10話 洋服と学校
そうして歩き、今度こそレーナさんのお店に着きました。相変わらずガラス張りでオシャレなお店です。
「レーナはいるか?」
そのまま私たちは中へ入り、兄様は店員さんへ伝えてレーナさんを呼びます。
「はい、ただいまお呼びします」
店員さんはそう言い、奥へと向かいます。そして少しすると、レーナさんがこちらに向かってきました。レーナさんは買い取った木綿で服を作ったのか、初期装備ではなく白色のブラウスに足首までの長さの黒いスカートを着ていました。
「レーナさん、すごいオシャレな服を着てますね!」
「そうなの〜、買い取った木綿でこの衣装を作ったの〜!どう?似合ってる〜?」
「はい!レーナさんにとてもお似合いです!」
「ありがと〜!」
「すまん、そろそろいいか?」
私とレーナさんがそう話していると、横から兄様が声を掛けてきました。
「あ、すみません、兄様!」
「ゼロくんたちもごめんね〜、それで、装備ね〜?」
「ああ」
「じゃあちょっと取ってくるから待ってね〜」
そう言ってレーナさんは再び奥へと向かっていきます。
「兄様たちはどんな装備を頼んだのですか?木綿ですし、普通に服ですか?」
「それは来てからのお楽しみだ」
兄様はそうフッと笑って話を濁します。むー、どんな装備か気になりますね!まあレーナさんが持ってくるのを待ちますか。
そうして待つこと少し、レーナさんが奥から戻ってきました。しかしその手にはなにも持っていません。インベントリにしまって持ってきたのですかね?
「お待たせ〜、はいこれ、木綿装備よ〜」
レーナさんはそう言って兄様たちへ取引メニューを開いています。
「代金はこれで良いんだっけ?」
「いいわよ〜、あと着替えるならあそこを使って良いわよ〜、これからもご贔屓にね〜」
取引が終わったのか、兄様たちはメニューを閉じます。そしてレーナさんはカウンターの近くにあったフィッティングルームを指差し、そう言います。ジンさんとセントさん以外のメンバーがそこへ向かい着替えに行きました。
「あ、レーナさん、私も装備を頼んでもいいですか?」
「勿論いいわよ〜、もしかして木綿を採ってきたの〜?」
「はい。たくさん採ってきたので、これで私にもオシャレな装備を作ってください!」
そう言って私はレーナさんへ取引を申し込みます。そして採取してきた三キロくらいの量がある木綿を渡します。
「こ、こんなに採ってきたのね〜…」
「あれ、多かったですか?」
「一つの服を作るには多いけど、レアちゃんが使わないなら、残った分は買い取るわよ〜」
「それなら、残った分は買い取って貰ってもいいですか?」
「勿論よ〜、じゃあそこから代金は引くわね〜、あと、作るのは何がいいかしら〜?」
「それなら、ワンピースとかはどうですか?」
「いいわね〜、ならこんなのはどうかしら〜?」
レーナさんが一瞬で下書きをして見せてくれたのは、肩を出したオフショルダーのワンピースの構成です。これは良いですね!なかなか可愛い見た目でとても気に入りました!
「これでお願いします!」
「わかったわ、じゃあこれで作るわね〜。多分明日のうちには出来るから、出来たらメッセージに送るわね〜、そしたら受け取りに来てちょうだい〜。もし私がいなくても店員さんに言えば渡して貰えるようにしておくから〜」
「わかりました」
そう私たちが話していると、気づいたら兄様たちがフィッティングルームから出て近くに立っていました。
兄様は紺色の着物に上から黒色の羽織を着て、下には袴パンツの見た目で帯に足袋をつけて履物を履いた、まさに和風といった装備をしています。
それに対してマーシャさんとサレナさんの女性二人組は、マーシャさんは光をモチーフにした飾りを付けた白色の、サレナさんは風と炎のマークを付けた紅桔梗色のローブを着ています。
「三人とも、凄く似合っています!」
「ああ、ありがとう」
「フフ、ありがとね?」
「ありがとう!レアちゃん!」
私がそう言うと、三人とも感謝の言葉を返してくれました。
「聞いた感じ、レアちゃんはローブではないのね?」
「はい、私はワンピースが良いかなと思ったので」
「いいねー!絵を見た感じだと、凄く似合うと思うよ!」
兄様たち男性陣も頷いています。そしてマーシャさんとサレナさんからも好感を持たれているようです。こうして言われると、少し恥ずかしいですね…
「さて、これで用事は済んだな」
私たちはレーナさんに別れを告げてお店を出た後、兄様がそう言葉を発します。
「兄様たちはこの後どうするのですか?」
「俺たちは、今日はもうこのまま解散しようと思っている」
「えー!もう解散するのかよー!」
セントさんがブーブー文句を垂れます。そしてそれに女性陣も賛同します。
「そうよそうよ!まだたくさんおしゃべりとかしたいわ!」
「あたしもまだ一緒に居たいよー!」
「だが結構良い時間になってるんだぞ?」
兄様のその言葉に、私はアクセに付けていた時計を手に取って確認します。
ちなみに、この世界は現実と同じ流れの時間なので、実はこういうこの世界にある時計でも時間を確認できるようなのです。それを私は知ったので、これからはそれで確認していきます。性能は謎ですが、時刻の確認には問題ないので。
確認すると、もう六時近くになっていました。
「確かにもう良い時間ですし、そろそろ落ちてご飯を作らないといけないので、私はもう落ちますね」
「「「そんなー!」」」
私がそう言うと、兄様とジンさんを除いた他の三名が残念そうな声をあげます。
「ゼロとレアちゃんって一緒に暮らしているんだよな?」
「そうだが?」
「ってことは、毎日レアちゃんの作ったご飯を食べているってことか!?」
「「なんですって!!」」
ジンさんを除いた三名が兄様をギロリと睨みつけます。流石の兄様でもその眼光には怯んだようで、少しだけ引き攣った表情をしつつも言葉を発します。
「し、仕方ないだろ!両親は海外に仕事に出てるし、俺自身は料理は出来ないのだから!」
「一度だけ兄様の料理を食べたことがありますが、あれは酷かったですね…」
そう私は遠い目をします。その一度だけ兄様が作ったのは、カレーです。カレーは万能な料理と今まで思ってましたが、兄様にその言葉を通じなかったようです。
私の表情を見て、兄様以外はああ、と納得していました。何故そんな分かりきった顔をしているのですかね?
