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最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


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第180話 傲慢の魔術師vs剣豪 真剣勝負


 刀が振り下ろされる直前、襖を蹴破り廊下へと避難する。サカツマの間合いから可能な限り離れるためだ。


 予想通り、無数の斬撃が一瞬にして放たれ、室内の床と壁やらが細切れにされてしまう。


 目で捉えられる限り1秒で五十の斬撃が部屋を埋め尽くしていた。サカツマの手は止まっているが、斬撃の嵐が続いている。


(初手の不意打ちより威力が弱い。代わりに、恐ろしい速度だ)


 立て直そうと踏み込むと、違和感を覚える。

 下は板張りの床のはず、なのに柔らかい。サカツマという男に注目していたせいで忘れていたが、廊下は死体だらけだ。


 ヒラナギの家臣達だろうか、殆どが胴体を切り離されていた。もしかして、ヒラナギの腕を狙った最初の不意打ちが、外で待機していた家臣達を巻き込んだというのか?

 死体はかなり奥の方から転がっているので、多分そうだろう。


(この男、強い……)


 斬撃の嵐が止んだ部屋からサカツマが顔を出して、悪意のない表情でこちらを見据える。

 だが、その僅かな油断を見逃すほど、俺は馬鹿ではない。

 サカツマめがけて”漆黒槍ヘルファウスト”を射出する。


 魔王ユニやベルソルに弾かれるという、かなり不遇な黒魔術の基本攻撃だが、あれから反省して威力を上げている。並の防御力で防ぐのは、まず不可能だろう。


「直撃しなければ、どうということはない」


 サカツマは刀を片手だけで握って、向かってくる”漆黒槍ヘルファウスト”を受け流した。

 防ぐでも止めるでもなく、振った刀で”漆黒槍ヘルファウスト”の軌道をずらしたのだ。


(初めてのパターン。だが、だからどうした)


 一発じゃダメならゴリ押しで連射する。

 サカツマは続けて数発も器用に受け流すが、やはり全て捌ききれないのか後退を始めた。


 受け流された”漆黒槍”は勢いを止めず壁に穴をこじ開け、サカツマは疾走して穴を抜けて城の外へと飛び出てしまう。


 すぐに、その後を追って壁の穴から飛び出そうとしたが、一歩外に踏み出した瞬間に横方から斬撃が飛んできた。


 魔力障壁を展開して防ごうとする、しかし———



(なっ!?)



 サカツマの刀が、魔力障壁をまるで無いものかのようにすり抜けた。

 自慢の反射神経で体を捻って、瞬時に斬撃を避けようとするが、左脇腹が裂けてしまう。

 肋骨まで届いていないが、ダメージを受けたことに代わりはない。


 痛みに慣れてきたので、冷静に周辺を見渡す。

 ここは天守閣の頂上、瓦屋根の上である。

 サカツマの姿は見当たらない。


「やはり魔力を感じない……そんな事ありえるのか?」


 先ほどからサカツマから魔力の気配が一切しない。

 違和感しかない、何故なら人間なら誰しも魔力を体内に宿しているからだ。


 本人の自覚はなくても一つ一つのモーションで魔力が発生する。

 おかしい事に、それを奴から毛ほども感知できないのだ。


(顔も名前も知らない。いきなり出てきて、十二強将に匹敵する実力ときた……やっぱり運が悪いな俺)


