第40話 魔導書の召喚
あれから二日後。
俺とエリーシャの居住が正式に許可された。
ずっと住むつもりはないが、問題が解決するまでは滞在するつもりだ。
夜、エリーシャと二人きりの時に説明する。
もし一刻も早く英傑の騎士団に帰りたいなら、すぐに旅を再開しようと。
しかし、彼女は首を横に振った。
「町に残ってみんなを助けたい」
エリーシャはそう返した。
彼女らしい答えだ。
エリーシャをラインハルトの元に送り届けるのは、まだ先になりそうだ。
————
翌朝、理想郷にて。
「ロベリさん、これは……」
ロベリは偽名だ。
この町の住人が傲慢の魔術師ロベリアを知っているかは分からないが、一応本名は伏せておく。
そんな俺の偽名を口にしたのは、町長のリーゲルだった。
広場に、巨大な猪がいたからだ。
しかも死んでいる。
「近くの山に登って狩ってきた。この大きさなら町の住人全員に行き渡る量になるだろう。余ったら乾燥させて干し肉にでもしろ」
「単独で、この魔物を狩ったのですか?」
「……滞在を許してくれた礼だ。どう受け取ろうが貴様らの勝手だ」
B級魔物『ジャイピッグ』。
食べても問題のない魔物だ。
中級冒険者が挑めば数人の死傷者が出るほど危険な巨大猪だ。
この町の人間では到底狩れない上物だ。
「私たちが寝ている間に、この町まで一人で運んだの?」
騒ぎを聞きつけ、白シャツを着たエリーシャが広場にやってきた。
眠そうにまぶたをこすっている。
「ああ」
「あんなに大きいのに、どうやって一人で……」
昨日のことでよく眠れなかったのか、彼女の目元に少しだけ隈ができていた。
ラインハルや関係者の責任なのだから、あまり気にするな、と慰めたいところだ。
「……内緒だ」
「分かった。詮索しない方がいいかもしれないから、聞かなかったことにするね」
疑う素振りも見せず、エリーシャは素直に頷いてくれた。
口が裂けても言えない。
この巨大猪を、単独で理想郷まで運べた事実を。
————
三時間前に遡る――
ちょうど明け方。
まだ町の連中が眠っている時間帯に、食料確保のため単独で狩りに出かけた時のことだ。
理想郷の近くにある山に赴き、食料になりそうな魔物を探していたら、偶然、建物三階ほどの高さのジャイピッグと遭遇した。
言うまでもなく瞬殺してやった。
初っ端から大物だと喜んでいたが、この巨大な体をすべて持ち帰る手段がなかった。
テンションが下がり、仕方なく持てる分だけ肉を剥ぎ取ろうとしたその瞬間――
魔導書が勝手に開いた。
そして、目の前に魔法陣が出現する。
まるで魔導書に召喚されるように、意外な人物が現れた。
「ふふ、ははは!」
そいつは高笑いしながら、周囲に膨大な魔力とオーラを撒き散らしていた。
岩盤に亀裂が走り、空気が一変する。
まさか、こんな。
「――竜王ボロス、ただいま参上いたしました」
奴は左胸に手を当て、跪いた。




