16話 服と試練
転移した後に歩いていると、レーナさんのお店に着いたので中に入り、カウンターにいた店員さんに伝えてレーナさんを呼んできてもらいます。
待っている間にお店の中を確認してみると、また新しくオシャレな防具が増えていました。へー、ドレスなんてものも作っているのですねー…
そんなことを考えながら周りを見ていると、レーナさんがお待たせー、といって奥からこちら側に歩いてきました。
「そこまで待ってはいないので大丈夫です。それで、装備が出来たと聞いたので来たのですが…」
「ふふん、今回のはかなりの自信作なのよ〜!レア素材から作ったから、なかなかの性能になったのよ〜、じゃあちょっとこっちの裏まで来てもらってもいいかしら〜?」
「わかりました」
そう言われたので、私はカウンターの横からお店の奥へとレーナさんと一緒に向かいます。
奥へ行くと、白い布をかけられた私と同じくらいの大きさのマネキンらしきものが見えてきました。
「もしかして、これですか?」
「そうよ〜、じゃあ見せるわね〜!」
レーナさんがマネキンにかかっていた白い布をガバッと取ります。そして内側から出てきたのは、黒色でオフショルダーのゴスロリワンピースと、それに合うニーハイソックスに編み上げブーツでした。
全体の見た目はまんまゴスロリですね……肩を出したワンピースを元にしたからか、こちらもオフショルダータイプになっています。そして黒色の羽毛などの素材を使ったからか空のような水色から、夜の闇の如き漆黒色に変わっており、所々に同じく漆黒のフリルが付いていてかなり可愛い感じに仕上がっていますね。
それと、レーナさんは靴まで用意してくれていたのか、このマネキンは漆黒の編み上げブーツも履いています。うん、かなり好みのタイプです!
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漆黒のゴスロリワンピース ランク D レア度 良品
DEF+15
MND+11
耐久度 100%
・暗闇の膜 暗いところにいると隠蔽系スキルの効果を上げる。
ブラックホークの素材をを使って作られた漆黒のゴスロリワンピース。素材が持っていた隠蔽効果を持っている。
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漆黒のゴスロリソックス ランク D レア度 良品
DEF+9
MND+6
耐久度 100%
・暗闇の魔 暗いところにいると自身の装備全ての耐久度を回復する。
ブラックホークの素材をを使って作られた漆黒のゴスロリ風ニーハイソックス。装備の耐久を回復する効果を持っている。
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漆黒のゴスロリブーツ ランク D レア度 良品
DEF+7
MND+3
AGI+5
耐久度 100%
・静かなるもの 歩く時の音が小さくなる。
ブラックホークの素材をを使って作られた漆黒の編み上げブーツ。素材が持っていた小音効果を持っている。
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鑑定してみると、こんな説明が出ました。ランクがさらに上がってDになっている上にレア度も一つ上がって良品になっていますね!それに素材とレーナさんの腕が良かったのか、性能もかなり良くなっています!
「凄い可愛くて良い装備ですね!」
「でしょ〜!お人形みたいに綺麗なレアちゃんにはかなり似合うと思うのよ〜!じゃあ早速装備してきていいわよ〜、あそこを使っていいわ〜」
レーナさんはすぐそこにあったフィッティングルームを指差します。私は装備をインベントリに入れ、早速そこへ向かい装備欄を開いて装備をします。
凄い柔らかい上に思ったよりも動きやすいです!少し体を動かしてみますが、前のワンピースと変わらないくらい動かせます。それに靴も私のサイズに合っていてなかなかいいです。うん、かなりいい装備ですね!
確認も済んだので、フィッティングルームから出てレーナさんの元へ戻ります。
「凄い良い装備です!ありがとうございます!」
「いいのよ〜、こっちのスキルのレベル上げにもなるしね〜」
そう言って笑って答えてくれるレーナさん。
「それと、靴も作ってくれたのですね」
「作ってる最中にレアちゃんってまだ持ってなかったと思って作ったのよ〜、サイズとかはどう?」
「ピッタリで問題ありません」
「それなら良かったわ〜、じゃあ最後に、本来頼まれていたクロークも渡しちゃうわね〜」
「あ、そういえばそれも頼んでいましたね。こっちに気が取られていてすっかり忘れていました」
私がそう言葉をこぼすと、レーナさんは、まあこっちの方がメインになっちゃってるからね〜、と言って苦笑します。あ、あはは…
「ま、まあとりあえず、これがそのクロークよ〜」
そう言って渡してくれたのは、さっきのゴスロリと同じく漆黒色のクロークでした。見た目は私の膝くらいまである長さのマントにフードの付いた姿ですね。こちらもなかなか良さそうな装備ですね!