「レアちゃん、ゼロは一度だけベータテストの時に料理をしたのよ」
「あー…なるほど、そこから先は言わないでも大丈夫です」
兄様は不服そうな顔をしてますが、これは仕方ないと思います。
「まあともかく、私はそろそろ落ちますね」
「そうね、仕方ないわね…」
「また一緒に遊ぼうね!」
「はい、その時はまたよろしくお願いします。それと兄様、七時くらいまでにはログアウトしてリビングまで降りてきてくださいね」
「…ああ、わかった」
そして私はメニューのログアウトを押し、この世界から一時的に消えます。
ログアウトした私は、ヘッドギアをを外してベッドから降り、軽くストレッチをします。ゲームばかりでは体が鈍ってしまいますからね。
「んー…っと、ご飯でも作りますか」
そう言葉を呟きつつ、自分の部屋から出てリビングへ向かいます。そしてリビングにある冷蔵庫を開けて中身を確認します。
「そうですね……よし、今日は回鍋肉にしますか」
作るものを決めた私は、早速調理を始めます。肉や野菜を切って炒めて味付けして……
そして作り終わったので、味見します。
「うん、良さそうですね」
しっかりと味もしますし、これでオッケーですね!やることを済ませてから時間を確認すると、今はまだ六時半くらいのようです。
「少しだけ時間はありますし、その間にお風呂に入っちゃいますか」
時計を見て私はそう決めます。作った料理はフライパンに入れたまま蓋をして置いておきます。食べる時にまた温めて食べるためですね。
そうして部屋に戻って着替えなどを持ち、お風呂場へ向かいます。
「ふ〜…」
頭と体を洗い終わり、湯船に入るとそう声が漏れます。やっぱりお風呂は最高ですね!
「明日からまた学校ですね。帰ってきたらまた少しだけやりますか」
そう予定を決め、お風呂から出ます。そして体についたお湯をタオルで拭き、スキンケアをします。その後リビングへ戻ると、兄様がいました。
「兄様、もう来ていたのですね」
「ああ、あの後少しだけ街を散策したあとに落ちたんだ」
そう話しつつ、私はドライヤーで髪を乾かします。
「今日は回鍋肉を作りました」
「お、回鍋肉か、あれ美味いから好きなんだよな。いつもありがとな」
「いえいえ、これくらいは任してください。それと絶対にキッチンには近づかないでくださいね」
「そ、そこまで言わなくても…」
「カレー事件」
「……すまない」
私が強くそう言うと、兄様はガックリとして答えます。
これは仕方ないのです。あれは酷い事件でしたし……ま、まあそれはもう忘れましょう。
「では、いま用意しますね」
「わかった。コップと箸は出しておくな」
「ありがとうございます、兄様」
髪を乾かし終わり、私はフライパンに入れていた回鍋肉を温め直して皿へと盛り付けます。兄様はコップに麦茶を入れてダイニングテーブルに置きます。箸も同様です。
私が回鍋肉を盛り付けた皿を置いたら、完了です。
「では、いただきましょう」
「ああ、いただきます」
そう言って私たちは食べ始めます。うんうん、いつも通り普通に美味しいですね。
「美幸は今日はもうやらないのか?」
私がご飯を食べていると、兄様がそう聞いてきます。
「そうですね、今日はもうやめて少しだけ、勉強の振り返りをしようと思っています」
「なら俺もやめて勉強でもするか」
「それがいいですね」
私たちは会話をしつつ食事を続けます。そして食べ終わり、食器などを片付けます。あ、食器は兄様が洗ってくれました。そしてその間にやっていた洗濯も終わらせて干すのも済ませます。
「では私は部屋に戻りますね」
「了解、俺はこの後は風呂にでも入ってくる」
「わかりました」
私はそう言って部屋へと戻ります。そして部屋に着いたら、ローテーブルの上に教科書とノートを広げクッションに座って勉強を始めます。
そうして勉強をして、区切りが良いところで終わらせて時間を確認すると、もう八時を超えていました。
「少し早いですが、もう寝ちゃいますか」
私は寝る前に軽くストレッチをし、それが終わると電気を消して就寝します。
月曜日の朝になりました。今の時間は六時半くらいです。今日は学校ですし、制服を着ないとですね。
