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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤い夢

作者: 曉月 栞

 夢を見るんだ。


 笑っちゃうだろ?この僕が夢を見るなんて!


 最近は赤い夢を見ることが多いな。とても幸せで、わくわくした、赤い夢。何だか無性に可笑しくて、ゲラゲラ笑いながら自分の声で目覚めたことさえあるよ。


 例えば……僕は苺を採っているんだ。地上からじゃない、空中からだ。赤いてんとう虫に乗って、ビューンと空から降下する。無事に苺を奪取したら成功だ!苺も掌に乗るような大きさではなくて人の頭ぐらいあって、手に入れたら鮮やかな赤い金魚がヒラヒラと空を舞う。苺を守ったことを金魚に祝福され、空を滑空する飛翔感。幸せ過ぎて泣きたいような気持ちになる。


 最近ではサンタの夢を見たな。僕は赤い風船をいっぱい手に持っていて、浮遊しながら夜の街を徘徊している。目指すは一つの煙突、難しい場所なんだ。煙突ははっきりと見えているのに、急に横風に煽られたり風船が飛ばされたり。ようやく煙突に手が掛かる、と思ったら煙突がぞわぞわと動き始めた。息を殺して見守っていると、ポンッと一人のサンタが飛び出して来た。その後はポンッポンッポンッポンッとサンタの百連発さ。出て来る彼等の様子が面白くて、僕は大笑いをした。でも僕は急に不安になって、赤い鼻のトナカイを捉まえて聞いてみた、この家の人は大丈夫なのですか、と。彼は大丈夫だよ、と言いながら僕に白猫を抱かせた。ああ良かったと言いながら、僕は心から安堵して猫を撫でた。急に現れた白がやけに印象的な夢だった。

 因みに、この夢は何が何だか分からないよね?サンタとかトナカイとか。物凄く暇な奴がいたら調べてみてくれ。


 僕もそうだったけど、君達の中で夢を見る者はいないだろう?3~4時間ほどカプセルに入り、カプセルが自動で身体と脳の調整をしてくれる。その間は仮死状態となり、夢は見ない。


 何故僕がカプセルを使わないのかって?勿論、うまくいかなかったからだよ!

 こちらにカプセルはあるし、故障している訳でもない。よくある現地の磁場の不具合って奴じゃないかな。そんなに懸念するような問題でもないと判断したので、僕は現地の人達がやっているように眠って休息をとることにした。


 こう記録していると、夢を見るのはいいことなのではないかという意見が出て来そうだね。まあ、それはそうなのだが、そうでもないらしいということが解ってきた。僕が赤い楽しい夢を見る時は、決まって悲しい戦地を視察した後なんだ。きっと心が壊れないように、脳が自動調整してくれている。凄いね!僕達はみんな天然のカプセルを持っているんだ。古代ではみんなこうだったんだろうね。


 原住民のやることは凄いよ。何故こんなことが出来るんだろうと目を疑うことばかりだ。うん、動物がやっていることは分かるんだ、家族を守る為、縄張りを守る為。手に取れる範囲のことだから、自然の摂理かとは思う。だけど人は違う。僕がこの指令を受けたのは何故なのか、身をもって知ることになってしまった。


 人工的に起こされた核融合反応は、宇宙で行われているそれに比べると蚊が刺した程度、いやこれは言い過ぎだな、蚊がいるっていう程度、いやいやいやいや、もっともっとちっぽけなものだ。しかしこれを放っておくと、いずれ厄介なゴミになる。存在自体は微々たるものなのに、どこにも吸収されず分解されず、消失しない何かが宇宙を漂い続けてしまう。


 僕の任務は、このゴミを排出しそうな地域を消滅させること。

 あまりにも長引くようなら、僕が乗って来たポッドを操って都市ごと壊滅させてしまえばいい。でもね……これでは駄目なんだ。一時的にはなくなるかもしれないけど、この星の人達はまた別の場所で同じことをするよ。恐らく、今は想像もつかないような場所でね。


 という訳で僕はこの任務を諦めた。実行したところで意味が無いことは目に見えていたから。一体この星の人々はまともに進化出来るのだろうか?もう星の寿命は半分まで来ているというのに。

 明らかな命令違反だけど、処罰する人は誰もいないよね?試験管の中での人工授精だから親の顔も知らないし、親だって僕のことなんて知らないだろうし。僕を指導してくれた上司達だって、僕のこのメモリーが手に入る頃にはお亡くなりになっているかとても高齢の筈だ。


 ああ、勿論もう一つの任務は遂行するよ!僕のメモリーを三十年毎に記録すること。こっちへ来て三十年。今日が初めての任務という訳だ!

 予定では、今日記録して、三十年後にまた記録して、その三十年後に最後の記録をする。最後の記録をした後、来た時と同じように冷凍状態にしたカプセルに入り眠る。予め設定しておいたポッドがカプセルごと僕を回収空間へ運び、迎えに来た誰かが光速で母星へ連れて行ってくれるんだろう?無事に帰還した後は、穏やかな悠々自適の生活で余生を送る。


 そう!予定は予定なんだよ!僕はこの星の人々を見てそれを痛感した。いや、これは言い訳に過ぎないな。

 えー、端的に申し上げますと、僕は任務を遂行出来ません。どーもすみませんでした!!

 理由?ですよね。まず一つは、って一つしかないのですけど、僕は任務を全うするほど長生きは出来ません。最初に言ったように、母星では睡眠中は仮死状態となり、生命の営みが一時的にストップした状態になりますよね?僕はこっちで自然に任せた睡眠をとっていた訳で、寝てはいるけど生きているんです。その積み重ねの誤差によるものです。今からカプセルを調査して、母星と同じ睡眠をとれるようにしろと?それがそうもいかないのですよ。

 三十年後の二回目の記録、は多分大丈夫だと思います。僕は三十年後に今日と同じようにメモリーして、カプセルは無人のままポッドを飛ばします。予定と三十年の時差があるので、無事に回収時刻へその空間にあるように何度も検算します。僕が下手に手を出すよりポッドに任せた方がいいんだろうけど一応任務ですから。


 僕も予定を早めてそれに乗って帰ってくればいいじゃないかって?


 正直に申し上げましょう。

 僕は、この星を、愛してしまった。


 どうしようもなく暴力的で、野蛮な星なんですけどねー。それと同じくらい優しくて、愛に満ちた星なのです。何故後者の方が優勢にならないのか不思議です。僕が右も左も分からずこの星へ到着した時、沢山の人が僕を支えてくれました。食べ物をくれたり、泊めてくれたり、警察へ連れて行ってくれたり、刑務所へ連れて行ってくれたり。


 僕はこの星のまだ見ぬ姿に賭けたい!


 ……僕はこの星と心中します。この星のあるべき姿を信じて。


 僕が異国の地で人知れず儚くなるのが不憫だって?

 大丈夫ですよ、僕の愛しい妻のお腹には、可愛い可愛いベイビーが。誰かがどこかでちゃんと弔ってくれるでしょう。

 死の話をするのはまだ早いな。僕は三十年後、新たに追加されたメモリーを記録するつもりですからね。


 その頃には、赤い夢を見なくなっていると…………いいね!




   

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢のお話から始まって、最後はスケールの大きいお話になりましたねー。 希望の残るエンドで良かったのです!
2024/01/05 18:10 退会済み
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