98話 記憶
「いやー、美味しかったですね!クリア!」
「……!!」
お店を出た後はクリアとそんな感想を言いながら、再び醤油を探しに歩いていきます。
というか今更ですが、こうして歩いて探すのではなく住人に聞いた方が早そうですね?なら、すぐそこで魚料理の屋台をやっている人にでも聞いてみるとしますか!
そう考えて醤油について聞いてみると、すぐに答えが返ってきました。
すると、港の近くの商店ならきっと醤油くらいなら売っているらしいと教えてくれました。
なるほど、港ですか。それなら早速そちらに向かって探しましょうか!
そうして教えてくれた通りに港付近で醤油を探していると、すぐに見つけることが出来たのですぐさま買いに動きました。
量は個人的に使う分なのでそこまで大量には買ってませんが、他にも味噌や魚醤などもあったのでそちらもある程度の量を購入しました。
どうやら今買った調味料たちは、ここから遠くに存在する西大陸と呼ばれるところから仕入れてきているようで、そこで作られているみたいです。
醤油や味噌ということは、その大陸は現実世界で言うところの日本に似た大陸なのでしょうか?そうだとしたら、いつかはそこへ行ってみたいですね!まあ海を越える必要があるので、まだ先にはなりそうですけどね。
とりあえずこれで醤油の確保は完了しましたし、次はレーナさんの元へ向かってユニーククエストで手に入れた宝石でワンピースを強化してもらいましょうか。
フレンドリストを見るに今はログインしているみたいですし、先に連絡を入れてから……よし、では行きますか。
そこから私は港付近から転移ポイントのある街の中心である噴水へ向かいます。
そしてその道中で先程の連絡の返事すぐに返ってきて、内容は待ってるからいつでもいいよー、とのことでした。
急なお願いでしたが、別に問題はなさそうなので一安心です。待たせるのもアレなので、さっさと行きますか。
「レーナさん、お待たせしました」
「レアちゃん、待ってたわよ〜!」
私は転移を済ませた後にすぐさまクリアと共にレーナさんのお店に向かい、お店の扉を開けるとカウンターで待っていたようなので、そう声をかけました。
レーナさんは少しだけ待っていたようなので、待たせてしまいましたね?
まあそれはともかく、先程連絡したことについて聞いて見ますか。
「それで〜、ワンピースを強化して欲しいって言ってたわよね〜?」
「はい、これ何ですけど…」
そう言って私がインベントリから取り出して見せたのは、アリスさんたちとやった時の報酬である黒影宝石です。
それの見た目はまんま黒色をしてキラキラと輝く見た目の宝石なので、洋服であるワンピースに使えるかが今更心配になってしまいましたが、レーナさんは私の反応には気づかずにじっくりとその宝石を観察します。
そして確認が済んだのか、何やら頷いて宝石に移していた視線をこちらに向けてきます。
「おそらく、私のスキルでなら強化は出来ると思うわ〜!」
「本当ですか!」
「ええ、でも時間はかかりそうだから、少しだけ待っていてくれると嬉しいわ〜」
時間がかかってしまうとはレーナさんは言ってますが、それでも装備を強化してくれるのはとてもありがたいですし全然問題ありません。
それに時間がかかったとしても、レーナさんの作ってくれる装備はとても良いものなので期待が高まりますしね!
「全然大丈夫です!ではお願いしてもいいですか?」
「もちろんよ〜!イベント前までには仕上げるから、待っていてね〜!」
「はい!」
そう言って私はインベントリからゴスロリワンピースとゴスロリブーツを取り出し、今も装備していたゴスロリソックスも外してからレーナさんへ手渡します
よし、最近はこのゴスロリドレスばかりで使っていませんでしたが、強化をしてくれた後はキチンと使っていきましょうか!
インベントリに仕舞ったままでは装備が可哀想ですしね!
