160話 問題解決に向けて
「では、教会に向かいますか」
おじさまのお店を出るとそこはすでに裏世界ではないようで、元の世界にある路地裏へと着きました。
ふと気になって背後に意識を向けると、そこには先程出てきたはずの扉が消失していたので、これが裏世界へと繋がるお店の仕組みだったみたいです。
こうやっておじさまは時折現実世界へと繋げてお店を開き、商売をしていたのでしょうね。
「っと、確認してないでさっさと目的を果たさないと…!」
私は巡らせていた思考を一度止め、早速教会に向かうべく足を動かしていきます。
マップを見るにここから教会まではそう遠くはないようなので、すぐに着けそうですね。教会に行ったらリンネさんに協力をお願いしたいですが、子供たちのためではないので今回の頼みには協力をしてくれるでしょうか…?
「…不安に感じてしまうのは仕方ないですが、初めからダメと考えてはいけませんね」
リンネさんはとても優しい方ではあるのはすでに知っていますが、もし断られたらその時はその時です。
私とリンネさんは顔見知りではありますが、そこまで互いを知っているわけではありませんしね。
「…いつのまにか着いていましたね」
そうした思考をしつつも歩き続けていると、私の感覚の範囲内にたくさんの子供たちの声と気配が確認出来ました。
相変わらず子供たちは元気いっぱいな様子で遊んでいますし、とても平和な雰囲気でこちらまで気が緩んでしまいます。
子供がたくさん笑って遊べる環境はとても大事ですし、これをみてもリンネさんたちシスターさんに愛されているのがわかるので、なかなか良い環境だと私は思えますね。
「あ!」
子供たちに意識を向けつつ私はそのまま教会内の敷地へと足を踏み入れると、すぐに一人と子供に見つかったらようで、テテテッと小走りで私へと向かってきました。
あの女の子は……アンちゃん、でしたっけ。相変わらずこちらにまで元気が伝わってくるほど元気満々でつい微笑を浮かべてしまいます。
「あなたはあたらしいシスターさん?」
「ふふ、この姿ではわかりませんか。私ですよ、レアです」
私へと近づいてきたアンちゃんにそう言葉を返すと、流石にアンちゃんも驚いたようでその顔いっぱいに驚愕を浮かべています。
まあこの姿ではわからないのも無理はありませんね。特徴的な白い髪と両目、顔の上半分が隠れていますし、クオンや兄様でもそう簡単にはわからないでしょうから。
「ほんとうにレアちゃんなの!?」
「そうですよ。ほら、髪の毛もこの通り」
アンちゃんにわかるよう一度ベールを外して顔を表すと、それで納得が出来たようでアンちゃんはすごいすごい!と言ってきます。
この装備はここでもらいましたが、この姿は見せてなかったので、これで私だとわかってくれたみたいですね。
「それで、レアちゃんはどうしてここにきたの?」
もしかして、また遊んでれるの?とでも言いたげな表情を浮かべてこちらを見つめてきますが、私は再びベールを装備し直してからそれに苦笑をもらしつつも言葉を返します。
「私はリンネさんに用事があって来たのですが、今はいますか?」
「シスターね!いまよんでくるわ!」
私の言葉を聞いたアンちゃんはすぐさま司祭館の方へと向かったので、そこに呼びに行ってくれたようですね。なら、私は少しだけここで待つとしますか。
「レアさん、アンちゃんが呼んでると聞いて来たのですが……これはどういう状況ですか?」
「あはは……ちょっとだけ遊んでいただけなのですけどね」
アンちゃんに呼ばれてきたリンネさんは今の私たちの状況を見て、流石に驚いたようでその顔を引き攣らせています。
まあそれも当然でしょうね。だって、今の私たちは…
「やぁ!」
「えい!」
「おっと、危ないですね?」
何故か、そう本当に何故か戦闘訓練のようなことをしていたからです。きっかけは確か、ケリトくんの言葉でしたっけ。
ケリトくんから、私が強いのかと問いかけられ、それがきっかけとして今もしている通り、私に向けて遊びで使われていた柔らかめの木刀を使って攻撃を繰り返すことで、訓練という名の戦闘をしていたのですよね。
「よし、ではこのくらいで終わりにしましょうか」
「はぁ、わかったよ…」
ケリトくんだけではなく、特訓に参加していた子たちは流石にかなりお疲れの様子ですし、ちょっとこれは失敗でしたかね…?