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漆黒のクローク ランク D レア度 良品
DEF+5
MND+3
耐久度 100%
・認識阻害 装備者を認識するのが難しくなる。
体を覆い隠すほどの大きさの漆黒のクローク。装備している感覚がないほど軽い。
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鑑定ではそう確認出来ました。本当にレーナさんの作る装備は可愛い上に強くていいですね!
「色々とありがとうございます!」
「いいのよ〜、こういうのが好きでしている訳だしね〜、感謝の気持ちがあるのなら、これからもご贔屓にしてくれると嬉しいわ〜!」
「こちらこそ、何か手に入れたらレーナさんに頼ませてもらいます!」
私は改めて、ありがとうございました!と感謝を伝えます。
「そうだ〜!もし時間があるのなら、また木綿を取って来てもらってもいいかしら〜?」
結構装備に使う人が多いから入用なのよね〜、と言うレーナさん。
「そのくらいならお安い御用です!量はどのくらい取って来ますか?」
「そうね〜…なら、前にレアちゃんが取って来たくらいをお願いするわ〜」
「わかりました、では今から行ってきますね」
お願いね〜、と言うレーナさんへ今回の装備の代金の20000Gを渡した後に別れの挨拶をし、私はレーナさんのお店から外へ出ます。
「今は何時でしょうか」
腰に吊るしてある時計を手に取り確認すると、今は五時半くらいのようです。
「では、満腹度を回復させてから、木綿を回収しにいきますか」
私は初期街の南門へと歩きつつ、道中でタコスのようなものや焼きアプリの実を食べながら外に向かいます。食べながら歩いていると南門に着いたので、早速木綿の回収に行きます。満腹度はそこそこ回復しましたし、大丈夫ですね。
前に回収していたところ辺りまで行って木綿を収穫していきます。これも前と同じように、成熟していないのは残しておきます。
そうして収穫していると、気がついたら南から西方面に近づいていたのか、少し地形がジメジメしてきました。こっち側には木綿は生えていないでしょうし、ちょっと戻りますか。
そう考えてマップを開こうとすると、ふと視界に何かが映りました。
「あれは……墓地、ですか…?」
視界に映ったそれは、さまざまな墓石が建てられた墓地のような場所でした。近づいてマップを開いてみると、そこはちょうど湿地と平原の間に位置する『忘れ去られし墓地ゴドネス』という特殊な名前持ちのエリアらしいです。こんなところに墓地なんてあったのですね、初めて知りました。他のプレイヤーも知っているのでしょうか?
このエリアが気になったので墓地の周囲を見ながら歩いていると、墓石以外の建造物が見えてきました。
「教会……ですかね…?」
歩いて徐々に近づいていくと、それは街でも見たことのある教会のような見た目をしていました。しかし…
「かなりボロボロですね…」
街にあった教会とは違い、放置されてから何年も経ったのか、今にも崩れてしまいそうなほどボロボロになっていますが、過去はしっかりとした作りだったのだろうとも伺えます。
とりあえず、中に入って確認してみますか。
そう思い、まずは教会の扉をノックしてみますが、当然のように反応はありません。なのでドアノブを回してみると簡単に開いたので、扉を開けて中へと入っていきます。扉もボロボロで力を込めるとすぐに朽ち果てそうなほどです。
そして中も外観と同じくかなりボロボロで、中に置いてあった長めのチャーチチェアも無事なのは数個のみで、残りは経年劣化などで壊れたらしきものなどが転がっています。奥にある祭壇は形は残っていますが、少し力を入れるだけで壊れそうなほどボロボロです。
「どうして、こんなにボロボロなのですかね…?」
なにか理由があってここを離れたのか、あるいは何か特別なことがあって逃げる他なかったのか。エリア名に"忘れられた"と書いてあったので、なにかがあってここを離れて、そのまま人の記憶からなくなったのが正解でしょうか…
そんなことを考えていると、突然システムの音が鳴りました。
『ユニーククエスト【試練に受けし者】が発生しました』
突如そのようなシステムメッセージが来たと思ったら、急に私の【気配察知】スキルに反応が現れました。しかもそれは一匹二匹ではなく、何十匹もの反応がします。どうやらこの教会の周りの墓地から突如モンスターの反応が出てきたようです。
「ここでは狭いですし、外に出て対処しますか!」
入ってきた教会の扉へと急ぎ、ドアノブに手をかけて開けます。するとボロボロだったからか、ドアノブ部分だけを手元に残してドアが完全に破壊されます。
「……こ、これは仕方ないのですよ」
私は誰にともなく言い訳をします。い、急いでいたので仕方ないですよね!
