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お兄ちゃんが結婚して家を出ていった。お兄ちゃんが胡桃に泣いてるのがなんとも言えない気持ちだった。胡桃は泣いてないのだけどな。いや檸檬にも泣いてたな…。お兄ちゃん全然涙もろくない。私が演技で泣くのうまかったのもある。それでなんで違うんだろ?って話になってママが死んだ時より悲しい事ほとんどないからだと昔話してくれた。
ごめんね、二人も私も泣いてない。だって自分の子でもないのに号泣すると引くでしょ。いやそれ言うとやばい話になるな…。そうか私だから引いてしまったのか。お兄ちゃんって変に計算高いな。不自然じゃないから泣いてたのか。
義姉さんは綺麗な人だった。種馬遺伝子やっぱり強いな。と言うか白人そのものだな。二人の関係は今回で良く分かった。アメリカで同じ学者を師事してたけど、お兄ちゃんあの計画のため日本に帰ってしまったんだな。そのころから付き合ってて、何お兄ちゃん昔から私の事好きだったんじゃなかったの?と思ってしまった。
結局似た研究をお兄ちゃんが始めた事で協力者としてアメリカから来日したようだ。なんか日本語それなりに話せるしどう考えてもお兄ちゃんがそのころから教えてるよね。ああなんだろう、もやもやしてあの事を言いたくなってしまう。
別れさせようじゃないよ?正直自分でもよく分からない感情、でも言わないけどね。私も引退前付き合ってた人複数いた。もちろん同時じゃない。ただ結婚なんてありえない。思春期らしい恋愛に過ぎない。私ってやっぱりあの事からお兄ちゃんを特別視してる。
もちろんずっと大好き。でも異性ではなかった。お兄ちゃんには要因じゃないと言ったけど、要因というには違うけど、時期は間違いなくあれだ。絶対に嫉妬ではない。あなたにも私の気持ち少しでも知ってほしいって感情だ。重荷ってわけじゃないんだけど、なんかお兄ちゃんの過去の恋愛に腹が立つ。
今の結婚はむしろ応援してる。でも過去の結婚なんて考えてなかったころの付き合いに同じ人だから腹が立つんだ。ほんと何故だか良く分からない。なんとか二人だけになって話した。別件だ。自分でも良く分からないのに言えない。
「ねえお兄ちゃん義姉さんと話してるとき思ったけど、もしかしてノーベル賞とかあるの?」
「無理じゃない?」
「いや私に疑問形にされても」
「ノーベル賞って意外と一般受けなんだよ。専門の研究者の価値観じゃなくて、世界への貢献みたいの重視してるから誰でもわかる業績が選ばれる。微妙じゃない?クローンはノーベル賞取ったけど、その改良だからな。改良とは違うけど似てるので山中教授がとってるけど、僕は微妙に専門的過ぎて自信がないな」
「応用って意味ではすごいの自分でもわかるけどね。後取るなら師事した教授とメリーと取りたい」
「夫婦で?」
兄の奥さんはメリーアンダーソン。
「いやチームで」
「お兄ちゃんよくそれ日本で独自に研究出来たね?」
「そこが微妙なんだよな。かなり僕の独自の技術だからな」
「なら一人で良いじゃない」
「でも教授の師事がなければ絶対出てこない技術だった。感謝を表したいんだよ」
「でも選ばれるものでしょ?」
「うん論文としては教授の研究を引用してる程度だからな…、素人が見ても共同研究じゃない。3人一緒じゃないと受けないとか突っぱねたらダメかな?」
「いやな話聞いたな。私お兄ちゃんがノーベル賞取ったら発表しようかと思った」
「うわ真摯な僕の研究者としての姿勢から言うと軽蔑…」
「でも胡桃や檸檬のためなら賛成でしょ?」
「うん。微妙だけど、候補ならどう?」
「うわーそれ微妙」
「意外に役に立つのは事実なんだよな。ただ臓器とかなら山中教授のほうが良い。倫理的に問題がないというのもすごく評価されたんだよ。僕の研究ちょっとアンモラルだからね…」
「ああ候補どまりかもね…」
私なんとなくもやもやが分かった。なんかヒントあった?ならちょっとだけ関係ある。私の知らない時間のお兄ちゃんと彼女が何かもやもやするみたい。お互い様では?そのあたりは自分勝手、でもお兄ちゃんって多分あまり思わないんだよな。
当時のお兄ちゃんすでに大人っぽいんだ。私子供の恋愛だった。どう考えてもそれを見抜かれてるんだよな。嫉妬がないのは、そうはいっても知ればお兄ちゃん多分気分は良くないだろうな。それでもどう考えてもイーブンじゃないよな。
祝福してるよ。ただ、私とは血のつながりはないけど、姉としりつつ結婚するか?これが自分だったらと置き換えたらそこまで思わないから、突き放すとすごいキモイわお兄ちゃん…。ああこれも言いたい理由かも、私はその程度なんとも思わないぞ。
ちぃ、分かってみるとマウント取りたかったのか…。
お兄ちゃんはノーベル賞候補に選ばれたが受賞は出来なかった。有名な人では村上春樹氏は何度も候補になるが受賞したことはない。すごい事だと分かるのだが、これ体細胞クローンが可能な山中教授の研究で大体できる。そこで浮かび上がってくるのが、人間のクローンになる。もちろん動物のクローンもすごい成果だと思う。
そもそも問題点を無視したらなんとクローン牛肉は過去にあった。だが普及しなくてそのまま下火になってる。寿命の短さだけじゃない。気持ち悪いんだろうな。それを考えるとノーベル賞から胡桃がちょっとかわいそうになってきた。
私も兄もそんな世間の良く分からない価値観に負けちゃダメだという思いがある。兄は一卵性の双子と変わらんと感じてるようだ。それもなんかドライすぎると思うけど。すごいと思うのは私の世間への恐怖の裏返しかもしれない。
IPS細胞はクローンを経ずに臓器などを作る幹細胞になる。分かると思うが、これをクローンを通すと腎臓を売買するような後ろめたさがある。だが根本的にはこれクローン技術にもつながる。別に反省ししてるわけじゃないが、わが子の事なのでそれなりに詳しくなってしまった。
絶対に早死にってわけじゃない。ただそのリスクが多大にある。それを兄は改善したのだ。何を作るのか?すでにクローン牛肉とかの話を思い出すと、あかん人間しか思いつかない。食用じゃなく、オンリーワンの動物ならどうだろうか?絶滅危惧種だ。
お兄ちゃんごめん、なんか言ってて地味に思えてきた…。常識的に禁忌っぽい事しか利用価値が見いだせない。ただ一応ニュースになったので発表した。