「ひとまずレアさんにはありがとうございます、と言っておきます」
「まあ成り行きなので、そこまで感謝を伝えられるほどではありませんけどね」
本気は一切出していませんでしたし、このくらいなら疲れもしないので私は問題ありません。それよりかは、この子たちのことを心配しないとです。
まあ確認したところ疲れているだけなので、別に大丈夫だとは思いますけど。
「それで、私に用事でしたね。とりあえず、中へどうぞ」
「では、お邪魔しますね。アンちゃんもありがとうございました。これ、ほんの気持ち程度ですけど、渡しておきますね」
「あ、いいなー!」
私がインベントリから取り出してアンちゃんに渡したのはアプリの実なので、食べてくれると嬉しいです。
…他の子たちに自慢しているのには、少しだけ苦笑をしてしまいますが。
「…さて、私への用事とはなんですか?」
司祭館の中にある応接室のような場所に通された私は、早速ここに来た目的を伝えるべく口を開きます。
「実は私、この前裏世界というところに行ったのですが、そこである頼みを受けたので、よければそれをリンネさんにも手伝ってほしいのです」
裏世界の住人たちが持つこちらの世界への警戒さ。私へと頼んできたおじさまはそれをなんとかしたいらしいので、種族が人間の人を私が誘っていますが、これは受けてくれるでしょうか…?
種族が人間ということは、裏世界にいる住人から敵対心のようなものを受ける可能性もあります。そのため無理にとは言いませんが、それでも手伝ってほしいのが今の心情です。
「裏世界ですか…」
リンネさんは私の頼みを聞いて少しだけ考えている様子ですが、それも当然ですね。
加えてリンネさんはここにいる子供たちを見守る立場でもあるので、そう易々とは頷いてくれないでしょう。
「…何故、私に手伝ってほしいのですか?別にレアさんだけでも問題はなさそうに見えますが」
「実は、私の行ってきた裏世界は差別された過去がある人たちが集まっている世界らしいのです。私はそれを解決したいのですけど、私だけではどうしようもないと感じたのです」
今はわかりずらいですが、私も人間ではなく狼人族であり、そのうえまだ子供です。そのため、私だけがこの世界についての情報を伝えても信じてくれなさそうですし、こちらの住人の方たちからの言葉も加わるなら少しは信じてくれるとも思ったのですよね。
「なるほど……それなら、前の悪魔騒動のお礼として私も手伝わさてもらいましょうか」
「ありがとうございます!」
どうやらリンネさんも手伝ってくれるみたいなので、助かります…!これで、まずは一人ですね!次は、ソロさんも連れて行けるかも聞きに行きましょう!ひとまず、図書館にゴーっですね!
「私はソロさんにも協力をお願いしてこようと思うので、少しだけ待っていてください!」
「あ、それならちょうど…」
「やあ、レア。お呼びですか?」
私が早速ソロさんを呼ぶために図書館へ向かおうとすると、ふと応接室の扉が開かれて灰色の髪をした男性、ソロさんが立っていました。
「ソロさん!ここにいたのですね!」
「あの悪魔との騒動があった日から定期的に来ていてね。ちょうど今日がその日だったんですよ」
なるほど、悪魔関係ですか。確かにまたあんなことがあれば大変なことになりますし、ソロさんが心配するのも無理はありませんね。それにソロさんならまた悪魔と出会っても間違いなく対応出来るとは思うので、これならリンネさんも安心出来ますね!
「それで、裏世界ですって?」
「はい。もうすでに聞いていたみたいですが、そこの問題を解決するためにソロさんの力も貸してほしいのです」
裏世界の問題は結構根深いものだとわかりますが、リンネさんだけではなくソロさんの力も貸していただければ早期に解決は出来るとは思います!
あちらの住人による警戒を解くのなら、やはりソロさんやリンネさんのような大人の人がすでに迫害や差別などはないと伝えるのが良さそうとも感じれますしね。
「もちろん私も協力するから、その問題については任せてくれ。ここは大人の出番だしね」
「ふふ、そうですね。聞いたところではレアさんだけの問題でもなさそうですし」
「ソロさんもリンネさんも、ありがとうございます!」
よし!二人からの協力も無事に受けれるみたいですし、これなら裏世界の問題も解決出来るでしょうか…!
