第38話 料理スキル
紛争や迫害、さまざまな理由で居場所を失った難民を受け入れる『難民キャンプ』のような場所のはずだが、敵国の魔族を受け入れる支援団体はほとんどなく、仕方なくラインハルと英傑の騎士団が受け持つことになっていた。
人魔大陸で唯一、魔族と人族が共存できる場所のはずなのに、まともな滞在施設もなく、支援物資もほとんど送られてこない。
そのせいで、この現状だ。
町のリーダーである『リーゲル』に案内され、まだ誰も使っていない平屋の建物で休むことになった。
だが、部屋の隅でエリーシャが縮こまっている。
相当、気が滅入っているらしい。
人々がこの理想郷で苦しんでいるという事実が、エリーシャには重すぎたのだ。
俺は住人たちからもらった野菜を煮込み、シチューを作りながら彼女の様子を伺う。
道中、魔物肉や携帯食ばかりでまともな食事にありつけなかったので、ありがたい。
現実で趣味のキャンプで磨いた料理スキルで無双する、なんて妄想を膨らませながら、俺はエリーシャに声をかけた。
「そろそろ出来上がるぞ。食器を並べるぐらい手伝ったらどうだ？」
「……うん」
落ち込んでいる人に言うべきではないが、長旅で疲れているのだから、しっかり休養を取ってもらわないと。
卓袱台のようなテーブルにパンとシチューを並べ、エリーシャと向き合うように座る。
両手を合わせて小さく「いただきます」と言う。
それをちらっと見たエリーシャも、両手を合わせて真似をする。
「あっ、美味しい！」
「……どうも」
フンと鼻を鳴らす。
リーデアの時もそうだったが、どうやら俺の料理はこの世界の人間には好評らしい。
「お世辞抜きで本当に美味しいよ！ 食べたことのない味……いつも食べている料理より工夫されてて……温かい」
「……冷める前に早く食え。感想は後だ」
「うん！ いただきます！」
モグモグと久しぶりのまともな料理を頬張るエリーシャは、どこか子供っぽさが滲んでいた。
俺はそれを見ながら、らしくもなく微笑む。
「あ……ロベリア、後ろ」
「なんだ？」
後ろと言われても、窓しか……。
涎を垂らしまくってる子供たちに覗かれてるんだけど！？
こいつら、匂いに釣られてきたのか？
「……えっと、どうしよう？」
慌てるエリーシャ。
これじゃ食事が進まない。仕方ない。
ため息をつきながら家の扉を開け、子供たちを中へ招き入れる。
————
「おかわり！」
「……ああ」
「おかわり！」
「……ん」
「おかわり！」
「……」
次々とおかわりを要求してくる子供たち。
貴重な二人分の食材が減ってしまったが、嬉しそうに食べる子供たちを見て、つい顔が綻んでしまう。
「「「ごちそうさまでした！！」」」
三人が食べ終わるまで一時間ほどかかった。
相当腹が減っていたのだろう。
お粗末様。
