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迷いとは立ち止まらず歩き続けている証拠である5

俺はそんな映像をソファに全体重をかけ、眺めていた。


人の目では負えな程高速で再生される映像。


それなのに、全てが理解できてしまう。


俺じゃないのに。


どの場面を切り取っても自分事の様に思い出してしまう。


「なんだこれ?」


今更になって疑問を抱いた。


(なんで俺はこれを無言で何時間も眺めているんだろう・・・)


ふと我に返って、俺は周囲を見渡した。


ど真ん中には俺が座っているクリーム色のフカフカしている二人掛けソファ。


床は大理石造り。


壁はガラスで造られており、ガラス越しに外を見ると、どこからどう見ても、どこまで行っても宇宙があった。


「俺、なんでこんなところに居るんだ?」


(ッ)


俺はハッとした。そして宇宙を見つめた。


(最近の自分の悩みだ・・・)


「なんで。なんで俺はこの時間、この場所、ここで動いているのか・・・」


パリンッ。


そう口に出した時、ガラスが割れた音が聞こえた。


けれど周りを見渡してもガラスは割れていない。


「何が・・・」


ふと頭を過る。


不安、恐怖、苦痛。


「うぁあああああああああああああああああ!!!」


突然、頭が割れる様な痛みが走った。


痛みは吐き気を催す。


俺は床に這いつくばる。


映像が更に高速回転を始めた。


リピートする毎に映像は一層早まった。


早くなればなる程、俺の頭痛は更に増し、最終的には映像を映し出すモニターに亀裂が入った。


頭より先にモニターが限界を迎えたのだろうか。高速回転に耐えられなかったのだろうか。


「あーあ。あの時、あの場所が今であればなぁ。君はほんとに何も成長しないねぇ。君がここに居る理由・・・ないんじゃないの??」


亀裂の隙間からそんな声が聞こえてきた。


俺の声だった。


けれど声を発したのは俺じゃない。


「誰・・・だ・・・」


俺は薄目で亀裂を覗いた。


俺の心臓の鼓動が早くなる。


「・・・」


『誰』なんて声を聴いた時点で分かっている癖に。



それは唐突に俺の前に現れた。


背格好は俺と微差なく一緒。


顔のパーツは無くとも俺がしている表情を理解できる。


色は黒一色で俺のシルエットみたいだ。


しかし、俺は今にも朽ちてしまいそうなボロボロの片翼など持っていない。


「わかるだろう?私は君だろう?ほら、何のために現れたのかも知っている癖に。君だから」


「・・・」


「君が言わないのなら私から言ってあげようか。君は・・・ここに居るのが嫌なのだろう」


「・・・」


「私がここに呼んだのは、君が望んだからだ」


「・・・」


「回りくどい言い方だったかなぁ?じゃあ、端的に言おう。私が君の代わりをしてあげようじゃないか」


「・・・ああ」


そいつは俺だ。


俺は当然俺を分かっている。


本心だ。


「それは君が使うに勿体ない器だ。だって、いつまで経っても進展も成長もしないのだから」


「・・・その通りだ」


否定する余地もない。


黒い俺はゆっくりと俺に近づき、俺の頬に手を伸ばした。


「そら、身体を渡せ。私が有効活用してやろう


「ああ、そうだな。それが良い」


「君の敵は私に任せて」


「・・・」


触れられた頬から俺という存在がボロボロと土塊のように崩れていく。


それはもともと俺の色だった。


俺の動かせる身体だ。


黒い俺が俺のそれを持っていく。


表情が無くなった。


痛みが無くなった。


感覚が失われた。


自我が無くなった。


身体が無くな――


全てが消え去ろうとする今、最後に残ったのは


「いや・・・だ」


『否定』だった。


けれど今更。


俺はもう俺ではない。


どうしようもないのだ。


否定も恐怖も真っ暗闇では分からない。無いも同然だ。


つまり俺にはもう何もないという事だ。


そう何も。


―――


―――――


―――――――――――――


「お~き~て~」



「!?!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


バァアンッ!!


「な、何事っ!?」


床が地響く程の激しく唸る轟が俺の体を起こした。


(強烈な目覚ましだぁ・・・ってか、声が・・・!)


いや、身体が動く。


喉に伸ばしたい手がちゃんと手を喉に伸ばしてくれている。


目が見える。


衝撃音の正体は電信棒と電信棒を抱き枕代わりに居眠りをしている少女だった。


「・・・?」


(・・・は?なんだこの光景)


「電信棒で倒した・・・?」


電信棒が俺のシルエットを脳天にぶっ刺さり、霧散した。


俺は床と少女を交互に見比べる。


彼女は首を振った。


そしてトロンと眠そうな目で言った。


「・・・眠」


「見れば分かります」


緊張感の無さに気が緩む。


黒髪ロングのサイドテール。百四十センチの身長と加え、彼女の年齢が掴めない。


眠そうなトロンと垂れた瞳はデフォルトだった。


「この子は飛び散ってるだけだねぇ」


口を動かすのがとてもゆっくりだ。


『この子』というのは黒い影のことだろう。


「飛び散っているだけ、というのは?」


「見てて?」


彼女が指した指の先を目で追うと、霧散した黒い影が徐々に形を形成しているのが分かる。


彼女は電信棒をよいしょと軽々両手で持った。


そして、黒い影がまた一つにまとまる瞬間、電信棒を叩きつけ、また霧散した。


(・・・何を見せられてるの、俺は)


「君はね。迷子なんだよ」


「迷子?」


「うん。迷子」


何が迷子?


