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最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


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第68話 衝突

 たとえ強大な敵を前にしても、一度だって命の危機を覚えたことはない。


 肉体がロベリア・クロウリーだからなのかは分からないが、幾千の軍勢を前にしても勝てるという確信があった。


 この旅で遭遇してきた強大な魔物に対しても、「死ぬかもしれない」と思ったことはなかった。


 警戒はしていたが、どこか自分の安全マージンを甘く見積もっていたのだ。

 それなのに、今、初めてそれを感じていた。


 上空を浮遊する、ある存在に胸騒ぎを覚える。

 この世界に来てから一度も感じたことのない、本能的な死の予感。


 黒髪に金色の瞳、男か女か判然としない中性的な顔立ち。

 背中には金色の羽が生えている。


 明らかに人ならざる者。

 妖精だ。


「……に、げろ」


 地竜を降りた俺は、仲間たちに「逃げろ」と指示しようとしたが、声がうまく出ない。


 そいつは、嬉しそうに笑っていた。

 エリーシャでもゴエディアでもシャレムでもない。

 俺を真っ直ぐに見つめていたのだ。


 敵意のない表情とは裏腹に、明確な殺気が放たれる。

 俺は無理やりに息を吸い込み、声帯が正常に機能することを祈りながら、叫んだ。


「ここから逃げろ! 早く!」


 思った以上に荒々しい声が出た。

 それほど必死だったのかもしれない。

 それでも三人は動けずにいた。


 理由は同じだろう。

 空に浮かぶあの存在に、恐怖で縛られているのだ。


 俺は三人の足元に【衝撃】を放ち、有無を言わさずできるだけ遠くへ吹き飛ばした。

 その瞬間、上空から膨大な魔力が膨れ上がるのを感じた。


 ヒシヒシと伝わる、圧倒的な力。

 見上げると、そいつは力を解放していた。

 竜巻が巻き起こるかのように、周囲のあらゆる大気が飲み込まれていく。


 今まで戦ってきた敵とはレベルが違いすぎる。

 常軌を逸していた。


「―――鬼子イグニス・ファウスト!!!」


 轟音と共に、膨大な熱量で空が歪んだ。

 文字通り、空間そのものが溶解したのだ。


 それに伴い、ここ一帯を消し去るほどの衝撃波と炎が襲いかかってくる。


 黒魔術の魔導書を手に、俺は迎え撃つように魔術を放つ。

 手加減などありえない、全身全霊の一撃だ。


「―――死滅槍デッドエンド・ボルグ!!!」


 異常なまでの破壊力。

 圧倒的な質量。


 形容しがたい現象が次々と発生する。

 一騎打ちと呼ぶにはあまりに次元が違う。核に匹敵する二つの魔術が、


 衝突した。




 ————




 オリンピア高原の時計塔。

 時を刻む銀針が、ある二つの数字を指すように止まった。


 ———傲慢の魔術師。

 ——妖精王。


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