13話 希少素材と職人
「この辺りで街に戻りますか」
そう呟き、私は街へと向かいます。街の西門はここからも見えているので、迷うことはなさそうです。
「次は、昨日手に入れたステルススネークの皮をレーナさんに見せに行きーー」
きゅうぅ
街に着いたので革の胸当てからワンピースに着替え、レーナさんのお店へ向かおうとすると、私のお腹からそんな音が鳴りました。視線を満腹度のゲージに向けると、もう15%近くしかありませんでした。そういえば昨日から何も食べていませんでしたね…
「…その前に、ムニルさんのお店にご飯を食べに行きますか」
ついでに、同じくステルススネークから得たお肉も見せてみますか。そうして私は向かう先を変え、ムニルさんのお店へと足を動かします。
そしてお店に着いたので中に入ると、今の時間は六時くらいなので意外とプレイヤーも中にいるみたいです。私が見渡していると、店員さんが寄ってきたので一人と答えると、テーブルに案内してくれました。そこで私はメニューに書いてあるオムライスを頼みます。人が意外に多いので、少しかかりそうですね。
「その間にレーナさんにお店にいるか聞いてみますか」
私はレーナさんへ、珍しそうな皮素材を手に入れたので、お店に向かってもいいですか、とメッセージを送ります。するとすぐに返信が返ってきました。内容は、了承と楽しみにして待っている、とのことです。
メッセージを終わらせると、ちょうど料理が届きました。見た目はとろとろの卵にデミグラスソースが掛かったオムライスのようです。見た目だけでも食欲がそそられますね!
「では、いただきます!」
私はスプーンを手に取り食べ始めます。んー!ふわトロの卵と濃厚なデミグラスソースの味が混ざり合って、素晴らしいお味です!これなら空腹も相まってペロリと平らげてしまいそうです!幸せ顔になりながら、そのままパクパクと食べ続けます。
そして食べ終わり、代金を払ってお店を出ます。
…あ、お肉、渡してませんでした。
いやでも、今は人が多いですし、メッセージだけ送って後で渡しに行きますか。
そう思い、私はムニルさんへ『珍しそうな食材が手に入ったので、使ってみませんか?』とメッセージを送っておきます。
「よし、じゃあ今度こそレーナさんのところに行きますか!」
私はその足でレーナさんのお店へと向かいます。その道中では、革装備以外の人もちらほら見かけます。
「サービスが始まって少し経ちましたもんね〜…」
そう考えながら歩いていると、お店が見えてきました。早速中へ入り、カウンターにいた店員さんにレーナさんを呼んでもらいます。
「お待たせ〜、レアちゃん待ってたよ〜!」
少し待っていると、そう言いながらレーナさんはこちらへ歩いてきました。
「それで、どんな素材なの〜?」
「これなんですけど…」
私はインベントリからステルススネークの皮を取り出してレーナさんへ見せます。
「おお〜!初めて見る素材ね〜!鑑定した感じ、隠蔽効果があるのね〜!これはどこで入手したの〜?」
「昨日フレンドと森で狩った蛇のモンスターから手に入れました」
なるほどね〜、と言いながらレーナさんは皮を集中して確認しています。
「この素材なら、隠蔽効果のある装備に出来るわね〜。それで、何を作るの〜?」
「そうですね……胴の装備はもうワンピースがあるので、アクセとして使えるクロークをお願いしてもいいですか?」
「勿論よ〜、じゃあこれは少し調べながらやりたいので少し時間がかかりそうだから、出来たらメッセージを送るわね〜」
「わかりました」
では、と言って私はレーナさんのお店から出ます。
「さて、次はどうしますかね」
そう思考していると、さっきムニルさんへ送ったメッセージの返信が返ってきました。メッセージには、今からなら大丈夫だからよければお店に寄って欲しい。裏口を開けておくからそこから入ってくれ、と書いてありました。
なので私は今から行くとメッセージを返し、再びムニルさんの食堂へと足を運びます。
そうしてムニルさんの食堂に着いたので裏へと周り、そこにあった扉を開いてお店の中へ入っていきます。
「ん?おお、きたか」
お店の裏口から中に入ると、そこにはちょうどムニルさんがいました。
「お客さんは大丈夫なのですか?」
「ああ、もう人は少なくなってきたから、今は大丈夫だ。んで、珍しそうな食材ってどんなのなんだ?」
「あ、いま出しますね」
そう言って私はインベントリからステルススネークの肉を取り出し、ムニルさんへ見せます。
「これは、まだ見た事がない食材だな…」
「そうなんですか?」
「ああ、これはどこで手に入れたんだ?」
私はさっきレーナにした説明と同じように、フレンドとの森の狩りで入手したと伝えます。
「なるほど、レアモンスターか」
ムニルさんはそう言葉を漏らします。あ、今ふと思ったのですけど…
「ベータの時にはレアモンスターとかっていなかったのですか?」
「俺の知る限りはいなかったな。多分、正式サービス開始から導入されたんだろう」
へー、そうだったのですか。だからクオンも知らなかったのでしょうね。
「鑑定と見た感じでは、これはなかなか脂が乗っているようだな。ならシンプルにステーキにしてみるか。レアもそれでいいか?」
「はい、一流の料理人であるムニルさんならどんな料理でも美味しいでしょうし、なんでも大丈夫です!」
「はは、そう言ってくれると嬉しいな。じゃあ今から作るからそこのテーブル席に着いて待っててくれ」
「わかりました」
そう言ってムニルさんはそのお肉を焼いて調理を始めます。ん〜、お肉の焼ける匂いはいい匂いですね〜!
