表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/194

第129話 決着②



 黒魔力の起源、根源、真理。

 目を開くと、そこはまるで血のペンキで塗られたような真っ赤な世界。

 狂気と憎悪で入り乱れた、空の下で目を覚ましたベルソルは感嘆な声を上げた。


 空が割れており、その境目からは無数もの狂人たちが手を伸ばしている。

 こちらを見てケタケタと嗤っていた。


「……あの剣が」


 ロベリアの剣が、空間を断ち切ってベルソルを別世界へと移動させたのだ。

 あり得ない話ではない。

 ベルソルを生み出した『一刻の神』がそれを可能としていた。


 別の世界から別の世界へと移動する手段。

 神にしか使えない手段を、只の人族が使えたことがあり得ないのだ。


「この俺ですら居心地を悪くさせるほど、荒みきったこの世界は―――」


 だが、この世界はどこだ?

 神が作ったにしては悪趣味な空間だ。

 まるで誰かが思い描いた破滅を、そのまま形容したような世界だ。


「傲慢の魔術師ロベリア・クロウリーが人知れず秘めていた悪意を、狂気を、願望を映し出した心象風景だ」


 振り返ると、そこには黒髪の少女が立っていた。

 手を後ろに回し、嬉しそうな表情でベルソルを見つめていた。


 なのに瞳には感情はない。

 まるで貼り付けたような笑みで、気味が悪い。


「ここは私が作ってあげた彼だけの世界だ。美しいだろ?」


 声音にも感情が宿っていない。

 まるで人形のように無機質な少女だ。


 闘技場で魔官を倒したジェシカのドールシリーズですら、まだ感情豊かだ。


「テメェは……」


 ベルソルの右腕に、炎が燃え上がった。

 この少女も敵だというのなら、たとえ幼子でも潰すことにベルソルは微塵の躊躇いもしない。


「予期しない星渡りで、この世界に迷い込んだ、ただの〈……〉だ」


 それを聞いたベルソルが、冷や汗を垂らした。

 戦いの中で、常に笑っていた最強の男が、恐怖と驚愕で言葉を失っていたのだ。


「お、来たようだ。悪いが、お前の相手は私ではない……」


 大地がめくり上がった。

 地面が壁のように隆起したかと思いきや、大穴が空いた。


 大穴から、黒い炎を全身に纏った、人型の何かが現れたのだ―――



「さあ、決着のときだ」







 千年前。

 英雄になりたいと思ったときがあった。

 世界を滅ぼそうと、別次元から来訪してきた災害『天獄』を解放した神の力で倒せば、誰からも称賛されると思っていた。


 死にもの狂いで戦えば、みんなを救える。

 頭の中には、それしかなかった。

 だけど違った、巨人化したことによる被害で死んでいった人間があまりにも多かったのだ。


 倒れたことで国が滅び、歩いたことで地響きが起こり、守っていたと思っていた人たちを俺は―――殺してしまっていたのだ。




 戦いが終わると、俺は迫害を受けた。

 処刑しようとする国もいた。

 力を完全に使い果たしたことで弱りきった俺は、薄暗い洞窟の中ではりつけにされた。


 自分の行いに悔やみ、洞窟の明かり窓に死ぬまで懺悔することが俺に下された制裁だった。

 俺は、自分の肉体を憎んだ。

 数十、数百の時が過ぎても、餓死することができなかったから。


 だけど水を飲まなければ喉は乾く、食べなければ腹は減る。

 虫に刺されば痛い、体を冷やせば熱にもなる。

 そのいずれかが一年周期で、極限まで襲いかかってくる。


 なのに死ねない、いつまで経っても楽になれない。

 誰か殺してくれと、何度も明かり窓に叫んだ。


 口から血があふれようと何度も何度も―――






 約四百年が経過した。

 虫の鳴き声が聞こえる猛暑、出入り口を塞ぐ岩が誰かの手によって砕かれた。


 どこまでも真っ直ぐな瞳の、希望に満ち溢れた青年が洞窟に入ってきたのだ。

 青年は俺を見つけると、目を輝かせ近づいてきた。


「―――初めまして、僕の名前はラーフ。戦乱の世で苦しむ人たちを救うために結成した革命組織アルブムのリーダーだ、よろしく!」


 青年ラーフの笑顔は、まるで太陽のようだった。

 こいつを信じれば、何もかもが上手くいくような気がしてならなかった。

 その日、彼に付いていくことを決心するのだった。





 それから数十年。

