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迷いとは立ち止まらず歩き続けている証拠である6

影を真っ二つに切ろうが直ぐに一つへと戻る。


影のフラストレーションは溜まっていた。


彼女がボコボコにしすぎたのだ。


「ぐうあぁぁああああああああ!」


獣の様に尖った歯を見せながら、化け物の如く、口があり得ない大きさに開いた。


(・・・もう俺の原型ないな)


なんてツッコんでる暇があったら、影見て反応しろってな。


その表現は怒りそのものだった。


それは更に俺への執着を強くする。


身体能力と呼んで良いのかは分からないが、強さを身体能力と呼ぶのであれば、俺と影の差は月とすっぽん。


それが意味するのは、脆い刃が更に脆くなると言うこと。


想像とはピーキーな武器だ。


天と地ほどの差を実感した時、俺は負けをイメージする。


そうなれば、形は揺らぎ、瓦解する。


正に刃が立たない。


うるせえわ!


影は非常に脆くなった剣を左手で触れただけで粉々にし、俺の首目掛けてチョップした。


「なんでチョップ!!」


その一撃で俺は五メートルほど吹っ飛ばされただろうか。


それでも最初は諦めなかった。


槍、銃、ヌンチャク、鞭・・・。


思いつく限りの武器を試した。


しかし、どれも効果が無いどころか、あいつと対面するだけで足が竦み、形を保つのすら際どくなっていく。


(どうすりゃいいんだよ)


十種ほどの武器を試した後、行き詰まった。


それこそ、また迷子という表現が当て嵌まる。


「ぐっ」


怒りの感情に支配された影は俺を取り込むよりも痛めつける事を優先していた。


彼女の電信棒助けが無ければとっくにお陀仏だっただろう。


俺は、影に魅力的な回し蹴りをされ、先程まで座っていたソファへと強制的に寝っ転がった。


ああ、このまま眠りたい。


(考える隙すら与えてくれねえよ、あいつ・・・)


俺はソファの肘掛けに首を乗せ、頭を倒す。


・・・。


影が攻撃してこない。彼女が何かをしている訳でも無い。


おや。


「考える余裕あるなぁ・・・」


首の位置を戻し、不意に横を向くと、そこにはバキバキに割れた液晶があった。


「・・・映像。・・・・・・・・・・・・・・・・・映像??」


それを見て思い出すのは、彼女のアドバイス。


「迷って来た道に全てはある・・・」


あの映像が本当に俺の過去だとしたら。


映像が俺の辿ってきた来た道だ。


見たい。


もう一度あの映像が。


けれど、壊れて見られない。


「・・・あ」


なら、見れるように想像(工夫)をして創造すれば良いじゃん。


「なーんだ」


何も形が武器である必要はないだろう。


(モノであれば・・・想像を形に出来る筈だ)


先程まで見ていたモノだ。


印象は強く残っている。


俺は高速回転する映像を思い返す。


壊れていない液晶に映し出されていた。


そう、壊れていないこの液晶。


もう壊れていないこの液晶だ。


そして、この映像だ。


液晶は回復し映像が映し出された。


俺は今一度、映像を見る。


「何を求めている・・・何を望んでいる・・・」


(俺が言った言葉じゃん)


今、俺は何を望んでいるんだ。


思い出すのは、老人と親友が居たあの会談中の俺の言葉だった。


「形が、ある事が、幸せだったじゃないか」


それを欲して、影も狙ってきたんじゃないか?


次の思い出は、何も無いけれど、全てがあった平原での思い。


「誰かが居るだけで幸せだったじゃん、言葉を交わせただけで安心したじゃんか」


そして次は―――


「危機感」


それは生きているという一つの証明だったもの。


実感だった。


水中だ・・・。


そして、ガラスの迷路。


「どうしてここに居るのか。何をすれば良いのか・・・?だと?」


そんなことを考える自分に腹が立つ。


(・・・なんだ、俺。最初から答えなんて出てたんじゃん。あーあ、それ以上を望んで傲慢だったなぁ)