「よし、出来たぞ。今回は素材の味を試すために、味付けは塩胡椒だけにしてみた」
ワクワクしつつ待っていると、ムニルさんはステーキ皿に乗せたステーキをテーブルへと置きます。じゅうじゅうと軽く音を立ててステーキの芳醇な香りがします。ソースは掛かっていないようですが、その分お肉のおいしさが際立ちそうです。では早速食べますか!
「いただきます!」
私は置いてもらっていたナイフとフォークでステーキを食べ始めます。ナイフで切ろうとすると、ステーキは驚くほど柔らかく、簡単に切れました。そしてフォークで刺して口へと運びます。するとしっかりと味のする肉に、噛むたびに肉汁と旨みが溢れ出します。す、凄い美味しいですー!
まさに今、私の顔はあまりの美味しさで表情が崩れているでしょう。
「その反応からして、うまく調理出来ているみたいだな」
私を見てニコニコしながら、ムニルさんはそう言います。あ、ムニルさんがいたんでした…あまりの美味しさに気が逸れていました。
私はコホンと咳払いをして、誤魔化します。するとムニルさんの目が微笑ましいものを見る目に変わります。そ、そんな目で見ないでください…!
「と、とにかく、とても美味しかったです!」
「その様子ならそうだろうな。また今度手に入れたら、ここに持ってきて売ってくれないか?」
「いいですよ。また新しい食材が手に入ったら持ってきますね!」
「それはありがたい。また頼むな」
「はい」
では、と言って私は裏口からお店を出ます。
「今何時でしょうか」
腰に着いている懐中時計を手に取り確認すると、今は六時五十分くらいでした。もう結構な時間が経っていましたね。一度でもこの辺で落ちますか。
私はメニューを開きログアウトします。
視界が戻ると、少し暗めの自室が写りました。日が暮れているから暗いようですね。私はヘッドギアをサイドテーブルに置き、部屋から出てリビングへと向かいます。
「お、美幸、ログアウトして来たんだな」
リビングの扉を開けると、中にいた兄様からそう声を掛けられます。
「兄様も帰ってきていたのですね」
「ああ、少し前にな」
「いい時間ですし、夜ご飯にしますか?」
「そうだな、部活の手伝いで動いたから腹が空いてるし、食べるか」
「では準備しますね」
そう言って、私は作り置きしていた料理を皿などに盛り付けてダイニングテーブルに置きます。今日の夜ご飯は肉じゃがです。
二人で、いただきます、と言って食べ始めます。
「そういえば、さっきまでは何をしていたんだ?」
ご飯を食べていると、兄様からそう聞かれました。おそらくゲームの中の話でしょう。
「西の湿地に行って少し採取や狩りをして、その後にレアモンスターの皮と肉をレーナさんとムニルさんに渡して来たくらいですね」
「レアモンスターか、レアはもう遭遇していたんだな」
「兄様は知っていたのですか?」
「ああ、ちょっとネットで情報を見かけてな。ただ見つけようとしてもなかなか見つからないから、ガセネタとも言われていたようだがな」
そうなのですか。じゃあ私とクオンたちが出会えたのは、かなり運が良かったのですね。
「それにしても、もうそんな珍しいのに遭遇するなんて、ほんとに運がいいな」
「たまたまですよ。兄様も狩りをしてればきっと会うと思いますよ?」
「そうだといいんだが……あ、それと手に入れた素材とモンスターの見た目ってどんなのだったんだ?」
「見た目は半透明の蛇で、素材は皮、牙、肉でしたね」
半透明な上に隠蔽効果を持っていたので、全く気づかなかったのですよね。これからは【気配察知】スキルだけに頼らずに、きちんと警戒をしておきますか。
「半透明の蛇か……それはネットでも聞いたことがないな」
「ネットではどんなモンスターの情報が流れていたのですか?」
「確か、角の付いた兎とかだったな」
兎ということは、街を出てすぐの草原ですね。私たちが見つけたのは森だったので、場所によって様々なレアモンスターが出るのでしょうね。
「角兎の素材はなんだったのでしょうか」
「その情報は出てなかったな。きっと隠しているんだろう」
まあレアモンスターの素材なんて稀少でしょうし、隠すのも無理はありません。
兄様とそんな会話をしつつ食べ、ご飯を食べ終わったので、ご馳走さまでした、と言って皿を流しに置きます。皿洗いなどは兄様に任せて、その間に私は洗濯やお風呂を済ませます。諸々を終わらせて時刻を確認すると、八時近くになっていました。
「今日はもうゲームを一回やめて、勉強でもしますか」
そう考え、私は私室に向かいローテーブルに道具を出して勉強を始めます。
そして区切りが良いところで終わらせると、今は八時五十分になっていました。いい時間になってますし、そろそろ寝ますか。軽くストレッチをした後、ベッドに横になり就寝します。
朝になりました。水曜日です。いつも通り朝の支度を済ませた後に悠斗を迎えに行き、いつもの三人で学校へ向かいます。