「じゃあ私は早いですけど、行きますね」
「わかったわ〜、装備は任せてね〜!」
「はい、では!」
私はレーナさんに別れの挨拶をした後、少しだけ空気になっていた肩にいるクリアと共にお店を出てから一度第二の街へ転移をして向かい、ソロさんの図書館へと移動をます。
レーナさんへ装備を頼むのもしましたし、次はアリスさんたちとのユニーククエストで手に入れた本についての確認です。
なので、人気の少ないところでゆっくりと確認をしたいのでソロさんの図書館に向かっているのです。
「…ソロさんはいないみたいですね」
転移などの移動を済ませて図書館に着いたので中に入ってソロさんの在否を確認すると、私の呟いた言葉通り今はいないようでした。
まあソロさんからはいつでも来ていいと言われてますし、このままテーブルに座りながら確認をしますか。
私は図書館内にあるテーブルにクリアをおろしてから椅子に座った後、インベントリから報酬で手に入れた本を取り出して鑑定をしてみます。
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恋の魔本 ランク S レア度 遺物
とある過去について書かれた魔法の本。とある言語で書かれているらしい。
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鑑定結果にはそう出ましたが、それから察するに何らかの過去について書いてある本のようですね。ワールドモンスターであるメラスクーナさんからの報酬ですし、それに関係したものなのでしょうか?
私は鑑定が済み次第、椅子に座りながらその本をパラパラとめくって読んでみます。
「本の内容は……相変わらず読めませんね」
ですが、わかってはいましたが当然のように読めませんでした。なら、やはり私のユニークスキルである〈第四の時〉を使いましょうか。
これなら過去の記憶や体験を知ることが出来るので、こういう場合にはとても合いますしね。
「今の時刻はすでに二時くらいですし、時間はありますね」
時間には余裕があるので、早速これの過去とやらを見させてもらいますか!
「では… 〈第四の時〉」
テーブルの上に乗せたその本目掛けて私は武技を放ち、その本を撃ち抜くのと同時に私の意識は前と同様になくなります。
「ーー!楽しいね!」
「そうだな、ーー」
雪のように白い髪に金色に輝く瞳をした女性、ーーは俺の恋人だ。
いま俺たちが歩いている街並みはとある国の都市で、俺とーーはそこでデートをしているのだ。
そんな街中を歩いている俺たちだが、こうして二人で会うのも久しぶりなので屋台などを巡りながら料理を食べ、楽しみながら歩いている。
「ーー、次はあそこにいかない?」
「あそこか、いいぞ」
そうして屋台巡りをしばらくした後、ーーからの言葉を聞いて俺たちはそのまま街中を歩いていき、その目的地へと向かう。
その道中では楽しげに会話をしながらも歩き続け、歩くこと数十分で目的地らしき場所に着いた。
そこは白色を基調とした見た目の門のようになっており、そこには幸せの鐘と呼ばれるであろう鐘が置かれている場所だ。その鐘は鳴らすと幸せを呼び込むらしいので、俺たちはワクワクしながらそこに来たのだ。
「ーー、じゃあ、鳴らすよ?」
「ああ」
そんな会話の後に俺たちは二人でその鐘を鳴らし、お互いを思いあったかのような雰囲気で見つめ合い、そのままそこを離れるのだった。
「…っ!」
ふと視点が変わり、私の意識が現実へと戻りました。
「今のは……誰かの記憶、ですか…?」
明らかに私の記憶ではないですし、本に書いてあった通り何者かの記憶を私が体験した、ということでしょうね。
この体験を見た限りでは、デートか何かをしている記憶みたいですね…?鑑定結果ではこの本には恋と書いてあったので、それででしょうか。
それに、私と同じように白い髪に金色の瞳をした少女が確認出来ましたが、あれは誰なのでしょうか…?
この本はワールドモンスターであるメラスクーナさんからの報酬でしたから、それに関係するとは思いますが…
「…まあ誰の記憶かはまだわかりませんし、それを知れるまではとりあえず放置ですね」
そう決めた後、私は一度今の本をインベントリに仕舞います。
ひとまずは確認したいことは済ませましたし、次はリンネさんたちからいただいたシスター服を確認してみますか!
