101話 ダンジョン
「はい、またどこかで」
そう言って私から離れてこの空間を出ていくプレミアを私は視界に入れつつも、少しだけ考える。
私たちはとある住人から頼まれた特殊なユニーククエストでここに来ており、この空間に屯しているという犯罪組織である【魔獣団】を捕縛するのを目的で来ていたが、今出会ったプレミアというシスターらしき住人。
あのプレミアという名前らしき住人は、どうやって入ってきたのか私たちよりも先にこの空間に侵入をしており、そこで突如現れたワールドモンスターと戦っていた。
そしてプレミアが語っていたワールドモンスターである世喰のエルドムンドと、それと関係するであろう私だけに発生したワールドクエスト。
これらの情報は、明らかに私たちだけが知っているには重要度が高すぎる。
なら、ルルの知り合いにいるらしき検証班というプレイヤーのクランにこの情報を売りつけて、私だけではなく他のプレイヤーも巻き込んで情報を集めていくのが良さそうには感じる。
「ラーニョ、こっちはもうこの空間内は調べ尽くしたぞ。まああのモンスターのせいで被害が大きいから、全てを確保することは出来なかったけどな」
そんな思考をしていると後方から話しかけてきたスカーの声を聞き、私は振り返って言葉を返す。
「…そう、それでも確保出来た分はあの人に渡しておいて」
「了解、じゃあ先に行ってるな」
そう言葉をかけてきてからスカーはそのまま来た道を引き返し、依頼主である貴族の人に確保した情報を渡しに行くのを私は軽く見送っていると、続けてこちらに寄ってきたドラコーが声をかけてきた。
「そういえば、さっきまでいたあのシスターさんは?」
「…プレミアはもう行った」
私が返したその言葉に、ドラコーはそうですか、と言って何やら残念そうにしているが、何となく思考は読めるのでそれは放置する。
何を考えているか?それは至極簡単で、単にドラコーは私のような小さな女の子が好きなのでもっと会話をして、さらにはなでなでやハグなどを出来たら良いとでも考えているはずだ。
それを表現するかのように、私に視線を向けてジリジリと近づいてきており、それを見た私はいつも通りなのであまり気にせず、再び思考を巡らせる。
プレミアはたまたまここに来ただけで目的は特にないとは言ってはいたが、あれは間違いなくここに現れていたワールドモンスター狙いだったのだろうとはわかる。
もしかしたら、あの住人であるプレミアは発生したワールドクエストと関係がある特殊なNPCなのだろうか?だとしたら、色々と情報を知っているのやかなりの強さを持つのも全てが納得出来る。
「…まあ、とりあえずは検証班に任せるのが良いかも。…ドラコー、もう気は済んだ?」
「はい!ラーニョの気も堪能しましたし、もう大丈夫です!」
そんな思考中にも関わらず私に抱きついていたドラコーは、私の言葉を聞いた後にすぐに離れたので、よしとしておく。いつものことでもあるので。
「…じゃあ、皆、そろそろ行こう」
「わかりました!」
「オッケー!」
そして未だに残っていたドラコーとルルを連れて、私たちもこの空間から撤収とする。…地上に出たら、早速ルルに伝えて検証班を呼ぶとしよう。
「っと、地上が見えてきましたね」
そうして階段を上がり続け、やっと外に続いている入り口の元へ着きました。
階段が結構長かったので少しだけ時間がかかってしまいましたが、別に急いでいるわけでもないのでいいですね。
そんなことを考えつつも来た時と同様に壁に手を付くと、すぐさま壁が細かく分かれることによって外の光が私の方まで入ってきます。
「では、早速狩りをしに向かいますか」
そこから私は、今着ているシスター服を一度ゴスロリドレスに変えた後にその出口を出て、そのまま迷宮都市内を歩いて迷宮都市の東にあるノルワルド黒森まで向かい、そこで採取兼スキルのレベル上げをしていきます。
その森ではこの前に商業ギルドで売り払ったことでほとんどなくなっていた素材を集めるために狩りや採取を続け、それらを続けているとご飯の用意をしなくてはいけない十一時前にいつのまにかなっていたので、迷宮都市に戻り次第ログアウトをして現実世界へと戻っていきます。
そしてお昼の諸々を済ませ、再びのログインです。
そのお昼の時に、兄様はゴルブレン森林の東の攻略にパーティメンバーと言ってきたようで、森を抜けた先にある転移ポイントも解放してきたみたいでした。
兄様の話では、その先のエリアは大きな草原となっているらしく、そこでは草に紛れるかのような緑色の狼に空から獲物を狙う黒色の鴉、風魔法を使ってくるという薄緑色の兎や強靭な足腰をしているらしい焦茶色の馬のモンスターたちが生息しているみたいです。
草原なので基本は獣系のようで、前に見た高原のモンスターよりかは危なさそうには感じませんね?まあそれでも油断をしていると痛い目をみますし、気をつけはしますけど。
まあそんな話はいいとして、今はクオンパーティとのダンジョン攻略です。
「確か、集合場所は今もいる迷宮都市の広場でしたね」
集合場所を聞くのは忘れていましたが、それについては先程お昼の時にクオンから連絡が来たので、それで教えてくれました。