朝の軽いストレッチをして体をほぐすと、パジャマを脱いで制服へと着替えます。
部屋から出た後にリビングへと向かい、まずは洗濯物を畳んで片付けます。そしてキッチンへと行き、学校で食べるためのお昼ご飯を作った後私と兄様用のお弁当に詰めていきます。おかずは昨日の残りの回鍋肉と、今作った卵焼きやウインナーなどを入れています。そして朝食として取り出した食パンをトースターで焼き始めます。
焼けるのを待っていると、兄様が扉を開けて入ってきました。
「おはようございます、兄様」
「おはよう、美幸」
兄様に挨拶して、焼けた食パンにマーガリンを塗って食べ始めます。昨日はジャムで食べましたけど、やっぱりマーガリンも美味しいですね!
兄様は焼かないで、そのまま食パンにピーナッツペーストを塗って食べています。
そして食べ終わり、洗顔、歯磨き、スキンケアと済ませます。それと今日は出かけるので、日焼け止めも塗っておきます。
そうして諸々の準備してを済ませていると、もう七時半くらいになっていました。
「そろそろ行きますか?」
「そうだな、行くか」
私たちは喋りつつ、家の扉を開けて学校へと向かいます。そのままその足で近所に住んでいる悠斗のところにも迎えに行きます。
悠斗は基本的に起きるのが遅いので、いつも迎えに行っているのです。
「悠斗ー、迎えに来ましたよー」
家の呼び鈴を鳴らして待っていると、扉が開き中にいた悠斗のお母さんが出てきました。
「いつもありがとね、美幸ちゃん」
「いえいえ、このくらいは任せてください」
そう話していると、家の奥から悠斗が制服を着て出てきました。
「悪い、遅くなった」
「来たばっかですし、全然待っていませんよ」
悠斗から謝罪の言葉を言われたので、私はそう返しました。このくらいはまだ待っていたとは言いませんしね。
そして悠斗のお母さんに、では行ってきます、と挨拶をして、私、兄様、悠斗の三人で学校へ向かいます。
「今日は帰ったらまたするのか?」
歩いていると、悠斗がそう聞いてきました。
「そうですね、少しだけやろうと思っていました」
「じゃあ今日は俺のパーティメンバーと一緒に狩りでもしないか?」
「いいですよ、ちょうど何かやる予定もないですし」
「よし、なら五時くらいに合流して行こうぜ」
「わかりました」
悠斗と話しながら歩いていると、学校に着きました。
「じゃあ俺はこっちだから。また帰りな」
「はい、兄様」
兄様は二年生で教室が違うので、ここで別れます。私と悠斗は同じクラスなので、私たちの教室へ向かいます。
そうして学校の授業も終わり、帰る時間になりました。いまは四時二十分です。教科書やノートなどの道具を鞄へと仕舞い、帰宅用意をします。
「じゃあ帰るか」
「ですね」
私たちは校舎の入り口で兄様と合流して、帰宅します。
帰る道の向きが少し違うので、悠斗とは途中で別れます。そして家に着き、鍵を開けて中へ入ります。
「では私は、先に夜ご飯の作り置きをしておきます」
「じゃあ俺は風呂とリビングの掃除でもしておくな」
「はい、お願いします」
私はキッチンに、兄様は掃除のためにお風呂へと向かいます。今日の夜ご飯は生姜焼きを作ろうと思っています。
「早速作りますか!」
フライパンに豚ロースを入れて焼き、混ぜ合わせたタレを絡めれば完成です。簡単に作れて美味しいので、いい料理ですね!
そうして料理が終わったので、皿に盛って冷蔵庫へ仕舞っておきます。そうこうしているうちに、兄様のやっている掃除も終わったみたいです。
「こっちは終わりましたよ」
「お、出来たか。掃除もあらかた終わったぞ」
「ではご飯はまた後で食べましょうか」
「ああ、俺はまた部屋でゲームでもしてくるな」
「わかりました。ご飯は七時くらいに食べようと思うので、そのくらいにまたここに集まりましょうね」
「わかった」
そう言って兄様は自室へと向かいます。今は四時四十分くらいですし、私もそろそろログインして悠斗と合流しますか。
そう思い私も部屋へと戻り、ヘッドギアを被りゲームへログインします。




