第49話 君の味方であり続ける
船内にも待ち構えている敵どもがいた。
やはりそのほとんどが精霊教団の連中だ。
俺を見た瞬間、顔色を変えて逃げ出す者もいれば、「神の恩恵を持つ我々なら勝てる!」と躍起になって襲いかかってくる者もいた。
だが、片っ端から殺し回った。
主に上級の光属性魔術で攻撃してくるが、魔力障壁を貫通するほどの威力はない。
硬質化した皮膚にも届かない、火力不足の攻撃だ。
「……ああ、神よ」
戦うことを諦め、神に祈り始める者もいた。だが、何の罪もない人間を殺すことを正当化する連中が信仰する神など、どうせろくでもない神だ。
命乞いをしようが、家族がいると口にしようが、若かろうが、手を緩める気は一切ない。
泣きついて慈悲を求めても、踏みにじるだけだ。
殺戮、破壊、殲滅、破滅、死。
精霊教団と英傑の騎士団に相応しい、苦しませながら殺す方法で、次々と命を奪う。
いつしか、俺の通った道は死体の海と化していた。
「……」
それでも足りない。
理想郷で流された血は、こんなものではない。
死にゆく人々や子供たちの絶望を想像するだけで、憎しみが膨れ上がる。
初めて大切なものを失い、ようやく「必要犠牲」の意味を見出せた。
邪魔な芽は、摘むしかない。
「……?」
ある部屋にたどり着く。
そこには家具一つなく、何もない空間だった。なのに、人の気配がする。
隠れているのか?
「はあああ!」
振り返ると、船の修理に使うような木の板を振り上げ、突進してくる少女の姿があった。
魔力を込めて魔術を放とうとした瞬間、その少女が連れ去られたエリーシャだと気づき、手を下ろした。
「えっ、ロベリア……!」
エリーシャもこちらに気づいたのか、動きが止まる。
木の板で殴ったところで魔力障壁に弾かれるだけだが、彼女が怪我でもしたら大変だ。
ようやくエリーシャを見つけ出した。
俺は深く息を吐き、安堵する。
だが、両手が血で汚れていることに気づき、言葉に詰まった。
この戦いは、理想郷を襲った者たちへの報復のためだ。
だが何よりも、エリーシャを取り戻すための戦いだった。
エリーシャは震えていた。
殺戮の限りを尽くした俺を見て、震えていたのだ。
「……」
「……」
沈黙が訪れる。
「人を大量に殺し、救いに来た」と告げたら、拒絶されるかもしれない。
振り返ると、数えきれないほどの死体が転がっている。
俺が奪った、命の海だ。
エリーシャはどんな目に遭おうと、復讐を望むような子ではない。
だからこそ、失望されたのかもしれない。
こんな悪役に、助けられたくはないだろう。
「……来てくれるって……信じてた……」
「エリーシャ……?」
エリーシャの瞳から涙がこぼれ落ちていた。
何度拭っても止まらない、溢れる涙。
それを見て、ようやく気づかされた。
「……きっと、来てくれるって、信じてたよ……ぐすっ」
彼女に近づき、そっと抱きしめる。
怖い思いをしたから震えていたのかもしれない。
俺は何を勘違いしていたんだ。
子供のよう に泣きじゃくるエリーシャの背中を、そっと撫でる。
「すまない……待たせてしまった」
どうしても口下手になってしまう。
この世界の俺は、いつだってロベリアだからな。
それでも、どんなときでもエリーシャの味方でいることを誓う。
たとえ世界を敵に回したとしても――