なら、待っている間はクリアでも呼んで待っていましょうかね。
そう考えた私は広場にあった椅子に座りながらクリアを呼び、そのままクリアと戯れながら皆さんがくるのを待ちます。
「あ、レアちゃーん!」
「レアさん、待たせてしまいましたか?」
「メアさん!それにライトさんも、昨日ぶりですね。時間にはまだ早いですし、そこまで待ってもいないので大丈夫ですよ」
私がここに来たのは十一時四十分くらいですし、今の時刻もまだ予定の十二時ではないのでこのくらいは問題ありません。
「それと前にも見たけど、その膝の上にいるのはテイムモンスターなの?」
「はい、ピュアメタモルスライムのクリアと言って、私のテイムモンスターです」
膝の上でプルプルと震えていたクリアは、私の声を聞いてスライムボディを触手のように伸ばしてよろしく!とでも言うように二人へと挨拶を返しました。
「レアさんはそんな珍しそうなモンスターをテイムしていたのですね」
「まあたまたまですよ。それに、珍しいからテイムした、というわけでもないですしね」
そうしてクリアについて聞かれたことに答えていると、ふとこちらへと向かってくるクオンとヴァンさんらの気配を感知しました。
二人はどうやら一緒に来たようで、何やら会話をしつつ歩いてきています。
「クオンー!レアちゃんもういるよー!」
「メアか。悪い、待たせたか?」
「い、いえいえ、全然待っていないので大丈夫ですよ」
メアさんのあげた声に、クオンはそのような声をかけてきたので、私はそれに対してそう返しました。
す、少しだけソロさんの言葉を思い出してしまって恥ずかしくなってしまっていますが、それは気取られないようにしないとですね…!
「それと、その膝の上にいるスライムみたいなのが、この前も見たレアのテイムモンスターか?」
「そ、そうです。名前はクリアと言って、とても可愛いのですよ!」
クオンからも先程のメアさんと同様にクリアについて聞かれたので、特に隠す理由もないですし、前に一度見られてもいるので素直に答えます。
クオンとヴァンさんはそんな私の膝にいるクリアに視線を向けていますが、クリアもまたもや触手のように伸ばしてスライムボディの腕をフリフリしてその視線に反応を返しています。
「…よし、じゃあメンバーも集まったことだし、早速ダンジョン攻略に行くか」
「わかりました!それと攻略に行くダンジョンはどこにするのですか?」
ダンジョン攻略をしようとは誘われましたが、まだ目標のダンジョンについては聞いていないのでクオンに尋ねると、クオンはニヤリと笑みを浮かべて言葉を発します。
「この街の南東にある、遺跡タイプのダンジョンだ」
そうしてクオンに向かうダンジョンについて問いかけ、そこからパーティを組んだ後に迷宮都市を歩くこと数十分。やっとそのダンジョンの入り口であるゲートと、そのすぐ近くに建てられた冒険者ギルドの支部の元へと到着しました。
前に一人の時に見た時と同じで、迷宮都市にあるダンジョンの入り口にはどこも基本冒険者ギルドの支部があるみたいです。
「じゃあ、早速行こうか」
「あ、了解です」
おっと、まじまじと観察をしてないでさっさとここのダンジョン攻略に行きますか。
メアさん、ライトさん、ヴァンさんもすでにゲートの元へ移動していたので、私は道中で肩に移していたクリアを落とさないようにしつつ小走りで皆さんの元へ向かい、そのままゲートを潜ってダンジョン内へと入っていきます。
この遺跡タイプらしいダンジョンは、どうやらそのタイプ通り遺跡といえばこれ、といった見た目をした迷路のような構造となっているようで、古さは感じ取れはしますがそれだけ年月が経ったのもわかる雰囲気を醸し出しています。
ですが、普通のファンタジー世界にあるようなものではなく、機械が混ざったかのような印象も感じれますね。
それにマップを見る限り、先に語った通り迷路のように入り組んだダンジョンのようなので、少しだけ気をつけておかないとパーティメンバーがバラバラになってしまうかもしれませんね。
そんなダンジョン内を皆で固まって歩いていると、私の持つ感知系のスキルに反応が現れました。
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マシンドール ランク F
何者かに作られた機械の人形。
その個体によって違う様々な力を使って命令を遂行する。
状態:正常
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そのモンスターは機械のような見た目をした身長170cmくらいの人形のようで、その手には私たちと同様に剣や槍、斧などを持っている機械人形がいました。
しかも数はこちらと同じく五体もいるようで、純粋なタンクのいないクオンパーティではヘイトの管理をしっかりとしないとすぐに後衛であるメアさんとライトさんがやられてしまうかもしれないので、注意しないとですね。
「クオン、敵がきます!」
「了解!」
そして一番先に発見した私の言葉を聞き、皆さんは自身の武器を手元に取り出して戦闘の準備をします。