ですが、お願いするに決めた二人の種族は当然人間なので、これは私が危害を与えられないように気をつけておかないとです…!…まあお二人は十分強いとは思うので、特に心配しなくてもよいかもしれませんが。
っと、それはいいとして、早速裏世界へと向かいましょう!確か、銀色のブローチを使えばあちらへと向かえるんでしたっけ。
「リンネさん、ソロさん、転移で裏世界へと向かうので、準備はいいですか?」
「もちろん大丈夫さ」
「私も大丈夫です」
「では、行きますよ…!」
二人の準備も良いようなので、私はインベントリから取り出した銀色のブローチを使用すると思考をしたとたん、ブローチから青い光が溢れてきて、私たちを包み込んでそのまま転移が行われました。
「っと、着いたみたいですね」
「ここは、建物の中かい?」
「転移とはこのようなものなのですね…」
転移が済み次第、各々が言葉を漏らしますが、どうやら無事に裏世界に来れたようですね?確か転移先はおじさまのお店の裏と聞いてましたが、ここにはまだおじさまはいないみたいです。
「魔力の反応を感じてきてみれば、もう来たのですね?」
「あ、おじさま!はい、今さっき来たところです!」
周りを見渡していた私たちでしたが、すぐにおじさまがお店の裏へと来たのであまり待つことはありませんでした。
というか、やっぱりこのおじさま、只者ではありませんよね?魔力の感知も出来ますし、ユニークアイテムを作ることも出来ています。もしかして、ソロさんと同様に何か特殊なスキルでも持っているのでしょうか?
「お嬢さんが連れてきた方は、そのお二人ですか」
「初めまして、かな?私はソロ、よろしくね?」
「リンネといいます。今日はレアさんに頼まれてここに来ました」
「ご丁寧にどうも。私はレガルドと申します」
そういえばおじさまの名前は今まで聞いてませんでしたね。おじさまはレガルドと言うみたいですけど、私からはもうおじさまで固定されているため呼び方が変わることはないでしょう。
「では早速本題に移ってもよろしいですか?」
「はい!」
「大丈夫さ」
「私も問題ありません」
三者三様の返事を返した私たちに向けて、おじさまは改めてこの裏世界の問題について説明を開始します。
「まずこの裏世界では、人間を除いたたくさんの種族が暮らしているのですが、どの人たちも元の世界…いわゆる現世には警戒心を抱いているのです」
「レアから聞いたところでは、差別された過去がある人たちが集まっている、だったね?」
「そうです。なので、お嬢さん方には現世ではすでに差別も迫害もないと伝えてもほしいのです」
…そういえば、私はソロさんとリンネさんをこちらへと連れてきましたが、大人とはいえ普通に伝えるだけでも大丈夫なのでしょうか…?
もしそれを伝えても、信じてくれなければ意味がありません。そのため、しっかりと信じてくれるであろう情報も必要と感じますが…
「なら、ここは私の出番ですね」
「リンネさん、何か策があるのですか?」
今更心配の感情が沸々と湧いてきた私でしたが、リンネさんのあげた声を聞いてそちらに意識を向けます。
リンネさんは何やら策があるみたいですけど、いったいどんなものなんでしょうかね?
「実は、私の種族は人間ではないのです」
「え、そうなんですか!?」
見た目は紛うことなき人間の姿ですが、少しだけ納得はしてしまいます。だって、前にリンネさんに対して年齢が幾多なのか不思議に思いましたが、それも人間でないのなら合点がつきます。
「私は、ハーフエルフという種族なのです」
「なるほど、確かにそれなら今の状況にはピッタリだね」
「それなら、リンネ殿には期待が出来ますね」
リンネさんの種族を聞いたソロさんとおじさまは納得したようにそう言葉を漏らしていますが、私は少しだけ驚きが顔に出てしまいます。
ですが、それもすぐに収まります。
リンネさんの種族がハーフエルフ。つまり、人間とエルフとの子供というわけですよね?なるほど、道理でソロさんとおじさまが納得出来るわけです。
ハーフエルフということは、今の現世において迫害や差別などがないと伝えるのには十分過ぎますし、これは思わぬ収穫でしたね…!
まさかリンネさんの種族が人間ではなくハーフエルフだったのには驚きでしたが、今回はそれが却って助けになりそうです!
「であれば、早速裏世界の人たちを集めるので、そこで今の現世について伝えてもらっても良いでしょうか?」
「任せてください!私たちも問題を解決出来るように頑張ります!」
…まあ私よりかはソロさんやリンネさんの方がメインになる気はしますけど。それでも、私にも出来ることくらいならお手伝いさせてもらいますが!




