3.与えられた能力2
3.与えられた能力2
空気を固めて作ったレンズやプリズムは便利だ。ベッドに寝て上を向いているだけでどこでも見ることができる。
おかげで屋敷の構造や、家族構成、屋敷の外の様子も分かってきた。
だが、プリズムには致命的な欠点がある。最初から分かっていたのだが、色がぼやけるのだ。
プリズムは光を屈折させる、つまり光を曲げる。だから、目を向けている方向とは異なる方向の景色が見える。
ただし、屈折率が光の色によって異なる。つまり、色によって曲がる角度が異なる。赤色は曲がる角度が小さく、紫色は曲がる角度が大きい。そのため、景色の色がぶれるのだ。
その対策として一つの色に限定して"見る"ことを試す。光の色の違いは波長の違いであり、赤は波長が長く紫は短い。
前世で赤外線カメラを使ったことがあったので、赤外線に相当する波長の光だけを意識して"見る"と、見えた。
なぜ見えるのか分からないが、見えた。形がぼやけていることもない。
ただし、見た人物は母だけである。ほかの女性を見るのは倫理に反しそうだし、男性を見るのは生理的に嫌だ。
赤外線カメラは衣類を透けて体だけを見ることになる。なので、母だけならいろいろな意味で大丈夫だと考えた結果である。
あとは、"見る"波長の範囲を広げて少しぼやけさせる。これまで何度か湯に入れられて、そのときに母やメイドの裸を見ていたので今更ではあるが、将来のための練習としてぼやけさせている。
夜に目を覚ますことがあり、寝付けない時はガラス窓越しに外の風景を眺めている。赤外線なので夜中でもよく見える。屋敷から少し離れたところに森があるようで、夜行性の動物が活動しているところをよく見かける。
外を見ながら思ったのだが、外の赤外線を取り込めるのなら、こちらからも光を送れるのではないか。ただ、普通の白色行ではプリズムで散乱してしまう。なので指向性のあるレーザーならどうか。人間が見える可視光は特定の周波数の電磁波である。電磁波を発生させるために電子を振動させる。電子が振動すれば振動した磁場が発生しそれにより電子が振動する・・・・以下その繰り返しだ。
私の周りにある空気に含まれる沢山の電子を一定の周波数で振動させる。周期だけでなく位相も同じにする。位相とは振動している最中の位置のことである。ブランコに例えるなら、四つ並んだブランコが常に同じ位置にあり横から見たら一つに見えるような状態である。
夜中に赤色の周波数のレーザーを発行させプリズムで送ってみると、森の木に赤い点が映し出された。成功である。
外を見ているプリズムの系列とは別に発光用系列のプリズムも並べて、こちら側にはプリズム系列の最後に凹レンズを入れて光を広げる。広がった光が当たりを照らして森を赤く染める。不気味だ、やめよう。
ある夜、森に近い農村を眺めていた。村に向かって獣ではない大きな生き物が多数移動している。馬に乗った人間のようだ。村の塀に近づくと何人かが馬から降りて塀の門を木づちのようなもので壊している。大きな音がしたのであろう、村人が何人も家から出てきた。
門が壊されると、馬に乗ってやってきた人達が村人を襲い始めた。盗賊団のようだ。これはどうしたものか、家の者を読んでも説明ができない。説明できても遠すぎて間に合わない。こうなったら私がやってやる。練習したレーザーを発光させる。今度は可視光ではない、もっと周波数の高い紫外線領域のエキシマレーザーだ。
盗賊の頭めがけて発射する。いきなりエキシマレーザーではなく紫色のレーザーで盗賊の頭部に照準を合わせて周波数を一気に上げる。すぐに盗賊が一人倒れた。やった。ずっと発光できるがそれでは村人も殺してしまう。盗賊一人ひとりを狙って数秒間だけレーザーを発光する。盗賊がどんどんと倒れていく。
盗賊たちが異変に気付いて動きが止まる。そのすきに村人たちが家の中に逃げ込む。村の広場の真ん中で盗賊たちが固まって立っている状態だ。ここからはレーザーを発光させたまま左右に移動させる。盗賊が次々に倒れて、立っている者がいなくなった。門の外には取り残された数十頭の馬たちが残される。
盗賊たちが全て倒れたところで村人たちが広場に集まってきてなにやら相談を始めた。村で飼っていたであろう馬を引いてきた人が門のところから馬に乗ってどこかに駆け出して行った。誰かを呼びに行ったのであろう。どうやら危機は脱したようだ。あとは大人たちに任せて寝てしまおう。興奮して寝付けないかと思ったがすぐに意識がなくなった。