 魔力での感知が駄目なら、五感で特定するまでだ。

 目を瞑り、神経を研ぎ澄ませる。

 夜の帳は下りており、時間は八つ刻。

 地鳳帝の城下町は静けさに包まれていた。


「其の怨恨、某の一刀で断ち切らん」


 前方から、おどろおどろしい殺意が放たれ、無意識に身構える。

 すると殺意は、一瞬にして背中の方へと移動していた。

 そこには低い姿勢で立つサカツマの姿があり、すぐさま後方へと魔力障壁を展開する。


 しかし、サカツマは動かない、よく見ると刀を鞘へと収めていた。

 柄と鞘の間で、月光に反射して蒼く輝く刀身が、段々と収縮していく。

 そして———


「……”白蛇はくじゃ八塩折やしおり”」


 刀が鞘へと完全に収められると、背後にいるサカツマからではなく、何もない前方から強力な斬撃を受けてしまう。


 肩から脇腹にかけて深く切り裂かれ、遅れて迫ってきた衝撃に押し倒される。


「これは只の業物ではないぞ。”都牟刈つむがり”は肉骨を断ち切るまで実体を持たない霊刀。妖術での防御は無駄であ…………ありゃ?」


 サカツマが斬ったのは俺ではない。

 通常の魔力で生み出した”分身体”だ。


 生み出した分身体とは視覚や聴覚を共有しており、本体の俺は今も城の中で身を潜めている。


 鬼の領で戦った”鬼哭ノ衆”の中に、セイランという爆発する分身を作る女の子がいた。

 彼女からヒントを得たことで編み出した魔術だ、爆発はしないけど。


 偽物だと勘付かれないためには分身体の姿と質量を、完璧に魔力で再現しなくてはならない。同時に遠距離操作も行わないとならないため、消費する魔力は多い。

 サカツマに斬られた分身体は役割を終えて霧散した。


「分身の術……あの妖術使い。和の大国の忍術を……」






 左膝の関節が捻れて倒れていたヒラナギを背負って、壁に穴を開ける。

 天守閣のほぼ最上階にいるので高所恐怖症だったら卒倒してしまう高さだ。


 城の反対側には、実力がほぼ互角のサカツマがいる。

 ヒラナギを生け捕りにするのが目的で、敵対している武の領からの刺客で間違いはないだろう。


(守りながら戦うのは分が悪い。一旦、安全な場所にコイツを置いてからの方が……)


 下は城下町で城は、町の中央に聳え立っている。

 万が一、町の方に降りたら無関係の住民を巻き込んでしまう恐れがある。

 俺のせいで誰かが死ぬのは御免だ。

 浮遊魔術で町の外までひとっ飛びしようとすると―――


 サカツマのいる方向から凄まじい殺気を感じて、回避行動をとる。


 直後、放たれた広範囲の斬撃によって室内だけではなく、外壁までバターのように斬られてしまう。

 天守閣は文字通り一刀両断されたのだ。


 室内が大きく斜めに傾いて、崩壊を始める。


(あいつっ……なんて無茶苦茶な!?)


 すぐに壁に開けた穴から飛び出て、外へと脱出するが、あることに気づく。

 天守閣の切り取られた部分が、町へと向かって崩壊していたのだ。


 ただでさえ無駄に高く造られているのに、こんなものが町に落っこちたら、とんでもない被害になってしまう。


 ヒラナギを背負ったまま、地上に降りかかる壁、柱、床版、斜材、等の瓦礫をどうにかしようと手のひらに魔力を込めるが、頭上から強い殺気を感じて上へと攻撃を転じる。


 ”呪打撃カースブレイク

 ありったけの黒魔力を込めた打撃で、上から斬りつけようとしてきたサカツマを殴り飛ばす。

 外壁に叩きつけられたサカツマは目を細め、歯を食いしばる。


 ちゃんと効いてくれたようだが、何故だか分からないが血は出ていない。

 ベルソルでもちょっとは吐血していたのに、何者なんだこの男は。


「まだまだーーーーー!!!」


 サカツマは雄叫びを上げて斬撃を飛ばしてきたが、足元に”衝撃ショック”を発生させて横へと回避する。


 そして二度目の”衝撃ショック”でサカツマから距離を取りながら”死滅槍デッドエンド・ボルグを放つ。


「妖術使いめ……次から次へと厄介な……偽りの第二の生において、某をここまで圧倒したのはお前さんが初めてだ……実に天晴であるぞ」


 サカツマは悔しそうに微笑むと、刀を鞘へと収める。

 そのまま”死滅槍デッドエンド・ボルグが命中して、空中で派手に爆発する。

 黒と赤の胞子が、竜巻のように空へと上昇すると、風に溶け込むようにして消えた。


「気配が……消滅した?」


 俺の攻撃がサカツマに命中して飲み込まれる光景を目にしたはずなのに、手応えがまるで感じられなかった。

 命中した直後に、その場から忽然と消えたかのように、奴の気配が消滅したのだ。


「そんなことよりも……!」


 サカツマによって斬られた天守閣の瓦礫が、地鳳帝の町に降り注いでおり、あと少しで地上に達しようとしていた。

 大技で瓦礫を吹き飛ばそうと、手のひらに魔力を込めようとするが、間に合わない―――!




 ――――”餓鬼道ガキドウ

 ————“竜雫ドラゴン・ティア




 町の方から放たれた二つの強力な大技が、降り注ぐ瓦礫の雨を、塵と化した。

 その技には見覚えがあり、思わず歓喜の声を上げる。


「ボロス、ジーク……!」


 鬼の領で待機していたはずの理想郷の皆が、地鳳帝の城下町に揃っていた。

 数週間ぶりの仲間達との再会に口元が緩んでしまうが、よく見るとエリーシャ、シャレム、シャルロッテの三人がいない。


 何処かにいるのだろうか? そう思いながら浮遊魔術を解いて地上に着地しようとしたが、それより先に後ろから誰かに抱き上げられてしまう。


「ロベリア、大丈夫? 耳元から血が出てるから早く手当しなくちゃ」


 最愛の人エリーシャだった。

 彼女の顔を、久々に見ることができて抱きしめたいところだったが、恥ずかしい姿勢になので止めることにした。


 ヒラナギを背負っている状態で、エリーシャにお姫様抱っこされているのだ。

 しかも、上空で。


 前髪が向かい風で靡いているからか、エリーシャの横顔が可愛いというよりカッコよく見えて、思わず胸キュンしてしまう。


(普通、逆じゃない……?)

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