全部か?


「最近、ずっと悩んでたんじゃない?」


当て嵌まることばかりだ。


「なんでここに俺が存在してるんだろう、とか、生きてるんだろう、とか?」


「それそれ、そう言う奴ぅ。君の魂質が今迷子なんだよ。何をすればいいのか分からなくなって」


分かる。分かるんだけど、さっきから俺の方を見ながら、影が形成した途端に霧散させるのが気になって仕方ないよ。


「今回の場合、考えすぎて、君自身が君自身を迷子にさせていると思う」


「確かに考えすぎる傾向には、ある・・・」


「つまり君自身が邪竜というわけだね」


「邪・・・竜?俺、竜なの?」


「ごめんね。説明足りなかったね」


(悪そうな厨二病の竜・・・良いね!)


「邪推、邪心、邪念。簡単に言うと君を迷子に貶めている子。ここで言う黒い影のシルエット君だねぇ」


「なるほど・・・?」


よう分からんけど、黒い影が何度も叩き付けられて形に戻る事を少し怯えているのは分かる。


「君は邪と同調しすぎたんだよ」


「同調すると、変な空間に引き連り込まれるの?」


「うん。波長が合うとも言うかな?霊を見える人と一緒」


「つまり霊を見える人って霊の世界に居るって事?」


「まあ、半分そうなんじゃないかな?同調して見てるんだよ。まあ、それはさておき、バトンタッチね」


「え?」


「残念な事に私が黒い子を何度潰そうが効果は無いんだよぉ」


「何故に?」


「君自身が生み出した君自身の迷子は君自身が解決しないとモヤモヤという名の障害物は晴れないでしょ~?」


「つまり、自分の悩みくらい自分で解決しろや、自分にしか分からんやろって事?」


「そういうことぉ~」


「えぇ~」


「大丈夫。答えは自分の中にあるからね。それと、対処する術はあるよぉ。そのために私がここに居るんだからね」


「それでどうするんだ?」


「頭を使うの」


彼女は自分の頭に手を置いてそう言った。


「頭?」


俺も同じポーズを取るがキツいよなぁ。


「頭じゃ無いかも」


引き気味に言わないで?


「想像力をかき立てるの。一番イメージしやすいのは頭の上かなって思って」


「ああ。・・・ん?」


一度納得仕掛けたが、分からんな。


「この次元ではね?想像し創造出来るの」


「想像を物体化するって事?」


「そーそー。それが鮮明であればある程、思いが強ければ強いほど力を発揮するよ。あ、これもそうだね」


彼女は影を片手でぶっ叩きながら電信棒を指さした。


「へ、へぇ・・・」


どうやったら電信棒が頭の中で産まれる事があるんだ・・・。


日常生活でそんなないよ?電信棒思い出すこと。


「でも今回の場合、何でもかんでも創造すれば良いって訳じゃ無いんだよ~」


ほんの少し、ほんの少しだけ眉間に皺が寄った。


とてもほんの少し面倒くさそうな感じだ。


「どういうこと?」


「君がやらなきゃいけないって事は、解決策や有効打になるのは君の考えと創造」


「つまり、弱点になる創造道具しか効かないて事?」


「そういうこと~」


随分と緩く言ってくれるが、大分難しいんじゃ無いか?それ。


そもそも迷っているんだから解決策なんてまだだし、解決策が分かったからって何が効くかなんて・・・。


「大丈夫。迷ってきた道に全てはあるから」


彼女は楽観的だ。


それはつまりどうとでもなる、と捉えて良いのだろうか。


「取り敢えず言ってみよ~。その都度アドバイスはするからね~」


そう言うと彼女は電信棒を消した。


刹那、霧散した影は集結し、もう一度俺の身体を奪いに走る。


距離は一瞬にして、眼前。


「想像してみて!まず武器でも何でも!!」


武器武器。


頭に思い浮かぶのはボロボロの剣だった。


(こんな時に出てくんな!!)


しかし、それは俺の手元には届いていない。


「自分がそれを持ってるイメージだよぉ~!」


今は想像しただけ、と言うこと。


次に重要なのは、今俺がそれを手に持っていると言うイメージ。


重く、堅く、滑りやすいグリップで今にも崩れそうな刃。


腰を低くして、それを持つ為の体制を取る。


影が俺の頬を今一度触れに来る。


「辞めろっ!!」


俺はイメージが具現化した感覚で手を振った。


そう、それはただの妄想。


想像でしか無い。


けれどここでは、その想像が、思い込みが、「形」を認識し、リアルとなる。


「出来た・・・!」


「センス良いねぇ」


振るった手にはずっしり重い剣が見える。


そして、それに当たった影は真っ二つに分かれた。


「でも、これは有効打じゃないからね」


「ああ」


分かっている。


こいつを倒すには俺の疑問を晴らして、それに見合った道具で叩かなければならない。


ここからが本当に地獄だったんだよ!








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