そうして特に話すようなこともなく授業も無事に終わり、今はお昼です。
「美幸は今日どこに行くんだ?」
「今日は北の山の素材を採取してこようかなと思ってました」
悠斗からふとそのように聞かれたので、お昼ご飯のお弁当を食べつつ私はそう答えます。
「そうか、じゃあまた明日に、一緒に狩りにでも行かないか?」
私がそう答えると、悠斗からそんなふうに返ってきました。んー、別に人とやるのがダメというわけでもないですし、ご一緒しましょうかね。
「いいですよ。ならまた明日に合流しましょう」
「おう!ありがとな!」
「いえいえ、こちらこそ誘ってもらってありがとうございます」
そう話し、明日にまたパーティを組んで狩りに行くのを約束しました。今日はとりあえず、北の山の採取に行きますけどね。
そして午後からの授業も済ませて学校は終わり、帰路につきます。今日は昨日と違って兄様も一緒です。
その途中で悠斗と別れ、私と兄様は少し歩くとすぐに見えてきた自宅に鍵を開けて入ります。そして時計を確認すると、今は四時半くらいです。
「では私はまた作り置きしておきますね」
「いつもすまんな」
「好きな事ですし、このくらいは大丈夫ですよ。それに何度も言いますが、兄様の料理は殺人的ですからね」
「あ、あはは……お、俺は部屋でゲームでもしてくるかな…」
ジトーっとした目で兄様を見ると、気まずそうにして部屋へと戻っていきます。…ちょっと今のは言い過ぎましたかね…?
なら、今日は兄様の好きな料理でも作りますか。兄様は揚げ物が好きなので、豚カツ……いや、それは前にゲーム内で食べていましたね。なら、唐揚げにでもしますか!肉の種類は違いますし大丈夫でしょう。
そして唐揚げを作り、粗熱をとってから冷蔵庫にしまっておきます。揚げたての方が美味しく食べれますが、私もゲームがしたいので。
そうした作業を終わらせて時計を見ると、今は五時半近くになっていました。
「ご飯は七時に食べますし、それまでゲームでもしてますか」
私は部屋に向かい、サイドテーブルに置いてあったヘッドギアを手に取って頭につけ、ベッドに横になってゲーム世界にログインします。
目を開けるとそこは、ムニルさんのお店の裏でした。
「よし、では早速北の山に向かいますか」
そう予定を決めた私は早速とばかりに北へと向かいます。そうして目的地に向かうために街中を歩いていると北門に着いたのでそのまま山へと行きますが、その道中で見かけた鶏は何匹かは狩っておきました。すると、手に入れた素材は肉と羽根、卵でした。どうやら鶏は基本的に食料を落とす感じみたいですね。
そんな確認しながら歩いていると、先程からも見えていた山の麓に着いたので、私はそのまま麓の森へと入っていきます。
この前兄様たちと来た時は採取を全然してませんでしたから、今回は採取をメインでしましょう。
私は鑑定をしつつ、森では取れなかったキノコ類や薬草系統を採取をしながら森の中を歩いていきます。あ、ついでに森の中にあるらしい岩場で採掘もしてみますか。
採掘ポイントを探しつつ、モンスターを避けて移動します。すると、少し開けたところに出たと思ったら、そこに岩の塊がありました。インベントリからツルハシを取り出すと、その岩の塊に反応があります。なので私は早速ツルハシを振るって採掘をします。
カーン、カーン、と音を立てながら採掘していると、突然殺気を感じとりました。
私は咄嗟に横にずれると、そのままその何かはさっきまで採掘していた岩の塊に突き刺さります。チラリと確認すると、それは黒い羽根でした。
殺気を放ってきた対象を確認するためそちらを見ると、黒色をした普通よりも大きめな鷹が、少し日が暮れて暗くなってきた空に浮かんでいました。
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ブラックホーク ランク F
夕暮れの山などで稀に見かける黒い鷹。
その羽は隠蔽効果を持ち、気付かれぬ間に対象を暗殺する。
状態:正常
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鑑定結果にはそう出ました。これを見る限り、おそらくこの鷹もレアモンスターなのでしょう。
そしてこの前ステルススネークを察知出来なかった時を経験して、警戒していたので避けれましたが、このモンスターも【気配察知】のスキルに反応しなかったですね。やはり過信はダメなようです。
「んふふ、あれはステルススネークとは違って、かなり戦闘向きになった個体のようですね。今はソロですが、これは歯応えのあるモンスターが出て来ましたね!」
そう笑みを浮かべてブラックホークから視線をずらさず、私はツルハシをインベントリにしまい、その代わりとして二丁の無垢の魔銃を両手に取り出します。