「って、そんなことよりも急がなくては!」
そう言って手元のドアノブをそこら辺に捨てて【気配察知】スキルを意識します。
どうやら移動速度はそこまでないようで、さっきよりは近づいて来ていますが、まだ少しだけ離れているようです。というか、視界にも映っていますね。
ここから見た感じ、モンスターは墓地によくいそうなゾンビやスケルトン、物理攻撃が効かなそうなゴーストが何十体もゾロゾロとこちらへ向かってきています。ゴーストは宙を浮かんでいますが、そこまで速くないので苦戦はしなさそうです。
「では、まずは先手必勝とさせていただきますか」
私はまず、武技の〈スナイプショット〉で宙に浮かんでいたゴーストの一匹を撃ち抜きます。撃ち抜かれたゴーストはそのままポリゴンとなって消えていきます。物理は効きませんが、この銃は魔法攻撃になるので、問題ありません。そして視界に映るMP残量を確認すると、今の私には消費MPが全MPのニ割も使うようです。それとリキャストタイムが一分もあるので、この武技はもう使うのはやめておきますか。それに、もう結構近づいてきてますしね。
次は、先頭にいる複数のスケルトンの頭目掛けて両手の無垢の魔銃で銃弾を撃ちまくります。
スケルトンたちは回避も出来ずに頭蓋を撃ち抜かれ、辺りに骨を散らばし先程のゴーストと同じくポリゴンへとなっていきます。
そうして何体ものモンスターの頭部を撃ち抜きつつ考えます。
「一体一体は簡単に倒せますが、数が多いですね…」
もう何十体も倒していますが、まるで減った気がしません。しかも奥にはまだ相手をしていないゾンビの群れもいます。
モンスターたちは周囲の全方向にいるうえ、背後は教会ですし、近づかれ過ぎたら少し面倒くさくなりそうですね…
「なら、こちらから近づいて蹴散らすのが良いですね」
近づいてくるモンスターをある程度選別すれば戦いやすいですしゾンビなら動きは遅そうなので、私は大体片付いている前方へ両手の銃を撃ちながら走ります。
そしてそのままの勢いで、目の前に出てきて盾を構えたスケルトンに飛び蹴りを放ちます。蹴られたスケルトンはその勢いに押され、後ろへと吹っ飛んでいきます。
ちなみに、いま蹴ったスケルトンもそうですが、徐々に上位のモンスターたちも出てくるようになってきました。これがなかなか厄介で、いまの盾を持った個体や、剣や弓を持った個体、それに魔法を撃ってくるゴーストなどなど、手強いモンスターがいて一瞬の油断も出来ません。
周囲に銃弾を撃ちまくっていると、ついにこちらに辿り着いたのか、ゾンビが群れて襲いかかってきます。
「やはり、予想通り動きは遅いですねっ!」
そんなゾンビの腕の振り下ろしや噛みつきを舞い散る花びらようにひらひらと回避しつつ、ガラ空きの身体へ銃弾を撃ちまくります。
しかし、身体に銃弾を受けたにも関わらず、何の問題もないかのようにこちらへ攻撃を続けます。
「やはり、身体にはあまり効きませんか…」
まあそうだとは思いましたが、これは面倒ですね……いつも通り頭を撃ち抜けば良いのですが、周りのモンスターが邪魔であまり頭へ射線が通らないことが多いのですよね。一応この銃が魔法攻撃に属するお陰でHPは三発分で半分は削れていますが。
「時間はかかりますが、ゆっくりと焦らずに倒しますか」
そう思考しつつも、私は銃を撃つ腕と回避する足と身体は止めません。止めたらその時点で数に押しつぶされそうですからね。あ、いま思い出しましたが、この状況なら〈バウンドバレット〉を使えば一回で何体かは倒せそうですね。なら、跳ねる角度を計算して…
「〈バウンドバレット〉!」
