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最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


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第166話 契


 ロベリア達が浜辺から旅立って一週間後。

 謎のフクロウの爆発によって壊れた船の前を、ボロス一行が拠点にしてロベリア達の帰りを待っていた。


 冬だというのに、まるで夏の真っ只中のような暑さに岩場で干からびているジェシカ、ユーゲル、ルチナの三人組の姿があった。


「おかしい……絶対におかしいですよ。普通、雪ぐらい降っていてもいい時期なのに死ぬほど暑いじゃないですか」


 と汗で濡れた顔を拭いながら言うルチナ。


「和の大国は一年中春夏、熱帯のような場所だってノーヴァリア王国元老院の蔵書で読んだことがあるッス。雪なんか極稀にしか降らないし、降ったら降ったで数分後に止んでしまうとか」

「なんですかソレ、理由とかあるんですか……?」

「大昔の文献ですし内容を殆ど覚えていないスけど。なんちゃらを司るなんちゃらが雪国と仲悪いとかなんとか」

「ユーゲルさん、説明が下手すぎますって」

「面目ないッス」


 ルチナは寝っ転がっていた岩から下りた。

 やる事がないので先ほど釣り上げた毒魚を記録しようと自分のテントに戻ろうとした時、眠っているジークのテントの前が騒々しいことに気づく。


 ルチナは、慌ただしくテントから飛び出してきた妖精フェイを捕まえて、騒ぎの理由を聞き出す。

 浜辺を拠点にしてから一週間、ジークがようやく昏睡から目覚めたのだ。




「そうか……我はそんなに長い時間眠ってしまっていたのか。不甲斐ない……皆に迷惑をかけてしまった」


 クラウディア達に現状を説明されたジークは、自分のせいで旅が難航していることに責任を感じ、申し訳無さそうに頭を下げた。


「気に病むなジーク、旅にアクシデントは付き物だ。あの爆発で誰一人欠けずにすんで何よりだ」

「そうだよジーク兄ちゃん! 誰も悪くないよ!」


 いつも明るいジークが覇気のない声で謝罪するのは、今回が初めてだった。

 それほど落ち込んでいるのか、クラウディアとジェシカが必死に励まそうとする。


 だが、”爆発”という言葉を耳にしたジークは勢いよく顔を上げた。


ふくろう! そうだふくろうだ!」


 和の大陸にたどり着く直前で、謎のふくろうによって爆発が起きたことを思い出したジークはクラウディア達に、そのときの出来事を詳細に説明した。


 普通はありえないことなので大半が頭を傾げる中、ボロスだけが「なるほど」と顎に手を当てた。


「私達の到着を予てより知っていた何者かによる攻撃で間違いないでしょうね。ジーク様のおっしゃるふくろうも、その何者かの使い魔かもしれません。使役した使い魔を敵勢力に送り込み起爆させるなんて、珍しくもない手法ですよ」

「随分と詳しいのだな。貴様も、そのような汚い手を使ったことがあるのか?」


 ボロスに対してクラウディアは噛み付くように訊いた。


「とんでもありません。私は正々堂々な戦いが大好物の竜族。血は争えませんよ」

「そうか、ならいい……」


 クラウディアとボロスの間にピリピリとした空気が一瞬だけ流れたが、それどころではないことを解っているのかクラウディアは渋々引き下がった。

 クラウディアとボロスの関係がなぜ険悪なのか、それを知る者はジークとエリーシャぐらいしかいない。


「つまり今もこうやって敵に監視されているかもしれない、ってことかな?」


 エリーシャは不安そうにするジェシカの手を優しく握りしめながら話を本題に戻した。


「ああ、可能性は高い。この一週間、なにか異変とかはあったりしなかったか?」

「いいえ、特になにもなかったよ」

「そうか……」


 ジークは同意して、テントの外を見た。

 そしてゴエディアに視線を移して、


「船の状態を確認したい。外まで運んでくれるかい……?」






 まだ完治段階ではないジークはゴエディアに運ばれて、船を一通り確認してからキッパリと告げる。


「途中まで修繕してくれた皆には悪いが、この船での航海はもう無理のようだ」


 船大工の中で一番腕のあるジークが言うのなら、きっと間違いはない。

 この船で人魔大陸の海を渡るのは、彼の目には自殺行為に等しかった。

 理想郷に帰還できるルートは他にもあるが、それでは数年かかってしまう。


「じゃ、帰りはどうすれば……」


 エリーシャの言葉で、場に沈黙が訪れる。

 一から新たな船を造るとなると必要な機材や工具が不足しすぎている。

 調達するにしても何処に人里があるのか、そこに必要な物があるのか、アイディアを思いつこうとしても様々な弊害に阻まれることになる。


 そんな中、ジークは周りの地形に見覚えがあるのか、数分間周辺を見渡してから懐かしそうな表情を浮かべた。


「やはり船を新しく造ることにしよう」

「え、でも必要な物が……」

「この国は我の出身地だ。アテならある」


 英傑の騎士団に加入する以前のジークは和の大国に住んでいた。

 ただひたすら船造りの腕を磨いてきた彼を、和の大国にやってきた勇者ラインハルは勧誘したのだ。


「すまないがみんな、荷物をまとめて出発の準備をしてくれ! すぐに移動する!」

「え、この場所から離れちゃうの……!? でも師匠たちはここにいろって!」

「ジェシカ。さっきも話した通り、私たちがここにいることを敵に知られているかもしれない。だから、どっちみち離れるしかないの」

「で、でも……師匠たちがここに帰ってきたら」


 心配するジェシカの頭を撫でながらエリーシャは精一杯の笑顔で言った。


「ロベリア達は強いから大丈夫。それに、船の何処かに私達が移動したことをメッセージを残しておけば、ロベリアならすぐに気付いてくれるよ」


 ロベリアなら、拠点にした浜辺から仲間たちが消えたとなれば血眼になって手がかりを探し出そうとするだろう。

 妻であるエリーシャは誰よりもロベリアの性格を知っている人物なので、ジェシカは素直に頷いた。


「それで、ジーク様。我々は何処に向かえばいいのでしょうか?」


 ボロスが尋ねると、船をどこか寂しげに見つめながらジークは答えた。


「”契の領メイセイ”に向かう」










 どうも瀬戸有馬です。

 ”鬼の領”に襲来した怪物を黒魔術で空に吹き飛ばして跡形もなく消したあと、混乱で緩くなった国境の警備網を超えることに成功しました。


 ジェイク達とは別行動になってしまったのですが、不足の事態も想定して各々が臨機応変に行動するよう伝えているので同じくして鬼の領を抜けてくれることを信じて、移動すること数日後。


「……」

「へーい! らっしゃーい! 寄ってらっしゃーい!」


 契の領”海鳳かいほう”という町で、大繁盛中の蕎麦屋で主力として働くことになりました。

 なんか店主に『この店を継ぐのはお前だ、息子よ!』と言われて、ちょっと怖いです。

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