そこから数秒間待ち、クオンたちもわかるくらいの距離まで近づいてきた機械人形たちは、この距離でやっとこちらを発見出来たようで、持っていた武器を構えてこちらへと迫ってきました。
「ふっ!」
「〈アクアボール〉!」
それを見たメアさん、ライトさんは自身による攻撃である矢や魔法を放って攻撃をするので、私もそれに続くように自身の武器である双銃を構え、機械人形たちに向けて弾丸を乱射します。
そうして私たちの攻撃を受けた機械人形たちでしたが、そのくらいでやられるほど弱くはないようで、そのままダメージを受けた証である赤いポリゴンを空中に飛び散らせながらもこちらへと接近してきます。ですが…
「〈風の吹剣〉!」
「〈インパクト〉!」
「ガゥ!」
近接武器を持つ二人とクリアの間合いに入ってきた先頭にいた三体の機械人形は、二人と一匹の放った攻撃を受け、派手に赤いポリゴンを撒き散らしながら地面に倒れ、ポリゴンへと変わっていきます。
残っていた二体の機械人形はやはり機械だからか特にそれには反応をせず、先頭で道を塞いでいたクオンとヴァンさんへと自身の武器を構えて攻撃をしますが、今度は私たちの放った攻撃によってそれらは妨害されます。
そしてそんな隙の出来た二体の機械人形を二人は見逃すはずがなく、続けて放った攻撃で残っていた機械人形もすべて倒し終わりました。
「よし、倒し終わったな」
「だね!人形系の相手は初めてだったけど、特に苦戦はしなかったね?」
「まあ今の機械人形はそこら辺に出てくる雑魚と同様なのでしょうし、そのおかげかもしれませんね」
メアさんのこぼした言葉に私がそう返すと、それもそうだね、と言ってメアさんは納得しています。
私は前に戦った人形たちとの経験も得ていますし、獣型のモンスターとは違って対人のようにも感じもするため特に苦戦することはありませんでしたが、初めてらしいメアさんたちも特に手こずってもいないのでこのくらいなら全然ここのダンジョンの攻略をしていっても大丈夫ですね。
「じゃあこのまま攻略といくか」
「そうですね」
クオンの発した言葉に私も含めた皆さんで同意して、引き続きこのダンジョン内を先に進むべく歩いていきます。
その道中では一番最初に戦った機械人形が主に出てきましたが、他にも機械で出来た狼や蛇、猫に熊、なんならゴーレムのようなものなど、実に多様なモンスターたちが襲ってきました。
それらのほとんどは特に苦戦もせずに倒せましたが、ゴーレムのような機械型モンスターは結構な大きさもあり、その見た目通り硬いのもあってかクオンたちの近接武器ではあまりダメージを与えられず、私の魔法弾とライトさんの水魔法による攻撃でなんとか無事に倒せました。
それに通路も迷路のようになっており、マップがあるので次からは迷うことはないでしょうけど、それでも初見では行き止まりに着いたりなどでテンポよく先に進むことは出来ず、結構な時間がかかってしまいます。
マップなどからもわかる通り、このダンジョン内はかなりの広さをしているようですが、迷路のような構造だからかたまにプレイヤーたちともすれ違います。
しかもその出会うプレイヤーたちは私のことを知っている人ばかりだったので、少しだけ挨拶を返しただけでも嬉しそうにしていました。
それに私は思わず苦笑をこぼしてしまいましたけど、嬉しそうな感情を出していたのでとりあえず気にしないことにしました。
まあそれはいいとして、そんな迷路型のダンジョン内を私たちはどんどん進んでいくとその途中でセーフティーゾーンに着き、今はそこで休憩中です。
そしてここまでで手に入れたドロップアイテムをそのタイミングで確認すると、どうやら機械系のモンスターが落とす素材はどれも同じようで、小さめの魔石と壊れた機械のパーツだけでした。
機械のパーツはそれで一括りになってはいますが、種類が結構豊富なようで、私が手に入れたのはこのダンジョン内で狩ったモンスターたちのパーツである素材のみです。
これらの素材からするに、これらは上手く使うことが出来ればおそらくはモンスターとして動いていた姿を模したゴーレムのようなものが作れる可能性がありそうな気がするので、今度私の【錬金術】スキルでいじってみることにしますか。
「確認はこれでよしとして……クオン、ちょっといいですか?」
「ん、なんだ?」
パパッと確認を済ませた私は、膝の上でゆったりとしているクリアを優しくなでなでをしつつ、満腹度の回復のためか串焼き肉みたいなのを食べていたクオンに声をかけ、一度こちらに呼びます。
「前に言っていた二回目のイベントについてなのですけど……実はこの前にアリスさんたちと行こうということになったので、それを伝えたかったのです」
「なるほど、それでか。そんな申し訳なさそうにしなくてと、別に気にしていないから大丈夫だぞ。それにあちらでも出会うことはあるだろうしな」
そう言って笑ってくれるクオンを見て、私は少しだけ緊張していたようでホッと一息つきます。
私はクオンと一緒にはいたいですが、別にずっと離れ離れというわけでもありませんし、このくらいは我慢ですね。それにクオンも言っている通り、まず間違いなくあちらでも出会えるとは思いますしね。




