場合、使う時は地面に置いて伏せ撃ちのスタイルで使うことになりそうです。この狙撃銃には二脚というものも備わっていますしね。
「…これで確認は済みましたし、そろそろ港町に向かうとしましょうか」
私は箱から取り出した狙撃銃をなんとかインベントリに仕舞い、続けて箱も仕舞ってから今いる広場からこの街の広場へと歩いて向かいます。
この狙撃銃の確認もしておかないとですが、それは今度でも大丈夫でしょう。
「…そうして港町まで来た私でしたが、今は面倒なことに絡まれているところです」
「なんだ、お前?」
…初期の街の広場に移動した後に港町へと転移で向かった直後に、いきなり現れた荒くれ者のような二人の男性に絡まれてしまいました。
どうも、レアです。ただいまめんどくさいことになっています。しかし、今も目の前でニヤニヤと見つめてくる男性たちの実力は私の敵ではないように感じるので、どうしたもんかと悩んでしまっているのですよ。
うーむ……普通に力でねじ伏せるか、丁寧な言葉で解決するか、はたまたここから逃走するか。…どうしましょうかね。
「シスターさんよ、そんな綺麗な身なりをしているなら俺たちに恵んでくれよ?」
「そうそう、ついでにその身体で奉仕もしてもらおうか」
…やっぱり力でねじ伏せることにしますか。この世界は全年齢向けのゲームなのでそういった行為は出来ませんが、それでもここまで露骨にいやらしい目で見られてはたまったもんじゃありませんし。
今の発言からしてこの人たちは女の敵のようでもあるので、私が成敗してやりますっ!
「あんたら、そのへんにしておきな?」
「あ?」
早速私が行動に移ろうとしたタイミングで、突如私たちに向けて声がかけられました。
私とこの男性たちは揃って声のした方へと視線を向けてみると、そこには不自然なほどに真っ黒な髪と瞳をした身長160cm半ばくらいの女性が立っており、その手には何やら買い物袋らしきものを持っているためどこかで買い物をしてきていた途中だったのでしょう。
しかし、そんな女性からはソロさんやナンテさんと同等にも感じる強者のオーラらしきものを発しているため、私は少しだけ威圧されてしまいます。…まあこの男性たちはわかっていないみたいですが。
「なんだ、手前?」
「お前も相手をしてくれるのか?」
「はぁ、怪我を負いたくなければさっさと去りな」
その言葉を聞いた男性の二人は、その顔に怒りを表しつつ女性へと手を伸ばしましたが、すぐさま二人揃って地面へと倒れてしまいました。
…一体何をしたのでしょうか?今も着けているベールのおかげで僅かに魔力の流れらしきものを感じれましたが、それでも何をしたかはさっぱりわかりません。
「…よし。シスター様、大丈夫でしたか?」
うーむ、私はこの服を着ているだけでシスターではないのですが、それは初対面ではわからないでしょうし、この反応は仕方ないですね。
それにシスター様と呼ばれるのも少しだけ慣れませんが、この姿を続けていればいずれは慣れるでしょう。っと、それよりも返事をしなくては!
「はい、助けてくれてありがとうございます」
「まあ手助けはいらなかったかもしれないですけどね?シスター様、かなりの実力ですよね?」
私は女性からかけられたその言葉に少しだけ驚きます。
やっぱり、強者から見ればそういうのはわかるのでしょうか?ソロさんとナンテさんの場合は直接戦闘をしたり見られたりだったのでわかりませんでしたが、もしかしなくても二人もそうだったのかもしれません。
「それでも、ですよ。私の代わりに面倒ごとを解決してくれましたしね」
私の手で動いた場合はもっと面倒くさいことになってたかもしれませんし、これには感謝の気持ちしかありませんよ!
それにこの女性は、おそらくは私になんらかの用事があって助けるついでに声をかけてきたみたいですしね。
何故なら、私はここに来てすぐに男性に絡まれましたが、その時からすでにこちらをジッと見ていたのを感じ取っていたのですよ。
「それならよかったです。それで、シスター様に用事があるのですけど、今いいですか?」
私はここに静海のリーブトスについての情報を集めるために来ましたが、それは別に急ぎでもないので問題はありません。
聞いたとしてもすぐに倒しにいけるものでもないですし、それについては後でも構わないとも思いますので。なら、今の時間はこの女性の用事とやらを聞くとしましょうか!
「いいですよ。では、どこか落ち着くところで聞かせてもらってもいいですか?」
「大丈夫です。それなら、ちょうどいい穴場があるので、そこに向かいましょう」
そう言って女性は私を先導してこの場から歩いていくので、私もそれに続くように後に着いていきます。
敵意や殺意などは感じないので危険なことはないと思いますが……さて、用事とはなんなのでしょうね。