私が撃った弾丸が武技の効果で跳ねるようになり、そのまま奥にいたゾンビのお腹にヒットし、そのゾンビは衝撃で倒れます。しかしまだ終わりではありません。ゾンビに当たった弾丸はそのまま跳ねてゾンビの手前にいたスケルトンの頭に当たります。そしてさらに跳ねて横にいたスケルトンの頭にも当たり、そこで〈バウンドバレット〉の効果が切れて弾丸が消滅します。
「MP消費は一割ほどですか…」
それとリキャストタイムは三十秒らしいですがこの状況には合ってますし、ちまちま使っていきますか。
そうして日が落ちて周りが暗くなってきた頃。武技を混ぜながらゾンビやスケルトンを倒していると、やっと片付いてきたと思ったら、突如奥から闇魔法らしき黒い球体が飛んできました。
私はそれを咄嗟に回避しましたが、まだ周囲にいたゾンビたちは躱せずに当たってポリゴンになっていきます。
「味方ごとですか…!」
飛んできた方角を確認すると、そこには黒色でボロボロのローブを来たスケルトンらしき存在が立っていました。
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レッサーリッチ ランク E
墓地などに稀に現れるスケルトンメイジの上位種。
非常に手強く、様々な魔法を操る。
状態:正常
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咄嗟に鑑定をすると、このような情報が確認できました。
「ランクが、E…!?」
今まで戦ったレアモンスターなどよりも高いランクのモンスターです…!おそらくはかなり強いと確信が持てます。
周りにはもうレッサーリッチ以外のモンスターはもういないので、レッサーリッチのみに集中出来るのが唯一の救いですね。
「あれが最後でしょうし、頑張りますか…!」
そう呟きつつ、私はレッサーリッチへ両手の銃を撃ちつつ近づいていきます。
レッサーリッチは距離が離れているおかげか、弾丸をゆらゆらと回避してお返しとばかりに闇球や火球を放ってきます。
飛んでくる速度はそこまで早くないので、簡単に回避できます。しかし、弾幕を張るかのように無数の魔法を撃ち続けていて、なかなか近づけません。一応銃弾を撃ってはいますが、無数の魔法で迎撃されていますね…
武技も混ぜて撃ったりもしてますが、その場合は通常攻撃と違い、壁を生み出す魔法で堅実に守っています。
あの様子を見る限り、MP切れはなさそうなのでどうにか近づかないと話になりませんね。
こちらは武技を撃ってMPが無くなりそうになっているんですがね…
「それなら、この装備と暗闇で強化されている【気配隠蔽】で隠れつつ不意を突いて近づきますか…!」
【気配隠蔽】系のスキルは視認されていなければ発動は出来るので、視線が魔法の壁などで通っていない今なら使えます。
そう思考し、私は付けていた漆黒のクロークを深く被ります。そして【気配察知】スキルも一緒に発動します。
すると、魔法の弾幕で見えずらかったからか、こちらへの攻撃が少し緩みます。やはり、これらを重複して発動すると、はっきりとはこちらの位置を確認できていないようですね!
そして【忍び足】も意識して音を消して走ってレッサーリッチの後方へと回り込み、一気に近づきます!
レッサーリッチは土壇場でこちらに気づいたのか、持っていた黒い杖を振るってこちらへ闇の球や槍を放ってきます。それを私はギリギリで回避しつつレッサーリッチに近づいていきます。近づく程に抵抗が激しくなりますが、この距離の攻撃でもなんとか躱せますね。
十分近づいたと思ったら、突如下から気配と殺気のようなものが感じ取れました。その気配を感じとったので、レッサーリッチを飛び越すかのように高く跳躍をします。先程足元に感じたものはどうやら闇色の無数の棘らしいです。そして私は跳んだ状態の姿勢からそのまま、レッサーリッチの頭へと踵落としを喰らわせます。