「・・・ごめん。絶対譲れないかも」


俺は立ち上がり、影の顔を見ながらそう言った。


「迷えるほど、何でもある世の中なんだな。贅沢だよ、ほんと」


俺は、もう一度脆く今にも壊れそうな剣を具現化した。


ただ先程の様なくすみは無く、周りが反射するほど綺麗な刃だった。


それもそうだ。


これは、鏡で出来た剣なのだから。


俺は未だ突っ立っているだけの距離が遠い影に向かって剣を振るった。


距離も遠ければ届くはずも無く、脆ければ、振っただけで刃は砕け散った。


空間にキラキラと優雅に舞う鏡の刃。


俺は影に向かって手を差し出した。


瞬間、宙を舞った破片が一斉に影を目指して勢いよく飛んでいった。


影ですら反応できない速度。


俺の目線ではもう既に破片は影に突き刺さっていた。


彼女はバッと手を上げ、


「効いてるー」


と、判定を下した。


「ごめんけど、これは誰でも無い俺の為にある身体だ。俺が表現するための身体だ。『(これ)』は渡せない」


俺は頭上に雲を展開する。


「死んでばっかの俺だ。考えすぎるのが俺だ。全て併せて今の俺だ。何も出来ない、出来なかった自分を受け入れるよ」


晴れ晴れとした気分になるのは、俺だけで無く、この場の空間もだ。


雲はどこかへ流れて行き、現れるは澄み切った空と世界を照らす光の粒。


それはどんな生物より小さいけれど、どんなモノよりも辺りを明るく照らす。


「考える、今を」


ぱぁと明るく照らされた空間。


光の粒は、一本の線となり、影に向かい照射する。


灯りが自らに届いた瞬間、その部位は人間的な肌を取り戻したが、直ぐに消滅した。


右腕が消え再生を試みるが、どれだけ纏うと腕が生えてくることは無い。


しかし、粒は影を照射し続ける。


それに対し、影は円を描くように逃げる事しか出来ない。


「・・・過去を見ずともそう思えたか?映像を確認せずともお前は、成長できたのか。否、否だろう!?何様だ!今が良ければそれでいい!?罪を受けずして何故まだ貴様にチャンスがあると思っているのだ!!」


口調が変わり、熱くなり、影は逃げるのを辞めた。


そして、影は翼を広げ、飛翔した。


片翼を盾に光へと近づいていく。


急速に、急上昇で。


ただ影自身も分かっている。


翼で自らを守っても、翼は誰にも守られていない。自身の一部だと言うことを。


一枚一枚の羽が散り落ちる事を。


しかし、一つ想定外だった。


羽が身体の部位の様に朽ち消えることは無かったのだ。


更に、空気中に舞った羽を俺と光へと目掛けて飛ばすなど。


予想外が過ぎるだろ。


「お前は俺だ。俺はお前だ。お前に出来て俺に出来ないわけが無いだろう」


先程の鏡の剣と同じ要領というわけだ。


翼の攻撃に光は落とされ、また闇が俺を襲う。


「お前は一年以上もその事で悩んでいた。そんな奴が何をほざくか。もう一度言ってやろう。いや、何度でも聞いてやろう。お前に身体を持つ資格はあるか?罪も背負わずのうのうと生きる資格はあるのかぁあああ!」


咄嗟に鋼の扉を創造するが、闇の風を纏っていた翼数千枚の前には刃が立たなかった。


「自分で言ってたじゃ無いか。有効打でしかダメージは通らないって」


影の翼も影の一部って事だ。


「ほら、さっさと身体を貸せ。次はミスらない」


まずい。


攻め手はあっても、守り手はない。


翼が影の一部と言うことはあれに触れれば俺はまた身体が乗っ取られてしまうって言うことだ。


(どうする・・・!)