私は今着ているゴスロリ装備と入れ替えるように装備メニューを開き、シスター服を装備します。
貰ったのはシスター服とベールだけですが、今履いているゴスロリ風の靴とも全然合うようなので、こちらは気にしなくてもよさそうですね。
「ふむふむ、着心地はゴスロリ装備と同様にとてもいいですね。それに頭装備のベールの効果のせいで視界が見えませんね」
ベールは目元と髪を覆い隠してあるので物理的にも見えませんが、装備に付いているスキルのおかげで何故か目で見ていなくても私の周囲が手に取るようにわかります。しかも私の感覚についても強化されているようで、普通に見るよりもさらに正確に細かいところまで把握出来るみたいです。
これが第三の魔眼というスキルの効果ですか。それに暗殺者装備と同じようにNPCマーカーになっているので、これを使う時はロールプレイをしてみましょうか!
「というか、この姿では銃によるユニークスキルを使えませんし、この姿にあった戦闘方法が欲しいですね…」
シスター服の時に使える細剣はありますが、それだけでは少し物足りなく感じてしまいますし、何か他にありますかね…?
「あ、それなら魔法をスキルとして取ってみますか」
私は銃を使っていたので魔法は初めてですけど、この姿にはとてもよく似合うでしょうし、魔法を一つだけでも取ってみますか。
私はステータスを開き、獲得できる魔法を確認をしていきます。
「…私が取れるのは、火、水、土、風、光、闇ですか」
初期で取れるのはこの六種類のようですね。なら、どれにしましょうか。
うーん、このシスター服なら光か闇でしょうか。他の四属性も悪くはないですが、一般的な属性でありますし少しだけ捻りが欲しいですしね。
「…なら、闇魔法にしますか」
シスター姿だから光魔法では普通すぎますし、私は獲得する魔法を闇属性に決め、SPを一消費して【闇魔法】のスキルを獲得します。
【闇魔法】スキルの一番最初に使える魔法は、〈ダークボール〉という闇属性の魔力球を放つ魔法のようでした。
これからこの魔法も使うようにして、しっかりと育てていくとしましょう!
「…今の時刻はまだまだ余裕がありますし、ついでに【闇魔法】のレベル上げもかねてエルフェリンデの攻略をしてきますか」
そう決めた私は、この姿で呼び出しているのは身バレになってしまうので、一度謝ってからクリアを送還します。
よし、ではこのまま第二の街まで転移をして、レベル上げと行きますか。
「…よし、そろそろ降りますか」
そうして二時を少しだけ過ぎたところから、六時半辺りまで魔法と細剣を使ったスキルのレベル上げをしてきた私は、夜ご飯の用意をするために街に戻りログアウトをして現実世界へと戻ってきました。
そんな私はいつものストレッチをしっかりと済ませた後にリビングへ向かい、すぐさまご飯を作り始めます。
作り終わったその後はスマホでMSOの情報を見ながら兄様を待っていると、すぐに兄様も降りてきたのでそのまま夜ご飯を食べていきます。
「そういや美幸、荒地エリアの先のエリアがいつのまにか開放されていたみたいだぞ」
「そうなのですか?」
「ああ、確か荒地から北が砂漠エリアで、西が火山地帯になっているらしい」
そんなご飯の時に、兄様がそのような情報を教えてくれました。
ふむふむ、砂漠と火山地帯ですか。ということは、その二つのエリアはきっと暑さや日差しなどが辛そうだとは思いますし、行く場合はそれの対策などが必要かもしれませんね?