 戦争、飢餓、悪政、世の中で起きる理不尽によって苦しむ魔族や人族たちのために戦った。

 帝国に捕らわれていた妖精族を解放してやったこともあった。


 しかし救えなかった命、失った仲間も数え切れない、多くの犠牲を出してきた。

 それでも、少しだけだが、世界が平和を取り戻せている実感はあった。


 事実、革命組織が世界各国で苦しんでいた多くの者から支持されるほどまで有名になっていたのだ。

 数十年でここまでの偉業を成し遂げられるとは思っていなかった。

 俺にとって数十年など、そんな大した時間ではない。


 だけどラーフは違った。

 青年だったはずの彼は、気づけば中年男性に成長していたのだ。

 同じ組織にいる女騎士グラハと婚約して子宝にも恵まれていた。

 その間は革命組織のリーダーを一旦俺に預け、ラーフは妻と育児に励んだ。


 友として嬉しい限りだった。

 しかし、同時に衰えていくラーフを見て、心が痛んだ。


 彼がいたから、今の俺がある。

 過ぎていく時間の中、いつかラーフが寿命で死ぬんじゃなかと不安になったりした。


 できるなら友として、もう少しだけ、ラーフと肩を並べてこの世界の行末を見届けたい。

 だから俺は、旅に出ることにした。



 革命組織に戻るころには十五年が経過していた。

 ラーフはもう老人になっていた。


 組織のリーダーとして活動できるのもギリギリなほどまで衰えていた。

 そんな彼に、そして彼の家族に、旅で手に入れたある秘薬を預けた。


『若返りの秘薬』だ。

 旅の道中で出会った賢者と名乗る女に作ってもらったのだ。


 ただ、完成するには足りない材料を収集する必要があった。

 正直、時間をかけすぎてしまった。


 だけどラーフたちは秘薬を喜んで受け取ってくれた。

 彼にもまだ、やり遂げたいことが多くあったのだ。


 秘薬を飲んだことで十代の姿に若返ったラーフを見て、かつて自分を救った、あの太陽のような瞳をふと思い出した。

 これでまた、彼と肩を並べられる。


 だけど、そうはならなかった。

 俺たちの活動に対して、反革命思想を持った世界連盟にラーフは妻とともに処刑されてしまったのだ。


 戦争が起きた。

 革命組織は処刑の首謀者、浮遊要塞聖都市アーカシャの国王を討つための戦争をしかけたのだ。

 しかし、その圧倒的戦力になすすべなく革命組織は破れてしまった。


 怒り任せに仕掛けるべきではなかった。

 そのせいで、多くの仲間たちを死なせてしまった。

 革命組織アルブムはその日―――滅んだ。


 拘束された俺は、アステール帝国に研究チームに引き渡された。

 なにかの薬を投与されたことで理性を失い暴走した俺は、大陸を二つに叩き割って魔王軍と人族軍の最初の戦争を終わらせたらしい。


 それから『不死身の人間』というワケの分からない研究のために体を解体され、妖精族から採取された因子を埋め込まれてしまった。

 しかし都合の良いことに魔力を代償にすれば、どんな傷でも治してしまう治癒力を手に入れたのだ。


 それから、さらに五百年の時が過ぎ、力をわずかに取り戻すことができた俺は研究チームを皆殺しにして帝国から脱獄をした。


 そして裏で、革命組織復活のために人員を集め、武器を調達して、ある男のアドバイスを受けて英傑の騎士団に『天獄』を宿らせた少女エリーシャの存在を知った。


 神に創られた天の災害『天獄』。

 神に創られた大地の災害『古の巨人』。


 同じ神の力を持った者同士なら、一方を奪えば本来の力を取り戻すことができるかもしれない。

 千年前の『巨人』の力を取り戻すため、新生革命組織ネオ・アルブムを結成した。


 罪なき人々を救うことで世界が平和になるなど、理想論だ。

 必要なのは力、世界を覆せるほどの力だ。




 そして遂に、俺は力を取り戻すことができた。

 主人が不在の理想郷で、立ち向かってくるエリーシャから『天獄』の力を奪い取ったのだ。

 人一倍強くなったから勝てる、別世界に引きずり込んだから勝てる、思い上がったその傲慢、なにもかも俺が叩き潰してやるよ。


 傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 翻訳が悪くてごめんなさい。アメリカからのあなたの話を楽しんでいます。 129話は飛ばされました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