そう考えている間にも翼は扉を貫通し、俺目掛けて飛んできている。


「それは、簡単だよ~。だって私は朽ちたモノと波長があうんだから」


ぎゅっと目を瞑り、終わりを覚悟した先でも俺は生きていた。


彼女が居たから。


「私は君のサポートだよ。忘れて貰っちゃ困るよ」


えへん、と胸を張り俺に背中を見せる。


「か・・・かっけぇ~」


「大丈夫、もう一歩」


そして、俺に手を差し伸べて立ち上がらせてくれる。


「そうだよ。何度も言うけど、これは俺の身体だ。罪を背負ってない?背負ってるよ。罪悪感で胸がいっぱいで吐きそうだよ。でも、その罪を知ってるからこそ、俺はまた一歩進める。資格じゃ無い、責任だ、身体を持ったモノの義務だ」


「だから、どこにお前にワンチャンスがあるというのだ!次?次?次!?ずっと台無しにして来た奴がほざくな!もう・・・終わらせろよ・・・」


震えた声の影だった。


「いや、そうだよ。台無しにしてきた。ここにこれなければ気付きもしなかった過去だ。身体の大事さも、喜びという感情の尊さも、生きる実感も出来なかった。また俺はただ人の所為にして、のうのうと否定をして生きていたんだろうな」


「だったら!」


「でも、ここにはお前が連れてきたんだろう」


「・・・」


「教えてくれたんだろう」


「・・・・・・」


「俺に過去を教えてくれたんだろう?迷わせてくれたんだろう?・・・考える事をさせてくれたんだろう?与えてくれたきっかけはお前だよ、俺。だから結局俺は俺で考えられたんだよ」


「・・・・・・何を言う気だ」


「何を?ああ、そうだな。言わなきゃな」


「辞めろ!そんな言葉を聞きたいわけじゃ無い!俺が俺でありたいだけだ!」


「いや、そうだよ、お前も俺だよ。だから、お前も俺の一部で、俺の意見で、俺の正論なんだ。ずっと、そいつを心の中で我慢させて閉じ込めて来たんだな。何が現実で生きる意味が分からない、だよな。戦争も無い、危機もほとんど無い、平和があって表現が出来て便利すぎる世の中。こんな生きる理由を探せる程余裕がある地で何をほざいてんだろうな。いやさ」


「・・・言うなって!!」


「ありがとうよ、自分。本当に」


「照れるだろうがぁ!否定が出来ないだろうがぁ!」


「そう、じゃあ照らしてやるよ、もっと。俺の中に色んな俺がいるから考えられるよ。表現出来る今。色々知れたから今。色々経験したから今。失敗を繰り返して今、なんだ。そう、自分がここにいるのは、今。この身体でこの今でこの場所に到達したのは、自分を表現してきた全部の俺だ。ありがとうな、本当に」


また、太陽は現れる。


今度は、全体を照らすために。


俺という空間、身体、存在、過去、全てを照らすため。


そして、隠れていた陰りを無くすのだ。


ただ光というのは明るすぎると真っ白で見えなくなるのだ。


そう、今この様に。


「あっかるいねぇー」


「そうだなぁ」


何も見えない中二人は会話をする。


「まあ、でもこれで帰れるからね。良かったね?」


「迷いはこれで晴れたんかなぁ」


「聞いてる分には意味分からなかったけど君の心が晴れたらもう大丈夫だよ」


君のその言葉にモヤモヤするわ。


「まあ、大丈夫。そう思えば大丈夫」


「そうだよな。大丈夫。これからもその時を見るしか無いもんな」


「そうそう~。あ~!」


彼女のボリュームが珍しくちょっとだけ上がった。


つまみを回したか回してないか微妙なラインの感じだけど。


「帰ってこれたぁ」


彼女がそう言った。


お、じゃあ俺も。


「あれ??あれれ?」


明るすぎるのは目に悪いと思って目を閉じていたが、彼女の言葉に目を開けてみた。


しかし、まだ彼女は隣に居て、そして、そこもまだ知らない場所だった。


「どこ、ここ・・・」


「ええと・・・」


「君も知らない場所?」


「ううん。私は知ってるけど・・・」


「え?じゃあ、ん?どこ?」


「ええと、迷子センターかな」


「おお!おかえ・・・誰!?」


「こっちの台詞なんだが!?」


知らない奴に後ろからお帰り言われても。



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