表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/194

第93話 主人公とメインヒロイン




 ―――私の愛しい子よ、どうか幸せに。



 遠い、遠い、遥か過去。

 自力で瞼も開けられない、赤子だった頃。

 この世界に産まれ落ちた瞬間から、少女は孤独だった。 


 時間が経過しているのか、夜なのか朝なのか、何一つ目視の出来ない空間の中で、少女はずっと死んだように眠っていたのだ。


 何年、何十年、何百年、経過したのだろうか。

 何も見えない彼女には、わかるはずの無いことだった。 


 ただ、覚えているのは、ある人物の声だけ。

 女の人が、耳元でささやいてくれたのだ。

 いつ目覚めるかも分からない、少女の幸せを願うような声だった。


 忘れるはずがない。

 忘れてはいけない、大切な記憶。




 そして、少女は勇者と出会った。

 自分を閉じ込めていた祠を開けてくれたのだ。


 まるで初めから定められていた運命のような、必然的な出会い。


 勇者は少女の手を引き、名前を訊いた。

 初めて見た空と大地の境界線にある壮大な風景に感動を覚えながら、慣れない口調で少女は言った。


 ―――エリーシャと。






 ――――――







 果たしたくもなかった最悪の再会に、エリーシャは自分の運命を呪った。


 勇者ラインハルとの決別を、世界は許してくれなかったのだ。

 まるで定めに従えと、強制されているかのように……。



「……やっと……やっと見つけた。なんで……こんなトコにいるんだ……探したんだぞ? お前を……エリーシャ、生きてて……よかっだ、よがっだよ」

 


 やめて、やめてよ……。

 そんな言葉、いらないのに。


 両耳、両目を塞ぎたくなるぐらいの残酷な再会にエリーシャは戦慄した。

 夢だと思いたいのに、何もかもが現実味がありすぎる。 


 今すぐに、この場から逃げ出したいはずなのに、震えのせいで彼女は動けなくなっていた。



「ずっと会いたかったッ! エリーシャっ……!」



 近づいてきたラインハルに、強く抱きしめられてしまう。


 彼にとって、念願の再会を果たすことができた、奇跡的な瞬間であろう。

 しかし、エリーシャにとってそれは、何もかもが地獄のような時間だった。



「嫌だッ!」



 ラインハルは――――突き飛ばされたのだ。

 大粒の涙をポロポロと零す、会いたかった少女によって、強く。


 どうして自分は突き飛ばされたのか、彼の思考には、その答えを導きだすための手段は何一つもなかった。


 ただ、目の前の少女が、エリーシャが泣いている。

 感動のあまり感極まったのか、あるいは自分を覚えていないのか。


 できれば後者ではないことを祈りながら、ラインハルは慎重に聞いた。



「……エリーシャ、俺だよ、俺……ラインハル。覚えているだろ?」



 あれから、もうすぐ二年経つので忘れることも、きっとあるはずだ。

 世界で、もっとも過酷と言われた大陸に迷い込めば、大切な人間の顔をずっと思い浮かべる余裕なんてなかったはずだ。


 第一に、自分の生存を優先するのが人間というものだ。

 少し寂しいが、希望を捨てきれないラインハルには、そうやって自己解釈する以外の術はなかった。



「うん…………覚えてる、覚えてるよ……」


「ああ、だよな。エリーシャが、俺のことを忘れるはずがないもんな。ずっと苦しい思いをしたんだろ? この大陸で生き残るために、あのロベリアの側についていかなければならなかったんだろ?」



 ラインハルの口調はまるで、子供を宥めるよう時のような穏やかなものだった。

 対するエリーシャは恐れるように後ずさりしていた。



「エリーシャ、怖がらなくても良いんだ。帰ろう、俺と一緒に。もう、こんな場所に居なくてもいいんだ」


「……」


「エリー……シャ?」


「ダメ……なの。私は、帰らない……ここに残る」


「っ!」



 その言葉が、ラインハルに衝撃を与えた。

 彼の願っていた、結末にはなりそうにもなかったからだ―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