第189話 母親との再会
ここまで来るのに結界魔術の解析。
城内の空間を自由自在に操り、パズルのように組み替える。
進んだ先に必ず敵兵が待ち構えていたのも、結界魔術の術者が遭遇するよう組み替えたから。
つまり術者は近くで俺を監視している、そして複雑な魔術ゆえに集中し続けなければならない。
両足に強化魔術を付与して、移動速度を上げる。
音に近い速さで通路を行ったり来たり、部屋を入ったら出たりを繰り返す。
術者が対応できない速さで移動することで、魔術の処理が追いつかず結界に綻びが生じる。
そのわずかな綻びから脱出。
「な、何故! 私の結界が!」
魔力感知で術者を発見して、魔術を再び発動させる前に倒す。
これじゃ解析というよりパワープレーだな。
「ここは遠さねぇぞ! 妖術使い!」
「私たちと出会ったが最後、二度と空を拝むことはできませんよ」
「ふふ、運が悪い人だ。僕達のいる所に来てしまうとは」
「おいテメェら、先に俺が戦うって約束だろ? 手を出すなよ!」
「やれやれ、血の気の多い男だ。終わったら、次は私の番だからな」
上の階に上がると、広間に強そうな六人衆が待ち構えていた。
多分、この武の領の精鋭部隊だろう。
全員がクラウディアやジーク並み、いやそれ以上に強い魔力を感じる。
(相手からしたら俺は、獣の巣に迷い込んだウサギ。完全に舐められてる……)
「……邪魔するなら容赦しない」
「はっはっはっ! 本当はビビってるくせに粋がるなよ妖術使い! 好きだぜ、お前みたいな無謀な奴は!」
よかった。
コイツらと遭遇したのが俺で。
アルスやジェシカだったら間違いなく殺されていた。
「さぁ!! やるぞぉ!!!」
まとめてかかってくればいいのに、ご丁寧に一人ずつとは。
とりあえず最初の奴を一撃で気絶させてから、残り五人に漆黒槍の雨を降らせて倒す。
「——ということがあって遅れた、すまない」
先に、最上階に辿り着いていたジークに謝ると、苦笑された。
「いや、ナイスタイミングだ。感謝するぞロベリア」
「ほう、その者が……」
奥にいる魔導書らしき本を持った男が、まじまじとこちらを見つめてくる。
誰だが知らないが、魔導書持ちとは珍しい。
そしてジークの側にいる女性はアマネか?
魔導書を持った男と、ジークを斬りつけようとしたサカツマ、そしてアマネ。
段々と状況が分かってきた。
「サカツマ、先ずは妖術使いを始末しなさい。この場、いや……この和の大国で一番最も厄介な存在は彼だ」
「承知している。言われずとも———斬る!」
男が指示すると、サカツマは標的を俺に変えてきた。
瞬きの間に数十の斬撃が繰り出されたが、なんとか避けるのに成功してカウンターの漆黒槍を放つ。
「……!」
反応に遅れたのか、漆黒槍はサカツマの肩を貫く。
しかし、やはり血が出てこない。
「やはり、やるな妖術使い。刀を生業とする某の剣技をすべて回避し、反撃に転ずるまでの一連の動作……華がある」
「このまま死んでくれたら助かるのだが」
「そうもいかない。友との約束でな妖術使い……!」
「それは、こっちも一緒だ……!」
黒魔術、無数の斬撃。
二つの攻撃が衝突したことで壁に大穴が開き、衝撃で俺とサカツマは外へ投げ出された。
————
「お前だったのか、アマネを利用して戦を起こそうとした黒幕は」
「ふふ、さて、どうでしょうな」
”神隠し”という転移魔術で、造船所によく遊びに来ていたアマネと一緒にいた男アカタニ。
交流は何度もあったが奴のことは、よく知らない。
「ジーク、気をつけろ。アカタニは亡くなった者を操る妖術を扱う。この城にも奴の傀儡となった故人が潜んでいる」
「あいつが……」
ヒラナギの予測が外れていた。
武の領アマネ・ツウゲツが首謀者ではなく、アカタニだったんだ初めから。
「利用していたのか……」
「ジーク君、君の想像通りでございますよ。アマネ様は私の操り人形……実によく働いてくれました」
「お前がああああああああ!!!!」
頭領の座を継いだアマネにやりたくないことさせ利用して、苦しめたこの男を、俺は許さない。
震える手で大剣を握りしめ、呼吸を整えてから床を蹴る。
「鬼でも人でもない君ごときが、果たして私を討てるのかな、ジーク君?」
アカタニが嘲笑いながら、俺に背を向けた。
瞬間、何者かによって剣を弾かれる。
「邪魔をするな!」
厄介で面倒だ。
先ほどロベリアと互角にやり合っていた侍と同じく、他にもアカタニの操っている死人に邪魔されてしまった。
「………っ!」
生きているとは思えないほど皮膚は雪のように白く、眼球が底知れない闇のように真っ黒。
いや、そんなことはどうでもいい。
「さあ、私を殺したければ目の前の大切な人を倒しなさい。君にできればの話ですけど……」
アカタニを守っていたのは、俺の師匠であり母に等しい存在。
「———フウカ?」