現実での砂漠は夜になると逆に寒くもなるようですし、あそこまでしっかりとした作りの世界ならそれもある気がするのでそれについても対策をしないとですね。
そこからもMSOについての会話をしながら食べ進め、お互いに食べ終わったタイミングで私は食器洗いなどを任せた後に着替えを持ってお風呂へと向かいます。
そしてお風呂や洗濯などの諸々を済ませてきた私はすぐさま自身の部屋に戻ってきました。
今の時刻は八時を超えており、ゲームをやるのもアレなので宿題を進めていき、いつもの時間になり次第部屋の電気を消して就寝とします。おやすみなさいです。
朝です。今日は火曜日で、お昼からは楽しみにしていた悠斗たちとのダンジョン攻略がありますし、予定のない午前中のうちはロールプレイの練習もかねて街中を散策でもしますか。
そんな思考をしながらストレッチも済ませ、今の時刻を確認にするといつもと同じ六時半でしたので、次は朝のやることも終わらせてきますか。
「…よし、では迷宮都市の散策といきますか」
朝の支度も終わり、その間に降りてきた兄様にもゲームをしていると伝えた私はまたもやゲーム世界にログインしました。
ログインした場所は第二の街の広場だったので、まずは迷宮都市まで転移してから人影のない裏道に向かい、早速装備ゴスロリ装備からシスター服に変え、そのまま迷宮都市を歩いていきます。
目的地も決めないでブラブラと街中を歩いていますが、このシスター服姿でもすれ違うプレイヤーたちからチラチラと見られますが、顔も見えずマーカーも緑になっているので私とはバレてはいないでしょう。
「…まあ視線が集まるのはいつも通りですし、スルーですね」
そう誰に言うでもなく呟きつつも歩いていると、何やら裏通りから争うかのような声が聞こえてきました。
今は特に予定もなく時間もありますし、少しだけ気になるので向かってみますか。
「…貴方たちでは無駄」
「ちっ、舐めやがってっ!」
争うかのような声を聞いたのでそちらに向かうと、そこには身長140cm後半くらいで黒髪黒目、幼なげな雰囲気を出している一人の人間であろう、動きやすそうな黒い軽装を纏った女性プレイヤーと、その少女を取り囲むようにして己の武器を構えている三人の男性プレイヤーがいました。
この様子を見る限り、囲まれている少女に襲いかかったPK集団ってとこですかね。現に、ポリゴンとなって消えていくプレイヤーらしき人が二人倒れてもいますしね。
「おら、〈パワースラッシュ〉!」
「〈パワースラスト〉!」
「…〈切り断つ糸〉」
その少女に向けて周囲の男性たちが武技らしきものを使用して攻撃を放ちますが、それに対して少女は表情を変えずに両手を構え、その指先から出した鋭い蜘蛛の糸らしきものを振るって飛びかかってきていた二人の男性プレイヤーを切り裂いてポリゴンへと変えます。しかし…
「隙あり!」
「……!」
残っていた最後の男性プレイヤーがその僅かな隙をみて、手に持っている片手剣で少女に向けて切り掛かります。
私はそれを見て咄嗟に飛び込み、手元に取り出した黒十字剣クルスで片手剣を持っている方の腕を切り裂き、続けて振るった黒十字剣クルスの攻撃で首を刎ねることでポリゴンへと変えました。
よし、この人が最後でしたし、これで大丈夫ですね。
「…ありがとう」
「いえ、別に私が対応しなくても良さそうでしたが、つい出てしまいました」
そう、咄嗟に飛び出しましたが、少女はその指先に再び蜘蛛の糸らしきものを出していたので、多分私が何もしなくても問題はなかったとは思います。
まあ別に悪いことではないので、そこまで気にする必要はないかもしれませんけどね。
「…貴方は、誰?」
「私ですか?私はれ……ではなくて、そう、プレミアです」
つい本名を名乗りそうになりましたが、なんとか止まって即興で決めたプレミアという名前をその少女に答えます。
「…私はラーニョ」
「ラーニョさんですね。では私は何もないようですし、この辺で行かせてもらいますね」
「…わかった。また会おう」
「はい、では」
そう言って私はラーニョさんと別れ、そのまま元の道へと戻っていきます。