第27話 聞く耳をもたない勇者様
英傑の騎士団本部の外には、闘技場のような建物があった。
手枷を付けられた状態でそこまで連れていかれた俺は、会場で待ち構える見覚えのある団員たちに睨まれる。
かつて俺が主人公として信頼を寄せていた仲間たちだった。
だが、今の俺はロベリア――悪役だ。
「ここ数か月、音沙汰がなかったから何を企んでいたのかは知り得なかったが、まさか俺の大切な仲間にあんなマネをするとはな」
待ち構えていたのは、地面に剣を突き立てている勇者ラインハルだった。
黒髪、黒目、童顔で常に無表情。
ゲームではそうだったが、実際に会ってみるとそのイメージはガラッと変わる。
こいつは俺の知っているラインハルではない。
力を得て、富や名声を得て、その頂に達した権力者のような顔だ。
「手を出すなら俺にしろ。お前の狙いは俺なんだろ?」
「…」
「ここで正々堂々、俺と決闘しろ」
「なぜ?」
どうしてそのような方向に話が進んだのか。
疑問でしかなかったため、思わず素の声が漏れる。
決闘って、一対一ならお前の方が不利だろ。
今までだって、単独でロベリアに勝ったことなど一度もないのに、よくもそんな自信満々に提案できたな。
「俺の手で直々に、お前を断罪するためだ」
「その前に、話し合うという選択肢はなかったのか、愚か者」
「お前と俺とで何を話し合えって言うんだ!?」
闘技場を震わせるほどの怒声が響き渡る。
仲間が傷つけられたことで、考えることを放棄している。
「……俺はやっていないんだが」
「証拠はあるんだぞ! 言い逃れができると思っているのか!?」
「ゾルデアが暴走してな――」
「黙れ! 嘘を積み重ねるな!」
今ので、さすがに俺もイラッときた。
本気でこいつを半殺しにしてやろうかと思ったが、できないのが惜しい。
「お前の真の目的が何なのかは分からないが、ロベリア、俺はお前を許さない」
本当に自分が正しいと疑わないからこその自信。
悪い意味で、こいつは本当の主人公だな、ラインハルは。
手枷が解かれ、魔導書を返される。
どうやら本当に正々堂々と勝負したいらしい。
徹底的に痛めつけてから真実を話してやりたいところだが、どうせラインハルが倒れれば団員たちの怒りを買うだけだ。
ならば、俺のやることは最初から決まっている。
魔導書を開き、全身に黒魔力を循環させる。
対してラインハルは眩い光を放つ聖剣を構えた。
英傑の騎士団ギルドマスター勇者ラインハルと、傲慢の魔術師ロベリアの戦いが始まった。




